416は嫉妬深い   作:まっUk

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難産すぎて南山(M6A1-K)でした



第10話

「このリストは?」

 

ある日私…ペルシカリアは一枚のペーパーにふと目を落とした。

軍の協力者が持ち込んだ紙切れには幾名かの名前や経歴が纏まっている。

 

「あぁ、例の事件の生き残りよ。あの事件、グリフィン以外のPMCは悉く壊滅したけど、その中にも生き残りはいるわ。特にこの人は凄いわよ、撤退時に確認がとれるだけでこんな数の人形を破壊している。」

 

協力者はリストのとある人物を指差した。

協力者…というと少し語弊があるかもしれない。

まぁ、協力してくれてるし協力者でいいだろう。

改めて彼女が指差す人物を見る。

ふむ、正規軍出身で現在は名前も聞いた事の無いような小さなPMCに所属。

…へぇ、最後の一年だけだけど例の大戦にも従軍記録があるようだ。

 

「気になった?」

 

協力者は私の目がその人物で止まったのを見逃さなかった。

 

「まぁ…でも彼はなんでこんな小さなPMCに?経歴と不釣り合いじゃ?」

 

私は協力者にもっともな疑問を投げ掛けた。

彼の在籍するPMCの規模があまりにも小さいからだ。

大戦以来、国家間の大規模な戦争は今のところ発生していない。

薄氷上の如き危うさだが、ここ10年は何とか平和だ。

だからこそ従軍経験者は大手PMCから引く手数多。

やはり戦争経験者は質が違うしどこの組織も皆、第四次世界大戦に備えている。

 

「貴女は知らないかも知れないけど、そのPMC、業界じゃ有名なの。なんでもするってね。金さえ積めば善悪、機会、相手、主義主張…どんな事も問わずに、どんな戦争でも引き受ける。銃剣一本で正規軍とやれって言っても奴等は笑うと思う…詰まるところそこにいる彼は異常者なのよ。そういうアンダーグラウンドで危険な場所でしか輝けない…ね。」

 

「へぇ…」

 

所謂、戦争狂の集まりらしい。

それならば会社規模が小さくても納得がいく。

小さい下請けPMCの方がそういう鉄火場は多い。

誘蛾灯に引き寄せられる羽虫の類いと同じ様に狂人は熱の籠る場所に集まるのだ。

まぁ、そんな狂った奴等がわんさか集まり大所帯になられても迷惑な話だが…。

コーヒーを啜りながら、改めてそこに映る男性を見た。

胸から上が写し出された写真。

そこに映る彼は一見した所は好青年。

人は見かけに依らないとは言うけれど、とてもそんな人間には見えなかった。

 

「決めた、彼にする」

 

研究者の直感だろうか?

何かある。

そう思った。

 

「気に入った?」

 

「ええ、腕が立ってヤバイ人位が今回のベンチマークには調度いいもの」

 

「うーん少し残念だなぁ、彼にはもう少し長生きして欲しかったのに…」

 

協力者はほんの少しだけ顔を残念そうに歪ませた。

珍しく本当に残念そうな顔をしたので私は内心驚く。

もしかして知り合いだったのだろうか?

それも仲の良い。

でも、自分で持ってきた癖にそんな顔されてもこちらが困る。

 

「楽しみね…ところで貴女もコーヒーいる?」

 

「えぇ、お砂糖とミルクをたっぷりお願い」

 

これは今から一年と数ヵ月前の事…。

 

直後、私の期待は裏切られた。

彼はベンチマークにしては長過ぎる物差しだったのだ。

 

───

 

彼、指揮官の事を好きになったのはいつ頃からだったのか思い返す。

彼の事を想う度、私の電脳は幸せに包まれる。

少なくとも私がAR小隊の末席として着任した時は彼に抱くこの感情は無かった。

いつの間にか恋に落ちた。

この表現が適切だろう。

私は他のAR小隊の人形と違って目立った実力はない。

M4との経験の差を考えれば指揮能力は未熟だし、M16に比べれば腕っぷしに自信は無い。

かといってAR15みたいに戦果に貪欲かと言われればそんな向上心も持ち合わせてはいなかった。

一見、幼く見えるSOPMODだって二人で仕事をする事が多かったから知ってるがその戦闘センスは特筆すべき物がある。

そんな彼女達に比べれば戦歴も浅く、指揮能力が決して高い訳ではない私は常に引け目を感じていた。

私の方が新しいのにいつも戦果を上げるのは彼女達ばかりなのだ…。

電子戦に特化していても戦闘に役立たなければ意味はない…。

だからその事を指揮官に相談した。

やっぱり私が彼の事を意識し始めたのはこの時からだろう。

指揮官は親身になって私の指揮の至らない所や戦闘…取り分け市街地戦での立ち回りを教えてくれたのだ。

彼の教えは凄い。

教本に忠実だが、その考えや動きの中には常に現場の視点が入っていた。

例えば教科書的にはセオリーとされる動きでも現実的には不可能な物は省き、逆に新しい工程を挟むべきといった教えだ。

銃の裁き方などは彼の動きをモーションキャプチャーしデフォルト化した程である。

何故ここまで精通しているのか?

聞けば元兵士だという。

納得だった。

こういった事が私の彼に対する心が産まれた要因の一つである事は間違いない。

だが、なにより、彼の私達人形に対する接し方。

それが一番の原因だろう。

指揮官は人形の事を道具としてではなく、ちゃんとした人間として見てくれるのだ。

人間にとって人形は道具だ。

人によっては只の武器、下手すると代えの効く消耗品であると考える。

別にその事に異議を唱えるつもりはない。

それが私達の存在理由なのだから。

でも指揮官は私達を人間として…あまつさえ少女として扱ってくれる。

道具の分際でこんな事を言うのもおこがましいがやっぱり嬉しい。

そんな彼に良い感情を抱くのは必然の事ではないだろうか?

彼から称賛の声を受ける度、彼の愛情を感じる度、私の電脳は何とも言えない感覚に陥った。

そしてある時、解ったのだ。

…この感情こそ、これが、これが恋心なのだと!

だから、彼が他の人形にも同じ目線を送る事には心が傷んだ。

彼の優しさは区別なく他の人形にも注がれていた。

他の人形も同様に労い、優しい言葉をかけて親身になる。

 

人形ではなく人間として

武器としてではなく仲間として

消耗品ではなく少女として

 

そうやって他の人形にも接するのだ。

 

あぁ、彼の愛情が私だけの物になればいいのに…

 

いつからか抱いていたこの想いは、自分でも解る程醜い物。

でも、そう願わずにはいられない。

そんな折、ペルシカさんと上からこの命令を受けたのは渡りに船だった。

 

「M4と404小隊の人形以外から指揮官くんの記憶を改竄して」

 

命令された時、多分私は笑っていた。

今は気分が良い、あのスプリングフィールドやM16などの指揮官と仲の良かった面子は勿論、殆どの人間が指揮官の事を忘れている。

もし、指揮官が今、戻って来ても彼を受け入れてあげる事ができるのは私だけなのだ。

だって皆あの人の事を忘れているから…。

本当の指揮官を覚えている人形はもう片手で数える程。

そして、ゆくゆくは私だけの指揮官に…。

 

「感傷に浸っている所悪いけど、そう、上手くはいかないと思うわよ?」

 

「はい?」

 

背後からかけられた一言にクルリと振り替える。

 

「あぁ、アナタでしたか…」

 

そこに居たのは指揮官の後釜としてやってきた軍からの協力者。

私の力と協力者の協力でこの基地の人形は皆、この協力者の事を指揮官として誤認している。

AA12の影からの熱い視線も、スプリングフィールドの注ぐコーヒーも、SOPMODのじゃれつきも指揮官の代わりにこの協力者が引き受けていた。

協力者のお陰ですんなりと電脳工作は上手くいっている。

だが今の物言いはなんだろう?

 

「それはどういう意味でしょうか?」

 

「うーん、そのままの意味?」

 

人を食った様な協力者はオウム返しの様にそう言った。

目を鋭くする私とは対照的に協力者はのほほんと顔を緩める。

得体の知れない。

それが協力者に感じる率直な感想だ。

その瞳には何がみえているのだろう?

私と指揮官が結ばれない。

放ったその言葉も気に喰わなかったが

それ以上に…

 

(どうして私の考えが解ったの…?)

 

その事実に驚いた。

私は電子戦に特化している。

だから、軍用戦術人形でも私の電脳をハックする事は難しい。

なのに、目の前の人物は何故?

 

私の思考が解ったのだろう?

 

「まぁ、考えても無駄かも?詰まる所、貴女はもう用済みなのよ…ROさん?彼の独占は諦めましょう、ね?夢は夢で終わらせて?」

 

再度、人の思考を読み取った様にそう嘯く。

 

「不愉快ですね。私はペルシカさんから約束を取り付けましたよ?指揮官は私のです…」

 

私は力強くそう宣言した。

宣戦布告と言ってもいいかもしれない。

そうだ、やっとここまで来たのだ。

AR小隊の仲間を裏切ってまで成し遂げた。

もう後には引けない。

指揮官は誰にも渡さない…!

…!

……

………

…………?

…?あれ?

えっと…

 

まって…指揮官?

 

 

 

…指揮官って誰でしたっけ?

 

──

 

「なんだぁ45も結局やったのね…」

 

あれから何時間。

この薄暗い地下室に戻ってきた416は開口一番そう言って45の物となった俺の目を睨んだ。

 

「うん。別にいいでしょ?416もやったんだから。私も左目、大事にするね」

 

今朝と違って45は怯む事はない。

成し遂げた。

そんな顔で416に対面する。

大胆不敵な表情で、すっかりいつもの調子を取り戻している。

 

「まぁいいわ…確かに私も好きにやったから文句は言わない」

 

416は一瞬、苦虫を噛み潰した様な顔になったが、こちらもすぐにいつもの冷静な感じへと戻った。

二人とも表層上は争う気はないらしい。

 

「指揮官、もっと不自由になっちゃったね?でもちゃんとお世話するからね?あっ本当に45姉の眼なんだ」

 

そんな二人の事など見えないかの様にナインは俺の横たわるベッドへ腰をかけ、キャキャッと騒ぎながら俺の顔を突っついてくる。

そして、ナインは突っつきながらその細い指を俺の右眼の方へと近づけた。

冷たい指の感触が肌を伝う。

 

「…っ!」

 

眼の近くに細い指。

先程の事がフラッシュバックし体が無意識にブルリと震えた。

まさか、ナインも…?

 

「ちょっと!安心して下さい指揮官。私は45姉と違っておめめを取ったりしません。だってそしたら何にも見えなくなっちゃう…」

 

「ほっほんとうに?」

 

「うん、本当。だから、45姉の事は許して上げてね?45姉ちょっと416に当てられちゃっただけだから。その内すっごく後悔すると思う」

 

「で、でも…」

 

「うーん、おめめ取っちゃおうかな?」

 

「わっ解った」

 

「よしよし良い子良い子」

 

ナインは震える体を安心させる様に俺の頭を撫でる。

この状況、笑えない。

眼を奪い去った人形の妹分に頭を撫でられ安堵している自分がいる。

心身供にすり減った今の俺は例え悪魔であっても安心感を感じてしまうのかもしれない。

ナインに頭を撫でられる度、充足感が大きくなっていった。

 

(…なんか眠いな)

 

急に瞼が重くなった。

とってもとっても眠かった。

 

「あれ?指揮官…眠いんですか?良いですよ…」

 

ナインは赤子を寝かし付ける母親の様に俺の頭を撫で続ける。

なんだか心地が良い。

直後、俺の意識は闇へと落ちる。

 

だから俺は45と相対する416が俺の事を睨んでいるのに最後まで気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




全国のRO635指揮官、申し訳ございません
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