小説の林堂 二次創作 小説「キノの旅」   作:イバ・ヨシアキ

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 皆様お久しぶりです。
 閲覧回数が200を超え、お気に入り登録が2件になり、感謝します。
 今回は師匠とシズ様サイドでの表現に挑戦してみました。
 楽しんでいただけたら幸いです。
 


 「捨てる国」

 

 捨てる国 

 

 ──The country which throws away──

 

 それは昔のお話です。

 どの国よりも冬の到来が少し早い、東のとある地方に、それはそれは小さな、とても小さな国がありました。

 他の国と比べても、その国はとても小さいですが、安定した四季の織りなす穏やかな気候に、気まぐれな災害などまったく無縁な土地柄などと、他の国に比べても非常に恵まれていました。

作物や食物も季節を問わずに有り余る程に豊富に採れ、それに合わせてその小さな国の文明はどの国よりもとても高く、科学技術なども優れ、国内の治安も政治も安定しており、犯罪は全くと言っていいほどありません。

 また近くに脅威となる国がないおかげか、その恵みを狙ってくる敵国もなく、とても恵まれていたおかげで他国に攻める必要すらなく、その国は開国以来、まったく戦争をした事もありません。

 本当に平和な国でした。

 でも、そんなとても恵まれた平和な小さな国にも、どうしようもない、そして解決しようのない、深い大きな悩みがありました。

 開国以来多くの指導者たちが、その大きな悩みを自分の代で解決させてみようと、また見事解決させて、自分の名をこの国の歴史に残そうと、それはそれは必死に、問題の解決に向け努力し続けましたが、歴代のどの指導者たちも結局は、その問題を解決するにはいたりませんでした。

 しかし最近になって、その国の指導者が行動力のある若い指導者へと代わりました。

 その新たな若い指導者は、長年国を悩ませ続けていた、その大きな悩みを、あっさりと、一年もかからずに解決させてしまいました。

 開国以来国を永延長年と悩ませ続けたその大きな悩みが、いとも簡単に、あっさりと解決し、国民達は大いに喜びました。

 そして見事解決へと導いた若いその指導者を、国民達は国中を上げて讃えました。

 そんな喜びに騒ぐ平和な国のうわさを聞き、ボロボロの小さな黄色い車に乗って旅をしていた二人の旅人は、その国へと向かっていました。

 あちらこちら錆や塗装のハゲが目立つ、ボロボロな小さな車を運転していた二人の旅人の一人は、女性と見間違えてしまいそうな程にハンサムな少し背丈の高い青年で、もう一人は長い黒髪が特徴的な、落ち着きのある面持ちをした綺麗な妙齢の女性でした。

 二人がそんな喜びに賑わう国へと立ち寄ろうとした理由は、ちょうど運よく、偶然にその国の近くを通っていた事と、二日前にとある事情で運よく手に入れてしまった、大量の宝石や貴金属の山を、お祭り騒ぎに浮かれるその国で売れば、他の余所の国で売るよりも高く売りさばけるかもと、意気揚々と二人はその国へと向かっていました。

 険しい山と厳しい荒野と、長い長い平原を越え、ちょうど陽が上がりきったお昼頃に、二人はようやく、その国へと訪れる事が出来ました。

 その国の城壁は他の国と違って、大砲や武装した見張りの兵隊などの威圧的な物々しさはなく、城門は警戒もなくに大きく開いており、入国にはそう気を張っていない様子でした。

 そんな雰囲気の国を見て、

「噂どおり平和そうな国ですねぇ」

 と、のんびりとした穏やかそうな国の情景を眺めたまま、青年は片手ハンドルで車を運転しながら、助手席に座る師匠に話しかけました。

「ええ、ほんとうに平和そうな国ですね。噂どおり治安はとても良いんでしょう」

「だったら、久しぶりにのんびりできそうですね」

 穏やかな会話と共に、ぺぺぺと快調な車のエンジン音を唸らせ、車がゆったりとしながら城門へと近づく中、

「やっぱこれも、あの噂の悩みが解決したおかげってやつですかね……でも一体、どんな悩みが解決したんですかね? 見た感じ、ずっと前から平和そうだし、近くにこれといった物騒な国もなかったですし、別にこれと言って問題はなさそうなんですけど」

「たとえ平和であっても、大抵悩みはあるものです。国も人と同じようにね」

「ふーん、そんなものなんすかね。ところで……」

 興味と面白みと、そしてほんの少しのいたずら心で、

「師匠の悩みってなんですか?」

 気楽に訊ねてみますが、 

「聴きたいですか?」

 間をおかずに師匠はあっさりと訊ね返してきました。

 しばらくぺぺぺと車のオンボロなエンジン音とガタゴトと車体の揺れる音だけが響きました。青年は前を見据え直して、城門へとゆるやかに続く道を進みながら、ゆっくりと車を走らせたまま、

「いいえ、やっぱいいです」

「そうですか」 

 青年がきっぱりと断ると同時に、車は大きく開いた城門へと入り、二人はあっさりと入国しました。

 城門から抜け出て広い国内へ入ろうとした途中に、踏切みたいな手動式のゲートが設置されていました。

 そのまま車で勢いをつけ走り込めば簡単に突破できそうな、とても脆そうな木製のゲートでしたが、別にそんな事をする必要もないので、青年は速度をゆっくりと落とし、ゲートの一歩手前で車を止めました。

 そしてゲートの隣にある、いつでも撤去できそうな板で打ちつけ作っただけの小さな小屋から、一人の若い番兵が出てきました。

 まだ十代の若い番兵は、

「ようこそ我が国へ旅人さん、心から歓迎します。お手数ですが入国目的と滞在日数。お持ちのハンド・パースエイダー(注意・拳銃を指す言葉)の申請と国内所持の書類に目を通していただけますか?」

 運転席の青年へとバインダーに取り付けられた書類と使い古しのペンを手渡し、青年は窓を開け、受け取り書類に必要な事を、さし障りのないように、すらすらと書いていきます。

 一応青年は自分が持っているオートマティック式のパースエイダーと、師匠が持っているリヴォルヴァー式のパースエイダーだけを書き込み、車の後部座席に分解して載せていた、いくつもあるその他のパースエイダーと、その他の沢山の危険なモノ(おもに爆発物や刃物など)はまったく書きませんでした。

 とりあえず必要な入国日数と、宝石と貴金属の売買とこれからの旅に必要なモノの購入と、書き終えた書類を番兵に返し、番兵はそれを事務的にすらっと見てから、

「はい、結構ですよ」

「どうも」

 思いのほかに入国審査はあっさりと通り、そのままゲートを超え、国へと入国しようと車を走らせようとした時です。

「ん?」 

 何故か、ゲート向こう城門前の広間には沢山に集まった、大勢の人だかりがありました。

「あれ、なんですかね」 

 見れば、沢山に集まった大勢の人だかりの多くは七〇から八〇は越えた老人達で、横一列の列を作り整列し、何十台と並ぶ軍のトラックに次から次へと乗せられて行きます。

 もう乗れないほどこぼれそうなほどに満員になると、荷台はがちりと堅く閉められ、トラックは勢いよく走りだし、そしてそのままどこかへと老人達を運んでいってしまいます。

 トラックに乗ろうと並ぶ老人達は男女を問わず、車いすに乗る老人や、杖をついてしんどそうに歩く老人などと、様々です。

 中には家族と別れを惜しむ老人や、トラックに行くのをなんとか引き留めようとする子供をなだめ、別れに泣きだす子をあやしながら泣くのを堪える家族などと、沢山にいました。

 他にもあきらめたように暗い顔をした一人ぼっちの老人や、絶望にうちしがれた、同じように一人ぼっちの老人などが多々見受けられます。

「あの人だかり、お祭りか、なんかですかね?」

 のんびりと青年は言います。

「お祭りにしては、すこし雰囲気が重いですね」

 ぽつりとつぶやく師匠の言葉通り、広場には至る所には、ライフルタイプの軍用パースエイダーを肩がけに、またいつでも撃てる姿勢で両手に持ち、身構えるなど周囲を注意深く威圧的に警戒していた軍人が多く、広場の雰囲気は、とてもピリピリしていました。

「番兵さん、あれなんです? 今から何が始まるんですか?」

「ああ、あれですか」

 若い軍人はうれしそうに、

「ええ、お教えします。むしろぜひ聴いていってください。そしてほかの国にも教えてください。この国のとても素晴らしい政策を是非広めていってください」

 気を取り直しながら笑顔を師匠だけに向け、集まり、トラックに列を作る老人達に視線をやりながら、

「あの役立たずの老人どもの列は、いまから病院で廃棄されるんですよ」

 と、快活に答えます。

「廃棄?」

 青年が聴き返すと、

「はい、廃棄です。まあ、なかには口悪く処分とか言う輩もいますが、一般的には廃棄と呼ばれています」

 と、若い軍人は淡々と答えます。

「あの、廃棄って……どういう意味なんです」

 いまいち解らなそうに青年が訊ね、

「ああ、あんまり難しく考えなくてもいいですよ。ただふつうに病院で、役立たずの老人共を薬殺処分するだけです」

 と、至極あっさりと、そんな事を言いました。

 聴き終えてから青年は納得したように頷きながら、

「……へえー、なるほど。そういう事だったんですか」

「なるほど。いったいどんな悩みがこの国にあったのか、そしてどう解決したのかが、ようやくわかりました」

 師匠も納得したように頷きながら、

「ようするに、この国の人口を少し減らしちゃうんですね」

 察するように青年は言い、

「だからこうやって、多くの割合を占めるお年寄りを広場に集めているんですね」

 師匠もあっさりと言います。

 番兵は眼を開き心底驚きながら、

「……ええ、察しがいいですね。まさにその通りです」

 と、感心しますが、

「でも、なんで解ったんですか?」

 不思議そうに訊ねてきたので、

「人口で頭を悩ます国では、よくある政策だからですよ」

 たいして感慨もなく師匠はしれっと答え、

「人口問題はけっこうどの国でもありますからね。とくに平和で医療が進んでいる国じゃあ、お年寄りが増えてしまいますし、中には子供を一人しか産んじゃいけないとかして人口を抑えている国もありますからね」

 青年も何気に応えます。 

「へえ、そうなんですか? どこも大変なんですね」

 聴いて若い番兵は心底感心しながら、すらすらと後を続けます。

「まあ、うちの国も確かに以前までの悩みは人口増加だったんです。特に一番問題視されていたのが、年々増えてしまう役立たずで死にぞこないの老人共の増加でした」

 師匠と青年は、失礼ではない相槌を打ちながら黙って話を聞きます。

 若い番兵は後を続けます。

「この国はとにもかくにも平和な国ですからね。戦争もないし、最近じゃ人が死ぬ犯罪だって早々起きる事もありません。まあせいぜい起きるといっても、不運な交通事故か、ノイローゼになった自殺くらいですかね」

 と、番兵は自慢するかのように気軽に言います。師匠と青年は、失礼のない相槌をくりかえします。

「でも、我が国は医療がとても優れていますから大抵は助かります。その後の保証だって問題はありません。それに景気もとても安定してますし福祉、保険もどの国よりもしっかりしています。だから貧しさや職にあぶれ、行き詰って自殺する輩なんてのも、めったにいません」

「でもたまには、いるんですね」

 上げ足を取るように青年はしれっと言い、

「ええ、まあ、狂った輩は時々出ますがね。それもほかの国に比べたら少ない方だとおもいますよ。とにもかくにもこの国はとても恵まれて優れていますから、その御蔭でみんな何の問題もなく平和に暮らせているんですけど、その分、どうしても人が増えに増えてしまうんですよね」

 気まずくながらも言いながら番兵は、

「とくに役に立たない老人共が、嫌ってほどに増えてしまうんですよ」

 表情を陰鬱に陰らせ、トラックへと乗せられていく老人を忌々しく睨みながら、

「古い役立たずの老人共より、私のような役に立つ若い世代がぐっと増えてくれればいいんですけど、こう平和で豊かだと、どうしても役立たずの老人どもの方が断然増えてしまいます。そうするとそいつらを生かすために年金やら福祉やらでお金がかかってしまいますし、また古い考えを持った老人共が国の実権をずっと握ってしまい、自分達の世代に有利な馬鹿げたとんでもない法律ばっかり作ってしまいます。現に、一年前まで老人共は若い世代を奴隷のように苦しめてくれましたよ」

「苦しめたとは?」

 青年が興味ありげに訊ねてみると、

「まあ色々ありましたけど……やっぱ一番はあれですね──」

 トラックに乗るのを拒んだ老人を、二人がかりで無理やりに乗せる兵隊を見ながら、

「──税金ですか?」

 師匠が先に訊ねます。

「! ええ、そうです。とにもかくにも税金が高かったんですよ。あ、やっぱ他の国も同じように税金が高いとかの悩みがあるんですか?」

「ええ、税金が高いと悩んでいる国は沢山ありますから」

「中には金持ち連中は税金がタダで、それ以外の人は倍の税金を納めなきゃいけないとか、大変な国もありましたね」

「うわぁー、そりゃあ大変ですね」

 驚く番兵は何度もうなずきながら、

「どこも苦労しているんですね。まあ、とにもかくにもこの国も前までは若い世代の税金は異常に高くて、逆に老人共の税金は信じられないほど安くなっていて、ほんと、今考えたって不公平のなにものでしかないですよ、あんな無茶な税金は!」

 声を荒げ吐き捨てるように言う番兵に青年は、

「でも、そんな無茶な税金を、だれか反対とかしなかったんですか?」

「もちろん当然反対はずっとありましたよ。でも、老人共は全く、私たち若い世代の思いに聞く耳なんて持ってくれませんでした」

 残念そうに番兵は後を続けます。

「奴らの言い分はいつも同じ文言でしたよ「若者は働けるんだから税金は高くて当たり前」だとか、「若いころは苦労したらその分後が楽になる」とか、そんな馬鹿げた理由で若い世代の税率だけを高くして、自分達の世代の税率はほとんどなく払わなくてもいい、低金利の額に下げるなんてとんでもない政策を当たり前のように若い国民に押し付けていたんです。あ、もちろんそれだけじゃありませんでした。調子づいた老人共は次から次へと若い世代を苦しめる馬鹿げた法案を飽きもせずに立案していきましたよ」

「へー、たとえばどんなのです?」

「そうですねぇ、沢山ありますけど一番ひどかったのが、自分達にかかる医療費の完全無料化とか、もらいすぎの年金のさらなる増加とか、とにもかくにも金のかかる事ばかりがですかね」

「それにも反対したんですか」

「ええ当然、反対しましたよ! でも、それを反対したり異議を唱えるだけで、「若いくせに生意気だ」とか、「なにも知らない若造が偉そうに言うな」とか、この国の老人共も小うるさく反対してきましたし、その時の指導者も偏屈な老人でしたから、当然同じ老人共の味方をし、我々の声を全く聞いてはくれませんでした」

「あー、そりゃひどいですね」

 青年の同意に番兵の表情はすっかりと暗くなりました。

「ええ、本当にひどいです。あの時は、この世の地獄といってもさしつかえありませんよ。他に上げれば、私と同じ世代の議員がすばらしい新しい法律を考えても、「そんなふざけた法律なんか認められるか!」とか、古い議員に反対され潰されてしまう事が半ば当たり前になっていましたし、私の友達も仕事や作業で効率のいい方法を考えても、「そんなふざけた方法があるか!」とか、老人いや古い連中らは常に新しい考えを潰して、自分達の古い錆ついた考えが絶対と言わんばかりに、国をより良くしていける方法を次から次へと摘んでいったんです」

 興奮しながら番兵は、

「でも、その悪しき時代も古い指導者の死とともに終わりました。今の若い指導者に代わり、この国はまっさらに生まれ変わったんです」

 笑顔に戻り、 

「就任演説の時、指導者は言いました。「古いものは常に捨てていかなくてはいけない。それは物だけではなく、考えも人も同じだ」とね」

 真剣な顔で、

「そう、新しくなるためには古いものは常に捨てて行かなくてはいけないんです。それは人も考えも同じなんです。私たちが常に前に進むために古いものを捨てていかなくてはいけないんです。だから指導者はこう言ったんです「この国が常に新しくなるためには、古い考えを押し付ける老人をまず最初に捨てていかなくてはいけない!」とね!」

 強くはっきりとした声音で言います。

「無論老人共は猛反対しました。中には指導者の暗殺まで考えたイカレた老人までいましたが、私たち若い世代が必死になって指導者を守り、そして国を変える為に必死に指導者を盛り上げ、そしてついに2年前に老人廃棄法案が国会で可決されました。あれはまさに歴史的偉業と言ってもさし障りありません」

 と、嬉しそうに、そしてどこか誇らしく興奮しながらに番兵は揚々と語りました。

「その法案が決まった後って、結構大変じゃなかったですか?」

 青年が何気に訊ね、

「はい、可決された最初は色々と小競り合いがあって、時には軍隊が出るようなこともありましたが、今ではだいぶ大人しくなりましたよ」

「そいつはかち合わなくて良かった」

 青年はほっとします。 

「まあ、老人どもの古い考えはよくわかりませんからね。いったい古いものを廃棄して何がいけないのか、ほんと人はもうろくしたらおしまいですね。今に思えば、うちの父も古い考えに凝り固まった、偏屈で頑固な番兵でしたよ」

「あなたのお父様も番兵をされていたのですか?」

 師匠が尋ねますと、

「ええ、父は古い考えに毒された意固地な番兵でした。最後まで私の事を全く認めてはくれませんでした……」

 悲しそうな顔で城門を見て後を続けます。

「……もともと父は、この国の城門の開きっぱなしを認めてはくれなかったんです」

「え、前までは城門はひらっきぱなしじゃなかったんですか?」

 意外そうに青年が訊くと、

「いいえ、父は常に城門を堅く締め切り、やたら人手や手間のかかる長い審査と検閲をやっては、わざわざ遠くから来てくれた旅人を困らせていたんです。時折入国を認めない事もありましたし、移民なんて絶対に認めませんでした。私はそんな事をするよりも、もっと国を開くべきだと父を諭そうと思ったんですが、父は「オマエはこの国をつぶす気か!」とか、全く聞く耳を持ってくれませんでした。ほんと、偏屈な父でしたよ」

「私たちはいい時に入国できてよかったです」

 師匠がそう言いますと、

「ええ、旅人さん達は本当に運がいい。父が死んだおかげで、今こうして私がこの仕事を引き継ぐことができたんですから」

 笑顔で番兵は言います。

「? 死んだって、あー、もう処置されちゃったんですか?」

「いいえ、処置ではなくて、ちょうど一年前。そう、丁度法案が可決された時、父は自分の部屋で自殺しました。あっけないものでしたよ」

「自殺ですか」

「はい、父はハンド・パースエイダーで自分の頭を撃ち抜いたんです。こんな風にね」

 番兵は大きく口を開け、祈るような手の形を作り、パースエイダーを持った手ぶりで銃口を上顎に押し付けるような形を取り、引き金を引き、そのまま頭を撃ち抜いたしぐさを取ります。

 その一連の動きは、パースエイダーで自殺をする時には、最も効率的に死ねる最良の方法でした。

 そんな事を話したにもかかわらず青年は別に意に解した様子もなく、

「まあ、父が自分で死んだ理由はよくわかります。わざわざ国に面倒をかけたくはなかったんでしょう。ほんと、これでよかったんだと思いますよ。働けなくなった邪魔者の老人なんて要りませんよ。人は国に貢献できない時点で、生きている価値なんてないんですから」

 番兵は自慢げに師匠と青年へと向きなおり、 

「私も70まで生きようとは思いません。50くらいで処置されに、潔く自分で病院へ行きます。それがこの国の為ってもんですよ」

 と、声を高くにはっきりと言いました。

「それは立派な考えですね」

 にこやかな顔で師匠は若い番兵にそう言い、

「いやあ。あなたはこの国を愛しているんですね」

 にこやかに青年も言います。

「はは、そんなことはないですよ」

 心の底からの笑顔で気恥ずかしそうに照れる若い番兵に、

「では、御忙しい時に御質問に答えてくださって本当にありがとうございました。私たちはもう行きます。もしよければでいいんですが、この国で宝石とか貴金属を、できるだけ高く買い取ってくれそうなお店を教えていただけないでしょうか?」

 師匠はとても丁寧に訊ね、 

「ええ、それなら通りの先にある宝石店がお勧めですよ。前の業突く張りの古い店主が処置され、気前の良い若い店主に変わりましたから、他よりも高く買い取ってくれるはずでよ」

 若い番兵は快く教えてくれました。

「いやぁ、どうもありがとうございます。じゃあ、これからもお仕事頑張ってください!」

 青年はアクセルを踏み、広場の人だかりに気をつけながら車を走り出させました。  

 そして二人は若い番兵に教えてもらった、最近店主が変わった宝石店へと訪れ、持っている宝石と貴金属を全部売り払いました。

 思いのほか宝石や貴金属はとても高く売れました。

 店主になれてうれしかったのか、二〇代の若い店主は思いのほか気前よく買い取ってくれたからです。

 そしてこれからの旅に必要なものを沢山に、安くに買い入れました。

 無論店の全ての店主は、全員が二〇代の働き始めた若者でした。

 しばらくその国に滞在し、丁度、この国から老人が一人もいなくなった頃に、師匠と青年は、この国を後にしました。

 

 二人が去り、そして長い、とても長い年月が世界に流れました。

 世界に陽が幾度なく沈み、雨が幾度なく振り、幾度なく季節が流れ、秋がどの国よりも早くに、この地方に訪れようとした頃。

 緑のセーターを着た逞しい体躯をした一人の青年と、とても綺麗な銀髪と白い肌を持つ可愛らしい少女と、ふさふさの毛を生やしたニコニコとした笑顔の犬が、バギーに乗って、その国に訪れました。

 青年はシズと言い、少女はティーと言い、犬は陸と言いました。

 そんな二人と一匹は、どこかで落ち着ける国はないかと、国々を幾度なくと巡っていた旅人です。

 たいていどこの国も移民を認めてはくれませんでした。

 そんな旅先の中で、移民を歓迎している国があると、旅先の中で商人から聞き、歓迎してくれているならと、その国に希望を持ち訪れました。

 でもなんで移民を歓迎しているのかがとても怪しかったので、滞在をしながら様子を見て、結果としてその国に落ち着くかどうかを見比べようと入国すると、

「御入国ですか?」

 と、番兵からの質問に、

「はい、この国に入国したいのですが」

 答え、

「はい、入国を許可します」

 思いのほかに、許可があっさりとおります。

 普通なら滞在の目的や日数、入国する人数や所有している武器や持ち物などの検査が、普通ならいろいろとあるはずですが、

「……あの、これでいいんですか? 書類や危険物の審査はしないのですか?」

 簡単な入国の審査に、きょとんとしながら青年は質問します。

「ええ、昔なら書類とかめんどくさい審査が山のようにありましたけど、今はこんなものでいいんですよ」

 と、番兵はあっさりと答えます。

「そうですか」

 青年は一応に訊ねますが、

「べつにかまいませんよ。旅人さん危ない人じゃなさそうだしね」

 と、お気楽に言います。

「では、ありがとうございました。」

 入国しようバギーを走らせようとすると、

「ん?」

 ゲート先の広場に、大勢の老人達が集まり、一列の綺麗な列を作り、トラックへと乗り込み、並んでいるそんな光景を見て、

「何をしているんですか?」

 青年が番兵に訊ねました。

 すると番兵は、

「ああ、あれは処分の集まりですよ」

 と、あっさりと答えます。

「処分?」

 シズが訊ねます。

 番兵は、

「ええ、役立たずの年寄りを病院で薬殺処分するんです」

 と、至極、変わらずあっさりと答えます。

「処分とは?」

 陸が訪ねます。

「文字どおりの処分です。この国では満70歳になった年寄りを病院で処分する法律があるんです」 

 質問に、番兵は当然のように答えます。

「……それはまたなんで?」

「だって、年寄りなんて邪魔でしょ?」

 番兵は至極当然に先程と変わらない声音で、

「そんなの決まっているじゃないですか。だって年寄りなんて要るだけで鬱陶しいし、古臭い考えを若い世代に押しつけて、説教臭い事をネチネチという嫌な連中はとっとと処分してしまうのが良いですよ」

 と、あっさりと言いました。

 青年は、どう答えればいいかわからない複雑そうな顔をして、

「……この国では、それが当然の考えなんですか?」

 訪ねますと、

「ええ、この国では、ごく当たり前のことですよ」

「……そうですか……」

 青年は暗い顔でそう言いました。

「まあ、よその国では年寄りは大事にしなきゃダメとか、大切にして当たり前とか、信じられないような馬鹿げた考えを持った国が、当然のようにあるみたいですけど、そんなことして何の得があるんですかね」

 番兵は青年が暗い顔をしていることなど構わずに、後を続けます。

「うちのおやじが若いころもそんな考えが当たり前のようにあったみたいですし、ほんと、なんで、そんなふざけた考えが世に蔓延るんですかね」

「あなたのお父様も、そのような考え方を持ってはいなかったのですか?」

「ええ、親父の若いころに年寄りの処分が法律で決まったって、親父は毎日自慢していましたよ」

「……自慢……ですか」

「そうですよ。いっつも自慢していましたね。〝おれたちがこの国を変えたんだ! この国の未来を救ったんだ!〟って、もうすっかりと覚えちゃいましたよ。あ、あと〝年寄りなんていらん! おれも親父見たく処分される前に自殺してやるんだ!〟 っていつも言ってましたっけ」

「……」

 青年は相槌を打たずに、複雑そうな顔で番兵の話を聞きます。

「でも、年老いていくと、その気持ちも薄らいでいっちゃうんですね」

「? 何か、あったのですか?」

 シズが訪ねてみると、

「いやね、おやじ……いや、おやじたちの世代が処分される年齢に近づいてくると、いきなり法案を破棄しようと動き出したんですよ」

「……それで、どうなりました」

「もうそりゃあ大変でしたよ。法律を変えた世代がみんなそろいもそろって〝あの法律は間違っていた!〟って言い出して、法律を昔に戻そうと動き出したんです」

「……でもこの様子を見れば、それはうまくいかなかったみたいですね」

「ええ、老人処分法に異議を唱えることは第一級の国家反逆罪になりますからね。軍隊や警察が出動して、法律を変えようとした年寄りどもを皆殺しにしていきましたよ」

 番兵は愉快に言います。

 青年はできればもうこの話を聞きたくはありませんでしたが、番兵は変わらずに続けます。

「おやじも潔く死ぬとか言っていたくせに〝いやだ! 処分されたくない! 死にたくない! まだ生きていたい!〟とか言って、見苦しいったらありませんでしたよ。しまいには〝一緒にこの国から逃げよう! こんな狂った国から逃げるんだ。おまえも、息子も娘も年老いたら処分されるんだぞ! みんなでこんな狂った国から逃げよう!〟とか言い出す始末で、もう手に負えませんでした」

「……で、お父様はどうなりました」

「見苦しいから私で処分してあげましたよ」

「それはつまり……」

「ええ」

 笑顔で番兵は、

「私がパースエイダーで撃ち殺してやりました」

 あっさりと答えました。

 そのまま後を続けて、

「お袋は頭に当たって即死でしたけど、親父は運悪く頭じゃなくて身体に当たってしまったんで、死ぬまで結構時間がかかりましたね。まあ、その死にざまを息子と娘にしっかりと見せつけることができました。法律を破ればこうなるんだと、年をとればこんなにも老いぼれてしまうんだと、まあ、最後にいい勉強をさせてくれましたよ、親父も。でも、あんな見苦しいのはほんといやでしたね。なにせくたばる前の最後の言葉が〝あの法律は間違っていた! なんであんなふざけた法律を認めてしまったんだ。親父……すまない〟って言ってくたばりましたよ」

「……あなたは自分の両親を手に掛け、何か感じませんでしたか」

「まあ、正直いえば気持ち悪かったですね。法律で認められているとはいえ、処分を代行するのはもうあれっきりにしたいですよ。床も汚れてきたなくなってしまうし、掃除も大変でしたし、私も自分の息子や娘に、あんな真似をさせたくありませんしね」

「……」

 青年はもう何も言わずに、バギーを走らせ立ち去りました。

 青年はこの国で必要な食料と燃料を買い、早々に出国します。

 

 そして青年が立ち去った数日後。

 この国には老人が一人もいなくなってしまいました。

 

 捨てる国 end

 




 いかがでしたか?
 キノとエルメスが登場しない作品なので、何か違和感がありますが、最初はキノとエルメスが立ち寄り、去っていく雰囲気で書いたのですが、シズ様の方がしっくりきたので、シズ様サイドで採用させていただきました。
 あえてシズと書かずに青年として表現させていただきました。
 陸の語りではないので、こっちの方がいいかと思いましたが、皆さんはどちらがいいと思うでしょうか?
 
 ご感想と、ご意見の方随時募集しておりますので、なにとぞにお願いたします。
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