小説の林堂 二次創作 小説「キノの旅」   作:イバ・ヨシアキ

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 前編が最後にくると、キノの旅の小説の掲載方をやってみました。
 いかがでしょうか。
 お楽しみいただけたら幸いです。
 では、本編をどうぞ。


 「ある旅人の旅立ちa」

 ある旅人の旅立ちa 

 

 ──Positive talka──

 

 

 広い、とても広い荒野があった。

 そこには獣や鳥の息づく姿はまるでなく、点々としながらも堅く根を下ろす痩せ枯れ細ぼった樹々や、草々の一本も生えてはいない。ただひび割れた地面が黄色い砂塵に吹かれ、荒野の全てが黄土色に染められ、餓え枯れていく荒野だった。

 広く熱く照りつけた白い陽射しが荒野を乾かせていたが、空だけは、いつもと変わらない蒼さを携えている。

 そんな乾いた地面の色合いと不似合いな、清らかな空の色合いが混じる奇妙な世界をかき分けながら、また新たに黄色い砂埃を巻き上げながら、黄土に直線の轍を深く刻み、モトラドを走り進ませていた(注意・二輪車の事を指す言葉)旅人の姿があった。

 モトラドは旅人からエルメスと呼ばれ、エルメスを走らせていた旅人は、エルメスからキノと呼ばれる小柄な少女だった。

 服装は夏場が近いにもかかわらず、着ているだけでもとても暑そうな黒革のジャケットにズボン着こみ、その上からは大きな茶色いコートを羽織り、前をしっかりと閉じ、捲く砂塵を防いでいた。

 腰のガンベルトに下げていた二丁のハンド・パースエイダー(注・拳銃の事を指す言葉)にも、砂埃対策の厚い布が堅く、それでいて、なにかあればすぐに取り出し使えるように巻かれていた。

 まるで隙のないそんな強固な身なりをしていたのは、幼い、あどけなさが抜けきっていない可愛らしい顔をしていた。

だがその顔には今は分厚い布を何重にも巻き、ゴーグルをかけていた両目だけをのぞかせ、その上から両耳をおおう毛皮のたれがついた帽子を被り、顔に巻きつけていた布を強く抑え込ませていた。

 そして走らせていたエルメスの後部に積んだ荷物にも、分厚い布が何重にも巻きつけられ、両脇に取り付けたカバンにも同じ布がしっかりと巻かれ、叩き吹きつけてくる砂塵から荷物を守っていたが、エルメスの車体はなにも巻かれてはおらず、黒と銀色に栄える車体は薄く茶色く、もうもうと埃まみれになってしまっていた。

 すると、

「あー、もう! ほんと鬱陶しいなぁ!」

 エルメスは無遠慮に吹き付けてくる砂塵にかんしゃくを起こし、

「砂まみれで車体がむちゃむちゃして気持ちが悪い! それにギヤがガリガリして痛い! あー、もう、いいかげん止んじゃえー! もう吹くなぁ! やんじゃえ! 今すぐやんじゃえ!」

 吹き荒れる砂塵に向かって怒りながら叫ぶが、

「……風に怒っても仕方がないんじゃない、エルメス」

 吹き荒れ纏う砂塵に必死に怒鳴るエルメスに、やれやれとキノがたしなめるも、

「だってぇ、ギアとエンジンに砂がこびりついて気持ち悪いだもん! たくぅ、なんでこんな辺鄙なとこに来たのさ! もっと走りやすいところを行けばいいのにさ!」

「もう、怒らないの! これでもこの時期はだいぶマシみたいなんだよ。砂嵐も落ち着いて、荒野を渡るにはちょうどいいみたいなんだけど……これはすごいね」

「すごいってもんじゃないよ、もう! こんなんじゃいつか壊れちゃうよ。いやだよ、こんなところで廃車になるの!」 

「……その時は、エルメスともお別れだね」

 どこか落ち着いたキノのそんな冗談に、

「だったら、その後はキノの一人旅だね。頑張って、キノ一人だけで、この荒野を独りで歩いていってね!」

 仕返しで言い返され、キノは目的地の見えない荒野の先を見据えながら億劫な表情で、

「それは……いやだな」

 素直に答え、

「嫌だったら頑張って運転してよ。早く次の目的の国に着かなきゃ本当に壊れちゃうかもよ、そうなったら、本当にこれからはキノの一人旅なるかも!」 

「……早く、か」

 キノは走り進む荒野の先をじっと見やるが、続く先は茶色い乾いた地平線が広がり、なにもなく、国らしい城壁すら見えはしない。

「でも、まだまだ遠そうだね」

「じゃあ、頑張って走ってね!」

 念を押すエルメスの言葉に、

「じゃあ、エルメスもまだ壊れないでいてね」

 キノも念を押すように言葉を返し、

「りょーかい」

 の、エルメスの元気な声と共にキノはアクセルを吹かし、速度を上げ、荒野を進んだ。

 

 その後も、何も変わらない黄土色の荒野がひたすらに続いた。

 それでもキノとエルメスはただひたすらに荒野を走り進み、そして昼を終え、空の色が蒼から茜色に染まりを見せ始め、陽も地平の奥へと沈み夕闇に暮れだそうとしていた頃に、ようやく目的地である国が見え始めた。

 まっすぐ横一列に伸びる城壁はなく、ただ丸い大きな水晶玉がそのまま半分埋まったかのような、大きな丸い透明のドームがぽつんと茶色い大地の中にあった。

「あー、やっと着いたね」 

 エルメスはほっとしながらに言い、

「……これで久しぶりに布団とお風呂にありつける」 

 キノもどこかほっとしながら、急ぐようにエルメスのアクセルを吹かし、速度をさらに上げ、見え始めた国へと向かう。

 乾いた地を削り、直線の深い轍を刻みながら丸いドームへと徐々に近づく中、荒れきった野の道の中に、セメントでしっかりと堅く平らに舗装された、そのまま国へと一直線に続く、出来たての綺麗な道路が真っ直ぐに引かれていた。

「うわぁー見て見てキノ。道だよ。道。道があるよ。しっかり舗装されている道があるよ。まるで国にいるみたいだ」

 荒野の荒れた道から、舗装された道路へと入りこみ、タイヤが軽やかに道路に入りこむとエルメスが感嘆し、

「もう少し遅くに来ていたら、ここからが国になっていたかもしれないね」

「早く来すぎちゃったみたいだね、出直す?」

「……んー、せっかくだしこのまま行こう」

 キノは軽くなったエルメスの速度を下げ、周りを見やる。

 道路の外には造りかけの建物が幾つも並び、それをせっせと建てる大小様々なロボットや無人の乗り物が何十台にも休すむことなくに動き、荒野にせっせと街を作りだしていた。

「うわぁーすごいねー。あんな自動ロボットを沢山作れるなんて、相当科学力が進んでいるみたいだね」

「うん。うわさに聞けばだいぶ科学力が進んだ国らしいよ。もとは南の遠い国に住んでいたらしいけど、この荒野の地下にはその国に必要な資源が豊富で、その資源の占有権を得るために、わざわざここにも国を作り始めたらしい。で、将来はもといた南の国とを繋げて領土を広げるみたいだよ」

「うへ? そんな話いつ聴いたの?」

「前の国で聴いた話だけど……エルメスはずっと寝ていて、その話を聴いていなかっただろ」

「うーん、だったらしかたないね。前の国は昼寝出来るぐらい平和だったもん。で、また安心して昼寝出来るほど、今度行く国は治安が良いの?」

「そのへんは大丈夫みたいだよ。科学力のおかげで治安はすごくよくて、事件らしい事件がおきない、とても平和な国らしい。エルメスも安心して昼寝しほうだいだよ」

「だったら、なおさら早く行かなきゃね! あと、整備もよろしく」

「それは……安かったらね」

「ぶー」

 不満げなエルメスのアクセルを吹かし、速度を上げ、舗装された道を走りだす。まるで気を張らない、とても緩やかな速度で走り進むと、道が終える先にドームが見えた。

 綺麗な素材でつなぎ目がなく丸く守られたドームの傍に近寄り、徐行しながら周囲を見やるが、入国を管理する詰所らしき小屋や人影はなく、仕方無く停車して周りを見回そうとすると、

『御入国デスカ?』

 無機質な機械音がどこからか訊ねてくる。

 どこからだろうとあたりを見回すが、スピーカーらしいものはどこにもなく、カメラらしいものも、まるで見当たらない。

 キノは仕方なしにエルメスを停め、目の前のドームの城門を見つめながら、顔に巻いた布を解き、幼い素顔を乾いた黄色の大気に触れさせながら、

「はい。ボクとエルメスは三日の滞在を希望したいです」

 透き通った声で城門に向かって言うと、

『ワカリマシタ。アナタガタノ御入国ヲ認メマス』

 あっさりと入国許可は下りた。

『デハ、城門ヲ開キマス。ゴメンドウデハアリマスガ通路ヲ通ル際ハ、モトラドノエンジンヲ切ッテ、出口マデ押シテクダサイ』

 城門は音もなくすっと開き、暗い通路にオレンジ色の薄明かりがぽつぽつと瞬き、通路が国内まで道を示していた。

「やけに簡単だね」

 エルメスの退屈そうな声の後、

「面倒がなくていいよ」 

 キノは素直に応え、エルメスのエンジンを切り、降りてエルメスのハンドルを握ったまま、車体を前に押しながら城門をくぐった。

『良イ御滞在ヲ』 

 と、丁寧な機械音が響き、

「ありがとうございます」 

「どうもねー」

 キノとエルメスはどことなくに感謝を言い、奥へと通路の先へ進む。

 気温は外と変わらず落ち着いた涼やかさに調整され、回廊のような清楚な作りの中を進んでいく。

「長いねー。こんな距離走っていけばあっという間なのにさ」

 エルメスが退屈そうに言い、

「国に入るまでの我慢だよ」

「あー、たいくつ……ん」

 国へと続く向こう側から、こちらの城門へと向かてくる人影が見え出す。

「キノ、前から誰か来るよ」

 エルメスは言い、

「誰か出国するのかな?」

 と、キノは先に視線をやると、こちらへ向かう人影は、エルメスより小さなバイク(注・宙に浮かぶ乗り物の事。リニアエンジンで走る乗り物を指す言葉)を重たそうに押していた、小柄な少年だった。

 年の背はキノと同じくらいでやや小さく、キノよりも年下だった。

 服装は黒い厚手布のジャンバーにシャツとズボンを綺麗に着こみ、靴は登山に使う頑丈な卸したての靴を履き、背中には新品の丸い大きなリュックを背負い、腰にはシルバーメタリックの大きな、その少年の手にはとても扱いづらいだろう、大人でも容易に扱えるかどうかわからない強力なマグナム弾を使用する、50口径のハンド・パースエイダーが納められたホルスターを重たそうに下げていた。

 服装のほうは、まるで今からキャンプにでも行くような軽い服装で、およそ旅人には見えない気軽な格好だった。腰の下げたハンド・パースエイダーなどで、あまりにも不釣り合いな格好にも見えてしまう。

 キノの視線に気づいたのか、少年もこちらを見て、

「こ、こんにちは!」 

 と、声を震わせながら大きな声で挨拶をしてきた。

「こんにちわ」

 キノは静かに返事を返し、

「どうもねー」

 エルメスも何気に返事を返した。

 少年は眼を輝かしながら立ち止まり、キノとエルメスでじっと見つめながら、

「あ、あの、も、もしかして、た、旅人さんですか?」

 少年は声を震わせ訊ねてきた。

「はい、ボクはキノと言います。で、こっちはモトラドのエルメス」

「よろしくねー」

 元気の良いエルメスの返事の後に、少年はバイクをその場に置いて、キノのもとに走り近づいてくる。

「よ、よろしく。ぼ、ぼく、きょ、今日初めて旅人を見ました! あ、そ、それと、ボ、ボク今日から旅人になるんです! よろしく!」

 少年は興奮しながら、ちぐはぐ声で言い、震える手をプルプルと差し出し、握手を求めようとしていた。

エルメスは小声で、

「握手してあげたら?」 

 と、からかうように言うが、キノは握手せず、

「君は、今から旅に出るの?」

 そつなく訊ねると、あわあわとしながら手を直し真っ直ぐに少年は姿勢を正し、

「う、うん! ボ、ボクは今日から旅人になるんだ!」

 応え、そして、

「こんな退屈な国を出ていってやるんだ!」

 と、言った。

「ありゃ? この国って、そんなに退屈なの?」

 訊ねるエルメスの言葉に、少年は応える言葉を悩みながら仕方なさそうに、

「……うん。せっかく遠いところから来たばかりの旅人さんにこんな事を言うのも悪いけどさ、この国はすっごく退屈な国だよ。立ち寄る価値なんて、これっぽっちもないと思うな」

 少年はありのままに答え、

「本当に、これといってまったくなにもない……本当に退屈で、つまらない国だよ」

 念を押すように言う少年の声の後に、

「……だってキノ。どうする?」

「でも、そのぶん平和みたいだね」

 茶化すエルメスに言葉をあっさりと返すキノの後に、

「あの……旅人さん。ぜひ教えてほしい事があるんだ! この国が出来てから、今まで外から旅人が来た事がなかったから、外の世界って、どうなっているのか全然わからないんだ。だから旅人さんに教えてほしいんだ。外の世界ってどうなっているの?」

 じっとキノからの返答の言葉を待つ少年を見ながら、

「そうだね……」

 言葉を思案しながら、

「とりあえず……」

 キノは、

「外は、とても広いかな」

 ありのままの事を答え、

「でも、とても広い分。いろいろと大変だけどさ、走りがいはあるよね」

 エルメスもありのままに答えた。

 キノとエルメスの両方からのそんなあっさりとした言葉に、あれっと、少年は水でもかけられたかのような顔で、あたふたと困惑しながら、

「え? あ、あの、そ、それだけ? ほ、ほかにはないの? たとえば胸を躍らせる冒険がたくさんあるとか? 常に危険と隣り合わせな日々とか? そういうのはないの?」

 不安そうに、確かめるように、消えそうな声で訊ねてくる必死な少年の問いかけにキノは、

「胸を躍らせる冒険はよくわからないけど、でも、常に危険と隣り合わせは解るかな」

「うんうん。旅は危険がつきものだからね」

 それを聴いて、少し安心したかのように少年は、表情を緩ませた。 

「……よかったぁ!」

そして、とてもうれしそうに、

「冒険は、やっぱりあるんだね。こんな退屈な国とはぜんぜんちがうんだ!」

 嬉しそうに喜んでいる少年にエルメスは、

「ありゃ! この国って退屈な国なんだ」

「うん、本当に退屈な国だよ」

 申し訳なさそうに少年は、

「……退屈で、本当に退屈、気がおかしくなるくらい退屈な国なんだ。だから僕はこんな退屈な国から出て、旅人になろうと思ったんだ……」

「退屈って、どんな毎日だったの?」

 エルメスが訊ねると、少年は表情を、さらに曇らせながら、

「どんな毎日って……なんて言えばいいのかな……ぼくは毎日、毎日学校に通っていたんだ。ただそれだけの毎日だよ。朝起きて、学校に行く。ただそれだけを、毎日繰り返していただけなんだ。そりゃあ、時には友達と遊んだり、買い物をしたりとか、楽しい事もあるけど、そんなのすぐに飽きちゃうよ。毎日が同じことの繰り返しで、すっごく退屈で、ほんと、気がどうにかなりそうだったよ」

 陰鬱に表情を曇らせながら少年は後をぼそぼそと言い続ける。

「勉強をして良い成績をとって一番で学校を卒業して、また良い学校に入学して勉強を頑張って一番で卒業して、良い会社に入らなきゃいけない。そんな毎日が退屈な人生しかなかったんだ……でも、もうそれも今日で終わりなんだ!」

 少年は陰鬱な晴らし表情を明るくしながらとてもうれしそうな笑顔をつくり、

「ぼくは今日から旅人になるんだ! こんな、なにもない退屈でつまんない国から出て、楽しいことに溢れた広い世界を旅する旅人になるんだ!」

 楽しそうに言う。

「君は、そんなに旅人になりたいの?」

 そんな少年にキノは訊ねる。

 少年は、

「うん。なりたい。だって旅人はかっこいいもん! それに──」

 明るい声で、

「旅人は自由に悪党を撃ち殺せるじゃん!」

 はっきりと言った。

 そして嬉しそうな楽しそうな笑顔で後を続け、

「悪党を殺すって、すっごく、かっこいいじゃん!」

 楽しそうに言う少年を後に、

「だってキノ。よかったね。ほめられているよ」

「……」

 茶化すエルメスにキノはなにも答えない。

 そんなキノに少年は構わずに、

「ねえ、やっぱり旅人さんも悪党を殺した事があるの?」

 嬉々としながらキノに訊ねてくる。

 キノより先に、

「うん。キノは悪党をバッタバッタと撃ち殺した事あるよ」

 エルメスが横からあっさりと答え、

「え! 旅人さん! 本当に悪党を殺した事あるの?」

 エルメスの答えに、少年はうれしそうな、そして驚いた表情で訊ねてくる。

 キノは、

「相手が悪党かどうかはわからないけど、ボクを襲ってきた人は殺しました」

 素直に、言い繕う事無く言葉を詰まらせる事無く答えた。

 そのキノの答えの後に、

「……すごい。すごいよ!」

 少年は明るい笑顔ですごく興奮しながら、

「旅人さん悪党を撃ち殺した事があるんだ。すごいよ! 旅人さん、とっても、かっこいいよ! うわぁー、すごいなぁ!」

 まるで、あこがれの人にでも出逢えたかのような、キノを尊敬するような熱いまなざしを向けてくる。

「ねえ、旅人さん! 教えてよ。悪党を殺した時って、どんな感じだったの? やっぱりスカッと気持ちがいいの?」

 どこか楽しそうに嬉々として訊ねてくる少年に、

「何も、感じないよ」

 キノは何事もないように普通に応えた。

「……え? な、なにも感じないって? 何も感じないって、どういう事なのさ?」

 何事もないキノの応えに少年が訊ね返すと、キノは落ち着いた声音で、

「相手を撃っても、とくに何も感じないよ。それに撃つ時になにかを感じていたら危ないからね」

 すっと、詰まる事無く言った。

「危ないって……なんで、危ないのさ? だって、ハンド・パースエイダーで悪党を撃ち殺すのって楽しそうじゃないか?」

 少年は声を荒げながら、

「それに漫画や小説で悪党が死ぬところって一番楽しいところなんだよ! そして一番かっこいい所なんだよ! だったら悪党を撃ち殺している本人は、もっと楽しいんじゃないの? 旅人さんは悪党を撃ち殺すとき楽しくないの?」

 責め問い詰めるように言葉を攻めてくる少年に、

「それは──」

 キノは落ち着いた声音で答え、

「──人によっては、相手を撃ち殺す事を楽しいと思うかもしれないけど、ボクは相手と撃ちあう時に何かを考える事や何かを感じてしまう事は、すごく危ない事だと思っている」

 冷静に、

「だからボクは相手を撃つ時に何も考えないようにしているし、それに撃つ時に何かを考えてしまう事や、なにかを感じてしまう事は大きなスキを生んでしまうからね」

 答え、

「もし、撃ちあう時に〝楽しい〟という気持ちを持ってしまえば、その楽しさにかまけて死ぬかもしれない。だから──」

 ありのままを、

「──ボクは出来る限り何も考えないで、出来る限り何も感じないようにしながら相手を撃っているんだ」

 伝えた。

「そうそう。そう言う事ならモトラドの運転も同じことが言えるよね。あれこれ考えて運転されてたら危なくて仕方がないよ」

 エルメスも答える。

 キノとエルメスのそんな答えに、少年は唖然としながら、

「……そんな、相手を撃ち殺す事が楽しいって思っちゃいけないの! かっこいいって思っちゃいけないの!」

 言葉を投げてくる少年にキノは、

「それは君の自由だよ」

「うん。旅人もいろいろだからね」

 あっさりと答えた。

 少年は、

「……」

 困惑しながら、

「ねえ……もうひとつだけ質問していい?」

 訊ねてくる。

 キノは、

「答えられる事なら」

 と、承諾し、

「なにがききたいのー」

 エルメスも承諾する。

 少年は興奮を抑えながら、落ち付こうと声音を整えながら、

「あのね、ぼくは、ずっとまえからこんな退屈な国から出ていきたかったんだ。だからハンド・パースエイダーの練習をして、サバイバルの練習もしていたんだけど、みんなぼくが旅人になれないって言うんだ!」

 とても悲しそうな声を精一杯にふりしぼりながら、

「友達だとおもったみんなは、無理だからやめろとか、おまえみたいなやつが旅人なんかになれるわけないだろとか言ってぼくを馬鹿にするんだ! 好きだった娘なんて絶対無理だから旅人なんかになっちゃダメだっていうんだ! 親もひどいんだよ! ぼくが旅人になる事を反対するんだよ! それより勉強していい学校に行けって! ちゃんとした大人になれって言うんだ! みんな、ぼくの事を馬鹿にして、旅人なんかになるなって言うんだ! みんなぼくの夢を馬鹿にしているんだ! ほんとひどいよ!」

 怒鳴るように声を荒げる少年に、

「どうどうおちついて」

 と、エルメスは茶化しながら少年を落ち着かせる。

 茶化された事に対して怒らず少年は乱した息を整えながら落ち着きを取り戻し、

「……ごめんなさい。でも、みんがいうそんなカッコ悪い人生なんてぼくは嫌なんだ。ぼくはかっこよくなりたいんだ。悪党をバッタバッタ倒して沢山の人に感謝される旅人になりたいんだ。旅人さんみたいな、かっこいい旅人になりたいんだ」

「キノ、旅人をしてこんなに褒められる事って初めてじゃない? うれしい?」

「……」

 キノは応えず、エルメスのタイヤを足で小突く。

「いてっ!」

 痛がるエルメスの声の後に、

「ねえ、旅人さん。ぜひ答えてほしい事があるんだ。この国のみんなは、ボクが旅人になれないって決めつけているけど、旅人さんから見て、ボクは旅人になれるのかな? かっこいい旅人になれると思う?」

 その質問に、キノは──

 




 
 読んでいただきありがとうございます。
 前編となりますが、後篇が先で前編が後に出すキノらしさが出ていたら幸いです。
 最後までお読みくださってありがとうございます。
 遅滞更新ですがこれからもお付き合いのほどをよろしくお願いいたします。
 では、またお会いできる事があらん事を。
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