「自分を信じて『夢』を追い続けていれば、夢はいつか必ず叶う!」(D.gray-man×からくりサーカス)   作:チュンチュンお米パラダイス

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すごい今更なのですが、2話に当たる部分を投稿し忘れててすっ飛ばしていました
嘘だろ……



2,銀色の髪

 

 グゾルはフランシーヌを避けるようになっていた。ほとんど必要以外に言葉をかわすこともなく日々が過ぎていく。静かにグゾルを見つめるフランシーヌの湖のような青い瞳が怖かった。

 あの日、菜の花畑で見たものが悪夢の度に繰り返された。脳裏で映像が蘇る度に、男と女の姿が少しずつ近く、鮮明になっていった。そして、その夢の後には必ず同じ続きがあった。男が女の首を絞める菜の花畑が燃えて一面の火の海になる。そして、炎の中から見知らぬ村が現れる。燃え盛る村で、派手なな格好の芸人達が村人の頭や腸(はらわた)を使ってジャグリングや綱渡りをする、サーカスが行われるのだ。それらも全てが炎に包まれて、今度は所狭しに奇妙な道具やガラス器具が乱雑に置かれた閉鎖的な部屋になる。そこで、グゾルは炎に囲まれたまま倒れている。炎の中で視線を上げると、誰かの手が血のような赤色をした柔らかい結晶を握っている。そして、結晶が閃光を放って砕かれるところで、いつも夢は終わる。

 

 花畑に居た彼は誰で、彼女は何者で、何故男が女にこれほど強い憎悪を向けているのか、グゾルには分からなかった。だが、それを理解したとき、ただのちっぽけでひ弱な少年は、巨大な地獄の機械に引き裂かれてしまうに違いないのだ。

 

「グゾル」

 フランシーヌがグゾルの前に立って、視線を合わせるようにしゃがんだ。向けられる青い右瞳に顔を背けた。

「グゾル」

 何時もは"グゾル様"と呼んでいたのに、そう呼ばれるのは初めてだった。

「私が、怖いですか?」

「……」

「私はこれまで無意識にあなたに影を重ねていました。あなたがいずれあの人になってしまうのではないかと、あなたと向き合うことを恐れてしまいました。」

 フランシーヌは古い情景を思い出すように、瞼を閉じた。

「私は、造物主の愛したフランシーヌという女性をモデルとして、彼女の生まれ変わりになるようにとその遺髪を移植されて造られた自動人形でした。」

 

 『さあ、このフランシーヌを笑わせてみろ。みんなフランシーヌのための道化になるんだ。』

 

「造物主はフランシーヌが亡くなったきっかけとなった村に復讐しても、決して笑わない私を気に入りませんでした。」

 

 『お前は笑ってくれなかった!お前はフランシーヌじゃない‼』

 

「造物主は私の首を締めて、菜の花畑に捨てて去ってしまいました。」

 

 『さよなら、フランシーヌと違う者‼』

 

「目覚めた私は、私が笑えるようになる方法を探すため、造物主の残した人形たちと旅に出ました。しかし、どれだけ残忍に人を苦しめ殺しても、おかしな姿の人形が滑稽な動きで芸を見せても、私は笑うことが出来なかった。

 そんな旅を100年間続けて疲れてしまった私は、私について来てくれていた人形たちのもとを去り、私を破壊してくれる者の所へ行きました。彼女、アンジェリーナは長年自動人形に敵対する人形破壊者、その武器となる懸糸傀儡を造っている人間でした。」

 フランシーヌは伏せていた瞼を開いた。

「彼女は身籠っていました。そして、私はその赤ちゃんの誕生に立ち会いました。私は赤ちゃんがあんな大変な思いをして大人たちに望まれ、あんなに必死でこの世に生まれてくることを知りませんでした。そして、何も自分ですることのできない小さく弱い生命が、10年、20年かけて一人で生きていくことを学んでいくものなのだと知らなかった。100年も世界を旅してきて、そんなことすら考えたことがなかったのです。

 私は思い知りました。私と創造主がどれほど身勝手で、なんと恐ろしいことをしてきたのかと。そんな恐ろしい存在である私だろうと、その赤ちゃんは構わず小さな手で私の指を握ってくれた。

 私は赤ちゃんの成長を見届けたかった。けれどある日、私達のもとに人形たちが襲撃してきました。その時、私は死んでしまいましたが、赤ちゃんは守ることができた。最後に、私のべろべろばあを見て笑ってくれました。」

 その時の笑顔を思い出して、フランシーヌも優しく微笑んだ。

「次に目覚めると、私はマテールで造られた人形になっていました。その時はフランシーヌ人形であった時の記憶はなく、ただ、与えられた役割のままに、疲れた人々の心を癒やす為に歌を歌っていました。けれど、子守唄を歌っていると、知らないはずの情景を断片的に思い出すようになりました。それから、私はただ唄い踊るだけでは無く、人々の生活を支える為に働くようになりました」

 腕力があった彼女は、初めのうちは男衆に混じって街の建設現場で力仕事をしていた。洞窟を掘ったり、石を積み上げる作業を、疲れを知らない腕に任せて男達の何倍もの効率で仕上げていった。だが、彼女が土まみれになったり傷がついたりするのを見かねて(彼らのプライドもあって)、今度は街の女達の仕事を任されるようになった。洗濯や掃除を一手に引き受けて家事の負担を減らしてくれる彼女に、女達は両手を上げて喜んでくれた。その仕事の中でも特に評判が良かったのが子守りだった。そのベテランさながらの手際の良さ、面倒見の良さに合わせて、彼女の子守唄で泣く子をあっという間にあやしてしまうのだった。

「しかし時代が移り変わると、人々はマテールの過酷な土地よりも住みやすい都会へと移住して行きました。やがてマテールの住人が一人も居なくなると、役割の無くなった私は壊れてしまいました。」

 フランシーヌはグゾルの手をとって、両手で包み込んだ。

「それから500年後、あなたと出逢って、フランシーヌと呼ばれて初めて、私はようやく全ての記憶を思い出すことができました。あなたは私と一緒に笑ってくれた。だから、あなたには私の全てを知ってほしかった。」

 フランシーヌの言葉を全て受け止めたグゾルは、久しぶりに口を開いた。

「……僕はただの哀れな捨て子、グゾルなんだって思いたかったけど、違ったよ。」

 それは今までのグゾルとは違う、嫌に大人じみた口調だった。

「グゾル……?」

 グゾルはフランシーヌ人形の手を振り払って、固く拳を握りしめた。

「"柔らかい石"を使ってお前を造ったのは僕だ。お前と最古の四人を連れてクローグ村の人々を虐殺し、ゾナハ病をバラ撒いたのは僕だ。笑わないお前の首を絞めて菜の花畑に捨てたのは僕だ。"柔らかい石"を奪うためにアンジェリーナを殺したのも僕だ‼」

 嘲笑ってやろうと思ってたのに、言葉尻が情けなく裏返った。どうしてこんなに眼が熱くなって、潤んでくるのか。

「全部僕なんだよ~~~~」

 拳で乱暴に涙を拭っても、次から次へと溢れてくる。涙を拭う拳がみっともなく震えていた。

 フランシーヌ人形は両腕でグゾルを包み込んで、背中をぽんぽんと優しく叩いた。グゾルは震える拳をフランシーヌの胸に叩きつけた。それも所詮、5歳の子供の力でしか無かった。

「お前のことなんて大っキライだ~~~~!」

 グゾルだった少年は精一杯の大声をフランシーヌにぶつけて、疲れる果てるまでボロボロと涙を流して泣き続けた。

 

 

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