いかがでしょうか?
最後までお読みください。
ある旅人の旅立ちb
──A certain traveler's departureb──
「……君が旅に出てみないと解らない事だよ」
「そうそう、やる前から答えなんか解んないよ」
キノはそう応え、エルメスも同じようにそう答えた。
その言葉の後に少年は、
「……そうだよね。やっぱりそうだよね!」
よほど望んでいた言葉だったのか安心したかのように顔を柔和にほころばせ、
「やってみなきゃ解んないよね。そうだよ」
嬉しそうに声を踊らせながら、
「やってみなきゃ解んないんだ。やる前から解るわけないんだ」
喜んではいたが、すぐに顔の色が悲しそうに落ち込んでいく。
「それなのに、なんで、みんな解ってくれないのかな……なんで、ボクは旅人に向いていないなんて、ひどいこと言うんだろう」
キノは何も答えなかった。
エルメスも何も答えはしない。
無言のまま、誰もなにも言わない数分が流れ、そんな少年にキノは、
「あと……もし、まだきみの気持ちのどこかで旅立ちに迷っているのなら、きみは旅をしない方がいいと思うよ」
「そうだよ」
エルメスがキノの後から続いて、
「旅先で少しでも迷うと、ほんとうに危ないよ。簡単に命なんておとしちゃうかもー」
当たり前の事を、ありのまま忠告した。
キノとエルメスからの忠告に、少年は再び憤慨しながら、
「ま、まよってなんかないよ! ぼくは、なにも迷ってなんかいないんだ! なにも、まよっていない。今すぐにもで、こんな、こんな、なにもない退屈な国から出ていきたいんだ! 二度と、こんな退屈な国に帰って来るもんか!」
声を荒げ、大きな声で否定した。
対照的にキノは落ち着いた、とても静かな声音で、
「なら、大丈夫。きみは旅ができるよ」
「失礼な事を言ってごめんねー。じゃあ、旅がんばってね」
「……」
少年は不満の勢いに口元を歪ませ、言葉を詰まらせ、表情をもやもやと困惑させながら勢い任せにバイクの元へと駆けより、ハンドルを持ち、城門に向かって進みだす。
もうキノとは顔を合わせようとはせずに、外へ行こうとする少年に、
「あと、最後に一言だけ」
キノは少年を呼び止める。
おどろいた大きな視線で振り向いてくる少年に、
「旅先では常に気をつけて。外は、本当に危ないから」
「そうそう、ぜったい迷ったりしちゃダメだよー」
確たる忠告を告げられ、少年はもう後ろを振り向かずに、
「……うん、気をつけるよ。じゃあね旅人さん、モトラドさん。ぼくの話を聞いてくれて、本当にありがとう。ぼくは行くね」
バイクを押して、城門へと向かった。
薄明かりの中に少年の姿は直ぐに見えなくなる。
そして薄暗い空間の先に、ぼやっと光が輝き、そしてすぐに消えた。
光が消えた後、ふわっと砂のにおいが混ざった風がキノとエルメスを撫で、それもすぐに止んでしまう。キノはエルメスのセンタースタンドを蹴り、前に押し出し、闇の中にかすかに眩くオレンジの薄暗い中を進んでいく。
途中、
「あの子、どうなっちゃうかな?」
退屈なのか何気にエルメスから訊ねられ、
「解らないよ」
キノはあっさりと応え、
「だって──」
通路を抜け出ると、そこには先程まで埃まみれに走り進んでいた荒野とはまったく違う、別世界が広がっていた。
先程ほどまで走っていた枯れた外とはまるで違い、そこは麗しいほどの緑に満ち溢れていた。
綺麗に舗装されたゴミや塵の一つすら落ちてはいない清潔な都市。
先程までいた外とはまるで違う、豊かさに恵まれていた世界が広がっていた。
キノは道路へと出てエルメスに跨り、エンジンをかける。
機嫌の良いエルメスのエンジン音が響く中で、
「──あの子はまだ、旅を始めたばかりだからね」
続きを答え、
「そうだね。あの子の旅は、まだ始まったばかりだからね」
そう納得するエルメスのアクセルを押しこみ、キノは少年が出ていった国へと走りだした。
ある旅人の旅立ち end
お読みくださってありがとうございます。
無事300を突破できました。
これからもお読みの方々、これからもよろしくお願いいたします。