416は嫉妬深い   作:まっUk

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第5話

「大分お部屋みたいになってきたわね」

「…」

 

薄暗い地下室に並べられた家具家電を眺めながら45はそう言う。

俺がナインを殺す事に失敗した後、404小隊はどこからか家具の類いを次々に運び込み、この地下室の模様替えをし始めた。

今ではベッドに俺の座っているソファ、食料の入った冷蔵庫、壊れて何も映らないが賑やかしにテレビなんかも置いてある。

あれから何日たったのかは解らない。

相当な日数が経過しているのかもしれないし、実はまだ三日とかそんなものなのかもしれない。

だが、一つ解っている事はどう足掻いても脱出は不可能だと言う事だった。

今では拘束が解かれ、杖をつきながら地下室の中を自由に歩き回る事を許されてはいるが、常に誰かの監視の目がある。

さらに、これは嘘かもしれないが416に教えられたこの廃墟の大まかな位置、それはなんと人間の生活圏外。

迂闊に脱出などしたら半日もせずに命を落とす事間違いなしだ。

こんな体じゃあ鉄血人形に見つかれば成す術もなく殺される。

奴等は基本、捕虜を取らないからな。

これは彼女達の作戦なんだろう。

自分達に生活を依存させて、逃げ場をなくしこの現状を俺に受け入れさせようとしている。

俺が自発的にナインの言う所の家族に参加するのを待っている。

そして、その作戦は成功する。

現に俺は今、諦念の境地にいた。

 

「指揮官、あとは他に何が欲しい?指揮官が欲しい物なら何でもとってくるよ?」

「…」

 

今度は俺の隣に座っているナインが口を開く。

 

(お前達をぶっ壊す武器が欲しいよ)

 

そう心の中で思うが、俺は何も答えない。

俺は逃亡をする事が不可能と解った時点からせめてもの抵抗に彼女達の投げ掛ける言葉に反応しない事にしている。

この歪んだ人形供が欲しているのは俺の反応だ。

俺に何かをやってそのリアクションが欲しいのだ。

コイツらが良くできた人形だとは言っても所詮は配線とプログラムの塊で、その根本は0と1。

プログラムの通りに動作を実行し成果を得る。

それが彼女達の行動原理である。

そんな機械に感情なんてものを与えてしまったのだから、こうやって人間の真似事をしたがる。

自分達にはない肉の繋がりを求めて努めて人間らしく振る舞い、憧れの人間の注意を引こうとする。

俺との関係を兵士と機械の関係ではなく親や子、彼氏や彼女、教師や生徒の様なそんな関係に発展させたいのだ。

だから、俺はそんな彼女達の期待を裏切る為、まるで植物人間にでもなった様に動かない。

言葉にも反応しないし、目も合わせない。

彼女達がどんなに俺の気を引こうとしても、目を瞑ってそれを無視する。

こうやっていれば、もしかしたら彼女達のプログラムが何の反応も示さない俺から興味を失って解放してくれるかもしれないから。

しかし、そんな抵抗も虚しく、彼女達404小隊は俺へのアクションをやめる気配は無かった。

 

「貴方、髭が伸びてるわ、剃ってあげます」

「…」

 

UMP姉妹達の次は416がそう言って俺をお姫様抱っこの要領で抱き上げた。

そして、そのまま俺を、洗面台の方へと運んでいく。

 

「えー、416、私は髭の生えてる指揮官の方が格好いいと思うけど」

「それは45の価値観でしょ?男の人は髭に不快感を覚える人もいるのよ、この人は毎日髭を剃っていたわ」

「流石、416、よく指揮官の事を見てるのね、でも私も指揮官には髭似合うと思うな」

「姉妹揃って趣味がよく似てるわね」

 

無反応の俺を他所に416と45、ナインは会話を続けて俺を洗面台の前の椅子に座らせた。

なんだろう、まるで女の子達が着せ替え人形でオママゴトをしているみたいだ。

人間が人形に人形として扱われているのは少々、皮肉が効いている。

 

「貴方、動かないで下さいね」

 

背後に回った416は俺を椅子に座らせると手袋を外し、石鹸置きから白い石鹸を手に取る。

クシュクシュと音をたてながら擦られた石鹸はすぐに泡を産み出した。

石鹸が充分泡立つと彼女は泡を顔全体に広げる。

肌が泡の柔らかな感触に覆われた。

 

「ふーふーふーん♪」

 

416は鼻歌を発しながら剃刀を取り出し、その刃を俺の肌へと這わせ始めた。

彼女の白い手首が手際よく剃刀を動かす。

刃が動く度にジョリジョリとした感覚がスライドし、髭が剃られていくのが解った。

正直、ありがたい。

髭を伸ばすのは嫌いだ。

 

「貴方って結構毛深いんですね」

 

416は剃刀を動かしながら独り言の様に言葉を発した。

 

「貴方が何も反応しないのって、私達をガッカリさせる為?」

「…」

 

唐突に口を開く416

その言葉に内心、心がグキリとする。

だが、初志貫徹。

無視を決め込む。

ここで反応すればこの人形の思う坪だ。

 

「それならそれでもいいんだけど、そんな事をしても意味ないですよ?」

「…」

「45も9も私も、寝てばっかりいるG11も皆、貴方の事が好き」

「…」

「それにこんな事、自分で言うのもなんだけれど、別に貴方の反応の有無なんて大した差ではないわ、確かに貴方と話せないのは少し悲しい、けど、こうやって貴方のお世話をして、貴方を独占できる…それだけで満足です。例え貴方が嫌がっていても」

「…」

「自己満足」

「…」

 

剃刀の刃が顎の下の方へと動いた。

俺は毛深い、放って置けば顎の裏側まで髭が生えてしまう。

416は言葉を続ける。

 

「自己満足って事は理解していますよ、でも私達人形は人間と違って、成果が得られなくても行動をする事自体に満足する…」

「…」

「考えてもみて、掃除機に意識があったとして部屋が綺麗にな状態に満足しますか?」

「…」

「しないと思いませんか?だって掃除機ってゴミを吸いとる様にできているんだもの…きっと部屋が綺麗になるって結果よりもゴミを吸い込むっていう行動に満足すると思うわ」

「…」

「それと同じ、私は貴方とこうしているだけで満足」

「…」

「だけどね、」

「…!」

 

剃刀の刃が更に下へと動いた。

顎の更に下、首の動脈の辺りに…。

体は自身の意識とは無関係に条件反射で首筋をピクリと震わせる。

 

(そこに髭は生えてない…!)

 

「ふふっ反応した」

 

鏡の中の416と目があう。

緑の瞳は嬉しそうに輝いていた爛々と

 

「バグかもしれないのだけれど最近、貴方のそんな態度に少し、イライラするの…」

「…」

「だから、反応してくれると嬉しいです、きっと今の私なら例え痛みに震える物でも貴方の反応だったら満足してしまうから…ね?」

 

刃が未だに俺の動脈へとあてがわれる中、俺は必死でコクコクと頭を上下させた。

それと同時に剃刀が動脈から離される。

そして、仕上げと言わんばかりに彼女はタオルで俺の顔の下半分を綺麗に拭ってくれた。

 

「ほら綺麗、やっぱり私は完璧ね」

 

そう言って微笑む416。

 

「貴方、お礼は?」

「へ?」

「だから、お・れ・い」

「あ、ありがとう」

「どういたしまして、ふふっ」

 

鏡に写る俺の顔は髭が綺麗に剃られてスッキリとした顔になっている。

まぁ、それ以上に顔面が色白の416と同じ位、恐怖で真っ白になっていたのだが…。

 

───

 

「あれ45姉、何してるの?」

「うーん、ちょっとね…」

 

416が指揮官の首に剃刀を這わせているのと同じ頃。

指揮官が運ばれた事で空いたソファのスペースに腰を降ろした45を見て、ナインは彼女に問いかけた。

45は持っていた端末を操作しながら、眉を歪めて画面に写っている文書を読んでいる。

 

「これ、指揮官の?」

「ええ、そうよ、ちょっと気になる事があってね」

 

ナインの問いかけに45は首肯する。

彼女の持つ端末に表示されているのは指揮官のパーソナルデータであった。

そこには彼の出生、経歴、趣味嗜好に至るまで詳細に記載されている。

それほどまでにグリフィンの採用は徹底的な調査を必要とするのだ。

 

「そんなの調べてどうしたの?」

 

「ナイン、これ見てくれる?」

 

「ん?これって…」

 

無邪気な顔で首を傾げるナインの網膜にモニターの光が映り込んだ。

 

「そう、指揮官のグリフィンに入る前の経歴よ」

 

45はナインが答えを言う前に口を開く。

 

「私も今更知ったけど、指揮官、グリフィンに入る前、ちょっとヤンチャしてたみたいね…」

 

指揮官の経歴には彼のグリフィン前の所属組織名とそれに関する留意点がいくつか書いてあったが、その経歴はお世辞にも綺麗と言える物ではない。

最初の欄こそ正規軍やPMCといったまともな職場だが、欄の下に行けば行くほど潔白とは言えない…そんな職場になっていく。

それこそ最後の欄は、今の404小隊の様に金さえ積めば善悪、相手、生死を問わずどんな仕事も請け負うとその業界では有名な組織だ。

 

「あっホントだぁ…」

 

「こんな経歴、正直に書く指揮官も指揮官だけど…変じゃない?グリフィンがこんな前科者、普通雇うかしら?」

 

「確かに…でも、45姉ぇ?これの何が気になるの?」

 

「上が指揮官を殺したがる本当の理由よ」

 

「え?」

 

「考えてもみて、いくら私達がアンダーな仕事をしてるからっていってそれだけで上が指揮官を殺すと思う?」

 

話を聞き入るナインの顔が真剣な物へと変貌した。

 

「上は嘘をついてるって事?」

 

「ここからは私の推測だけど、指揮官は前の仕事で何らかの形で上と関わる事案を請け負ったんじゃないかしら?その下請けの下請けで本人は自覚していないレベルかもしれないけど…そして何か秘密を知ってしまって、その後、それに無自覚な指揮官が上の息のかかったグリフィンに入社希望してきたとしたら…?」

 

「まさか、その事が原因で指揮官を?そうだとしたら、もしかして、まだ…!」

 

「あくまで可能性の一つよ、上から了承を得ているけど備えていた方がいいかもしれない…」

 

UMP姉妹は自身の安全については人一倍敏感だ。

自然と鋭くなる二人の眼孔。

 

「大丈夫よ、私が居るもの」

 

「416…!?」

 

いつの間にかソファに座る二人のすぐ側に416が立っていた。

その二本の細い腕には指揮官を抱き抱えている。

会話に集中するあまり、416の接近に気がつかなかったらしい。

 

「45だってアイツらの事なんて端から信用していないでしょ?だからこうしてアイツらの目を欺いているんじゃない…もし来ても返り討ちよ」

 

「で、でも…」

 

「そんな事よりほら、この人の態度、元通りにしてきたわよ、やっぱりマネキン状態じゃつまらないもの…ね、貴方?」

 

「えっ…あぁ…」

 

「ふふっ」

 

416は久方振りに声を発した指揮官を二人に見せつける様にすると、そのまま指揮官をベッドの上に優しく置いた。

 

「それってまるで介護みたいだね」

 

呆気にとられる45の横でナインはぼそっとそう呟いた。

 

──

 

暗号音声…人間には不明瞭な音域による会話をするUMP姉妹に416が何かを言った後、俺はベッドの上に寝かされた。

ナインが用意してくれた柔らかく、やけに大きな居心地の良いベッドはゆったりとした感触を背中に与えてくれる。

三人の会話内容は何一つと理解できなかったが、表情や仕草から穏やかな物ではない事は察っせた。

 

「はぁ…」

 

自然と口からでる溜め息。

どうしてこんな事になったのだろうか?

清廉潔白な道を歩んでいたとは胸を張っては言えないが、その罰がこれだとしたらあんまりだ…。

人間、心が暗くなると寝返りを打ちたくなるもの。

俺はゴロンと三人に背を向ける様に寝返りを打った。

 

「イテッ」

 

寝返りを打った拍子に何かに手が当たった。

何だ!?

手を打ち付けた箇所を見ると、薄暗くて良く解らなかったが

その部分の毛布だけ妙にもっこり膨らんでおり、なんだかもぞもぞ蠢き始めた。

 

「んぅ…?」

 

何事かと毛布を剥がすとそこには微睡むG11。

さっきから姿が見えなかったが、成る程ベッドに潜んでいたか…。

試しにほっぺをつついてみる。

 

ムニィ…

 

「んんぅ…指揮官…?…フゥ…」

 

ほっぺをつつかれて、一瞬彼女は目を覚ました。

が、すぐに睡眠の世界へと沈んで行く。

 

「クゥ…スーッ、クゥ…スーッ…」

 

静かに寝息をたてるG11を見て、なんだかちょっとほっこりした。

 

 

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