バカ恋より、吉井奏
バカファミより、桜木姉妹
バカ鹿より、白沢恵
など
吹き抜ける風。
澄み渡る空。
それが包んだこの町……、この学園。
美味しい空気を胸一杯に吸い込み、深呼吸を一つ。
ボロ屋とも呼べる校舎、教室を抜け出し、見上げると青い空に白い雲。
優しく照らす太陽は、疲れをほぐしてくれそうだ。
「はあ……」
文月学園の試験召喚戦争もAクラスで敗退に終わり、何時もの日常が返って来た。
けどそれは、大きな変化もあって……、担任の変化、補習の日々、他クラスとの触れ合い……。
雄二達に巻き込まれ、時に理不尽で、時に馬鹿馬鹿しい学園生活……。
僕、吉井明久は放課後こうして生きている。
それは偶然でも必然でも無く、そうやって何時も勝ち残って来たからだ。
『吉井は何処へ逃げた!?』
『野郎、絶対許さねえ!』
『公開処刑すら生ぬるいわ!』
流石僕のクラスメイト。
まさに私利私欲の塊で、恐ろしい。
足音が消え、居なくなったのを確認し、もう少し空を見上げる。
――三十分前
それはごく普通に……何時もと同じだった。
「あ、あき……明久くん」
「姫ちゃん?もしかして補習受けてた?」
「うん……、勉強ちょっと怠ってるかなって」
(……この前の中間テストほぼ満点だったのに!?)
グラビアアイドルの園宮姫こと姫ちゃんは、教科書を大事に持ちながら苦笑する。
絶賛売り切れ続出にある、彼女のグラビア雑誌を僕は何時手に入れることが出来るのだろう?
黒く長い髪に赤いハンカチに似たリボンを結びつけ、赤い瞳を輝かせている。
グラマーかつむっちりとした肌……流石グラビアアイドル。
「明久くん?」
「ち、違うよ!?姫ちゃんの肌柔かそうとか、胸とか見てないから!」
「ふふ……明久くん、本当に嘘つけないよね」
「しまった!?」
最低だ!
これじゃあ僕はただの変態じゃないか!
教科書をしまっていた手がふるふると震え、塩水が止まらない。
「だけど、それが……明久くんらしい……よ」
「うう、それって、僕は嘘つけない変態ってこと?」
「ひゃう!?ち、違うよ!?あの、その、ごめんなさい……」
ぇえええ!?ちょっ、何で姫ちゃんが泣くの!?
そのままにしてたら何かが込み上げて来そうで、慌てて昔のように姫ちゃんの頭を撫でる。
優しいのはいいんだけど、姫ちゃんの場合危ない一面もある。
「ごめん、ごめんてば……僕、馬鹿だからさ」
「うう、ひう」
「卑屈になってすみませんでした」
「……明久くん、自分をもっと大事にして、ね?明久くんは馬鹿じゃないし、変態さんでも無いし、優しくて、あ、ああああ明久くんどうして泣いてるの!?」
塩水が、塩水が止まらない!
だって、姫ちゃんが可愛すぎるんだよぉおおおお!!
毎日馬鹿と言われているから、それを否定してくれる姫ちゃんは本当に女神のようだ……。
「……それで、何か僕に用……があるんだよね?」
「うん、明久くんが鈍いのは相変わらずだもんね」
「?」
「……、あのね。明日はその、学校休みだから……」
何かを呟きながら、急にもじもじしながら俯く。
顔も赤く火照っていて、つい何かラッキーイベントを想像し、慌てて消す。
有り得ないな。僕みたいな人間に姫ちゃんのようなグラビアアイドルが……。
「……して下さい」
「?……ごめん、よく聞こえない」
「うぅ………、……トして下さい」
「もう少しボリューム上げて」
「…………えっと」
ふるふると体を震わし、涙を溜めている。
これは、明らかに怒ってる……?
だとしたら、取る行動はただ一つしかない!
「ごめ「明日、デートして下さい!」……ふえ?」
土下座の体制を取り、顔を上げると同時に顔を真っ赤に染め、潤んだ赤い瞳で見つめてくる彼女と視線がぶつかった。
その距離は少し動けば当たりそうで、彼女と負けないくらいまで僕の頬に熱が集まった。
「ひ、姫ちゃん?……」
「駄目、ですか?」
「ありがとうございます!(ううん、そんな訳ないじゃないか」
ん?
今、建て前と本音入れ替わっていたような……。
下げていた頭を起こすと、目をキラキラと輝かせながら細め、指と指をくっつけながらはにかむ姿が。
色っぽくて……凄く、色っぽい。
「無理言って、ごめんね明久くん。でも、……とても嬉しいです」
「無理じゃないよ。……僕も姫ちゃんみたいな美少女に誘って貰って……その『判決:抹殺』審問会すら無い!?」
最近こいつらは待った無しで奇襲して来ている気がする!
避けた場所を通り抜け、黒板にカッターナイフやコンパスが突き刺さっていた。
改めて思うと、恐ろしいクラスメイトの中で僕は生きて来たのか。
『貴様ぁ、園宮さんとデートだと?』
『羨まし、妬ましいんじゃボケエエ!』
『馬鹿な吉井がデート……アリエナイ!』
『『裏切り者ぉお!』』
「危な、ちょっ、みんな、落ち着いて!!うわぁあああ!」
そして、FFF団達から逃げ回って、ようやく撒いたのがついさっきだ。
人の幸せを邪魔しようと、みんな本気になるから怖いもんだ。
でも、福村君の言うことも一理はあるかも知れない。
僕が姫ちゃんとデート……、まるで夢でも見ているような気分で、体から緊張と高鳴りが止まらない。これが、……デートをする人の気持ちなのだろうか……。
「と言っても、まずはみんなに見つからないように帰らないと……」
「何に見つからないように帰るんですか?」
「わひゃああああああああああ!!」
背後からかけられた声に、肩が跳ね上がり思わず身構えてしまった。
が、FFF団の誰かと思っていた予想を裏切り、其処には金色の長い髪を揺らしながら、夕日に染まった青い瞳で見つめてくる姫ちゃん級の美少女が覗き込んでいた。
「奏か……、びっくりした」
「ふふ、そうだとしたら成功ですね」
悪戯が成功した子供のようにくすくすと笑う。
吉井奏……、僕と同じ名字だけど全く違う。主に頭脳が。
引き締まった体に、Fクラスのバスト……文月学園でもトップレベルの美少女で丁寧な言葉使いや、おっとりとした仕草は慈愛という言葉が似合っている。
「明久、迎えに来ました♪」
「何時もご苦労様。でも、今日は遅くなりそうだけど」
「はい♪構いませんよ」
にっこりと微笑み、下から覗き込むように腰を更に落とす。
その仕草だけでもかなりこたえるけど、自重しない胸ときらびく彼女の姿に頬が熱くなる。
姫ちゃんといい、奏といい、どうして僕に寄って来るんだろう……。
「ヒメちゃんがどうかしました?」
「え……イエ、ナニモ」
「本当ですか?」
う、厳しい。
でも……姫ちゃんにデートに誘われたって言ったら……奏に悪いし……。
って違う違う!馬鹿!そうじゃなくて……、いや姫ちゃんはきっと僕の事好きじゃないんだろうけど、でも……。
「……?」
「と、とにかく何でも無いんだ!」
「我慢は体に毒ですよ?」
彼女の表裏の無い優しさが、今は逆に締め付けられる!
苦笑いをしている姿に違和感を感じ取ったように、奏は首を傾げた。
冷や汗を抑え、誰も来ないように祈っていると、不意に奏がじりじりと寄り添って来た。
「……っ!」
「明久……、明日……空いていますか?」
「え……」
「何時でもいいので、その……デートして貰えませんか?」
……。
…………。
……………………。
……急展開にも程があるぅうううう!!
「えと、あの……、明日はちょっと忙しくて!」
「そうですか……」
「あ、いや、えと、でも、一緒なら」
「へ?」
「う!?いや、これは……その、えと」
何か考えろ。
奏も、姫ちゃんにも迷惑をかけない方法!
手がポケットからはみ出していた紙に触れ、一瞬にしてその記憶が蘇る。
これは、ムッツリーニと約束していたコスプレ喫茶の案内図だ。行ける!
「実は友人と此処に行こうと思ってるんだ!」
「…………ほえ?……」
「あ」
僕の言っていた表面:コスプレ喫茶案内図
奏の見た裏面:『あなたが変身!魔法少女コスプレ用具店』
――さようなら、吉井明久。
こういうの読みたいなどのリクエストがあれば、可能ならば書きます。