416は嫉妬深い 作:まっUk
「みんな朝食よ」
416のそんな声でベッドから這い出て、45に支えられながら杖をつきテーブルまで移動する。
まだ杖での移動には慣れない…誰かの補助が必要だった。
席につきテーブルを見下ろす。
配膳された皿々を見ると随分と手の込んだ料理が並べられていた。
トースト、スクランブルエッグ、どこから持ってきたのか生野菜のサラダ、そしてコーンスープ…
まだ湯気がたっていて食欲をそそられる。
この量…五人前をあの短時間で作ったのだろか?
「コーヒーはブラックで良かったですよね?」
「あぁ…」
416はそう確認すると俺のカップにコーヒーを注ぐ。
たちまち辺りに漂う芳ばしい薫り。
これも代用合成の物とはいえ上等なコーヒーだ。
「なぁ416?」
「どうしましたか?」
416はキョトンと首を傾げ問い返す。
「なんで今日に限ってこんな上等な料理を作ってくれるんだ?昨日までは缶詰やら保存食だったじゃないか?」
1日前までは兵士のお供、戦場メシと期限キレ気味の缶詰しか出されなかった。
それなのに何で今日は?
「それはインストールしたんです昨日、民間人形向けの料理のレシピとプログラムを」
「え?」
「貴方、昨夜寝る前にもっと味気のある物が食べたいって言ってましたよね?だからインストールしたんです、レシピを…お陰で処理能力は多少落ちてしまったけど貴方の為に包丁、握ったの…ほら、味見して」
416は得意気にそう言うとスプーンでスープをしゃくり上げ俺の目の前に突き出した。
「はい、あーん」
「…」
暫し逡巡し、俺は口を開いて416の握るスプーンを咥えた。
「美味い…」
416の作ったというコーンスープはグリフィンの食堂で提供されるスープよりも数段、美味しかった。
前に一度、レストランで食べた事のあるような本格的な味付けだ。
「よかった…ねぇ、貴方、私は貴方の為ならたった1日でどんな事でもできる様になるわ。人間の女性と違って私は完璧なの…だから期待していて下さいね、私、良いお嫁さんになるから」
そう言って416は先程まで俺の口に入っていたスプーンをペロリと舐めた。
──
「銃撃戦の夢は自分の今の心理状況を反映する…苦戦している様ならストレスが貯まっているサイン…か」
私…M4A1はさっきと同じ場所でスプリングフィールドさんの勧めた夢占いなる物を調べていた。
どうやら銃撃戦の夢は私が今、過度なストレスを感じていると警告してくれているらしい。
確かにストレスは感じている。
それは勿論、指揮官の安否だ。
指揮官の事を考えるだけで不安になってしまう。
そんなの当たり前。
だって彼は指揮官なのだから。
だからこの夢占いは正しい…そう考える事もできるだろう。
だが、違うのだ。
私が今朝の夢に感じる違和感は…もっとこう占いとかそういう人間的な物でなく、私に何か重大な事を思い出させようとしている。
そんな様に感じるのだ。
(思い出すなんて…まるで人間みたい…人間…そうだペルシカさんならこの事を解ってくれるかな?)
私を製造した技術者、ペルシカさん。
彼女も私が夢を見るメカニズムはよく解らないと言っていた。
だが、相談位には乗ってくれるだろう。
私はそう考えペルシカさんへの連絡を試みた。
端末を操作しペルシカさんのラボへと繋ぐ。
「もしもし、ペルシカさんですか?」
「もしもし、M4?どうしたの?珍しいじゃないM4から連絡をよこすなんて」
発信音が鳴ってしばらく、ペルシカさんの声が通信越しに聞こえてきた。
「実はちょっとご相談したい事がありまして…今、お時間大丈夫ですか」
「M4の為ならいつでもウェルカムよ、で相談って?」
「ありがとうございます。実は今朝、変な夢を見たんです」
「変な夢?」
「はい、私、夢の中で一人で敵と戦っているんです。見たことの無い場所で…でもそんな経験無い筈なのにどこかで体験したような、そんな様な夢なんです。でも、過去ログを検索してもそんな戦闘の記録なんてなくて…」
「M4はその夢の戦いをどこかで体験した…そんな気がするのね?でも記録にはない…そんな戦いを夢にみた、そういう事?」
「はい、そうです。そんな戦い、記録は残ってないのに…」
「…そう」
端末の向こうでペルシカさんは何か考えているのか喋るのを辞めた。
数分、沈黙の続いた後でペルシカさんはおもむろに会話を再開する。
「前にも言ったかもしれないけど、M4がどうして夢を見るのかは私にもよく解らないの…でも話を聞いていて少し気になる事があったわ、この事をRO635に話しておくから後で彼女を訪ねてくれる?」
「RO635に?」
「今、彼女は基地にいる?」
「いえ、後方支援で不在です。夜には帰ってくると思います」
「じゃあ、夜にでも訪ねて頂戴。彼女は知っての通り電脳戦に特化しているから、そう言った電子記録に関してはスペシャリストよ。ついでにM4のプログラム点検でもお願いしておくわ、じゃあ後は彼女によろしく」
「解りました。ありがとうございますペルシカさん」
「ええ、私もM4の声が聞けて良かった。それじゃあね」
こうしてペルシカさんとの通話は終了した。
──
「ちょっと指揮官太った~?」
地下室での朝食が終わり、しばらくボーッとした時間を過ごしていると隣に座っていたG11が突然、俺の腹周りを見てそう言った。
「ふむ?」
試しに腹に腕を回す。
腹を撫でて感じる柔らかい感触…。
確かに脂肪がついてしまっている。
ここ数日?動けなかったし、日課にしていた筋トレもやっていなかったのでそりゃ太るという物だ。
今、朝食をとったばかりだという事を差し引いても腹回りが太くなった様に感じた。
デブまでとはいかないが…だらしない。
それを追及する様に、G11は人差し指でぷにぷにと俺の腹回りをつついてくる。
「むぅ…お前らがここから出してくれればすぐ元にもどれるんだけどなぁ」
「んーそれはダメ」
皮肉気味にそう言うがG11は指で俺の腹回りをつつくのを辞めない。
「ちょっと11辞めなさい、嫌がってるでしょう」
「えーそんな事ないよ、ねっ指揮官?」
416はG11の事を嗜めるがG11はお構い無しだ。
何度も何度も腹をつつく…。
まぁ、気にしてはいない。
可愛いし。
「辞めなさいG11、それは私のよ…」
しかし、つつくのを辞めないG11に416は声の高さを一段落としてそう言った。
途端に空気が重くなる。
俺は口を閉じた。
こういう時、沈黙は金だ。
「それって指揮官の事?」
「ええ、この人は私のよあんまりベタベタ触らないで」
「それっておかしくない、皆のじゃないの?」
二人の口論に45が割って入った。
どこか416を諌める口調だ。
「45…貴女がそれを言うの?指揮官の事いらないんじゃあ、なかったの?真っ先に指揮官を殺すのに賛成したくせに…」
「私、もうその脅しは気にしないって決めたんだ。416、最近やりすぎよ」
「何よ…今更」
「それに、指揮官の左足は416のせいでしょ監禁するのにここまでする必要あったかしら?」
気まずくなったのかナインがたまらず声を上げた。
「やめようよ二人とも!ねっ45姉も!」
しかし、二人の終わりない口論は続く。
「えぇ、必要あったわ、じゃないとこの人逃げるでしょ?」
「本当にそれだけの理由?指揮官の左足から神経を摘出して自分の脚に組み込んだりして、最初からそれ目当てだったんじゃないの?」
…人の体をプラモデルみたいに言わないで欲しい。
まぁ、もう怒る気にもなれないが。
「あっ!45、貴女羨ましいのね、私がこうしてこの人と一体化してる事が…一番最初に殺すんだったらこの人の体が欲しいって言ってたのは45だものね…!」
「それは人造の生体部品よりも天然の人体パーツを使った方が伝達速度が速いからよ、他意はないわ!」
「…どうだか?貴方はどう思う?」
「ほ、本当よ!信じて指揮官!」
「…」
こっちに話を振らないで欲しい。
ていうかこれどちらの味方しても良いことないだろう。
416に同意しても、45を擁護しても録なことにはならない気がする。
というか、俺の体をそんな天然クロマグロみたいに言うな。
シバくぞ、歩けたら。
「…まぁでもそうね私、最近左足の調子が良いもの、戦闘の時もここだけは壊さない様に注意してるわ、残念だったわね45。」
何も言わない俺を見て、何故か得意気になった416は自身の左足を愛しそうに撫でる。
そして、俺の方をみてにこりと微笑んだ。
その白い肌の下に俺の神経が組み込まれているのだろう。
「っ…!」
言い負かされ、歯軋りする45。
「まぁ、もう、貴女は指揮官から部品取りをする気にはなれないでしょう?これ以上嫌われたくないものね!」
ここぞとばかりに45を煽る416。
いいぞいいぞ仲違いしろ、そしたら脱出できる。
先程までの和やかな空気から一点、地下室は沈黙につつまれた。
それと11、いい加減…腹つつくのをやめような?
───
(アイツはあんなに酒が強かったかな?)
グリフィン基地内の廊下を、酒瓶片手に歩く戦術人形、M16A1はそんな違和感を感じていた。
彼女の手には酒瓶の他に二つのショットグラスが握られている。
「久し振りにベロベロにさせてやろうと思ったのに…こっちが負けるとは…」
彼女は今、指揮官の私室にて彼と酒盛りをした後であった。
最近、指揮官にまとわりついていた416をあまり見かけなくなったので、久し振りに二人でゆっくりと酒を楽しもうと考えた彼女は彼の部屋に行ったのだ。
指揮官は実はああ見えて酒に弱い。
それはグリフィンの中で彼女だけの知る秘密であった。
だからことある事にM16は指揮官を酒で酔わせて、いいように弄んでいる。
弄んだ次の日には決まって416から物凄い敵意を感じるが、これが彼女にとって数少ないストレス発散方法なので仕方ない。
普段はあれだけ生真面目な顔をしている指揮官を意識が白濁とするまで酒を飲ませて、酔わせて夜を愉しむ。
そして、その事を彼は殆ど覚えていないのだ。
しかし、どういう訳か今日はM16の方が先に根を上げてしまった。
この状態で自分が彼にいいようにされるのは癪なので、酒瓶が空になったのを見計らい指揮官の部屋を逃げる様に飛び出して今に至る。
愉しむ時の主導権はこちらが握っていたい…M16にも譲れぬ物がある。
お陰で酔いを覚ます為、覚束ない足取りで宛もなく廊下をブラブラしているのが現状だ。
(アイツが強くなったのか…それとも私が弱くなったか…まぁお楽しみはおわずけか…)
彼女は記憶を遡る。
…前に彼と一杯やった時はうっかり朝まで部屋にいたものだから、それ以来、彼に避けられる様になっていた。
まぁ、こちらの自業自得だ。
だけど、二、三日前からまた前の様に声をかけてくれる様になったので認めてもらえたと考えていたが、こんな結果になるとは。
(まさか、私にやられない為に強くなったのか…?)
変な所に力を入れる彼ならその線もなくはない。
酒を克服できたから、また声をかけてくれたのかもしない。
M16はそう思った。
うっかりしていた自分が愚かしい。
次からはどうやって彼を落とせばいいのか…。
彼女が顎に手を当て、そんな計画を練っていると向こうから見知った顔が現れた。
「今晩はM16」
「あぁ、635かお帰り、後方支援お疲れ様」
少し前にAR小隊に配属された新しい妹分RO635である。
今、後方支援から帰還したのだろう。
どことなくM4とM16の外観を足して二で割った様な見た目で、AR小隊の新しい顔として打ち解け始めたが、未だどこか他人行儀な末っ子だ。
「何だ、M4みたいに16姉さんって言ってくれてもいいんだぞ?」
「…酒臭い…また飲んでましたね?」
「いいじゃないか635も一杯やろう」
「ご遠慮させて頂きます。この後、ペルシカさんからのお願いでM4と会う約束がありますので」
「M4と?ペルシカから?どうして?」
「どうも彼女のメンタルモデルが不調な様でそれのメンテナンスを頼まれました」
「ふぅむ…」
M16は考える。
このまま帰って寝ても良いが、指揮官に負かされて少し消化不良だ。
それにもう少し時間を潰したい…。
「なぁ、私も付いていっていいか?635?」
「別に問題ありませんが、それまでに酔いを覚まして下さいね?」
RO635はそう言ってペットボトルに入ったミネラルウォーターを差し出した。