ドラゴンクエストXI 勇者の名は 作:くしゃみ
特別な日、と言われると何を連想するだろうか。
想い人が恋人となった日、或いは恋人が伴侶となった日。或いは愛する者が命の大樹の元へ還った日。或いは、己の誕生日……或いは、自らが子どもから大人へと認められる日。
十六の歳になるまですくすくと育ち、今日儀式を受けることで大人の仲間入りを果たすであろうイレブンにとって、今日が特別な日になることは間違いが無かった。
空は澄み渡るほどに蒼く、穏やかな風がイレブンの茶色の髪をゆるやかに撫でる。そんな穏やかな風に攫われて飛ばされた幼馴染みのバンダナを救出すべく木に登ったイレブンは、そんな「特別な日」に小さな感慨を抱いていた。遥か遠くに見える命の大樹も、彼を祝福しているように見える。
「イレブン!見つかったー?」
下の方から声が聞こえてくる。あまりにも馴染みが深いその声は間違いなく、この風に飛ばされたスカーフの持ち主であり、イレブンの幼馴染みでもある彼女だろう。イレブンは彼女の問い掛けに答える代わりに木から飛び降り、笑顔で彼女にスカーフを渡してみせた。
「ちゃんと見つけたよ、エマ」
「良かった!ありがとね、イレブン」
幼馴染みの彼女──エマはオレンジ色のスカーフを嬉しそうに受け取ると、慣れた手つきで頭を覆うようにバンダナを巻いてみせた。黄金色の髪とオレンジ色のスカーフの相性は良く、エマのトレードマークとなっている。
「大切な儀式の前にスカーフが風に飛ばされちゃうなんて。私ってばホントドジだよね」
「ははっ、そうだね」
「ちょっと!否定してよ」
今日が大人になる為の特別な日だ、というのはイレブンだけではない。奇しくも同じ日に十六歳となったエマもまた、今日が大人になる為の特別な日なのである。
二人が住むデルカコスタ地方南部に位置する小さな村、イシの村。この村では大人になる為の儀式として、村にある巨大な岩「神の岩」を登らなければならない。イレブンとエマは風を受けながら振り返り、これから登るであろうその巨大で何処か神々しい岩を見上げた。
「……ついにあの岩を登る日が来たんだ。あんな高い場所、私に登れるかな……?」
「きっと大丈夫だよ。二人ならへっちゃらさ」
「イレブン……うん、そうだね」
ワン!ワン!とイレブンの足元から犬の鳴き声が聞こえた。チラリと下を見ると、そこには大きな犬が尻尾を振っている。この犬もイレブンとエマにとっては馴染み深い友達だ。名前はルキ。どうやら「二人」という所に抗議をしているらしい。
「そうだね、ごめん。ルキもついてきてくれるんだよな」
少しだけしゃがみ、謝罪の念も込めてルキをわしわしと撫でるイレブン。ルキは「わかったならよろしい」と言わんばかりに喉を鳴らし、尻尾を振りながら神の岩に向かって走り出した。
「うふふ、ルキが私たちを案内してくれるみたい」
「心強いね。行こうか」
二人は肩を並べて、ルキに着いていくべく歩き出した。今日、二人が儀式を受けることは村中が知っている。神の岩の近くには大人になるであろう二人を祝う為、或いはこれから始まる儀式の前に二人を応援する為、沢山の村人が集まっていた。
「エマちゃん、気を付けるんだよ!」
「ありがとう、おばさま!」
「イレブン!ちゃんとエマを守ってやれよ!」
「うん、勿論!」
「ルキー!二人をよろしくね!」
「ワン!」
村人達に声をかけられながら、いよいよ神の岩を登る為の入口に辿り着く。そこにはイレブンの母親である恰幅のいい女性、ペルラと、エマの祖父であり村長でもあるダンが、二人を待っていた。
「待っておったぞ、エマ、イレブン。二人が無事にこの日を迎えられて、村長としてこれ以上嬉しいことは無い……」
「おじいちゃん……」
ダンの瞳には、うっすら涙が滲んでいた。恐らく本当に、一人の祖父として、村に住む大人として、そして村長として。二人が立派に成長したことが嬉しいのだろう。
「よいな、十六歳となったおぬし達は神の岩で成人の儀式を果たし、一人前の大人にならなくてはならん。神の岩の頂上で祈りを捧げ、頂上で何が見えたかをわしに知らせるのだ。そこまでが成人の儀式じゃからな」
「「はい!」」
二人の声が綺麗に揃った。その表情も二人とも同じ、決意に満ちたものとなっている。
「イレブン……自慢の息子がここまで大きく育って……お母さん、本当に嬉しいよ。いいかい?エマちゃんは幼馴染みなんだからね。あんたがしっかり守ってあげるんだよ」
「うん、わかってる」
ペルラの言葉にも力強く頷き返すイレブン。その風格は優しさを残しつつも、既に大人の強さを見せつけられているようだった。背中に背負った一振りの剣が、その言葉の重みをさらに強くする。
「……じゃあ、行ってきます!」
「行っておいで!夕飯作って待ってるからね!」
母親と村長に見送られ、二人は儀式を始めるべく、第一歩を踏み出した。少し先ではルキが尻尾を振って待っている。きっと二人と一匹なら、どんな困難も立ち向かっていけるだろう。
「行こう、エマ」
「うん、イレブン」
二人の儀式が始まった。
岩を登る、と聞けばひどく過酷な崖登りを強いられるように思えるが、実際のところは山を登る感覚に近く、石の階段を登り、洞窟を抜け、坂道や段差を越えていくのが主となる。当然、それでも相当過酷であることには変わりないのだが、ペルラやダンもかつては同じ儀式を越えて大人になったのだ。二人もこの儀式が越えられない、とは思っていなかった。
二人と一匹で、ひたすら石段を登り続ける。
「我らイシの民。大地の精霊と共にあり……か」
ぽつりとエマが呟く。
「なに、それ?」
「おじいちゃんから聞いたの。あの神の岩には大地の精霊様が宿ってるんだって」
「大地の精霊……へぇ、そうだったんだ」
「小さい頃からずっと、十六歳になったら神の岩に登って大地の精霊様に祈りを捧げなさい!って言われてきたけど……」
そう言いながらエマは頂上を見上げる。そしてムッとした表情になり、口を尖らせながら文句の言葉を吐き始めた。
「こんなしきたり誰が考えたのかしら。一人前になる前に崖から落ちてケガでもしたらどうするのよ」
「はは、確かにね」
エマの至極もっともな意見に思わずイレブンは笑ってしまった。確かに足を思い切り踏み外してしまえば、そのまま崖から落ちて真っ逆さま……ということも有り得ないわけでは無い。得てして昔からあるしきたりとは意味がわからないものが多いが、どうやらこの儀式もエマにとってはその一つだったようだ。
「……でもイレブンと生まれた日が一緒だったのが唯一の救いね。一人だったら絶対めげてたもん」
「そんなことないよ、エマなら一人でも出来るさ。……まあ、僕もエマと一緒で心強いけど」
「頑張ろうね。さあ、行きましょ」
二人が再び歩を進めようとしたその時である。
「ワンッ!ワンワンッ!!」
先導していたルキが、突如威嚇するように吠え始めた。ルキが吠えている方向にあるのは、先へ進む為の洞窟。中はどうやらかなり暗いらしく、二人からは中の様子が見えない。
「ルキ?どうしたの──きゃっ!?」
エマがルキに駆け寄ろうとしたその時──洞窟の中から三つの小さな影が飛び出した。何処からどう見ても人間とは似つかない見た目、例えるなら「異形」。よく見れば愛嬌すら感じられるゼリー状のそれらは、人間を襲う魔の力を持った化物──そう、魔物だった。
エマは驚いてその場にぺたんと尻もちをついてしまう。イレブンは三匹のゼリー状の魔物、スライムを見るや否や、背中に携えた剣に手をかけて走り出す。
「エマっ、離れて!」
スライム達はルキと、そしてこちら側に勢いよく走り出しているイレブンを見つけて戦闘態勢に入る。ルキもスライム達を睨みつけ、戦う意思は万全だ。
「はぁぁぁっ!!」
一匹に狙いを定め、走る速度を緩めることなく剣を抜き、そのまま右手で振り下ろす。イシの村の住民がよく使う簡素な剣、イシのつるぎ。さして高価な剣では無いが、スライムを斬り伏せるには充分だ。
初撃は綺麗にスライムに命中し、その柔らかい体を真っ二つに斬り裂いた。イレブンはすぐさま二匹目に狙いを定めて、剣を構え直す。狙われた二匹目のスライムはぷるぷると震えながら、勢いよくジャンプしてイレブンに突進した。ゼリー状とは言え魔物である。その突進の威力はバカにならない。
イレブンはその突進に合わせて剣を横に振り、突進を受け止めつつカウンターの斬撃を狙う。目論見は見事に当たり、スライムの突進の軌道はズレてイレブンの耳元を掠めるだけとなった。逆に、イレブンの斬撃はしっかりスライムに命中している。しかし致命傷とまでは至らない。
「まだだっ!」
そのまますぐに振り返り、今度は剣を両手で握りこんでスライムを叩き斬る。一瞬前のダメージも相まって、今度こそスライムは真っ二つとなって絶命した。
「よし、あと一匹……!」
「イレブン、後ろっ!」
エマの叫び声を聞き、咄嗟に後ろを振り返るイレブン。そこには大ジャンプをしてイレブンに襲いかかろうとしている最後のスライムがいた。完全に隙を突かれたイレブン。その攻撃を躱す術は無い。
「しまっ──」
「ワンッ!!」
スライムの攻撃がイレブンに届く一瞬前。突如スライムがイレブンの視界から消えた。隙を突かれたイレブンを守るべく、ルキがスライムに襲いかかったのだ。まさに間一髪、絶対的な攻撃のチャンスを潰されたスライムはそのままルキの突進を受けて絶命した。
「ルキ!助かったよ、ありがとう!」
「ワン!」
魔物の襲来を無傷で凌ぎきったイレブンとルキ。尻もちをついていたエマも怪我は無いらしい。
「イレブン、大丈夫?」
「ああ、僕は大丈夫。エマは?」
「私も大丈夫……ああ、びっくりした。イレブンとルキがいて助かったわ。小さな魔物だったから運が良かったわね」
「エマを守るって、村の皆と約束したからね」
「ありがとう、イレブン」
先導していたルキがまた先へ進むべく走り出した。向かう先は先ほどスライム達が出てきた洞窟。ここからは、魔物との戦いも覚悟せねばならないかもしれない。
「ねえ、知ってる?神の岩の頂上へ行くには、洞窟を抜けていかないとダメなのよ」
「勿論、知ってる」
「さっきの魔物、あの洞窟から出てきたのかな?」
「そうだね。……エマ、僕とルキから離れないでね」
「うん。ちょっと怖いけどイレブンが一緒だしへっちゃらだわ」
「ははっ、頼っていいよ」
二人はルキに続き、暗い洞窟へと足を踏み入れた。
〜〜〜
「はぁっ!!」
振り抜かれた剣。気持ちの良い音と共に、手に針を持った魔獣系の魔物──モコッキーが吹き飛ばされる。ドサリと地面に落ちたモコッキーが絶命していることを確認してから、イレブンは剣を背中に納めた。
洞窟内は所々外からの光が差し込むようになっており、中に入ってさえしまえばさして暗くは無かった。しかし、予想以上に魔物の数が多い。先程現れたスライムに加え、手に武器を持ったモコッキーは中々に厄介だ。軽快なステップが攻撃のタイミングをズラされ、思うように攻撃が当てられないことすらある。
「ふぅ……よし、先を急ごう」
「待ってイレブン、これ」
歩きだそうとしたイレブンを引き止めたエマが渡したのは、癒しの力を宿した一枚の草──薬草だ。傷口に当てるとその癒しの力が発揮され、傷を癒してくれる優れものである。
「ありがとう、エマ。助かるよ」
「どういたしまして。戦えない分、こういうところでサポートしなきゃね」
エマは得意げにウインクしてみせた。度重なる魔物との戦いで、所々小さな傷跡や疲れが出ている為、薬草は素直に有難かった。
「もうすぐ洞窟も終わりのはずよ、頑張ろうね、イレブン」
「うん」
薄暗い洞窟を更に進む。かなり歩いたのだ、エマの言う通りもうすぐ洞窟の終わりが見えてもおかしくはないだろう。洞窟が終われば今度はゴツゴツした岩肌と戦うことになる。そんな新たな脅威に不安を抱えつつも、二人ならなんとかなると言い聞かせ──
「見て!出口よ!」
エマが指をさした先には、確かに光が差し込む大きな穴……即ち出口があった。これで洞窟は終わりだ──
「──っ!そう簡単に出してはくれないみたいだね……!」
突如現れた、光を遮る小さな影。現れたのはモコッキーとスライム達という魔物の群れだ。イレブンはすぐさま剣を抜き、ルキが吠えた。
「エマ、僕から離れないでね」
「うん……!」
イレブンが剣を構えた瞬間、スライム達がピギー!という甲高い鳴き声を上げて突進してきた。イレブンはそれらをエマに当たらないように受け流し躱し、そして自慢の剣でスライム達を斬りつける。同時に二体を相手にしている為気は抜けないが、スライム自体強力な魔物では無い。エマを守りながら戦うことも難しくは無かった。
「ワン!ワン!」
一方のルキはモコッキーに吠えて威嚇しつつ、自慢の俊足と牙を活かして戦っていた。この洞窟でイレブンと共に戦ってきたルキの強さも中々のもので、イレブンのちょっとしたピンチも救っている。
しかし、そんなルキも魔物では無い、ただの動物だ。ふとした隙が、魔物相手には命取りとなる。
「ルキっ!!」
イレブンがスライムを一体屠ったその時、エマの叫び声が聞こえた。咄嗟に反応してルキの方を見ると、どうやら足を滑らせてしまって転んだらしい。モコッキーはそれをチャンスと見て針を構え、今にもルキに襲いかかろうとしている。イレブンが今から走っても、あの距離では間に合わないだろう。
「だったら……!」
走っても間に合わないことを確信したイレブンは左手をモコッキーの方へ向け、何か力を溜めるように集中し始めた。イレブンの左手の先へ魔力が集まり、小さな魔法陣と共に炎の玉が完成する。
「メラっ!!」
イレブンの叫び声と共に、左手の先に溜められた魔力の塊が──炎の玉がモコッキーに向かって放たれた。己の魔力を消費し、小さな火球を放つ呪文、メラ。イレブンが唯一使える呪文だ。
イレブンの走力よりも速い火の玉は一直線にモコッキーを目指し、モコッキーの針がルキに届く直前に火の玉がモコッキーへと命中した。そのままモコッキーは勢いよく吹き飛ばされ、炎と共に命を散らす。イレブンはそれを見てホッとする間もなく右手で剣を振るい、もう一体のスライムも斬り伏せた。
「ふぅ、危なかった……」
「イレブン、凄いわ!そんなに強くなっていたのね」
「まあね。呪文は、あまり得意じゃないけど」
「ワン!ワン!」
「ルキも無事で良かったよ。よし、先に進もう」
洞窟最後の番人と言わんばかりの魔物の群れを倒し、今度こそ本当に洞窟を抜ける二人と一匹。そこにはかなりの高所まで来たからこその、雄大な景色が見える──ということは無かった。
「見て……真っ白だわ。霧がこんなに……」
「本当だ……すごいな、前がよく見えないよ」
目の前すら鮮明に見えないほどの、真っ白な霧が辺りを包み込んでいたのだ。イレブンとエマの距離でも、二人の表情の微々たる変化が読み取れないほどである。
「気を付けないと……」
そう呟きながら、不用意には足を出さずにゆっくり辺りを見回すイレブン。エマも同じように、不安そうに辺りをじっくり見ている。足を踏み出した途端魔物が出てきた、足を踏み出した場所に地面が無かった、そんなことがあれば洒落にならない。
──そうして注意深く辺りを観察していた時。
「……た、たすけてー!!」
「っ!?」
「今の声って──!?」
二人の耳が拾った、誰かの助けを求める声。目を凝らして声のした方を見る二人。二人よりも感覚が優れているルキは既に走り始めている。
やがてほんの少し霧が晴れ、声の主が誰かが二人にもはっきりと解った。イシの村のイタズラっ子であり、もっとも元気な子ども──
「マノロ!?」
マノロだ。何故ここにいるのか、そう問い質したいところだが、その問いは後回しにするべきだろう。マノロのすぐ後ろに霧が質量を持ち形を取った魔物、スモークが見えているからだ。まずはマノロを助けなければならない。
「エマ、マノロをお願い!」
「う、うん!わかった!」
瞬時に駆け出したイレブン。剣を抜き、マノロの背後にいるスモークに斬り掛かろうとする──も、目の前に現れたもう一体のスモークに阻まれた。
「くそっ、もう一体……!」
「ワンっ!!」
ルキの雄叫びにスモーク二体は怯み、動きが止まる。その隙にイレブンは目の前のスモークに向かって勢いよく剣を振り下ろした……が。
「当たらない……っ!?」
剣は物質を捉えることが出来ず、何も無い「霧」をただ斬り裂くのみだった。その一撃に手応えは無い。恐らくスモークの核を捉えなければ、剣ではダメージを与えられないのだろう。
「だったら!」
だったら、剣を使わなければいい。すぐさまイレブンは左手を突き出し、小さな魔法陣を作り出した。剣がダメなら、呪文だ。
「メラ!」
放たれた火球は的確にスモークを捉え、その霧諸共焼き消さんと言わんばかりに燃え盛る。この勢いであればもうじきに目の前のスモークは消えるだろう。そうなれば、残すは一体のみ。マノロを狙っているあのスモークだ。イレブンはすぐに左手をもう一体のスモークに向け、そして勢いよくその呪文の名を口にした。
「食らえ、メラッ!」
──が、火の玉はおろか、魔法陣すら左手からは発動しなかった。理由は至極単純──
「──っ、魔力が足りない!」
そう、魔力切れだ。呪文を使うには魔力が必要なのだが、イレブンの総魔力はさして多くはない。もう、メラを放つだけの魔力が残っていないのだ。
スモークはルキの雄叫びにもう怯むことなく、再びマノロを襲おうとしている。ルキがなんとか注意を逸らしているが、ルキも先程剣を振るったイレブンのように、スモークの核を攻撃出来ていなかった。あのままではルキが不利になるのは火を見るより明らかだ。
「くそっ、どうする──?」
しかし、メラが放てないなら剣を抜き、一か八かの核狙いを決めるしかない。やるしかないか、と決心を決め、イレブンが剣を構えて走り出そうとしたその時。
「イレブン、これを使って!」
エマが、イレブンに何かを投げ渡した。突然の事に驚いたイレブンだが、投げられたものは上手くキャッチをしてその渡されたものを見る。
其れは──飲んだ者の魔力を少しだけ回復する、「まほうのこびん」だった。生粋の魔法使いにとっては本当に雀の涙程しか回復しないが、今のイレブン程度の魔力ではほぼ全回復させることが出来る。少なくとも、メラを放つ魔力は生み出せるだろう。
「ありがとう、エマ!」
手短にエマに礼を言いながら、小瓶の中身を一気に飲み干す。全身を魔力が駆け巡るのを感じながら、左手に魔力を一気に込めた。
「行けっ……メラーッ!!」
そして放たれる渾身のメラ。勢い余って魔力を流し過ぎたか、メラが若干暴走気味ですらある。
普通よりも少し大きな火球となったメラはそれでも真っ直ぐにスモークへ飛んで行き……そのままスモークの命を焼き尽くした。イレブン達の、勝利だ。
「……ふぅっ。ヒヤッとした……」
二体のスモークが完全に消滅したことを確認すると、イレブンはどっと疲れた顔でその場に座り込んだ。怪我こそ無かったものの、厄介な敵、一瞬の魔力切れ等、精神的に焦る場面が多かったのだ。何よりも、もたついていたらマノロが危険だったかもしれなかった。
その渦中にマノロは怪我も無かったらしく、エマの前でバツが悪そうにもじもじとしていた。この神の岩は危険ということもあり、子どもが入ることを禁じられている。
「……ご、ごめんね。先回りしてエマねーちゃんを驚かせようと思ったんだ。でも、魔物に襲われて……」
「もう……怪我が無かったならそれでいいわ。……それにしても変ね、神聖な神の岩に魔物が出ることなんて、今まで無かった筈なのに……」
エマは頬に手を当てて考え始めた。そう、イレブンは知らなかった事実なのだが、この神の岩には今までは魔物は住み着いていなかったのだ。魔物自体が強力では無く、イレブンとルキのコンビでなんとかなっていた為、あまり深く考えてはいなかったが。
「でも、もうこんなことしちゃダメよ、マノロ。さあ、ルキと一緒に村に戻ってなさい」
「う、うん……わかったよ」
本当は一緒に戻ってあげたいが、儀式の最中に戻ることは許されていない。幸いルキもいるのだ、彼が一緒なら大丈夫だろう。
「ルキ、マノロをよろしくね」
「ワン!」
ルキが先導して、先程まで探索していた洞窟の出口(入口?)へ向かう。マノロもその後を追いかけていった。
「……イレブン、大丈夫?」
「うん、ちょっと疲れただけだよ。あんな魔物、初めてだったからね」
「そうよね……ちょっとだけ休んでいく?」
「うーん、大丈夫なんだけどなぁ……どうしようか」
二人がこの先に進む前に休むかどうかを話し合っていると、少しずつ空が暗くなり始めた。厚い雲が太陽を隠している──もうじき、雨が降るだろう。
進む前に休むかどうか。その答えは決まってしまった。
「……雨だ。早く進んでしまおうか」
「そうね。急ぎましょ」
神の岩頂上まで、あと少し。