「自分を信じて『夢』を追い続けていれば、夢はいつか必ず叶う!」(D.gray-man×からくりサーカス)   作:チュンチュンお米パラダイス

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5億年ぶりの投稿
こんな未熟で不出来なものを、書くのも恥ずかしければ、投稿するのはもっと恥ずかしい

恥ずか死

2024/3/6 8話の展開のために加筆しました


3,碧色の結晶

 

 一夜開けて、グゾルは仏頂面で朝食を貪っていた。一言も喋らないが、それでも昨日までの塞ぎ込んでいた時よりはずっと良くなったとフランシーヌ人形は思った。

 何かが我慢ならなくなったのか、グゾルは食事を止めてフォークをやや乱暴に机に置いた。

「お前、最初に会った時から僕の正体に気付いてたな?!」

「はて、なんのことやら。」

 フランシーヌ人形は首を傾げる。

「お前が知る限り、本物のフランシーヌのことを良く知る人間は僕だけの筈だ。」

「けれど結局あの時点では、あなたはまだ私のことをママンと呼んでくれるただの子供でした。」

 グゾルはフードの下からフランシーヌ人形を睨みつける。

「おい、次にそのことを口に出したら分解してスクラップにしてやるからな。」

 あろうことかフランシーヌ人形を母親呼ばわりしていたことは、彼にとってなかなか屈辱的な記憶だった。

「申し訳ありません。」

 いかにも心のこもっていない謝罪であった。

「もういい……だいたい、何でお前も僕も過去にいるんだ!?」

 グゾルは怒った様にフランシーヌ人形に小さな指を突きつける。グゾルにしてみれば、彼が子供になっていること自体はまだ理解できる。"生命の水"もしくは彼自身が開発した技術さえあれば、人格の移植は可能なことだからだ。だが、死ぬまでの230年分の記憶を持ったまま、遥か過去の19世紀に存在しているのはどういうことなのか。

 

「私にも分かりません。」

 フランシーヌはグゾルが造物主と分かったときから少し棘がある物言いに変化していた。

 

「そうだろうな。だがな、お前が何かしらの切欠になったのは確かだろ。そもそも僕はお前に会った時からおかしくなったんだ。それまではただの子供でしか無かったのに!」

 

 フランシーヌ人形と出逢い、歌によって記憶を取り戻すことで初めて、グゾルは造物主"フェイスレス"となった。それは自らの身体と記憶を溶かした"生命の水"を飲ませ他人の身体を乗っ取ることや、記憶と人格を情報として他人の脳に《転送(ダウンロード)》するのとは異なる。

 グゾルとしての自我とフェイスレスとしての自我は完全に融合し、まるで互いに己の過去と未来を見つめ合っているような一体感と距離感を保ち続けている。それらが互いにせめぎ合い、どちらかが一方を侵食することはない。何故ならば、『フェイスレス』の記憶と人格は、元より彼自身のものだったからだ。

 

 グゾルは周りの子供たちと比べても、少し大人びた性格の少年だった。転んでも痛みで泣くことは無かったし、初めて見る筈のものに怯えたり物怖じすることもなく、癇癪を起こして両親を困らせることも無かった。きっとこの子は賢い子なんだ、今は治療法のないグゾルの未知の病も、将来はきっと自身の力で治せるようになるんだと、決して裕福ではない両親が高価な医学の書物をまだ4歳だった子どもに買い与えた。グゾルはその医学書に記された人を治すための難解で膨大な理論と知識、技術に心惹かれ、のめりこんだ。

 しかし、間もなくして両親が共に流行り病で亡くなってしまい、一人残されたグゾルは、彼を蝕む未知の奇病が、その流行り病の感染源だとして迫害された。村人達にグゾルが捕らえられ、亡霊が住むと噂される廃墟の都市マテールに捨てられた時も、グゾルは泣かなかった。黒死病、天然痘、百日咳――殆どの疫病の原因が特定されず、治療法も確立されていなかった時代だ。村人達には感染病と非感染性の病の違いなどの医学的知識など無く、未知の病の脅威は疫病の源として全て遠ざけるしか無かった。村人たちが捕らえたグゾルをそのまま牢屋に閉じ込め続けたり、生きたまま火にかけることもなく廃墟に捨てられただけで済んだことは、寧ろ幸運だったとすら考えた。

 廃墟の街マテールに捨てられたグゾルは、廃屋の壁を背にして座り込み、満天の夜空を見上げた。眼の前に広がるのは、見渡す限りに綺羅星を散りばめた宇宙(そら)。19世紀を生きる人類にとっては、遥か遠き未知の場所。だが、グゾルはそこに居た。そして、彼方の宇宙から、丸く、青く輝く美しい星をその両目で見下ろしていたのだ。

 グゾルの眼の前で、一筋の流れ星が墜ちた――

 

 

 

 フランシーヌ人形は俯いて、片手を胸に置く。

 彼となんの関わりがない子供が、フランシーヌ人形と会ったというだけでそれまでの人格を亡くして別人になってしまう。それはフランシーヌ人形にとって深刻な問題だった。

「……もしかしたら、私の動力源が何か関係しているのかもしれません。」

 

「動力源?」

 グゾルは片眉を顰める。

 

「"柔らかい石"から得られた"生命の水"やあなたの創り出したアポリオンとは違います。私の身体はあなたの"聖なる術(アール)"が造る自動人形と比べれば、ずっと単純な構造でしかありません。それでも人の様に振る舞うことができるのは、動力源がその様に因果を逆転させているからなのです。」

 グゾルは人差し指で机を叩いていた。

「摂理を捻じ曲げるエネルギーか……それが時空にも作用したとでも言うのかい?」

「あくまで仮説です。」

「ふ〜ん。気になるから後で中見させてもらっていい?」

「よしなしに。」

 朝食を食べ終えたグゾルは他の廃屋から使えそうな道具を集めて、準備を整えた。

 道具を使うまでもなく、フランシーヌ人形の胸のパネルは簡単に開いた。人の心臓に当たる位置にあったのは、両端から管の生えた硝子の入れ物。その中身は、碧色に発光する立方体の結晶の周りを交差する金の歯車が取り囲む不思議な物体だった。

「何だこれは……それに、どうしてこんな適当な装置でエネルギーが供給できてるんだ??それどころか身体が殆ど空っぽじゃないか。こんな構造じゃロクに身体が支えられるわけが無い。全く、滅茶苦茶だ。」

 グゾルは思わず頭を抱えてしまった。人形としてはともかく、自律して稼働する自動人形としては全くなっていないのだ。そもそも、駆動系どころか身体を支える骨組みすら全く見当たらない。

「この調子じゃ、頭の中から手書きの楽譜とか出てくるんじゃないのか?まったく恐ろしいね。」

「変なことを言わないで下さい。」

 フランシーヌ人形は顎をカタカタ鳴らしながら言った。胸のパネルを開いたときから、彼女の顔は生きた人間の少女と変わらない容貌から、朽ちかけ果てた操り人形のように変貌していた。彼女の顔は最初から人と見紛う精巧さ、まして表情をつくる機能など無かったのだ。全てはこの結晶が生み出す虚構だった。

 グゾルがいい事を思いついたといった調子で、指を立てて提案する。

「なあこの身体、新しいのに造り替えてみたらどうだ?」

 この不思議な結晶の力がなければ単なる木偶の身体ではなく、彼自身の"聖なる術(アール)"が作る高性能な自動人形の身体に結晶を組み込んだとしたら、より素晴らしいものができるのではないのだろうか?グゾルの好奇心はこの摩訶不思議なエネルギーと錬金術師、そして人形師としての自分の技術との融合に向けられていた。

「……今のままでも不便することはありません。」

 そんなグゾルの考えを察して、フランシーヌ人形の心は暗くなった。

 グゾルは片眉を上げる。

「そっか、残念だな。」

 グゾルがあっさりと諦めたことに、フランシーヌ人形はキョトンとする。

「だけど、その顔を壊れたまま放っておく訳には行かない。治すぐらいは良いだろう?」

 そんな彼女をよそに、フランシーヌ人形の胸を閉じたグゾルは話を切り替える。

「僕はクローグ村へ行こうと思っているんだ。」

 それはフランシーヌ人形にとっての始まりの地であった。

「クローグ村ですか。今はあの村で私達の引き起こしたあの惨劇から1年程経っているでしょうか……。今の私達が出会ったのもちょうどその頃でしたね。」

 つい最近までただの5歳の子供で年月もろくに把握していなかったグゾルは、過去の自身と現在の関係をここで整理する。

「それなら、今はもう僕がフランシーヌ人形を捨てて旅に出てて、フランシーヌ人形はキュベロンの城で"最古の四人"を再起動させようとしている頃かな。まったく、過去の本物と今の僕達が同時に存在しているなんて、やっぱり変な気分だ……何か妙だ、偶然なのか?」

 どこか引っ掛かるが、その正体は考えても分かりそうになかった。

「折角過去に戻れたなら、どうしてフランシーヌが死ぬ前、いや、僕がフランシーヌをプラハから連れ去る前じゃなかったんだ……。」

 グゾルはブツブツと文句を呟く。彼をグゾルに転生させた神が居たとしたら、そいつは相当意地が悪い。神罰とすれば、ぬるすぎるくらいなのかもしれないが。

「まあともかく、僕はアンジェリーナを助けに行こうと思う。お前の歌ならゾナハ病を治せるだろう。」

 アンジェリーナはフェイスレスがかつて恋した女である。結局その恋は実らず嫉妬に狂ったフェイスレスが殺してしまったが、自身の間違いを認めた後で同じ過ちを繰り返すつもりは無かった。彼が出来るやり直しの第一歩であった。

 フランシーヌ人形は目を見開く。

「あなたの旅に、連れていってくださるのですか?」

 彼女が煌めかせる眼の眩しさに、グゾルは思わず目を逸らした。

「当然だろ、今の僕じゃ歩くのも遅いし、危険も多い。」

 以前10歳かそこらでひとり旅をしていた時は"生命の水"を飲んでいたから多少の飢えも危険も大して問題では無かったが、今の5歳の子供の体では路銀を稼ぐとこともままならない。

「ありがとう!」

 寝台から起き上がった彼女はグゾルにハグをする。

「あ~~もう、起き上がんないでよ。まだ修理が残ってるんだから。」

 そう言いながら、グゾルはどこか嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

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