「見えたぞ、あれが大神殿だ」
天空城の足元の大地の切れ間、雲の隙間のようなその空間から下をのぞきこんだビアンカたちの目に、海から直接生えたような急峻な山塊を礎とした巨大な神殿がその姿を現した。
リュカの話では、この巨大な構造物の中には、いまだ多くの人間が囚われたままでいるという。
それを目の前にして、ビアンカとアルスは深く深呼吸をして覚悟を固めた。
ここに突入する人選はすでに終わっている。
突入を提案したリュカ本人、それとビアンカとアルス。
ヘンリーとその部下数人も待機中である。
すべて高レベルで構成されたこのパーティは、現在の天空城の最大戦力と言っても差し支えなかった。
その場の全員が今か今かと、突入のタイミングを計っていた。
雲の切れ間からぐんぐんと大きく見え始めた大神殿。天空城が高速で降下しているのだ。
そして……
「よし! 全員突撃ー!」
リュカのその掛け声に合わせて、天空城が接舷すると同時に全員で神殿へと突入した。
屋上テラスにはたくさんのモンスターの姿が。
りゅうせんしやメタルドラゴン、あくましんかんの姿がそこかしこにあった。
だがしかし、その戦力をもってしても突入部隊は動揺することはなかった。
なにしろ、すでに彼らはもっと上位のモンスターと何度も戦いレベルを上げてきているのだ。
押し寄せる敵を切り捨て、切り裂き、魔法で燃やし尽くしてその包囲網を崩した。
「よし、
「うおおおおおおおおおっ!」
ヘンリーの掛け声に合わせて、兵士の一団がモンスターを薙ぎ払いつつ神殿内へと突入した。
すると、そこには床へと倒れ伏した大勢のフードをかぶった人の姿が。
全員で確認してみれば、それは衰弱した捕らえられた人間たちだった。
「よし、全員を助けるんだ! ホイミ! ベホイミ!」
リュカがじゅもんで回復させるのを見つつ、ほかのメンバーも魔法や薬草で人々を治療する。
そして動けるようになった人から順に、天空城へと移動させた。
その数およそ100人。
次々に天空城へと逃げさせていく中、追撃のモンスターの数がいよいよ多くなってきたところでリュカが言った。
「よし! すぐに天空城を上昇させるんだ! 俺たちは後から追いかける」
それに応じるように、天空人たちのあわただしい声が張り上げられ、次の瞬間には天空城が天高く浮かび上がっていた。
大神殿のテラスに残されたのは、その掛け声を発したリュカ本人と、それ以外の突入部隊のみ。
目の前に現れたモンスターを、ヘンリーたちも、ビアンカ、アルスの二人も必死になって倒し続けていた。
その様子を、リュカはただ黙って見つめ続けていた。
そう見ているだけ。
激しい攻防を繰り広げる仲間たちを、ただ背後からずっと、だまって見つめた。
薄く笑みを浮かべたままで。
「そんなにおかしい? そんなに私たちが滑稽なの? リュカ……、いえ」
「ん?」
杖を振り上げてあくましんかんの一体をたたき伏せた、ローブ姿の金髪の女、ビアンカが振り向きまっすぐリュカを見て言い放った。
「この偽物!!」
彼女の瞳には怒りの色がはっきりと浮かび上がっていた。
そしてその唇をかみしめてはっきりと敵意を持ってリュカをにらみつけた。
「いったい何の話だい? ビアンカ。俺はリュカだ。そう言っただろ?」
リュカはビアンカの剣幕に圧されることもなく、薄く笑って彼女を見た。
そしてゆっくりと近づいて彼女の手をとろうとして……
ビアンカはその手を振りはらった。
「触らないで! リュカの振りをしないで!」
彼女に叩かれた手をさするようにして、リュカは苦笑いを浮かべて、小さな自分の息子へと声をかけた。
「おおいてえ、なあアルス? ビアンカが叩いたよ? ひでえよな?」
「やめろ!! お父さんの振りをするなっ!!」
アルスもビアンカと同様の反応。
彼を取り囲んでいた敵を一掃すると、今度はリュカへとその剣を向けた。
「なんだよ~お前までお父さんに剣をむけるのかよ、ひでえ家族だなあ、なあヘンリー? そう思うよな? 俺はなんてかわいそうなお父さんなんだって」
そう、部下の兵士と一緒になって戦うヘンリーに向かってリュカが問う。
だが、彼はそれに頷きもせずににやりと笑いながらリュカへと言い放った。
「思うわけないだろう、そもそもお前はリュカじゃないからな。いい加減正体を現せよ、この偽物」
「は?」
ヘンリーも周囲の敵を片付けると部下たちとともに剣をリュカへと向けた。
それから彼は口を開いた。
「お前がリュカじゃないことは、最初に会った時からわかっていたかなら。となれば、お前がここにこうして我々を連れてきた理由は一つしかない。我らを皆殺しにする気だった。それも、ここにいる私たちと、天空城の避難民すべてをだ。そのために、戦力の高い私たちをここに連れ出し、かつ天空城へとお前たちの手勢、つまり、さっき救い出したあのフードの人間たちだな、モンスターを化けさせたあの連中を天空城へと侵入させることで、それこそ全員を一網打尽にしようとした。と、つまりこういうわけだ。でも……」
そこまで言ってから、ヘンリーは空を見上げた。
そして、そこに現れ始めたそれらを認めて、話の続きを始めた。
「手口がわかっていれば、どうとでも対処できるものなのさ」
突然それは、『落ちて』きた。
空の上のほうで、ゴマ粒の様に見えていたそれは、たくさんのモンスターの姿。
その多くのモンスターの死骸が次々に天空から落ちてきて、周囲の海や、平野、神殿の構造物などへと衝突を繰り返した。
それは間違いなく、先ほど天空城へと運び入れた人間に化けていたもののなれの果ての姿。
無数の落下音とともに、激しく散らばり続けるモンスターの残滓を見ていると、空からひときわ大きな影がこの大神殿のテラスへと降り立った。
それはまさしく山のように巨大なモンスターの姿。
仲間となった、ブオーンがそこに立った。
「天空城へ攻め込んで来ようとした奴らは、この俺様が全部たたきのめしてやった」
「というわけさ、偽物のリュカくん」
突然のブオーンの登場と、あっさりと笑って軽口をたたいたヘンリー。
その様子に、当のリュカは呆然としていた。
しかし、それもほんのわずかな時間。
しばらくして、彼は下を向いたままでくつくつと肩を上下させつつ笑い始めた。
その笑いは次第に激しくなっていく。
何度も何度も肩を震わせていたリュカは、ついに大口を開けて大笑いを始めてしまった。
そんなリュカを、ビアンカやヘンリーたちは包囲したまま距離を詰めていく。
そう接近しながら、ヘンリーが尋ねた。
「何がおかしい? 何で笑う? 自分の企てのすべてを見透かされて、失敗しておかしくなってしまったのかい?」
腹を押さえて笑い続けていたリュカは、そのヘンリーの言葉を聞いて、はあーっと大きく息を吐いた。
それから顔を持ち上げて、にんまりと微笑んで彼を見た。
「いやあ、流石だよお前ら。まさかあの天空城に、こんなバカでかいブオーンを隠していたとはな。いやまいったまいった、本当に参った、くっくっく」
リュカはまだ笑いが収まらないのか、再び肩を揺らし始めてしまう。
それを見て、今度はビアンカが口を開いた。
「やめて! リュカの顔でそんな風に笑わないで! いったいあなたはなんなの? 教えて!」
リュカは、まっすぐビアンカの瞳を見つめた。