416は嫉妬深い   作:まっUk

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第6話

(これは夢…)

 

M4は夢を見ていた。

明晰夢という奴だろう。

夢の中で自分がこれを夢だと自覚できる物を人はそう呼ぶ。

M4は戦場で銃を手にして敵と戦っていた。

遮蔽物を利用し敵の攻撃を防ぎ、ダミーに指示を飛ばして戦場を駆ける。

相手は手強い。

こちらの動きを完全に把握し、有効打を与えられない。

リンクしているダミーもいくつか破壊されている状況だ。

その時、近くのコンクリに跳弾が跳ね返り彼女の頬を掠めた。

 

「クソッ…!」

 

人工皮膜を滴るネトリとした人造体液。

夢だと解っていても悪態をつかずにはいられない。

 

(あれ、これって…)

 

この瞬間、彼女はこの夢に妙な既視感を感じた。

何か昔に体験した戦いである様に思えたのだ。

だけどいつ、どこでかが思い出せない…。

人形にこんな事あってはならないのに…。

明晰夢の中で彼女は思考し戸惑う。

 

(いや、このシチュエーション絶対にどこかで…!)

 

「はっ…!」

 

そう思った瞬間、彼女の意識は現実世界に引き戻された。

──

 

「やっぱり、ない…」

 

M4A1は手にした端末の画面を見て独り呟く。

今、彼女が会社の共用スペースのベンチに座り込み、アクセスしていたのはグリフィンの人事情報。

特別機密情報という訳でもない、会社の人間なら誰でも閲覧できる情報だがそこに指揮官の顔と名前はなかった。

その代わり本来、指揮官の名があるべき場所にはあの指揮官モドキのパーソナルデータが表示されている。

 

(どうしよう…?)

 

指揮官のデータはどこにもない。

それこそ404…NOT FOUNDだ…。

昨日の416の顔が脳裏にチラつく。

これよりさらに上部の…グリフィンのデータにアクセスする事もできる。

だが、そんな事をしてしまえばサーバーか何かの管理者から不自然に思われてしまう。

M4以外のクルー全てが記憶を操作されているこの現状。

間違いないなく会社が意図した工作だ。

もしそんな時に人事や総務の人間しか確認しないようなデータにアクセスでもしたらM4は絶対に目をつけられる。

指揮官の記憶が残っていますよと自ら言っている様な物だ。

今でこそ奇跡的に記憶が残っているがいつ消されるとも解らない儚い記憶。

これが、唯一の彼女と指揮官を繋ぐ物だ。

慎重に成らざるえない…ただでさえ、彼女の記憶はバックアップできないのだから

 

「はぁ…」

 

喉から漏れる可愛らしい溜め息。

指揮官の事を考えるだけでも頭がいっぱいになるしそれと同じ位に今朝の夢が気になった。

あの夢の舞台…廃墟の中で、自分は一人…厳密に言えばダミーがいるが…で何者かと対峙していた。

AR小隊不在の単独で

 

(そんな事はある筈ないのに)

 

別にあれは夢だから一人で戦場に立つ夢を見る事もあると言われればそれまでだ。

だが、どうも気になる。

起きてすぐ自身の戦闘過去ログを参照したが、勿論単独であの様に戦ったという記録は見つからなかった。

 

(だとしたら、あの夢は何?)

 

この既視感、かつて指揮官の声を初めて聞いた時と同じ様な感覚だった。

だから気になる。

今回の件と繋がっている。

そんな気がした。

 

「どうしたんですか、難しいお顔をして?」

 

「スプリングフィールドさん…おはようございます」

 

気づくとスプリングフィールドがコーヒーの入ったカップを片手にこちらを覗き込んでいた。

彼女は持っていたカップをM4の方に置くとにこりと笑う。

 

「これどうぞ、お隣いいですか?」

 

「あっはい…!」

 

ベンチ全体に脚を投げ出していたM4はあわててスペースを作り席を空けた。

 

「険しいお顔をしていたものですからつい、おせっかいでした?」

 

「いえ、そんな事は…コーヒーありがとうございます、美味しい…」

 

黒い液体を啜るM4。

スプリングフィールドはそれを微笑ましそうに見つめる。

 

「良かった、お口にあった様でブラックでよろしかったですか?」

 

「ええ、大丈夫…でも、ちょっと苦いかも…」

 

「あら、次からはミルクとお砂糖をご用意しますね。お口直しにはこんな物しかないけれど…」

 

スプリングフィールドは腕にかけていたバスケットに手を忍ばせる。

お菓子か何かが入っているらしい。

 

「はい、どうぞ」

 

「シナモン…ロール…」

 

「あら、シナモンロールお嫌いですか?」

 

彼女がバスケットから取り出したのは戦場メシとしてよく見かけるありきたりなシナモンロール。

M4はシナモンロールの事を好きでも苦手でもなかったが何故かあまり気が乗らない。

だが人の行為はありがたく受ける物。

M4はスプリングフィールドからシナモンロール受け取った。

 

「そんな、是非頂きます」

 

「良かった」

 

M4はシナモンロールを口に頬張った。

口の中に広がる小麦の甘味。

思えば彼女はまだ朝食をとっていない。

だからだろう、いつもより美味しく感じる。

M4はあまりにもいっぺんに頬張る物だから、彼女の口周りには砂糖がペタペタと付着した。

 

「ふふっ、ほっぺにお砂糖がくっついちゃいますよ」

 

スプリングフィールドはそう言って、口周りの白い粉を指で優しくなぞる。

まるで娘を見ている母親の様に。

 

「あぁ、すみません…」

 

M4は恥ずかしそうに噛みついていた小麦の甘味から口を離す。

口の端から端まで粉砂糖で真っ白だ。

 

「良いんですよ、少し心配だったんです…思い詰めている様でしたから何か悩み事でも?」

 

「実は──」

 

───

 

「うーげっ…」

 

朝、目が覚める。

寝起きの顔面に地下室の裸電球の光がふり注ぐ。

といっても、朝かどうかはこの地下室では解らないのだが、俺が起きればそれが朝だとしよう。

それにしても…やはり慣れない。

この寝起き…。

それもそうだ。

起きた瞬間、とてつもなく蒸し暑いのだ。

理由は明白。

俺を含めた住人全員が一つのベッドで寝ているからである。

意気揚々とキングサイズのベッドを地下室に持ってきたナイン曰く、家族は一緒に眠る物だという事だそうで、その宣言以来こんな感じだ。

毎度、416が腕と脚を絡ませてくるから寝苦しいし、五人の体温で寝覚めは最悪。

それに+αで45、ナイン、11がどこかしらにくっついているんだから鬱陶しさを通り越して殺意すら感じる。

いくらキングサイズとはいえ密集しすぎてギチギチだ。

それでも彼女達が睡眠をグッスリとれるのは戦術人形だからであろう。

…こんな事になる前は人形と言えども女性と同袋するなんて、夢のまた夢だったが人間どうなるか解らない。

まぁ以前でもカリーナなら金払えばやってくれそうではあるが…。

あと9A91とか?やってくれそう。

あっ、そういえば前に泥酔したM16と何故か朝、一緒のベッドで寝ていた事ある事にはあった。

まぁアレはノーカウントで。

と楽しい基地時代の仲間を思い出して現実逃避をしているとふいに横から視線を感じた。

ゆっくりと首を傾ける。

 

416と目があった。

 

俺が起きるずっと前から目覚めていたらしい。

 

「おはよう…」

 

「おはようございます貴方、今、404じゃない女性の事考えてましたよね?」

 

…なんなん、コイツ?

 

「まぁ、少し」

 

「基地の人形達の事、気になりますか?」

 

「気にならない訳ないだろ、俺が急にいなくなって迷惑かけてるに決まってる」

 

「ふふっ、そんな事にはなってないと思いますよ?」

 

「なに?」

 

「その内、話します。じゃあ朝ごはんの準備、してきますね」

 

そう言うと416は俺に絡めていた肢体をほどき、ベッドからスルリと飛び出した。

 

「指揮官、おはよう」

 

「45…」

 

416が動いたからだろう。

今度は45が目をさます。

 

「朝っぱらから悪いけどちょっと話があるの」

 

45はそう言うと毛布の中でモゾモゾと体をくねらせ、体を重ねる様に俺のすぐ隣に移動してきた。

お互いの息遣いが感じられる真隣まで…。

 

「話ってなんだ?」

 

肌着だけの45から目を剃らしつつ応答した。

 

「聞きたい事があるんだけど指揮官ってグリフィンの前はどこにいたの?」

 

「何だよ急に」

 

「いいから、大事な事なの、できれば詳しく…」

 

彼女の目は一段と真剣な物になる。

 

「前は弱小PMCにいたよ、色んな所の下請けだ。軍やら大手PMCのな…それこそグリフィンもお得意様だった」

 

「そこで何してたの?今みたいに指揮官?」

 

「いや、前の会社は人形を揃えられる金も無いんで兵士をやってたよ、それこそガスマスク付けて前線で撃ち合ってた…」

 

「そう…じゃあ、そこで何か妙な仕事とか受けなかった?」

 

「妙な?弱小PMCに流れてくる仕事は全部妙だ。変な仕事ばかりだ」

 

「そうじゃなくて…なんか、こうヤバめの仕事とか…」

 

「だいたいヤバめだ。声を大にして言えないが、依頼で正規軍の連中と撃ち合った事もある」

 

「はぁ…?そんな事やっててよくグリフィンに入れたわね…ん?そもそもどうやってグリフィンに入ったの?」

 

「グリフィンがお得意様って言っただろ?その担当者が今度指揮官を募集するから受けてみたらとか言われたんだ。受かると思ってなかったけど、給料が良いから受けてみたら入社できたんだよそれがどうした?」

 

「…えぇ、全く参考にならなかったは、はぁ」

 

「そりゃどうも、でも何でこんな事聞くんだ?」

 

「上が指揮官を殺したがる理由探しよ」

 

「え?お前らと関わり過ぎた事が理由じゃなかったのか?」

 

「私達も最初はそれで納得してたけど、どうも裏に何かがある気がするのよ…だから指揮官…何か印象に残る様な仕事覚えてない?」

 

「そう言えば…」

 

俺は記憶の中にある以前、引き受けた仕事で特に記憶にある物をいくつか話始めた。

 

 

───

 

「あら、その作戦私達も参加した事あるわよ」

 

「えっそうなの?」

 

「えぇ、もしかしたら会ってたかもね」

 

45に俺の今までの経歴を話していると、いつの間にか会話が弾み只のお喋りになっていた。

思えば彼女とこうやって自分達の過去を語り合った事などなかったかもしれない…。

404小隊の事を詮索するとヘリアンさんに起こられたからな。

 

「ふふふっ」

 

45はふと微笑んだ。

 

「どうした?」

 

「なんだか指揮官とこうして喋ってるとピロートークみたいだなぁって」

 

「おいおい…そんな事言うなよ、おませさんだな」

 

「あら、何で?」

 

「ピロートーク…言葉の意味知ってるのか?」

 

「?…ベッドの上で男女が会話する事じゃないの?」

 

「後で意味、調べてみろ」

 

俺はそう言って45の頭を撫で上げた。

 

 

──

グリフィンの共用スペース。

そこでM4は自身の持つ悩みの内の一つをスプリングフィールドに打ち明けた。

 

「そう…自分の戦闘ログの中に無い戦いの夢を…」

 

「そうなんです」

 

一通りM4の話を聞いたスプリングフィールドは口を開く。

 

「私は夢を見ないから解らないけど、夢占いって言って人間の間では夢を分析して自分の運勢を占うっていう文化があるみたい」

 

「夢占い…?」

 

「ええ、そんなに気になる夢ならちょっと調べてみれば?」

 

「ええとぉ」

 

M4は手に持っていた端末を操作し夢占いと検索する。

すると、確かにそう言った事をまとめてあるサイトが存在した。

 

「ありがとうございます、後で見てみますね」

 

「いえいえ、そんなに思い詰めないでね私なんかでよければいつでも相談にのりますよ…ではこれで、カップは流しの方へお願いします」

 

スプリングフィールドは会話を切り上げると立ち去る為にベンチから腰を上げる。

 

「スプリングフィールドさん、待って下さい」

 

「はい?」

 

しかし、そんなスプリングフィールドの背中をM4は呼び止めた。

 

「最近、指揮官の事で何か気づいた事ありませんでしたか?」

 

「指揮官ですか?」

 

「ええ、どんな事でもいいんです」

 

「そうですねぇ~」

 

スプリングフィールドは唇に指を当て何かを思い出す様に考え始めた。

 

「そう言えばコーヒーの好みが変わりましたね」

 

「好み?」

 

「はい、前は指揮官はブラックしかお召しにならなかったんですけど二、三日程前からコーヒーにお砂糖を入れる様になったんです…でもそれが何か?」

 

「いえ、何でもありません。ありがとうございます」

 

M4はそう言うとまだカップに残っていたコーヒーをイッキに喉へ流し込んだ。

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