「自分を信じて『夢』を追い続けていれば、夢はいつか必ず叶う!」(D.gray-man×からくりサーカス)   作:チュンチュンお米パラダイス

11 / 12
・5年前に投稿し忘れた第2話追加しました。
・3話前半と8話後半加筆しました。
・2024/3/31、9話加筆しました。

やっと千年伯爵以外のDグレキャラ出せた……!


10,菫色の帽子

 

 

 足長クラウン号は崖の間を縫って、峡谷の更に深部に入っていた。列車は車輪の回転を緩めてスピードを次第に落として、やがて崖に取り囲まれた大きな湖のほとりで止まった。

「終点〜、黒の教団アジア支部前〜。」

 

 朝霧の立ち込めた湖の対岸には、崖に半ば融合する形で建てられた、屋根の切り立った中華様式の木造高層建築が見えた。見上げる限り遥か高い建物が朝霧の中に聳え立つ光景は、神々しく幻想的だ。この時代では考えられないような技術によって作られた、巨大な隠し砦だった。

  

「毎度ご乗車ありがとうございました〜。次の目的地が決まりましたら教えてください〜。」

 

 停車した足長クラウン号から、銀、グゾル、ララが降りる。ララは車輪付きの大きなトランクを一つ引いて、グゾルの頭にはグリュポンが乗せている。その後ろに、ペストマスクと仮面に加えて新しく貰った白い鍔広帽とマントで変装した銀が二人に付き添う。

 

「早い時間だけど、到着予定時間は知らせてあるから迎えが来るはずだよ。」

 そんなグゾルの言葉を聞きながら、銀が湖面の朝霧の中に目を凝らして見てみると、小さな人影が見えた。

 

 それは、舟もなく、水の上を歩きながらこちらに近づいてきていた。

 

 霧の中から現れたのは、見た目ララよりも少し年上の、10代なかばの年頃に見える少女。鍔なしの丸っこい紫の帽子に桃色の髪を納め、イヤーマフの様な飾りを被っている。袖口が丸く手が隠れているのが可愛らしい白のボレロを羽織っているようだが、胸元から下は殆ど下着とブーツのみの格好で露出が多く、寒々しい。

 

 少女の赤い強気な眼差しが一同を見渡す。そして、一番小柄なグゾルに目を留めた。

「お前がグゾルってガキか?……ってなんだよ!」

 

 グゾルも銀も、揃って片手で目元を隠す。

 

「すまない、お嬢さん。僕がこんな早朝に急かせてしまったしまったばかりに……ララ、すまないが、彼女にケープを貸してやって欲しい。」

 グゾルはキザったらしい仕草で少女から顔を背けて、ララに頼む。

 

「そんなモノいらん!別に寝ぼけてる訳じゃないわ!これだから外の連中は……」

 

 そう少女が言っているうちに、肩のケープを外したララがずいっと歩み寄る。少女は湖面を後ずさる。

 

「アンタもそこで止まれ!オマエたち、教団から逃げ回って何度もうちの団員を返り討ちにしたり、『鴉』攫ったり、ゴーレム盗んだり、ムチャクチャやってんじゃねーか!なのに急に入団希望で見学したいとか、怪しすぎンだよ!ここで全員拘束させてもらうからな!」

 

 少女は切り捨てるように丸い袖を横薙ぎにする。

 

「ていうか、後ろの悪趣味なやつは何だ?!デカくて不気味な顔が付いていやがる!新型のAKUMAじゃねえよな?!」

 

 少女が足長クラウン号を指さして、手をブンブン振る。

 

「まさか!僕の自動人形をアクマなんかと一緒にしないでおくれ!彼は足長クラウン号君だ!」

 グゾルはババーンと両手で背後の足長クラウン号をアピールする。

 

「ぽっぽ〜、よろしく〜!」

 足長クラウン号はぱちりとウインクして、挨拶をする。

 

 少女は悲鳴じみた声を上げる。

「シャベッタァ?!アイツも拘束しなきゃなんねえのか?!あんなデケェのどうしろってんだよ?!」

 

「ひとまず落ち着いて、このケープを使って下さい。」

 ララは少女にケープをずいっと差し出す。

 

「ああああ!もうッ!何なんだよ!違うっツッてんだろ!」

 少女は湖面をバシャバシャと地団駄を踏む。

 

「なるほど、水着でしたか。まあでも、今朝は寒いでしょうから……」

 ララは再びケープを差し出す。

 

「イラナイっての!」

 少女は目を吊り上げて、犬歯を見せてグルルルと威嚇する。

 

「まあ、困った娘ですこと。」

 ララは怖がる様にケープを引いて、肩を竦める。

 

「アジア支部の連中ときたら、こんないたいけな少女を薄着のまま一人で出迎えに行かせるなんて、可哀想だとは思わんのかね?」

 グゾルは額に手を当ててわざとらしく嘆く。

 

 少女は怒りで肩をぷるぷる震わせる。

「オメェ等あたしのことナメてんな?!もういい!そこまでバカにするってんなら容赦しねぇからなクソガキ共ォ!」

 

 少女は湖面を蹴って、目にも止まらぬ速さでララに接近する。前傾姿勢のまま右腕を額の前に掲げて、袖口を逆持ちの刃の形に変形させる。そして、刃を振るってララのケープを切り裂こうとする。

 

「人の好意は素直に受け取るものですわ。」

 

 ケープは刃の切っ先をすり抜ける。拡がったケープが翻ったかと思えば、その後ろにララの姿は無い。

 少女がケープの動く先を目で追うと、ララは既に少女の背後に回って腰にケープを結び付けていた。

 

「クソっ!自動人形のイノセンス……噂には聞いてたけど、こんなに速いのか……?!」

 少女が振り向きざまに背後に刃を振るうが、刃がララの首元に届く前に人差し指で摘まれていた。引こうにも押そうにも、刃はびくともしない。

 

 ララは背筋を正して少女を真っ直ぐに見上げる。

「危ない物はしまいなさい。あなた方がそれで安心するというのなら、拘束も受け入れましょう。」

 

「そうかい。ていうか、アンタらマジであたしにケープ押し付けたいだけだったのかよ……」

 少女は刃の変形を解いて、舌打ちをする。そして、耳に手を当てて、遠くの誰かと会話をする。

 

「……向こうはああ言ってるけどどうする?……あいよ。ったく、知らねぇからな!此処はガキが遊びに来るような場所じゃねぇんだよ……後から泣いても遅いからな。」

 少女は袖の中から札付きの鎖を取り出す。

 

「お気遣いどうも!でも心配ご無用だよ~~~~ん!」

 グゾルは明るい声で返す。

  

 少女は変装している銀の方を指差す。

「あと、そこの自動人形のフリした爺さんは部外者だろ。門を潜るのは許可出来ないからな。」

 

 一歩も動いていないのに、どうしてバレたのだろうか?

 銀はグゾルに声を掛けようとするが、口元に人差し指を当てるジェスチャーで止められた。

 

「あ~~~~……ちょっと待って。」

 グゾルも耳に手を当てて話し始める。

 

「もしもーし、キミが支部長?……もちろん、彼は至って普通の人間だとも!さっき送った指示書には目を通してくれたかな?……それの通りにちゃんと一緒に教団内部を案内してくれるって約束出来ないなら、キミとの契約も無しだよ〜ん。」

 

 話を終えたグゾルは少女の方に向ってOKサインを出す。

 

 少女は怪訝に眉を顰めるが、再び耳に手を当てて会話をする。

「……何?本当に大丈夫なわけ?……わァーたよ。」

 

 少女はグゾルたちに向き直る。

「確かに許可は取れた。爺さんの方は拘束はしないけど、あたしが監視に付くからな。ったく、めんどくせぇ……」

 

 顰めっ面の少女は、一番近いララの方から札付きの鎖を巻き付けていく。

「あなた、まだお名前を伺っていませんでしたわね。私はララと申します。」

 

「……あたしはここの門番のフォーだ。アンタのイノセンスは私が預からせて貰う。」

 鎖を巻き終わって、少女が札に手を翳すと、鎖全体が一瞬光を帯びた。

「よしなに。胸のところを開きましたら、イノセンスの入れられたケースに接続したケーブルを外せば、ケースごと取り外せますわ。」

 

 フォーは苦い顔で、ララに言われたとおりに手際よくララの胸からイノセンスの入ったケースを取り出し、袖口に仕舞い込む。

 

 その隙に、銀はグゾルから、眠ったグリュポンと大きなスーツケースを渡される。

「お願い、預かってて。」

 

 フォーは動かなくなったララを担いで、次はグゾルの方にも同じように札付きの鎖を巻いて担ぎ上げた。

 フォーは後ろを振り返って、足長クラウン号が目を閉じて、停止していることを確認する。

 

「そんじゃ、アンタは付いて来な。」

 銀はフォーの後ろを、スーツケースを引いて歩く。

 

 湖の周りを少し歩いて桟敷に着くと、深い水の底から小舟が浮上してきた。魔法か何かかが掛かっているのか、舟の底は水浸しにはなっていない。

 フォーが先に舟に乗ってララとグゾルを座席に座らせ、次に重たいトランクを舟に乗せてもらって、最後に銀が舟に乗り込んだ。

 舟はオールで漕がなくとも、ひとりでに動き出した。

 

 

 グゾルはご機嫌に鼻歌を歌って、美しい湖畔の景色を眺めていた。

 

 腕を組んだフォーが銀に話しかける。

「なぁ爺さん。アンタ、なんでこのガキに連れてこられた?」

 

 

「早速尋問かい?関心しないねぇ。」

 グゾルは振り返らず、それを遮る。

 

 フォーは眉を顰める。

「無関係の人間を教団の中に入れたところで、一生外に出られなくなるだけだぞ。」

 

「知ってる。でも、いつ外に出るかは僕らが自分で決めるよ。」

 

「ガキのクセして随分と自信があるんだな。二年間も教団から逃げ続けられるだけの実力があんのは確かみたいだけどさ……支部長と一体何の取引きをした?」

 

 振り返ったグゾルは嗤っていた。グゾルの口から紡がれるのは、さっきまで話していた英語ではない、彼が生来話し慣れた中国語だ。

「地下にあるモノ。キミたちの懸命な努力に心を打たれてね、是非とも僕が協力してあげようと思ってさ!」

 

 欧州出身である筈の10歳にもならない子供だと思っていたものが、突然流暢過ぎる中国語を話し始める異常な事態に、フォーもだんだん気味が悪くなってくる。

「何を知ってる……?それに協力だって?巫山戯てんのか?」

 

 カマをかけられて顔色を明らかに変えたフォーの様子に、銀はああ、これは金の言った通り何か闇があるな、と考える。

 

 グゾルは鎖に縛られたまま、舟の座席の上に立つ。

「僕はねえ、ものすごい錬金術師なのさ!今日はそれを証明するには良い機会だ。準備も整ったことだし、ショーを始めるとしよう!」

 

 足長クラウン号が居たあたりから、ドンと音が鳴り、幾つもの打ち上げ花火が同時に上がった。花火が開くと同時に、湖を覆っていた霧が魔法のように一気に晴れた。

 開けた視界の先には数十もの卵型のアクマの群れが押し寄せていた。

 

 如何なる技術か、何も無い筈の湖の上にグゾルの姿が大きく長方形に切り取られ、映し出される。グゾルの顔にはいつの間にやら笑顔の道化を描いた仮面が顔全体を覆っている。

 拡声されたグゾルの声が教団の建物の窓までビリビリと震わせて響き渡る。

 

「レディース・アンド・ジェントルメン!黒の教団アジア支部の皆さん、おはようございます!今日は朝早くからお越し頂きましてありがとうございます!今回は『真夜中のサーカス』、朝の特別公演となっております!ハハッ、名前が矛盾してる!『真夜中のサーカス』という名前の通り、普段は夜を彷徨う子供たちの為にサーカスを開催しているのですが、朝に公演を開くのは実は今日が初めてになっております!本日、団長のララはお休みさせていただいておりますが、」

 

 グゾルの仮面が瞬時に涙を流す道化に変化し、映像の視点が一時、人形となって動かなくなったララに向けられる。

 

「公演内容に影響は御座いませんのでご心配なく!」

 視点がグイっとグゾルの方に戻ると、その一瞬の間に再び仮面が笑顔の道化のものに変わる。だが、先程の笑顔の仮面とは異なり、道化は口を大きく開けて笑っている。

 

 それは、仮面の絵柄こそ京劇の化粧とサーカスのメイクで異なるものの、四川州の伝統芸能、変面だ。グゾルの顔は皮膚の病で酷くただれ、腫れている為、人前に出るときはこうして仮面を被って隠しているのだろう。

 鎖に縛られたままだというのに、グゾルは器用に大見得を切って、前口上を演じる。

 

「普段の公演と違って観客も大人の方が中心に揃っていますので、今回はいつもとは一味違う、スリリングで刺激的なパフォーマンスをお見せしましょう!それでは、これよりサーカスの開幕です!皆様、本日の舞台をご覧に入れます演者達を拍手でお出迎え下さい!」

 

 映像が途切れ、再び打ち上がった花火が尾を引いて交差する。何処からともなくワーっと偽物の歓声が上がって、空からキラキラと銀色の紙吹雪が舞い降りる。そして、おもちゃのように色とりどりのサーカスの人形たちが、笑顔で楽器を抱えて演奏し、身体を揺らしてリズムを取りながら行進し始める。

 人形たちは湖畔にずらりと並び立ち、陽気な音楽が湖畔に鳴り渡る。更に、サーカス団の人形達がボールやらトーチやらを投げ、はたまたブランコを漕いだり幻獣を操ったり、果てには巨大なメリーランドまで、楽しそうに飛んだり跳ねたり、舞い踊ったり転がったりしながらワラワラと登場する。

 

「な、なんじゃコリャあ!!」

 叫んだフォーは、顎を外しそうなほど驚いている。

 銀にとっても、その光景がまるで夢でも見ているのかに思えた。

 

 フォーの耳元から小さな話し声が聞こえてきて、はっと気付いた彼女はイヤーマフに手を当てて、その誰かと会話する。

「オイ、お前も見てるか?!……いや、イノセンスは人形から外して、発動なんかしてない。てか、それどころの話か?!」

 

 そうしている間にも、空からどんどんアクマの群れが押し寄せてくる。そして、自動人形達を射程に捉えると、一斉に砲撃を始めた。

 陽気な音楽を、砲弾の連射が掻き消そうとする。だが、音楽は止まない。人形の団員たちも倒れない。降り注ぐ砲弾を笑顔でピョコピョコと避けながら、陽気な演奏を止めない。

 

 人形の芸人たちは襲いかかるアクマを前にして歓喜に湧いて、一層飛び跳ね、踊り、転がる。ジャグリングで宙を舞うクラブがアクマの装甲を打ち付け、フラフープの輪が拘束し、カラフルな杭が突き刺さり、おもちゃみたいなハンマーが叩きのめし、獣の爪が切り裂き、回転するメリーゴーランドに巻き込む。

 

 アクマは自動人形達の攻撃の波に翻弄されるが、装甲が硬く、なかなか倒れない。だが、そこで飛んできた帽子がアクマを一瞬で真っ二つにし、美しい肢体のダンサーの手が踊って熱でアクマを溶かし、白い楽士のリュートの奏がアクマを弾丸ごと吹き飛ばし、緑の衣装の老爺はアクマを一つに圧縮して球体にし、その上でバランスを取って見せた。何十も居た筈のアクマは次から次へと自動人形達に弄ばれ、破壊されていく。終いには、アクマの死体でジャグリングし始める始末だ。

 

 機械人形が機械人形を無邪気に無惨に破壊している。観客の誰もが、できの悪い夢でも見てる気分になった。

 

「ウソだろ……対AKUMA武器でもない自動人形が、AKUMAを一方的に全部ブッ壊しやがった……」

 フォーはショーを前にして愕然とする。

 

「ハッハッハ!アクマが兵器である以上、僕の自動人形に勝ち目なんか無いもんね!」

 自動で面をフードの下に格納し、素顔になったグゾルは誇らしげに笑う。

 

 金の言葉に、銀は自動人形の黄金律(ゴールデンルール)のことを思い出す。

 自動人形は、観客にサーカス芸を見せるという性質上、観客である人の認知速度よりも速く動くことができない。だが、人間が自動人形に対して武器を扱う場合や兵器を前にした時は、その制限が無い。つまり、銃を持った人間に対して、自動人形は弾丸よりも速く動くことが出来るのだ。時代とともに武器や兵器の性能が上がるのに伴って、自動人形の動く速度もまた速くなる。そして、人類の開発する武器兵器は、少なくともこの先200年は自動人形に勝つ事は不可能である。兵器であるアクマがこの時代の人類にとってどれ程脅威だろうと、運動速度で自動人形に勝てる道理はない。

 

「なぁ、あの自動人形がイノセンスの力で造られたモノなんかじゃないってなら、一体誰があんなモノを創ったんだ?爺さん、お前か?」

 フォーの疑問に、銀はいやいや違う、と手を横に振って否定する。そして、グゾルを指差す。

 

「……まさかとは思うが、本当にお前がアレを造ったのか?」

 フォーは、席で脚をプラプラさせてるグゾルに聞く。

  

「んー、そうだね。全ての自動人形は、僕の設計が元になっている。一体、イノセンスを動力源とした500年前の骨董品であるララを除けばね。」

 

「なんてメチャクチャな技術力だ……こんなモンが全部、錬金術だって言うのか?本部の科学班(インテリ)でさえひっくり返っちまうよ!……にしても、銃も大砲も、イノセンス以外のあらゆる武器が通用しねぇ筈のAKUMAの装甲に傷を付けられるなんて、一体どういう理屈だ?」

 

「フフフ、それは企業秘密ってヤツだよ……!と言いたいところだけど、答えは単純。実のところ、自動人形の武器はすべて対AKUMA武器なんだ。自動人形の武器の作製はララの担当なんだけど、夜な夜な『アクマゼンブ壊ス……!』とかなんとかブツクサ言いながら、作った武器の仕上げにイノセンスの力で強化してるという訳さ。……僕の造る自動人形は決して弱くなんかない、生まれながらに完璧な存在だというのに……!イノセンスの力が無ければアクマ相手にはどんな攻撃も武器も殆どダメージ通らないとか、ほんっとアクマの装甲の頑丈さは巫山戯てるね。」

 グゾルは苛立ち紛れにそう愚痴を吐き捨てる。

 

「なんだ、そういうワケねぇ……人形の身体を武器にして戦う自動人形のイノセンスだからこその能力、ってことか。でもスゲェじゃねえか!対AKUMA武器がどんだけ強いったって、それを扱えるエクソシストは数える程しか居ねえ。世界中に無数に散らばってるAKUMAを相手にすんにや、どうしたって守れる範囲が限られてんだ。自動人形一体にあれだけの性能があんなら、防衛のために戦力を割いて広い範囲をカバー出来る。取り零すことなく守れる人の数が増えるっつうことじゃねえか!」

 フォーは頼もしいなオイ!と、グゾルの背中を叩く。

 

「うんうん。素晴らしい意見をありがとう、フォー君。そう、戦力の数……それこそ君たちが求めて止まないもののひとつだ。でも、その為には、自動人形の数をもっと増やさなければならない。けれど自動人形の数を増やすには、どうしても材料の問題が付き纏う……」

 

「アレだけの性能だ。やっぱり、自働人形を造るには貴重な材料が必要なんだろ?黒の教団は魔術師と錬金術師の巣窟だ。入手ルートの限られた材料だろうとなんだろうと、ここならでなら手に入れられる。それで教団と交渉ってとこかい?」

 

「そうとも!でも実のところ、材料の確保自体は本来そんなに苦労することでもないんだ。何故なら、自動人形を造る上で最も多く必要になるのは、新鮮な人間の血液だからね。」

 

 その言葉に、一気にフォーの顔の血の気が引いた。そして、彼女の赤い瞳に敵意と嫌悪が宿る。

「ハ、そんなモン使って自動人形を造ってやがったのか?!人を殺して数を増やすってなら、千年伯爵と同じじゃねえか!」

 

 グゾルは薄気味悪い笑顔を顔に貼り付ける。

 

「半分正解、半分ハズレ。僕は始め、これを人々への復讐の道具として造り上げた。その点では確かに僕も千年伯爵も大して変わらないね。僕は伯爵と敵対してるけれど、だからって君らの味方という訳じゃないし、なんなら、黒の教団にはしつこく追いかけられた上に大切な人形達を何体も壊されて大分ムカついている。だから、僕は血液の調達手段としてお前達を利用することを思いついたのさ。」

 

「テメェ……!」

 頭に血が上ったフォーは右手を大きな刃に変形させて、グゾルの首筋に当てる。

 

 そこで再び湖の上に、フォーに刃を突きつけられ、ニコニコ笑顔の道化の面を再び被ったグゾルがデカデカと映し出される。

 

「……と言うわけで、黒の教団アジア支部の皆さん!献血にご協力お願いしま~~~~す!」

 映像はすぐに途切れた。

 

 完全にからかわれたフォーのこめかみがブチ切れる。

「ア"ァン?巫山戯てんのかゴラァ?!」

 

 グゾルは大きな刃を突き付けられても尚、恐れることなく笑う。

「ハハハ、ごめんゴメン!君をからかうのが面白くてつい!でも、方法は悪くないだろう?手間は増えるけど、別に人を殺さなくたって血液は集められる。これまでだって、戦場周って、死体から溢れてる血液とか、人道にもとらない範囲でコツコツ頑張って集めてたんだからね!なのに、それでもララが嫌がるんだよ?だったら、この方法が安定した質と量を確保する上でも最善じゃないか?それに、キミら黒の教団が僕の自動人形を戦力として欲しいと言うならね、その分の材料ぐらいは自ら差し出すってのが筋だろう?だから、これは対等な契約なのさ。」

 

 フォーは目を閉じたまま空いてる片手で眉間を揉みほぐし、大きく溜息をついて、刃をしまう。

「……ったく、全っ然信用できねえが、所長が決めたことだ。あたしはオマエ等が約束を破って教団の奴らが傷付けられねえように見張るしかない。」

 

「結構結構!これから宜しく頼むよ、フォー君!」

 グゾルはフォーに向かってニカッと笑った。

 

 舟はサーカスの行われている場所からかなり進んで、湖を教団の建物の側面の崖に回り込んでいた。もと来た辺りは殆ど見えなくなっていたが、真夜中のサーカスのショーが一通り終わったのか、偽物の歓声が遠くまで聴こえてきた。

 

 

 





やっとフォーを出せた!フォーさんはDグレの中でも指折りで好きなキャラクターです。原作時点では男勝りでも精神面ではなんやかんや老成してるフォーさんですが、まだ物語が80年前なので、見た目と精神年齢殆ど変わらないチョロいフォーさんです。

真夜中のサーカスもようやく出せて嬉しい限り。書いてて楽しい……!
今回グゾル=フェイスレス君に中国の伝統芸能、変面を使ってもらいました。フェイスレス(顔無し) 度UP。変面は薄い布製のマスクを一枚ずつ剥がしていくことで、瞬時に仮面の絵柄が変わるように見せるというカラクリだそうです。プロの技は本当に凄い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。