小説の林堂 二次創作 小説「キノの旅」   作:イバ・ヨシアキ

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 キノの旅の第3話です。
 今回はエルメスサイドの話で書いてみました。
 でも、なぜにエルメスは喋れるんでしょう? コンピュータが入っているのでしょうか? それともまれに魂の入った乗り物が存在しているというのか? そんな想いの中で書いた作品です。
 最後まで楽しんでいただけたら幸いです。
 では、どうぞ最後までお付き合いお願いいたします。


 「待っている間に」

 

 待ってる間に 

 

 ──While waiting──

 

 それはキノとエルメスが、ある国に訪れた時のお話です。

 少し手間と時間のかかった長い入国審査を終えた頃には、もうとうにお昼は過ぎていました。

 朝ごはんが味気のない携帯食料だけだったので、とてもお腹が空いていたキノは、入国時に管理官に教えてもらった、この国で一番格安で、それでいてとても美味しいと、すこぶる評判のレストランに真っ先に向かいました。

 そしてレストランに着くなりキノは路肩にエルメスを停め、足早に食事へと向かいます。

「食べ過ぎちゃダメだよ」

 と、エルメスに注意されますが、

「一応、気をつけるね」

 キノはそれを軽く流しながら、ささっとレストランに向かいました。

 ちりんとドアが閉まる音が響くと、ぽつんとレストランの前に残されたエルメスは、キノが帰ってくるまで昼寝でもして待っていようかなっと、思う前に、うつらうつらと寝入ってしまいます。

 天気の良い午後の暖かい陽射しもあってか、エルメスはすぐにすやすやと寝てしまいました。

 途中、車がうるさい音をたてながら何台も通り過ぎ、鳥が羽を休ませよとエルメスのハンドルに立ち止まるなどありましたが、エルメスは全く起きません。

 休憩の終わった鳥が飛び去った後に、射し込んだ陽射しで温もったシートの上に、猫がぴょんと乗り、シートの上にすりすりと体をこすりながら丸まり、そのまますやすやと居眠りをします。

 猫が乗っているのにもかかわらず、エルメスは全く起きる気配はありません。

 そんなしばらくした後に、

「こんにちは」

 誰かに挨拶をされました。

優しいおじいさんの声音に、居眠りをしていた猫が驚いてどこかに走り去っていきます。

 エルメスは、

「……うにゃ……あれ、キノ……もう、ご飯終わったの? はやかったね。お腹いっぱいになった……」

 寝ぼけながら、その声の主をキノと間違って応えてしまいます。

「こんにちは、モトラドさん」

 と、また声をかけられます。

「むにゃ……あれ、キノじゃないの?……だれ?」 

いつのまにかエルメスの正面に停まっていた、とても古びた三輪の貨物自動車が、やさしい声で話しかけてきました。

 いつ停まったんだろうと、不思議そうにエルメスは貨物自動車を見ます。

 青い外装をし、所々に埃をかぶった古い貨物自動車。

 いくつか禿げた外装の上から無理に青いペンキで色を塗った跡がいくつもあり、二つのライトカバーの片方は欠けて割れていて、もう片方はライト自体が外れています。

 一人乗り専用で、今はだれも乗ってはいません。

 フロントミラーも埃で薄汚れており、少しひび割れてもいます。

 車内のバックミラーが外れかけていて、黒革のシートもところどころ擦り切れて破れてしまったのか、同じ黒色のテープでところどころつぎはぎに補強していた跡があります。

 荷台には沢山の木箱と段ボールや荷物が載せられており、山のようにどっしりと積まれています。三輪のタイヤも、どれもこれも溝がなくパンク寸前まですり切れており、荷台の荷物の重さもあってか、少し沈んでもいます。

 中古というよりすでに廃車に近い、とてもオンボロな三輪の貨物自動車でした。

 エルメスはまだすこし寝ぼけたまま、きょろきょろとあたりを見回しますが、他に喋りそうな人影もなく、動物や生き物の姿がありません。

 エルメスはもしかしてと、

「……あの、貨物自動車さん話せるの?」

 前に停められている、そのボロボロな貨物自動車に思いきって話しかけてみました。

「……あ、ああ、話せるよ。なんか寝言を言っていたから、モトラドさんが話せると思って、ためしに声をかけてみたんだ、あらためて、こんにちはモトラドさん」

 驚きながら挨拶をされてエルメスは、

「おくれてこんにちはね。ぼくの名前はエルメス。えーっと、貨物自動車さんの名前はなんて言えばいいの?」

「なまえ?」

「うん、名前だよ。貨物自動車さんはなんて言うの」

「……ないよ」

「はい?」

「名前は……ないよ」

 貨物自動車はあっさりと答えました。

 その答えに、

「ないよ? あ、ナイヨって名前なんだね。いい名前だねナイヨさん」

「……ちがうよ。名前は無いんだ。私は、持ち主に名前をつけてもらってはいない」

 貨物自動車の声を後にエルメスは、

「あれ、なんで名前を教えてもらっていないの」

 不思議そうに、その事を尋ねます。貨物自動車は、

「……ああ、なるほど、普通は教えてもらえるものなのか……それで君は、エルメスというのか。なるほどね。私はこれまでに彼と話をしたことはないから、それで教えてもらえなかったのかな」

 と、どこか悲しそうに言います。

「ありゃ、なんで話しをしないの? もしかして持ち主と仲が悪いの?」

 心配そうに訪ねてくるエルメスに、

「そんなことないさ。私は彼に乗ってもらってから、ずっと一緒にいるんだ。そして毎日彼の仕事を手伝っているんだ」

 とてもうれしそうに言います。

 エルメスは、

「仕事って、何をしているの」

「彼は、この国で配送の仕事をしているんだ、毎日いつもどこかに荷物を運んでいるんだよ」

「へえ、配送屋さんなんだ。毎日運んでいるって真面目さんなんだね」

「ああ、いつも毎日休むことなく彼は荷物を運んでいる。荷物もいろいろで、食べ物の時もあれば、なにかしらの生活用品の時もある。ときたま危ないものもあるかな。そう、確か前は、軍隊にパースエイダーの弾やガソリンもたくさん運んだかな。彼はとても働き者で、いつも休むことなく、私は、いつも彼に乗ってもらっているんだ。この国の隅から隅まで60年間走りこんだよ」

「! 60年も走っているの」

「そうだよ。彼が働き者の陰で毎日走ってもらっているし、毎日仕事の後には整備もしてもらっている。車体の舗装も彼の仕事だよ」

 聴いてエルメスは、

「それ、すごく幸せだね」

 とてもうれしそうに

「ああ、とても幸せだ。乗り物冥利に尽きるよ」

「そうだね。乗り物は毎日走ってもらえたら幸せだもんね。あと、整備もしてもらえたら言う事はないよね」

「ああ、だけど……もし叶うなら、一度だけでも良いから彼と話をしたいかな」

「? なんでさ、話せばいいじゃん?」

 簡単だよと言うエルメスに、

「……それはできないよ……」 

「だからなんでさ、話すくらい簡単じゃん」

「うーん……」 

 言葉を詰まらせて貨物自動車は、

「……乗り物が話しかけたら、おかしいから無理だよ」

 と、困ったように言いました。

「はい?」

 エルメスがすっとんきょな声を上げると、

「乗り物は喋っちゃおかしいじゃないか」

 貨物自動車は、自分の全てを否定する事を、さも当たり前のように言います。

 エルメスは不可思議な思いで

「? なんでさ? 別に話してもいいじゃん。話したい時に話すのはおかしい事じゃないよ。ごく当り前な事じゃん」

 エルメスの言葉を後に貨物自動車は、

「いや、エルメス君はそうかもしれないけど……私はこわいんだよ。もし、話してしまったら、彼が驚いてしまうじゃないか」

 不安そうでそしてどこか悲しそうな声音で、

「彼はもう歳だ。私が喋りかけて驚いて死んでしまったらと思うと、怖くて話せない。だから私は話さないんだ」

そう、頑く言いました。

「そんなに心配する必要はないんじゃないのかな。別に、普通に接してくれると思うよ。驚かすような声のかけ方をしなきゃ、大丈夫だよ」

 エルメスは安心が持てるような提案を言いますが、

「……駄目だよ。第一に乗り物が声を出して喋るなんて、普通はあり得ないからね」

「? ありえないの? なんで? 現に、今こうして喋っているじゃん」

 疑問符を幾つも浮かべ、不思議そうに言うエルメスに、

「他の国の事は知らないが、この国には、私以外の乗り物はみんな喋らないんだよ」

 寂しそうに貨物自動車は後を続け、

「私がこの国の工場で造られて、販売店に並べられている時から、ずっと不思議に思っていたよ。なぜ、私はこうやって人間見たく考えて喋ることが出来るんだろうと、それがとても不思議で仕方が無かった。他の乗り物は何も話せないのに、なんで私だけが、こうやって人間のように喋ることができ、人間のように意思を持っているんだろうと、不思議で仕方が無かった。販売所で売られている時に、誰もいなくなったときを見計らい、他の乗り物にこっそり話しかけてみたことがあったが、どの乗り物も声を返してはくれない。みんなしんとして黙っていただけで、誰も話しかけてはくれなかった」

「それ、寂しいよね」

 どこか感情のこもったエルメスの言葉に、

「ああ、寂しかったよ。すごく寂しかったから、ためしに思いきって誰でもいいから人間と話してみようかと思ったが、乗り物である私が人間に話しかけたら、私は怖がられてしまうんじゃないかと、恐れられて壊されてしまうんじゃないかと、怖くて話しかけることができなかったよ」

「そんなに怖かったの? 人間に話しかけるのが」

「ああ、怖かったよ。人間と私たちはまるで違うからね。彼に買われて、販売所から外で走るようになってから、色々な乗り物を見てきたが、どの乗り物も喋ることができなかった。この国で喋る乗り物は私だけだとようやくわかった時、私は、自分だけが他の乗り物とは違うと、変わった存在だと思ったよ。だから今日まで人とは絶対に話さないようにと、ずっと何も言わず喋らずに黙っていたんだ。もし私が喋ってしまったら、誰かを怖がらせてしまう。そうなったら私は気味悪がられてばらばらに壊されてしまうかもしれない。そんな思いで、ずっと黙っていた。どうしても彼と話しをしたい衝動に駆られる時もあったが、結局は恐怖で話しかけられなかった……怖かったからね」

 今にも泣いてしまいそうな声音で言う貨物自動車は、

「でも、今日やっと話すことができたよ。エルメス君が停まっていた時、寝言を言っていたから、もしかしてと思い、話しかけてみたら、こうやって話すことができた……だから、是非、教えてほしいんだ。外の世界には、私や君みたく話せる乗り物はいるのかい?」

 その切ない問いにエルメスは、

「うん。沢山いるよ」

 と、当たり前のように言いました。

 それを聴いて貨物自動車は、しばらく何も言わずに黙ってしまいます。

 そして、

「……良かった。この世界には私だけじゃなかったんだな……」

 泣いているような声音で、貨物自動車はとても喜んでいました。

 エルメスは、

「……喋ることがそんなに怖いものかなぁ? ぼくが最初にキノに話しかけたとき、別に怖がった様子はなかったけどなぁ」

「キノ? キノってなんだい?」

 貨物自動車にキノの事を訊ねられエルメスは、

「キノは……うーん、なんて言えばいいのかな」

 どう説明すればいいのかなと考えながらエルメスは、

「……解りやすく言えば一緒に旅をしてくれる相棒かな」

「? それはエルメスさんの持ち主の名前なのかい?」

 貨物自動車に不思議そうに訊ねられエルメスは、

「持ち主でも間違いはないけど……キノは、キノさ」

「? ?」

 貨物自動車が解らなそうに言葉を詰まらせてしまいます。

 エルメスは、

「あ、解んなかった」

 どんなふうに説明すればいいかなと迷いながら、

「うーんとね、そうだね……キノは旅人なんだ」

 と、ありのままの事を言います。

 そして思い出すように、

「ぼくはキノと一緒に世界を旅しているんだ」

 言います。

 貨物自動車は驚いた声で、

「エルメス君は世界を旅しているのかい?」

「うん。旅をしているよ。キノと一緒にね」

 エルメスは答えます。

「旅をしているのは、どこかに行くのかい? それとも何かを探しているのかい?」

「うーん、別にどこかに行くってわけでも、なにかを探しているってわけでもないんだけど、ある日、キノが旅をしたいから、旅をしようって事になって、それでいっしょに旅をしているんだよ」

 エルメスは後を続けるように、

「キノが旅をしているおかげでいつも走ってもらっているから、こっちはそれでいいんだけどね」

 と、言い、

「あと、そうだね、キノは、ハンド・パースエイダーを撃つのがとても上手いんだ」

 思い出したようにまた、

「早撃ちってやつだよ。今まで負けた事がないんだよ。あ、でも、キノの師匠には一度も勝てた事がなかったっけ。でも、強いんだ。色々な事が出来るし、旅で困ったことは一度もないけど、料理は恐ろしいほどの腕前で、それが唯一師匠に勝てたことかな」

 止まることなく、

「だからかな、国に入れば今みたいに、すぐに美味しくて安いレストランに入っちゃうほど、キノは食いしん坊でいやしん坊で、ちょっとどこか抜けているような感じもするけど、あれでいてしっかりしているし、整備も、まあたまにはしてくれるかな。で、毎日色々話をするし、そんな当たり前のことをしてくれる人の名前かな」

 キノの事について喋り続けます。

「……うーん……まあ、何となくわかったよ」

 貨物自動車はどこか納得したかのように、

「エルメスさんとキノさんという人は、とても仲がいいんだね。そしていつも話をしているんだね」

 そう、羨むように言いました。

「まあ、それに否定しないかな」

 照れた様子を隠しながら、エルメスは言葉を返します。

「いいな……話せて」

 と、貨物自動車は呟きます。

「じゃあさ、いっぺん話してみたら?」

 エルメスが何気にそう言います。

「ものは試しで話してみたらいいじゃん。話しても何も驚かないと思うよ。普通に話ができると思うよ」

「……」

 貨物自動車が悩むように押し黙ってしまいます。

 しばらくした後に、

「……いや、やめとくよ」

 そう決めたように、

「今の、この関係が壊れてほしくないからね」

 貨物自動車は答えます。

「そう」

 と、エルメスはどこかさみしそうな声を出します。

 その後に、

「じゃあ、そろそろいかなきゃいけないな。話せて楽しかったよ。ほんとうに楽しかった」

「へえ? どういうこと」

「もうそろそろ彼がレストランから出てくる頃だからさ」

 貨物自動車がそう言うと、言葉通りにぴったりとレストランの扉が開きます。

 そして貨物自動車は喋るのを止め、そのまま黙ってしまいました。最初から何も喋っていないかのように、普通の乗り物のように黙ってしまいました。

 エルメスも同じように声を閉ざします。

 レストランの扉が閉じると同時に、年老いた一人の老人が外へと出てきます。

折りたたんでしまっていた帽子をポケットから出し、それを白髪の頭にかぶり、腰を伸ばしながら貨物自動車へと歩んでいきます。

 ゆっくりと歩きながら貨物自動車の堅い扉を重たそうに開き、重い動作でよいしょっとシートに座ります。

ふうっと、一息ついてから老人は、扉を大きな音を響かせ閉めました。

 貨物自動車が揺れますが、それを別に気にした様子もなく老人は擦り切れたシートベルトを締め、エンジンをかけます。

 プスプスと途切れの悪い音をたてながら、貨物自動車のエンジンがゆっくりと唸りながら、かかりました。

 すると老人は、

「……おまえも、ワシと一緒でもうすっかり歳だな……」

 そう笑い呟くように話しかけながら、貨物自動車を走らせます。

 貨物自動車は声を返さず、うなり声のような大きなエンジン音を響かせ、エルメスを通り過ぎながら走り去っていきます。

「じゃあね」

 エルメスが声をかけますが、貨物自動車は何も言いません。

 でも、エルメスの声に合わせてライトが数回程点灯しました。

 故障でそうなっただけかもしれませんが、それが合図のように点灯します。

 そしてそのまま貨物自動車は走り去ってしまい、遠くまでエンジン音が響いていましたが、すぐに辺りは静かになりました。

 ぽつんとまたエルメスだけになり、また昼寝でもしようかなと考えていると、

「ただいま、エルメス」

 キノがレストランの扉を開けて出てきました。

 エルメスは、

「おかえりキノ」

 と、キノに言葉を返しました。

 エルメスへと歩む中で、キノは毛皮のたれのついた帽子をかぶり、ゴーグルを下ろし、エルメスに跨ります。

「お腹いっぱいになった」

 エルメスが訊ねると、

「うん。おかげ様で。本当においしくて安かった。最高だったよ」

 キノはとても満足した笑顔で答えます。

「よかったね」

 と、エルメスが言葉を返すと、キノはエルメスのスターターを蹴り、エンジンをかけ、快調なエンジン音を響かせます。

「待っている間に何かあった」

 走りだそうとする中でキノが訊ねると、

「うーん、世間話くらいかな」

 エルメスは言葉を返します。

「? 誰と世間話をしていたのさ?」

 キノに訊ねられ、

「まあ、話せば長くなるけど……聴きたい?」

「長くなるならいいかな」

「えー聴いてよ! あのね──」 

 

 そんないつもの会話をしながら、キノとエルメスはレストランを後にしました。

 

 待っている間に end

 




 いかがでしたか?
 エルメスが主人公で書いてみましたが、うまく書けたか不安です。
 エルメスが自分の事を「ボク」と言うか、「こっち」がいいのか悩みましたが、「ボク」の方がしっくりくるのでこっちを採用しました。
 エルメスの気持ちをうまく表現できているか、今回の作成にあたって注意しました。
 楽しんでいただけなら幸いです。
 最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
 ご意見、ご感想随時募集中です。
 なにとぞにお願いいたします。
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