「自分を信じて『夢』を追い続けていれば、夢はいつか必ず叶う!」(D.gray-man×からくりサーカス)   作:チュンチュンお米パラダイス

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ララとグゾルには本当に申し訳ないと思っている筆者です。
マテールの亡霊はD.gray-manの中でも一二を争う大好きな話です。ホントです。
でも思いついてしまったものは仕方がないのです。


1.菜の花色の思い出

 壊れた人形の少女と捨てられた少年は、たった二人で廃墟の街で暮らし始めた。過酷な環境のためにとうの昔に打ち捨てられた街でも、街を知り尽くした少女の知識があれば、子供一人分だけなら水も食料も賄うことができた。

 吹きさらしになって陽が差し込む廃屋で、机に座った少年が歯の欠けた古い櫛で、人形の長い髪を梳く。

「ほら、綺麗になったよ、フランシーヌ」

 整えて、絹の様に流れる髪を、少年、グゾルは満足げに眺めた。

 フランシーヌは整った髪を不思議そうに撫でた。

「ありがとうございます、グゾル様」

 振り返ったフランシーヌの顔の左半分は、割れた部分を覆うように白い布が巻かれていた。

「ねえ、僕は君と会ったときから君のことを"フランシーヌ"って呼んでるけど、いいのかな……?名前、あるんじゃないの?」

 出逢いの日以来、グゾルは少女をフランシーヌと呼んでいた。しかし、彼自身は彼女をそう呼ぶ理由を分かっていなかった。ただ、遠い記憶の中で、あの子守唄を聴いたことがあった気がした。

 あの日、フランシーヌと出会い、彼女の歌う子守唄を聴いた時、それまで塞ぎ込んで凝り固まっていた心が溶け出して、涙となって一気に溢れ出した。そして、結局疲れて眠るまで泣き続けていたのだ。今思い出すと少し恥ずかしい。

「グゾル様が与えられた名前が、私にとっての名前です」

「そっか……」

 机の上で脚をぶらつかせるグゾルは、視線を落とす。

「……グゾル様は壊れた人形である私を、独りで朽ち果てる運命から救ってくださいました」

 フランシーヌはグゾルと正面から向き合い、膝をついた。

「グゾル様、私をあなたに仕えさせて下さい。グゾル様はまだ体が小さく力も弱うございます。一人で生活するには多くの困難が付きまといましょう。グゾル様が大人になるまで側であなたを助け、守らせて欲しいのです」

 グゾルは小首を傾げる。

「……それって、僕のお母さん(ママン)になってくれるってこと?」

 その言葉に、フランシーヌ自身が驚いていた。

「そういうことに……なるのでしょうか?」

 グゾルは嬉しそうに小さく笑いかけた。

「これからよろしくね、お母さん(ママン)」

 

 ―――

 

 ある日の昼下がり、昼食後の片付けを終えたフランシーヌは、少し目を離したすきにグゾルの姿が無くなっていることに気付く。

「グゾル様……?」

 何かゴソゴソと物音が聞こえたかと思うと、廃屋の窓から2つの小さな手と、その下にぶら下がるピエロの人形が現れた。

「……繰糸傀儡?」

「しんししゅくじょしょくん!」

 ピエロが片腕を開いて軽くお辞儀をする。

「お初にお目にかかります。私はフーと申します。これから皆様にお見せする物語の題目は、『石像の宴』でございます。」

 まだ5歳の小さな指が操っているとは思えない、細やかな仕草。まるで、本当に生きたピエロが演じているようだった。ピエロはぴょんと飛んで、大きく腕を開いた。

「主人公はシチリアの青年貴族ドン・ジュアン。彼には妻エルヴィールがいましが、気まぐれに妻を置いて旅に出てしまいます。その果てに出会うものとは、石像のうたげとはどういったものなのでしょうか……それでは開幕といきましょう、拍手をお願いします!」

 フランシーヌはすっかり観客となって、物語の開幕を拍手で迎えた。

 しかし、物語は始まることはなく。横の出入り口からグゾルの顔が覗く。

「……ごめんね。ここまでしか出来ないんだ」

 頭をうつむかせたグゾルはピエロの人形を引き下げて、フランシーヌの下へ戻る。

「どうしてなのですか?」

「村に来てた人形劇の真似をしてみたんだけど、そこまでしか見てなくて……」

 そこから先は、観客の子供たちに気付かれて追い出されてしまったのだ。

「でも、上手だったでしょ?」

 期待を込めたキラキラとした笑顔でフランシーヌを見上げるグゾル。

「とても上手でした。グゾル様の操る人形はまるで生きているかのようです。もっと見てみたくなります」

 腰を落としたフランシーヌは、グゾルを褒めるように頭を撫でた。

「じゃあ!もっと練習してまた見せてあげるね、フランシーヌ!」

「約束ですよ。きっとまた、見せてください。」

 満面の笑みのグゾルに、フランシーヌも微笑み返した。

 

 ―――

 

 夢を見ていた。いつも見る不思議な夢。

 真夜中、月と星以外に何もない場所で、おかしな姿形をした沢山のピエロたちが列をなして楽しそうな音楽を奏で、芸を披露しながら前進していく。その列の中には大きな機械があって、沢山の金属の管から銀色の煙がキラキラと吐き出されている。賑やかなようでいて、パレードで笑っているものは誰も居ない。

 観客のいない真夜中のサーカスは、いったいどこへ向かっていくのだろうか……

 

 ―――

 

 あれから、一年近く経っていた。

 井戸から汲んで来た水をいれたバケツを、フランシーヌは両手に二つづつ、グゾルは両手で一つ持って、細い野道を二人で歩く。グゾルがバケツを持っていくと聞かないので持たせてみたが、凸凹の多い地面を一生懸命歩いているうちに、溢れた水が服を濡らしていた。日が暮れて空気が冷えないうちに、グゾルを着替えさせないといけないな、とフランシーヌは考えた。そこに、びしょ濡れになったことをまるで気にかけていないグゾルが話しかけてくる。

「ねえねえ、今日は西の畑に連れてって!春はお花が沢山咲いてるって言ってたでしょ?見てみたいな~~~~」

 グゾルは目を輝かせてフランシーヌにせがむ。

「駄目です。」

 取り付く島もなく、きっぱりと断られてしまう。

「何で~~~~?」

 グゾルは口先を尖らせる。西の畑は冬に一度行ったきりだった。その時は土と枯れた草だけで荒れ放題になっていたが、春になると花畑になるのだとグゾルに教えていたのだ。

「……あの場所は危険です。」

「どうして?」

「……」

 納得しそうにないグゾルに、フランシーヌは困り果ててしまう。そして、初めて嘘をついた。

「……怪物が現れるのです。子供は攫われてしまいますよ。」

「怪物?!」

 話に気を取られたグゾルは足元の小石に躓いてバケツをひっくり返してしまった。空のバケツが草原をカラカラと勢い良く転がっていく。

「グゾル、ここで待っていて下さい!」

 フランシーヌは自分の持っていたバケツを地面に置いて、転がるバケツを追って坂を駆け下りた。廃墟の街で使えるバケツの数は限りがあるのだ。壊したり無くしたりする訳にはいかない。

 

―――

 

 思っていたよりも時間がかかってしまった。フランシーヌが坂を登って戻ってくると、グゾルの姿が無い。そこには水が入った四つのバケツが残されているだけだった。

「グゾル様……」

 私が嘘をついたから、グゾル様をひとり置いていってしまったから、グゾル様は私のもとから離れてしまった。日が傾いてきて、冷たくなってきた強い風に吹かれる。地面に伸びた黒い影の中でフランシーヌの長い髪がバラバラと靡いて、大きな化物の手がこまねいているように見えた。

「グゾル様……!」

 あの人がまた、遠くに行ってしまう。フランシーヌは全力で駆け出した。

 

 ―――

 

 グゾルの心では、フランシーヌの警告や言いつけを守ることよりも、好奇心のほうが勝っていた。グゾルが急な坂が続く細い道を上がっていくと、広陵とした岩肌の群れの中に、鮮やかな黄色と緑が見えてきた。

「あそこだ!」

 グゾルは坂道を一気に駆け上がる。坂の終わりが見えて、畑の入り口に立った。目の前に広がるのは黄色の花の海。短い春の穏やかな風が、鮮やかな黄色い海を撫でて、一面をさざめかせた。

 ざざあ……

 歓声をあげようとしたグゾルの心は突如、一転して嵐に荒れ狂う波の中に放り込まれた。

 

 黄色い海の中で向かい合う二人の男女の影。その遠景の中で、男は女の首を両手で締め上げていた。

 

「グゾル様……!」

 疾走るフランシーヌの目の前にある坂の頂点に、小さな人影が見えてきた。グゾルだ。同時にぞっとするような嫌な気配を風の中に感じた。遠くに視線を向けると、空に幾つか黒点が見えた。鳥ではあり得ない、歪なシルエット。

「まずい……!」

 一気に加速してグゾルの背中から飛びつき、グゾルを抱え込んだまま菜の花畑の中へ飛び込む。悲鳴を上げるグゾルの口を塞いで、菜の花の影でじっと身を隠した。

 グゾルが叫ぶのをやめて、風で揺れる花がざわざわとたてる音が大きく聞こえた。花の陰の隙間から見える青空を、大きな奇妙な形の物体が3つ横切っていった。

 ようやく、フランシーヌはグゾルを抱えたまま身体を上げて、立ち上がる。

「グゾル様、お怪我はありませんか?!」

 土まみれになったフランシーヌの腕の中で、震えるグゾルの顔は蒼白になっていた。

「グゾル様……?」

 顔を上げたグゾルがフランシーヌへ向ける瞳は、まるで怪物を見る様な恐怖に染まっていた。

 グゾルの心に残された怪物の爪痕は、確実に彼を蝕んでいた。

 

 

 

 




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