ドラゴンクエスト ユア・ストーリー 続   作:こもれび

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第十四話 アルスとヘンリー

 お母さんの言いつけでボクは天空城へと駆け込んだ。

 外階段を駆け上って上階のバルコニーから中へと入り、そこから北の尖塔への階段を上ってラインハットからの避難民や兵士が集まる広間への扉を潜った。

 

「おお、アルスか。そんなに慌てていったいどうしたのだ?」

 

「あ、ヘンリー様! 良かった、すぐ見つかって」

 

「ん?」

 

 アルスの前に立つのは銀の甲冑を着込んだままの若草色の髪を伸ばした若い男。

 そのいでたちや佇まいから、辺りで腰を下ろし休んでいる兵士たちと変わらない様子であるが、この男こそが現ラインハット王国国王の実の兄して、次期国王と目されるヘンリーその人であった。

 

「アルス、少し待て。この水をあの人たちの元へ運んでやらねばならぬのでな」

 

 ヘンリーはその手に並々と水の注がれた大きなバケツを抱えていた。

 それを軽々と持ち直すと、アルスを伴って、奥の寝台で横になる具合の悪そうな女性の元に。

 その枕元にバケツを置くと、看病していたのだろう、その女性の娘と思しき女の子に優しく言った。

 

「ここは水場が遠くて不便をかけるな。どうだ? 母君の容体は?」

 

 急に現れた水の入ったバケツにびっくりした女の子は、あわててヘンリーを見上げて、その笑顔を見てぱあっと明るく微笑んだ。

 

「あ、ヘンリー殿下! お水ありがとう! お母さんは貰ったおくすりが効いたみたいで、もう苦しくないみたいだよ」

 

「そうか、それは何より。だが、油断はいかんぞ。体調が戻るまでは、水分と食事をきちんととることだ。よいな!」

 

「うん! わかった!」

 

 明るく返事をする女の子の頭に、籠手のままの手で優しく触れるヘンリー。

 その様子に、周囲で臥せる町人や、兵士たちもほうっと頬を緩ませた。

 

「さあ皆のもの遠慮はいらぬ。して欲しいことはどんどん我に言うがよい! 今は助け合わねばならぬ時だからな、出来ることならなんでもしてやろう、はっはっは」

 

 そう豪快に笑ったヘンリーに、頼んだらその後が怖い、また変なものでも食べましたか? などと、不敬極まりないことを叫ぶ兵士たちの姿が。

 しかし、何も気にした様子もないままに、それに更に毒舌で返すヘンリーの姿に、周囲の人々は爆笑に包まれた。

 

 アルスはそれに釣られて、大口を開けて笑っていたが、ヘンリーが突然向きを変えて彼に顔を近づけたので慌てて気を付けをする。

 

「さあてアルス待たせたな。で? どんな用なんだ?」

 

 そう聞かれ、アルスは慌てて口を開く。

 サラボナの住民の救出に成功したことを、祖父のダンカンが救われたことを。それと、父リュカが帰ってきたことを。

 

「なにっ!! リュカが帰ってきたのか!! おお……それは……おお、おおっ!!」

 

 喜色満面で喜びを爆発させようとしているヘンリーだが、アルスはその腰にしがみ付いてその行動を抑えようとした。

 このままでは叫んで転げまわりだしそうに見えたし、それでは大事な話の続きが出来ないと思えたから。

 

「待ってくださいよヘンリー殿下! まだ、まだ話は終わってないんです。ボク、お母さんにヘンリー殿下から借りてくるように頼まれたんです! あの! 僕に、ラーの鏡を貸してください!」

 

 そこまで言った時、ヘンリーはその動きをぴたりと止めた。

 そして、今度はアルスの両肩をしっかりとつかんでその顔を見た。

 

「ラーの鏡は我が国の宝だ。そしてその力は、写したものの真の姿を暴くとされている。つまり、アルス達は帰ってきたリュカが偽物だと……?」

 

 一瞬の洞察で、そこまで言い切ったヘンリーに、アルスは逆に自分がそこまで考えていなかったことに思い至った。

 母がラーの鏡を欲した理由を考えれば、確かにリュカの正体を調べるためであるのだろう。

 では、あの父親は偽物? モンスターが化けているということ? になるのか?

 と、今度は逆にアルスの頭の方が混乱しきりとなってしまった。

 

「どうしたのだアルス? 母君は急ぐように命じたのであろう? ならば一刻の猶予もならぬ。では行こうか!」

 

「え?」

 

 急に立ち上がったヘンリーは、アルスの手を掴むとそのまま急ぎ足で現国王であり、実の弟であるデールの元へと向かった。

 天空城のもう一段上の階に母親や大臣たちと一緒にいるデール国王の部屋を乱暴に開けると、ヘンリーは即座に奥に積まれたままの宝物の中からラーの鏡を取り出して、それを掴むと、じゃあ、借りていくからなと再び部屋を飛び出した。

 そして、その勢いのままに、城の一階、難民が一番多く集まっている大広間へと降りて行き、その中央で兵士や天空人と話しているリュカへとまっすぐに近づく。

 アルスは手を掴まれたままでただ引きずられ続けていた。

 人をかき分けつつ大股で歩くヘンリーは、リュカの前に立つや否や、突然ラーの鏡を彼へと向けた。

 

「やあ、我が親友リュカよ。のっけからすまぬが、この鏡をよぉく見よ。さあ、見よ、見ているか? ん?」

 

 あまりに突然のその行為に、頼んだ方のアルスの方が驚き慌ててしまう。

 ヘンリーは何度も角度を変えて、リュカの前に鏡を出した。

 横から、斜めから、上から、正面から。

 その都度、リュカは鏡を苦々しい顔ではあったが、確かに見ていた、覗き込んでいた。

 

 アルスは考えた。

 

 もしこの父親が、モンスターが化けた姿であったのだとしたら、今この場でその正体が暴かれすぐさま戦闘になってしまう。ならば、自分も戦いの準備をせねばと。

 空いているほうの手で、いつでも天空の剣を掴めるように準備をしつつ、慎重に事態の推移を見ようとしていたアルス。

 だが、

 

「何をするんだよ。こんな鏡を見せやがって」

 

 リュカはそんなことを言いながら、手で鏡を押しのけた。

 するとヘンリーは目を細めてじろじろとリュカの全身を見始めた。

 しばらく、眺め続けるヘンリー。

 

「なんともない? 何もおきない? うーん、じゃ、そういうことか」

 

 ヘンリーはパッとラーの鏡を手放して、両手で万歳のポーズ。

 アルスは慌てて宙を舞う鏡をキャッチした。

 

「お帰り我が親友!! よくぞ戻った!! 流石は我が第一家来だ!! あーっはっはっは」

 

 そう笑いながらぎゅうぎゅうとリュカを抱きしめるヘンリー。

 リュカはただただ憮然とした顔をしていた。

 

 アルスは次第と頬を緩ませ始めていた。

 

 やっぱりこの人はお父さんだったと。

 やっとお父さんに再会できたと。

 

 彼は心の底から喜びがあふれ始めるのを感じていた。

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