416は嫉妬深い   作:まっUk

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第8話

「指揮官何やってるの?」

 

「見れば解るだろプランクだ」

 

「へープランクっていうんだそれ」

 

重苦しい朝食の後、416、ナイン、G11の三人組はUMP45を1人にして仕事へと出掛けた。

今日の監視は45らしい。

隊長である彼女が居残るとは…。

404の力関係に変化があったのだろうか?

ともあれ、残された彼女は俺の行動を不思議そうに見つめている。

 

「それ、どこが鍛えられてるの?」

 

「体幹…体の幹だ」

 

「へぇー、人間ってそんな事をしないと体形が維持できないって不便よね」

 

「…そうかもな」

 

人形の彼女は体を鍛える人間の気持ちは解らないとばかりにそう嘯く。

今、俺が彼女に見下ろされながらやっているのはプランク。

体幹を引き締める筋トレだ。

腕を肩幅に開き、肘とつま先を起点に体を浮かせ、真っ直ぐな姿勢を維持して、腹筋や背筋その他もろもろの筋肉を鍛える。

尤も左のつま先が言う事をきかないので、起点四点でやらねばいけない所を無理やり三点にしてやっている。

でもこれ、結構負荷いいかも…。

 

「どうして急に?」

 

「11に…太ったって…言われたからな…腹周りをっ…締める…ならっ…コレが、一番だ…所で45…今、何分たった?」

 

声を途切れ途切れに45へそう問いかける。

彼女には時間の計測を頼んでいる。

体感時間であれから数分経過していた。

筋肉は負荷でプルプルし始め、そろそろ辛くなってきた頃合いだ。

 

「うーん、5分かしら?」

 

「も、もういいか」

 

5分。

45のその言葉で俺は全身の力を抜く。

久しぶりにやってこれだけいけば良い方だろう。

支えを失った俺の体をタイル張りの冷たい床が迎えいれる。

普段なら冷たく感じる所だが、プランクにより熱くなった今は気持ちが良い。

 

「うわっ…凄い汗」

 

45は若干引き気味にそんな言葉を投げ掛けた。

床にへたれ込む俺の体は汗まみれ。

しばらくやっていないからという事もあるが、起点三点でやった事で、より体に負担がかかった事が原因だろう。

まるで炎天下で運動をしたかの如く汗をかいている。

プランクは汗がじんわりと出て来て、体が燃焼している感覚を強く味わう事ができるから気持ちが良い。

実際、やるとやらないとでは大きな違いだ。

心地の良い倦怠感に包まれながら俺は大きく息を吐き出す。

 

「でも、凄いだろ、ほら短時間で締まった感じがする」

 

「うーん、確かに?」

 

冷ややかな視線を寄越す45に、服を捲ってボディラインを見せつける。

だが、彼女的にはあまり違いが解らなかった様で余計に俺へ向ける視線を冷たい物へ変化させた。

筋トレ後は筋肉が張って普段より大きく見えるので満足感あるのだが…。

ふむ、やはり筋トレな話を女性の前でするのは控えよう…前にカリーナにもやって呆れられた記憶がある。

 

「まぁ、確かにこんな汗だと気持ちが悪いな、45、シャワー使えるか?」

 

気を取り直して口を開く。

45が若干引いている理由も解る。

自分でも少し汗をかきすぎたという自覚はあったので、俺は前に椅子に縛られたまま416に浴びせられたシャワーで汗を流そうと考えた。

タイル張りのこの地下室は冷水ではあるがシャワーを浴びる事ができるのだ。

 

「あー、どうかしら?今、タンクを確認してみるわ」

 

「頼む」

 

「ちょっとまってて…」

 

そう言うと彼女は地上に通じる梯子の方へと進んでいった。

 

そして、タンクの水量を確認すべく梯子を使って「外」へ出る。

ガタンという音と一緒に天板が開き、一緒、外気が地下へと進入した。

頬を撫でる空気の流れに、俺は口角を吊り上げる。

 

(ほぅ…)

 

タンクの水を確認する為には「外」へと出る必要がある。

偶然、解った事だが良い事を知れた。

何かに使えそうだ。

 

「お待たせ指揮官、大丈夫そうよ…どうしたのそんなにニヤニヤして…?」

 

「いや、何でもない久しぶりに水浴びできるのが嬉しくてな…」

 

三分もしない内に戻ってくる45。

俺の考えている事を知ってか知らずか彼女はそんな事を言う。

そんな少女の栗色の瞳から逃れる様に目を反らして、何でもない風に装った。

 

「じゃあ、シャワーを浴びせてあげる…はいっ」

 

45はいつもの様に床に這いつくばる俺の手を取り体を立たせ、腕を肩に回し、移動の補助してくれた。

左足が動かなくなって以来、俺は彼女達404の介護が必要だ。

俺は支えられ牛歩の歩みでシャワーヘッドの前まで来ると、浴室用のプラスチック椅子に腰を落下させる様に落とす。

 

「服、脱がせるわよ…」

 

45は断りをいれ汗に濡れた俺の服を脱がせようと手を伸ばす。

 

「いや、流石に服位は自分で脱げるっ!動かないのは左足だけだ!」

 

俺はたまらず声を上げた。

流石にそれ位は1人でできる。

それに、人形といえど少女に服を脱がされるのは恥ずかしい。

この前416にやられたが…。

 

「そっそうよねっ!ごめんなさい!」

 

45も今、自分がしようとした事に今更ながら恥ずかしいと思ったのか、普段からは想像のできない声音ですぐに腕を引っ込めた。

なんだかんだで天然な所のある人形だ。

 

「あぁ、悪い…ただシャワーを浴びせてはくれないか?その…立てないんだ…」

 

「わっ…解ったわ」

 

僅かに顔を赤面させ45は頷く。

…両腕を自由に動かす事はできる。

が、水を流す為に捻らなければならない蛇口は胸の高さ位あり、座った状態では手を届かせる事が難しい。

元々、立ちっぱなしで浴びる事を目的としているから当たり前と言えば当たり前だ。

恥ずかしながらこれには45の手を煩わせずにはいられなかった。

ナインが昨日、416に運ばれる俺を見て介護みたいだといっていたのを思い出す。

確かにそうだ。

俺は今、404の連中の補助がなければ日常生活につらい物がある。

はぁ、憂鬱だ…。

自由を奪った張本人達の田助がなければ日常生活もままならない。

重い気分の中、自分の上着を脱ぎ始めた。

 

─ハラリッ

 

(ん?)

 

上着を脱ぎ上半身だけ裸になった所で、ふと真後ろで俺の物とはまた違う衣擦れの音に気がついた。

この気配、まさか…

恐る恐る振り返る。

 

「45!なんでお前も脱いでるんだよ!?」

 

振り返った俺の網膜に映り込んだのはジャケットにYシャツ、スカート、ソックスを脱ぎ去った下着姿の45だった。

 

「だってシャワーが跳ねて濡れるんだもの…いいじゃない?今朝もみたでしょ?」

 

「確かに見たけど…そんなガッツリとは見てないっ!」

 

「じゃあ、前だけみてなさいよ」

 

45はなんて事のない風な顔でそう返すと、俺の頭上に腕を伸ばしシャワーヘッドを掴んだ。

人の服を脱がそうとするのは照れる癖にこういう所は無頓着。

良く解らない人形だ。

 

「じゃ、シャワー浴びせるわね」

 

そう言い、彼女は蛇口を捻る。

俺もそれに合わせて視線を前へと戻す。

水の流れる音と供に冷たい水滴が俺の頭に降り注ぎ、体全体に行き渡る。

みるみる内に火照った体が冷却されていった。

 

「ねぇ、指揮官」

 

「何だ?」

 

シャワーを俺に浴びせながら45は口を開く。

 

「私の事、嫌いになった?」

 

「どうして?」

 

「上から指揮官を殺せって命令された時、真っ先に賛成したから…」

 

意を決して…そんな表現が良く似合う喋り方。

今朝の416との言い合いを気にしているらしい。

 

「俺が45の事を嫌いになったとして、お前はなんで賛成したんだ?俺を殺す…嫌われる様な事に…」

 

「しょうがなかったの、だって私達逆らえないんだもの」

 

「しょうがない、か」

 

しょうがない事だった。

同じ様な事をナインも行っていた。

指図される事が嫌いな彼女達が口を揃えてしょうがないという相手。

一体どんな組織だ?

頭の中にいくつもの候補が浮かんでは消えていく。

しかし、どれも確証は持てない。

色々と怨みを買ってきた人生だ。

 

「でも、私が指揮官を好きなのは本当よ」

 

「本当に?」

 

「信じてくれないの?」

 

「信じるよ、俺の神経が欲しかった位だもんな」

 

「いじわる…」

 

今、45はどんな顔をしているのだろう。

後ろにいる彼女の顔を窺う事はできない。

その時だった。

 

「んっ!?」

 

不意に背中に感じる、人形一体分の重み。

急に45が蛇口を締めたかと思うと、俺の背中にしなだれかかってきたのだ。

今、俺の背中では少女型の人形が、下着一枚で肌を密着させている。

その事実が俺の頭に警鐘を鳴らした。

 

「ねぇ、指揮官。こういう事するって言ったら許してくれる?」

 

「どういう意味だ?」

 

「ピロートークの意味、さっき調べたの」

 

誘う様に俺の耳許で囁く45。

吐息が耳にかかってくすぐったい。

どこでこんなの覚えてきたんだ。

 

「そんな貧相な体でこんな事されてもな」

 

─カリッ

 

「イッ!」

 

耳を噛まれた。

強めに、だが快感を感じる位の力加減で…。

 

「流石に怒るわよ?」

 

「…だったら辞めろ、こんな事…お前はかってに安心したいだけだ。こうすれば俺が許すとおもってるのか?服を着ろ、俺は怒ってない…未遂だしな」

 

怒ってない…訳ではないが、この状況で素直に物を言える人間はいないだろう。

とりあえず、俺は宥める様に密着した45にそう言った。

 

「…へぇそういう事言うんだ?」

 

「45?」

 

次の瞬間、俺は椅子から床へ仰向けに押し倒された。

水に濡れたタイルが俺の背中を迎え入れる。

当たり前だが冷たかった。

濡れたタイルの感触が気持ち悪い。

 

「クソッ!離せ45!」

 

そう毒づく。

だが、両腕をしっかりと抑えられ、彼女を押し退ける事ができない。

そんな体勢で45は大声を上げた。

 

「そうねっ!確かに私は安心したいだけよ!貴方に嫌われてない!そんな裏付けが欲しいの!自己満足!416と同じ!だから一緒にピロートークの前の事をしてっ!」

 

耳許で炸裂する怒声。

鬼気迫る。

目を合わせる彼女の顔は正にそんな表情。

それほど俺に嫌われる事が嫌なのだろうか?

怒声は殆ど嗚咽に近い。

悲しいんだ、45は。

 

「セラミックとシリコンの塊風情が大層な事いうじゃねぇかっ!」

 

だが、俺は彼女の心情を解っていた筈なのにそんな事を口走った。

怒声には怒声。

軍隊時代の習慣が咄嗟に出てしまったのか…はたまた、ここ数日の抑圧されていたストレスが45の怒声を引き金として噴出したのか…。

ともあれ怒鳴り返すべきではなかった。

特に俺は今まで彼女達を努めて人間として扱う様にしていたのだから。

こんな事を言ってはならなかった。

極めて人間に近く作られた彼女達にとってそれは禁句。

俺は地雷を見事に踏み抜いたのだ。

 

「…貴方は私が無機物の塊だから嫌いなの?」

 

「は?」

 

 

ボソッと呟く様にそう言った45の瞳はゾッとする程暗い。

彼女の下着姿など全く気にならない位、暗い目。

 

「ひっ…!」

 

「反らさないでっ!」

 

恐怖を感じ、反射的に視線を45の瞳から反らそうとしするが、ガシッと頭を掴まれ、それさえできない。

頭を固定されての強制的な睨めっこ。

蛇に睨まれた蛙。

どこかの国の諺がふと脳裏を過る。

 

「貴方がそんな事を本心から思ってないって事は解るわ。長い付き合いだから…でもそんな事言われたら悲しくなるじゃない」

 

細い指で俺の顔をなぞる45。

何も言えなかった。

代わりに震えて歯がカチカチと鳴っていた。

床の寒さのせいだろうか?

 

「ねぇ、私が無機物じゃなかったらそういう事してくれるの?」

 

「は?」

肌をなぞる45の指が俺の左目の辺りで止まった。

 

「ねぇ、してくれるの?ピロートークの前の事?」

 

再度、耳許で囁かれる。

だけど、俺の喉はロープで縛ったみたいに何も言わない。

いや、言えない。

 

「あはっ頷いた!」

 

だが、45は恐怖で揺れる俺の動きを肯定の首肯と解釈したらしい。

まぁ、彼女にとって最早、俺の答えなど必要なかったのだろう。

 

「じゃあ、それ貰うわね。」

 

断らなければ。

否定しなければ。

喉から声を捻り出さなければ。

 

「前から思ってたの私のと同じ色だなって…!」

 

45の指が瞼を飛び越え眼球に触れる。

駄目だ…声が…出せない?

 

「交換が終わったらシよ」

 

激痛と供に俺の世界が半分になった。

 

 

地下室に絶叫が木霊する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




プランク(三分)→バックプランク(一分)→サイドのプランク(右左一分)~バックと両サイドの流れを三回~→プランク(一分)

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