ワーク田村   作:Monster ohige

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第6話

一台のトラクタ(トレーラーヘッド)がトランスポーター仕様のトレーラーを牽引し、山道を駆けている。

トラクタはスウェーデンのスカニア製、R730だ。

16リッターV型8気筒ターヴォチャージドディーゼルエンジンは名の通り最大出力730馬力、最大トルクは356kg/mを発生させる。

その強大なエンジンは14速のトランスミッションと組み合わされ、坂道であろうと重量のある車体と牽引するトレーラーをグイグイ引っ張る。

「TAM(タム)そろそろ着くぞ」

スカニアR730を運転する浅田自動車の社長はスリーパーキャブならではの大きな寝台で仮眠していた田村を愛称で呼び、起こす。

「あぁ、すまんね」

フロントガラス越しに美作国際サーキットまであと数キロだという看板が見えた。

ナビ・シートでウトウトしていた浅田の息子も顔を上げる。

今日は練習走行だ。

時刻は6時、ゲートオープン直後に着くのを狙って出発したが今回も思惑通りに到着しそうだ。

田村は車内備え付けの小型冷蔵庫から米国産のエナジー・ドリンクのモンスター・エネルギーを取り出し、カラフルなプルタブを一気に引き起こす。

薬事法により内容がスポイルされている日本国内版の物では無く、本国モノだ。

内容量500ccのそれを飲み干す頃に美作国際サーキットの入口ゲートに到着した。

ライセンスをゲートの係員に見せて入場、パドック・エリアへ向かう。

既に数台のトランスポーターがマシンやタイヤ等の荷下ろしをしていた。

田村もトラクタのキャブから降り、準備をはじめる。

浅田自動車のトランスポーターのリアゲートは垂直リフトになっているのでマシンや荷物、工具等の荷下ろしが楽だ。

暖気前のフルチューンドエンジンと強化クラッチでの低速移動はかなりギクシャクするので3人で田村のマシン、AE86レースマシンを押してピットに入れる。

4セットのセミスリックタイヤ、雨の天気予報ではなかったが念のために持って来た1セットのレインタイヤがキャスター付きのタイヤラックに乗せられピットの壁際に鎮座する。

浅田親子が田村のマシンを3基のジャッキでジャッキ・アップする。

マシンの下に潜り込む訳では無いのでリジットラックは使わない。

軽く足周りをチェックした後、タイヤを外し冷間空気圧をチェック、タイヤ・ウォーマーを巻く。

その後エンジンを始動、トランスミッションも各ギアに入れ、ジャッキ・アップした状態で暖気する。

その間に田村は広いサーキット内を移動するパドック・カーとして持ってきたホンダのミニバイク、エイプ100に跨がり、事務局へと向かう。

これも浅田の親父の作でエンジンは125ccボアアップキット、幾ら高回転まで回してもバルブ・サージングが起こらない強制バルブ開閉式機構のデスモドロミックツインカム4バルブヘッド、インジェクション化+フルマネジメントシステムで武装、ワイドなレシオのミッションはクロス化、前後社外サス、対向ポッドキャリパー等で無駄にフルカスタムされている。

事務局で予約していた走行券を購入、自ピットへとエイプで戻る。

「パドック内移動用にしてはオーヴァースペックだ」と思いながらキルスウィッチでエンジンストップ、邪魔にならない所に停める。

田村のマシンのシートには浅田の息子がノートPCを抱えて座っている。

PCとECUを接続、エンジンの状況を確認しながら暖気している。

エンジン冷却水温、油温、トランスミッションとデファレンシャルの油温を理想値目指し温める。

流石に無負荷のミッション、デフの温まりは悪い。

アウトラップで仕上げるしかない。

暖気の様子を眺めた後、田村はスカニアのキャブに入る。

レーシングスーツに着替えるのだ。

スリーパーキャブの中でもハイエンドのトップラインキャブの為、窮屈な思いをする事無く着替えれる。

有名メーカーのフラッグシップモデルで身を固めた田村は再びピットに戻り、マシンの後ろに立つ。

浅田の息子が小気味良くエンジンをブリッピングさせている。

その乾いたサウンドを肌で感じ、田村は体中の血が沸く様な感覚に陥る。

至福の瞬間だ。

出撃前の戦闘機の如く、リアウイングの可変フラップの動作チェックも行われる。

暖気が完了、一旦エンジンはストップ。

浅田親子がタイヤ・ウォーマーが巻かれたままのタイヤをマシンに装着する。

今回田村はサスペンションの不等ピッチコイルスプリングを変更した。

スプリングレートこそ大きく変わらないものの、ピッチが異なる。

中速域以下での初期ストロークが柔らかく、ダウンフォースが効く高速域では粘りのあるセッティングになっているはずだ。

走行枠開始10分前。

田村はヘルメットと、セットになっている頭部保護システムのHANSデバイスを着ける。

マシンのフルバケット・シートに座り、6点式ハーネスで身体を固定する。

「TAMさん、エンジンかけて!」

と浅田の息子が。

メイン・スウィッチをON、セルスターターボタンを押す。

暖気できているのですんなりエンジン始動。

ナビ・シート側のドアを開け、浅田の息子がフロアに置いていたノートPCを操作し、ECUのログモードを起動、各パラメーターの記録を始める。

田村はフルカラーのディジタルマルチディスプレイを睨む。

横長の画面上半分にバー・グラフが2本並んでいる。

上側のバー・グラフがタコ・メーターだ。

スケールは3000rpmから始まり5000rpmまでは圧縮表示、6000rpmから11000rpmまでが拡大表示、レヴリミットの10000rpmからはレッドゾーンになっており、9600rpmからイエローゾーン、エンジン回転が9500rpmをオーヴァーするとディスプレイ枠に並んだLEDが外から順に点灯、9800rpmで全LEDと中央の大型LEDがフラッシュ、レヴリミットが間近なのをアッピールする。

下側のバー・グラフは油圧計だ。

画面下半分はエンジン水温、油温、ミッション・デフ油温、バーで表示されない3000rpm以下の回転を把握する為の数値で回転数の表示がされる。

走行枠開始2分前。

タイヤからタイヤ・ウォーマーが外され、ジャッキダウン。

浅田のオヤジがピットロードに誘導、同時に「ゼッケン86の分だ」と言いスタッフに走行券を渡す。

やはりレース前だ、平日ながらレースで同クラスのライヴァルのマシンも数台練習に来ていてピットロードに並んでいる。

ピットロード出口に居るコース・マーシャルがstopボードの掲示を辞め、シグナルがグリーンになった。

先頭に並んでいたライヴァルのマシンが勢い良く飛び出していく。 

田村も4000rpmでクラッチをミート、飛び出す。

せっかくタイヤ・ウォーマーでタイヤを暖めているのだ、ダラダラとアウトラップを走る訳にいかない。

美作国際サーキットコースは600mのメインストレートと700mのバックストレートをバリエーションに富んだ13のコーナーで繋ぐテクニカルサーキットだ。

そこそこの長さのストレートとテクニカルなコーナーが混在し、マシン、ドライバー共にポテンシャルが求められるコースだ。

田村の実力的に8割のペースでアウトラップを回り、計測1周目。

最終コーナーを立ち上がり、ホームストレート。

 

田村はアクセスペダルを底まで踏み抜いた。

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