小説の林堂 二次創作 小説「キノの旅」   作:イバ・ヨシアキ

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 お暑い日々が続く中いかがお過ごしでしょうか?
 イバ・ヨシアキです。
 キノの旅の更新をいたしました。
 多くの人に読まれることを祈って。
 
 では、本編です。


 「前向きな話」

 前向きな話 ──Positive talk──

 

 また世界が少しだけ明るくなった。

 朝が、来たのだろうか。

それとも、もう外は昼過ぎなのだろうか。

 ここからでは、まるでわからない。

 でも、今日も一日が始まった。

 また眠くなるまで、色々な事を思い出してみよう。

 そして色々な事を、たくさん考えてみよう。

 まず最初に、いつもの事だ。

 私が誰であるかを、今日こそ思い出してみよう。

 もしかしたら、今日こそ、今日こそは思い出せるのかも知れない。

 ……

 ……

……駄目だ。

 思い出せなかった。

 今日も、まったく思い出せなかった。

 ああ、これでもう、何日目なのだろうか。

 いや、もう何年目か、いや、それとも何十年目なのかもしれない。

 時間は、どれだけ私を置き去りにして、経ってしまったのだろうか。

 いい加減、そろそろ思い出してもいい筈なのに、なんで私は自分の事を思い出せないんだろう。

 私が覚えている事は……そう、この樹海で気づいた時の事から、今日までの事だけしかない。

 あの日の事は忘れずにちゃんと覚えているのに、なんで他の事だけはなにも思い出せないんだろう。

 思えば……そう、この樹海で目覚め、起きようとしても起きられなかったあの日から、私のこのへんな日々は始まった。

 あの日。

 そう、あの日、私は眼を覚ました。

 溶けてしまいそうな感覚にまどろみながら起きようとしたが何故か起きられず、あれ、なんで起きられないんだろうと、まあ最初は、呑気に不思議にそう思っていたものだ。

 風邪でも引いてしまったのかと考えたが、身体に風邪特有の気だるさはなく、逆に……それを何といえばいいのだろうか、そう、あえてたとえるなら何も感じないと、そんな言い表しにくい不思議な感覚が私の身体にあった。

 動けないまま、どうしようもできない現状をどうにかしようと、仕方なしに声を出し、誰かに助けてもらおうとしたが、声が全く出せなかった。

 叫ぶ事もできずに、起き上がる事もできず、どうすれば、どうしようかと、落ち付かない考えている中、ここはどこだろうと言う、疑問がようやくこの後に沸いた。

 見れば、辺りは緑が多く、苔や大きな樹々などが欝蒼としていた森の中にいる事に気が付き、ふわふわと浮かんでいるような不思議な感覚も、ようやくそこで気付いた。 

 そう私は宙に浮いていたのだ。

 浮いているといっても身体が浮いているのではなく、地面すれすれの位置で、倒れてもなく、寝ているわけでもない、それをどう、なんて言えばいいのか、そう自分の姿が全て見える位置に、私はいたのだ。

 そこで私は驚いた。

 これからもう何を見ても驚けないほどに、一生分に驚いてしまった。

 私は、死んでいたのだ。

 そう、私は樹海の中で死んでいたのだ。

 ボロボロの衣服をまとい、苔塗れの地面に背を向け、うつ伏せで倒れていた私。

 身体がドロドロに溶け、見る影もなく到る所が腐り果て、蛆や蟲に貪られていた。

 まぎれもなく、倒れていたのは私だった。

 見て思った。

 なんで、私はこうなっているんだと。

 そう、これは夢だと思った。

 そう、私は悪い夢を見ているんだと、そう思った。

 そう、思いたかった。

 怖くて、怖くて仕方がなかったから、そう思いたかった。

 早く目覚めたいと、早く起きないと、こんな悪い夢から目を覚まそうとしたが、目が覚めなかった。

 私は、これは夢ではないと確かな、さらなる現実感を感じた。

 私の身体がドロドロに腐っている事は、決して夢などではない。

 確かな、現実だった。

 じゃあ、なんで私はこんな身体になってしまったのだろうと、焦り慌てながらも、考えてみた。

 得体の知れない疫病で、こうなってしまったのか?

 それとも誰かに恨みを買い、呪われてしまったのだろうか?

 だったらどんな呪いなんだ?

 死ねない呪いなのか?

 それとも死んで生きている呪いなのか?

 それとも。

 それとも。 

 それともと、色々と考えてみたが、なにもわからなかった。

 その後は、結局それをどうする事も出来なかった事だけしか覚えていない。

 それしか覚えていない。

 あの時は慌ててしまったが、今となっては懐かしく思える事だ。

 そうだ、今日は久しぶりにその後の事を思い出してみよう。

 ついでだから、今までの事も、全てを思い出してみよう。

 どうせ何もする事はないのだから。

 とりあえず、気晴らしに思い出してみよう。

 そして考えてみよう。

 まず最初は何から考えてみようかな?

 そうだ、もう一回。

 もう一回だけ思い出してみよう。

 私はいったい誰なんだろう? 

 ……

 ……

 ……

 ……やっぱり思い出せない。

 今に思えば、私は、自分が誰かがわからなかった。  

 いや、もうそれ以前の、生きていた頃の事すら何も思い出せないでいた。

 自分がどんな子供で、どんな親の下で育ち、どんな友達に囲まれ、どんな事に熱中し、どんな事を学び、どんな女性を愛し、どんな人生を送っていたんだろう。

 わからない。

 自分の親の顔。

 自分の友達や恋人の顔。

 そんな身近な事すら思い出せない。

 なんで、思い出せないんだろう。 

 それにだ、それ以前に、そもそもなんで私は、こんな欝蒼とした森──いや、こんな暗くて奥深い樹海の底で、一人死んでしまっているんだろう。

 遭難でも、死んでしまったんだろうか? でも、なんで私はよりによって、こんな樹海の中に入ってしまったんだろうか。

 いや、それよりも、なんで私は、死んでいる筈なのに、意識があるんだろうと言う疑問だった。

 それとも死んでも意識はあるものなのだろうか?

 死ねば意識がなくなると、普通はそう思っていた。

 それとも死んでも人は、普通に意識を持っているものなんだろうか。

 それとも私だけが、例外なのだろうか。

 だったら私は、何者なのだろう?

 私は……私は旅人だったのか?

 でも、乗物に乗っていた記憶はない。

それに私の身近には乗り物の残骸らしきものもがない、たぶん乗り物に乗ってはいなかったんだろう。

 歩いて旅をしていたのだろうか。

 それとも乗り物をこの樹海のどこかで壊してしまい、仕方無く歩いていたのだろうか。

 それとも、

 それとも私は、

 

 ──私は、ただ単に自殺をしに、わざわざこんなところに来てしまったのか。

 

 空がいつも澱んだ緑で覆われているだけで、なにもない、こんな寂しい場所に、わざわざ死にに行く為に、自殺をする為だけに訪れてしまったのか。

 地面も苔まみれで、どこもかしこも緑だけのこんな場所で、わざわざ自殺をしに来たのか。

 全部が緑に覆われている、こんなとても窮屈な場所を最後の死に場所にしたのか。

 いつも朝昼は薄暗く、夜はただ真っ暗のこんな場所で。

 少し明るくなれば朝か昼のどちらかで、暗くなれば夜と単純な変化しかなく、太陽も星も月も何一つ見えはしない、こんな寂しい場所で、なんで死のうと思ったんだろう。

 

 ……寂しい。

 

 そうだ寂しくて仕方がない。

 気が変になってしまいそうだ。

 誰かと話がしたい。

 話がしたい。

 でも、ここには誰もいない。

 私しかいない。

 私の身体を住み這う蛇やトカゲに話しかけても、答えてはくれない。

 

 ああ誰か、来てくれないかな。

 

 誰でもいい、話しがしたい。

 

 そして、なんで私がここに居るのかを教えてほしい。

 

 いや、別に教えてくれなくてもいい。

 

 話がしたいんだ。

 

 さみしいんだ。

 

 誰でもいいから話がしたい。

 

 話がしたい。

 

 話がしたい。

 

 幾度、寂しさのあまりに私の身体に住み群がる蟲やトカゲ、ヘビに話しかけた事か。

 今思えば、馬鹿な事をしたと思うが、でも、どうしても話したかった。

 どんな話でもいい。

 たわいのない話でもいい。

 私を馬鹿にする話でもいい。

 私を笑う話でもいい。

 なんでもいいから話がしたい。

 でも、ここには話せる人はいない。

 もし、また人が通ってくれるなら、今度こそ話がしたい。

 

 ……あ、そう言えば、最初に来た、あの二人の旅人は、あんなオンボロな車で、ここからどこへ行ったんだろう。

 家に帰ったんだろうか。

 二人だけの家に。

 家族が持っている家に。

 あの二人は……確か、そう、髪が長くて、とても綺麗な女性と、ハンサムな細い身体をした若い青年の二人の旅人だったな。

 若い青年は、彼女の夫だったのだろうか。

 二人は、夫婦だったんだろうか。

 奥さんの名前は確か、そう、シショウと呼ばれていたな。 

 今思えば、あの二人には、本当に悪い事をしてしまったな。

 私が、この僅かに拓けた狭い道のど真ん中で死んでしまっているせいで、あの二人に迷惑をかけてしまった。

 こんな狭い道で通行の邪魔をしている私を退かそうとしてくれたのは、確か……シショウ、あ、まてよ、名前で言うのは失礼だ。そう、奥さんと言おう。そう奥さんの方だったな。

 今に思えば、しっかりした人だったな。

 あの頃の私はまだ死にたてで、身体にはまだびっしりと肉が残っていた。あの頃は腐りきったウジまみれのドロドロした身体が、見ていても気持ち悪くて仕方がなかった。

 腐り濁ったドロドロの目玉や内臓がだらしなく破けた腹から飛び出し、口や鼻から内で巣くった蟲がワラワラと出入りを何度も何度も日柄一日中繰り返し、飽きもしない掴みようのない蠢きを続ける蟲が蠢く、誰も触れたくはない、気持ちの悪い代物と化していた私。

 そんな私を、彼女はそんな事すら気にせずに、そんな私を隅へとどかしてくれた。

 その後、彼女は腐った私に気にする事もなく、ボロボロの汚い服を脱がしてくれた。

 多分、私を埋葬してくれるんだろう。

 邪魔になるボロボロの衣服を脱がしてくれているのも、埋葬のために脱がしてくれているんだろう。

 何て素晴らしい人なんだろう。

 私を埋葬してくれる彼女に、私は感謝を言いたかった。

 

 ──ありがとう──

 

 と、感謝を言おうとしたが、それがいけなかったのか、何故かは、いまだにもわからないが、何故か樹海が騒ぎ始めた。

 生暖かい風がどこからともなく吹き、葉樹が一斉にざわめき始めたのだ。

 不安をあおられるかのような樹海のざわめきはどこか不気味で、不穏な空気がひしひしと立ち込め、私は怖くて仕方がなかった。

 奥さんも怖くなったのか、彼女は腰に下げていた、女性にしては扱いづらい筈の大口径のリヴォルバータイプのハンド・パースエイダーを手慣れた動作で早々と引き抜き、蔽う葉木の天頂に向かって引き金を引いた。

 そしてすごい、とてもすごい大きな銃声が響き、私は、思わず驚いてしまい、奥さんにお礼が言えなかった。

 銃声が唸ったと同時に、騒々しかった樹海のざわめきはなぜか止み、何もなかったかのようないつもの静寂が戻った。

 これでまた埋葬をしてくれるだろうと、私は安堵したが、奥さんはなぜかきびすを返し、そのまますたすたと、旦那さんも奥さんを追いかけるようにして、二人はボロボロの車に乗って、早々とどこかに行ってしまった。

 その場に私だけが残されてしまった。

 結局埋葬されず、その場にぽつんと私だけが残されてしまった。

 多分、私が怖がらせてしまったんだろう。

 ああ、ひどい事をしてしまった。

 声をかけようとするんじゃなかった。

 声をかけようとして、また私一人だけが残されてしまった。

 また、さみしい日が戻ってきてしまった。

 そう、あれから幾年幾日が過ぎ、とても長い時間が流れたと思う。

 その長い年月の間に、私の腐ったどろどろの身体は、蛆やハエや虫や蛇やトカゲなどが全部きれいに平らげてしまった。この樹海には獣は一匹も住んでは無く、腐敗した私の身体が骨にかえるまでには、だいぶ時間がかかったと思うが、どれだけの時間がかかったのか私にはわからない。

 私は自分が骨になった姿を見て、正直に言えば何も感じなかった。

 それよりも私はどうしてここにいるのか、私は何者なのか、私はどこで生まれて何をしていたのか、そしてなぜこんなところで死んでしまったのか、私は私のことを思い出すことに思考を働かせ続けていた。

 その間にも世界の時間は流れ、幾度の夜や幾度の朝が訪れ、私の遺体──いや遺骨と言えばいいのだろうか、それだけがぽつんと樹海に残されていった。

 夫婦以外誰も立ち寄る人は無く、私の遺骨だけがいつもそこにぽつんとあるだけ。

 やがて苔に埋もれ、落ち葉に埋もれ、土にかえって行くんだろうと思いながら、私は樹海での無為な日々を過ごしていった。

 自分のことを思い出すこともなく、それでも自分のことを思い出そうとしながら毎日を過ごしていたある日。

 またここに誰かが訪れてくれた。

 久しぶりに通り訪れた旅人は大きな古い型をしたモトラドに乗った、女の子と見間違えてしまいそうな可愛らしいさがあった、十代半だろう少年だった。

 そう言えば腰に古い型をしたリボルヴァータイプのパースエイダーを持っていたな。

 なんだろう。

 あのパースエイダーに見覚えがある様な気がする。

 そう言えば私を退かしてくれた奥さんが腰から下げていたパースエイダーとそっくりだったな。

 もしかしたらあの子は、あの夫妻の娘さんなんだろうか。

 だとしたら、それはすごい偶然だ。

 こんな広い樹海の中でまた偶然にそんな出会いがあるなんて。

 まして、その娘さんが私と出会い、そして私の死を受け止め、わざわざ冥福を祈ってくれるなんて。

 とてもうれしかった。

 私はお礼が言いたかった。

 

 ──ありがとう──

 

 と、久しぶりにそう言いたかった。

 心の底からそう言いたかった。 

 思う限りの感謝を言い述べたかった。

 私の死を悼んでくれた事に感謝を述べたかった。

 そう言えば誰かと話をするのは久しぶりで、思いのほか興奮していた。

 その時。

 その時にだ、待てよと、私はあることを思い出した。

 以前も、そう話しかけようとした時のことを思い出したのだ。

 夫婦が私の埋葬をしようとしてくれた時のことだ。

 私を埋葬してくれる夫妻に私は、感謝を言おうとした時のことだ。

 その時、何故かはわからないが樹海の葉樹が一斉にざわめきだし、おどろおどろしい空気が立ち込め、樹海はまがまがしい雰囲気に包まれてしまった。 

 あれは私のせいだったのかどうかは知らないが、もし私が何かを話しかけようとしたら、また同じようなことが起きてしまうのかもしれない。

 もし起きてしまえば、またあの時と同じように、この子を怖がらせてしまうかもしれない。

 あの夫婦を怖がらせてしまい、その子どももこわがらせては駄目だ。そんな事をしては失礼だと思い、私は話しかけるのを止めてしまった。

 

 ……今思えば、辞めるべきではなかったのかと思う。

 

 少年は瞑目を終えると、モトラドに乗ってどこかに行ってしまった。

 

 ……何も言うことができなかった。

 

 私の死を悼んでくれたあの子に、何も言えなかった。

 

 ──ありがとう。

 

 その一言が言いたかった。

 

 私の死を悼んでくれてありがとう。

 

 私のために祈ってくれてありがとう。

 

 私は感謝をしたかった。

 ありがとうと、心をこめて言いたかった。

 でもそれを言う機会を、私は失ってしまった。

 あまりにもそれは取り返しの使いないことだ。

 私はもしかして、私のことを思い出す前に、私は誰かと話をしたいだけなのかもしれない。

 そうだ。

 私は、誰かと話をしたいのだ。

 

 誰かと話がしたい。

 

 でも、どんな話をすればいいのだろうか。

 今日の天気のことでも話せばいいのだろうか。

 それとも、今からどこに行くのかを訪ねてみるのがいいのだろうか。

 こんなところに長くいるせいか私は、話す術を忘れてしまったみたいだ。

 だから、か。

 だから話しかけようとすると、あんなざわめきが起きてしまうんだろう。

 このまま私は誰とも話せないまま、この樹海の中に居続けるんだろうか。

 どこにも行くこともなく、ここから離れることもなく、私は、この樹海に永遠に居続けるのだろう。

 正直そんなのは嫌だが、それは仕方がないことだと、私はどこかで、そのことを受け入れていた。

 そんな事を思いながらやがて考えることももう必要ないなと思い始めていたある日。

 またここに誰かがやってきた。

 乗り物は軍用の緑色で統一されたバギーで、そのバギーには軍人ではなく、青年と小さな女の子と笑っている白い犬がに乗っていた。

 私を見つけた小さな女の子。白い髪を生やした緑色の光彩をした瞳をもつ、小さな女の子が私を見つけてくれた。

 その子は、何故か私の方をじっと見ていた。

 物珍しそうに。

 不思議そうに。

 こわがった様子もなく、私をじっと見ていた。

 遺骨となった私ではなく、今の私を、だ。

 青年とその子が抱いていた犬は私が見えないみたいだが、あの子は私が見えるみたいだ。

 もしかしたら、もしかしたら、話しかけられるかもしれない。

 そんなもう消え去ってしまっていたはずの気持ちが、また私の中に生まれ、私は話しかけてみようと心掛けたが、言葉が出なかった。

 はやく話さなければ、話す機会を失ってしまう。

 何か話さなければ。

 何を話そう。

 ああ、時間が過ぎていく。

 そんなあわてる私をよそに、青年はバギーを停め、降りて私の元へ向かって来ていた。

 何をするのかとじっと見ていると、青年は私の遺骨を拾い始め、袋の中に骨を一本ずつ、丁寧にいれ始めた。

 私を埋葬してくれるのだろうか。

 骨の全てを袋に入れ終えると、青年はどこかに穴が掘れるところは無いかと探し始め、ちょうど樹海の樹々の根が張っていない腐葉土の開けた場所を見つけそこに、私を埋葬してくれた。

 

 私は嬉しかった。

 

 私は埋葬してもらえたのだ。

 

 お礼が言いたかった。

 ありがとうと、心の底からお礼が言いたかった。

 するとだ、女の子がこちらをじっと見ていた。

 もしかして、本当に私が見えるのかと、私は意を決して話しかけてみた。

 

 ──ありがとう──

 

 と、いままで言いたかった言葉を、私はようやくに言えたのだ。

 そしてあの子は、

 

 「どういたしまして」

 

 と、言葉を返してくれた。

 私は、私は、どうしようもなく、うれしかった。

 久しぶりに話ができた。

 すると、だ。

 私の中にあった重い何かが無くなって行くような気がした。

 その気持ちがわいてくると同時に、私はすっと浮いていくような気がした。

 いや、実際に、私は浮いていた。

 浮いてどこかにいけそうな気がした。

 軽くなっていく。

 浮かんでいく。

 女の子は、

 

 「どこかにいくの?」

 

 と、訪ねてきたので私は、

 

  ──ああ、どこかにいけそうだ……──

 

  ──君達のおかげだよ、ありがとう──

 

 と、私は感謝を述べた。

 少女は、

 

 「どういたしまして」

 

 と、私を見送ってくれた。

 

 「ばいばい」

 

 手を振ってくれたその子に私は、ありがとうと本当にありがとうと、言葉を紡ごうとしたが、言葉が何も出なかった。

 すごく心地よかったからだ。

 こんなにも気持ちがいいのはいつ振りだろうか。

 やがて樹海が晴れ、樹々が無くなり、外へと出た。

 外は、広かった。

 とても広く、そしてどこにも行けそうな広さがそこにはあった。

 私は、これからどうなるんだろうか。

 死んでいた私は、あの世に行くのだろうか。

 天国に行くのだろうか。

 それとも地獄に行くのだろうか。

 別にどこに行ってもいい。

 こんなに広い世界を見ることができたのだから。

 もう、心残りはない。

 ただもし、もし思うことがあるなら私は、生まれ変わりたいと思った。

 そう、できるなら私は、またこの世界に生まれたかった。

 

 

 ──私は、旅人に生まれ変わりたかった……

 

 前向きな話 end




 皆様お久しぶりです、イバ・ヨシアキです。
 今回のお話はいかがでしたか?
 樹海の話の最終話です。
 一応オリジナルキャラクターの語りですが、いかがでしょうか?
 感想があれば是非に。
 なんか毎度ながらの挨拶になりつつありますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか? 暑い時期はまだまだ続きますが、御身体を壊さぬようにお過ごしください。
 
 最後まで読んでいただきありがとうございます。
 では、また。
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