「自分を信じて『夢』を追い続けていれば、夢はいつか必ず叶う!」(D.gray-man×からくりサーカス)   作:チュンチュンお米パラダイス

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次の話の投稿は5億年後です。


6,白色の燕尾服

 

 クローグ村は一見平和そのものに見えた。だが、あのキュベロン城の廃墟から出てきた後だと、その平穏がかえって不穏が入り混じったものに感じられるのだった。

 村人達はそれぞれが思い思いに生活を営んでいる。その中に、ぼうっとしたまま生きているのかどうかわからない程動かない者が何人か居るのが目についた。それらの目が何故か一様にララ達を追いかける。外の人間が珍しいのだろうか?

「なんかやっぱりコイツらムカついて来たな。」

 グゾルがぼやく。

「冗談に聞こえないのでやめてください。」

「はいはい。……あっルシールのババア発見!」

 どこか見覚えのある女性に向かって、グゾルがすれ違いざまに何かを爪で弾いた。

「何をしてるんですか!」

 ララは小声でグゾルを叱りつける。

「服の中にカメムシ入れてやっただけじゃないか?」

 グゾルは肩を竦める。ララは呆れてため息が出た。ララは振りえって、ルシールを追いかけようとする。

「もし、そこの奥様……ぁ、」

 

 

 そこに立っていたのは、美しい銀髪の少女だった。まだ小さいながらその面影が既にある。フランシーヌの似姿、アンジェリーナだった。

 

「あ、アンジェリーナ?!」

 遅れて振り向いたグゾルは仰天する。そして沸き上がった歓びのまま、アンジェリーナの手を両手で取った。

「良かった……無事に会えて良かった……!」

 くしゃりと笑ったグゾルの目が潤む。

 

「はじめまして。あなた、村の外から来た人?」

 アンジェリーナがグゾルに微笑みかけて、グゾルの手を握り返した。

「そうだよ、君の為に遠くから会いに来たんだ。」

 グゾルは溢れかけた涙を片手で拭う。

 

「そう、じゃあ……あなたなら安心ね?」

 

 

 目の前で、アンジェリーナの頭が巨大な銃口に変形した。銃声が鳴り響く。

 

 ララは咄嗟にアンジェリーナを蹴飛ばした。銃口が頭になったアンジェリーナが地面を転がる。

 周りにいた村人たちの幾らかが恐慌状態に陥ってその場から逃げ出した。彼女が撃ち出した砲弾のような巨大な弾丸は、あらぬ方向へと放たれた。だが、まだ危険は去っていない。

 起き上がったアンジェリーナが銃口の目の前にグシャグシャに折れ曲がった手指をかざして首を傾ける。

 

「危ないなあ~~~~もう!笑顔が下手くそだし喋り方もおかしいと思ったら、やっぱり偽物じゃないか!!」

 グゾルがいつの間にかこ指の間に挟み込んだいくつもの工具を偽物のアンジェリーナへ向かって突きつける。

「おいお前ッ!!アンジェリーナを何処にやったんだッ!!」

 偽アンジェリーナはクスクスと笑う。

「どこって、此処に居るわよ?」

 指があちこち折れ曲がった手を胸に置いて、銃口の頭を傾けた。

「アハハハハハッ!!!」

 大声で笑いだした偽アンジェリーナの身体が内側からどんどん膨らんでいく。そうして羽化した巨大な卵からいくつもの砲口が生えてきて、破れたアンジェリーナの皮が端っこの方でブラブラ垂れ下がっていた。

 その場に未だに残っていた村人達も、ずっとぼうっとしていた村人達も、ルシールまでも、アンジェリーナの様に次々と変形して、ララ達を取り囲むように巨体を浮かび上がらせた。

 

『そこの女!お前、イノセンスを持ってるな?!お前のイノセンスを奪い取って、千年伯爵様の為に捧げるのだ!』

 化け物の一匹が、ララを指さして言った。ララはグゾルを守るために腕の中に抱え込む。

 

「千年伯爵め……よくも、僕のアンジェリーナを殺したな……!!」

 ララの腕の中で、グゾルが怨嗟の声を上げる。

 アンジェリーナは別にお前のものじゃないだろうと思ったが、ララとて大切なアンジェリーナを殺されて怒りを覚えない訳ではない。

 

『死ね!!!』

 周りの化け物の砲口からララ達に向けて無数の弾丸が放たれて、凄まじい轟音が響き渡る。

 

 地面を大きな弾丸で次々に抉られる。巻き上げられた土煙の中から、ララの小さな体が飛び出す。

 砲撃は一旦打ち止めとなって、再度、猛スピードで走り去ろうとするララの背に砲口が向けられる。

 

 屋根より高い場所より狙われて、家屋を容易に破壊する威力だ。キュベロン城に逃げ込んだとて、あの数で攻められれば石造りの城壁もそう保ちはしないだろう。逃げ場所はない。

 

 再び無数の砲口が火を吹いて、ララの身が翻った。化け物の一体に、深々と大きな弾丸がめり込んだ。

 それから、弾丸が放たれる度に一体、また一体と自分たちが放った筈の弾丸に身を抉られ墜落していく。一体何が起こっているのか、残り数体になって化け物は一旦砲撃を止めざる得なかった。

 そして、眼下の土煙から、グゾルを抱えたララが目の前に飛び出した。化け物は咄嗟にララに向けて弾丸を放つ。だが、ララは放たれた弾頭を片手で受け止めると、弾頭の方向を化け物の方へと無理やり変えて、そのまま膝を使って弾丸を化け物の身体に打ち込んだ。

 両脇にいた化け物達は咄嗟にそれぞれ落ちて行くララに向かって撃ち込むが、ララは倒した化け物を足場として再び飛び上がり、射線の交わった2体の化け物は呆気なく相打ちで墜落していった。

 

 グゾルを抱えたララは、民家の屋根に降り立つ。

「うっ、気持ち悪っ。ララ、僕を抱えたままあんまり激しく飛び回るのはもう止めてくれ。」

 グゾルの顔は青ざめていた。巨大な弾丸が轟音を上げて降り注ぐ中、ララがグゾルを抱えてくるくる飛び回って、弾丸の軌道を変えて撃ち返していたからだ。

「吐くのはよしてください。服が汚れると嫌なので。」

「うぅ、この反抗期め。」

 地面の方で、墜落した化け物たちの身体から、紫色の煙がモクモクと吹き出す。その煙に当てられたニワトリが身体を真っ黒の痣の様なものに侵食されて、あっという間に死んでいくのが見えた。

 ララは屋根を伝って風上に周り、キュベロン城へと向かった。

 

 

「あの化け物、単純ではありますが、強いですね。威力も手数も、射程も相当です。今の私では、あとどれだけ戦えるか……」

 ララの手足は、弾丸を撃ち返す為にひびが入ってしまっていた。

「それに、一体どれほどの数がいるのやら……人に紛れて見分けがつかないというところも厄介です。……あなたが言った通り、最古の四人は完成させるべきです。千年伯爵とあの化け物は絶対に止めなければなりません。」

 あの化け物の存在はこの時代の人々にとって脅威であることは明らかであり、対抗手段を生み出すことは極めて困難だろう。

 だが、自動人形であれば。あの化け物に対する抑止力になり得る筈だ。人を殺すためではなく、今度は人を守るために我が子らを……

 

「……千年伯爵め、絶対に許さない。」

 グゾルは殺意に目をギラつかせ、犬歯を剥き出しにして奥歯を噛み締めていた。

 

 ララが前に向き直ると、空から傘をさした誰かが城の前の草原に舞い降りてくるところだった。

 タプタプとした腹の丸い体型に、白い燕尾服、デフォルメされた様な現実感のない奇妙な顔立ちに、やけに高い山高帽。

「……!!」

 

 ララが脚を止めると腕を離れたグゾルが地面に降り立って、白い道化に詰め寄る。

「千年伯爵……!」

 

「ハァイ♡はじめまして、醜いお坊ちゃん♡我輩が千年伯爵です♡我輩の大切なアクマちゃんたちをみ〜んな殺したのはあなた達デスネ?♡」

 

「アンジェリーナを殺したなぁああああ!!」

 

 グゾルが伯爵を下から睨みつけて、どす黒い怒りの矛先をぶつけた。

 

「ウフフ♡ アンジェリーナ、あの綺麗な髪の娘ですね♡ 仲良くしていた弟さんを無くして可哀想ニ……だから、我輩が生き返らせて差し上げたのデス♡ アンジェリーナの体を使って、ネェ?♡」

 伯爵の大きな体が影を持って、グゾルを見下ろす。

 対するグゾルは、胸の前に固く握った拳を掲げて怨嗟の声を上げる。

「アンジェリーナの美しさを欠片も理解できない下賤な豚め!よくも、完璧だったアンジェリーナをあんな不っ細工な化け物にしやがって……!これから成長して美しさを増すばかりだった彼女の美しい身体と魂は、お前のせいで永久に引き裂かれ、永遠に失われた!!」

 

「アナタがそれほど彼女の事を想っていたなんテ……どうデス?♡ 我輩がアンジェリーナ嬢を生き返らせて差し上げましょうカ?♡」

 

 伯爵はグゾルの感情を逆撫でする様にますます甘ったるい口調で煽り立てる。だが、グゾルは一転して怒りを収めた。

 

 

「……アンジェリーナを殺したのは僕だ。」

 

 無表情で語るグゾルに伯爵は困惑する。

「……ハイ??♡」

 

 そして、グゾルは顔の表情筋を極限まで歪めて笑った。子供が作りだしたとは思えない、悍ましい笑顔だった。

「僕にもお前にも、アンジェリーナを生き返らせる資格なんて無いんだよ~~~~ん。」

 

「資格?♡ そんなモノ、必要ありまセン♡ 我輩は世界に終末をもたらす為に、可愛いアクマちゃん達を増やし続けているだけなのデスから♡」

 

 二人の会話はどこまで行っても噛み合わない。

 

「お前が世界を滅ぼしたがってるのだったら、僕は世界を救うしか無いじゃないか。嫌だな~~~~、そんなの趣味じゃないのに。」

 グゾルはプイとそっぽを向く。

 

「クソガキひとりが我輩に勝てるとでモ?♡ お前はそこの人形のイノセンスを奪われ、我輩のアクマちゃん達に惨めに殺されてお仕舞デス♡……ぜひッ……………?!♡」

 

 

 伯爵は突然息苦しさに襲われ、背中を丸めた。

 グゾルは悶る伯爵の顔を覗き込む。

 

「おっやぁ~~~~?てっきり良く喋る豚なのかと思っていたけど、中身は人間だったか。」

 

「……オマエ、我が輩ニっ、ぜひッ……何をしタッ……?♡」

 伯爵は血走った目でグゾルを睨みつけ、首を指で掻きむしる。

 

 グゾルはそんな伯爵を正面から目を合わせ、舌を出してみせた。

 

「教えるかよ、バ~~~~カ。」

 

 伯爵は目を見開く。

 

 

「……ぜひッ……っ以前、同じ言葉を吐いテ……ぜひッ、死んだ男が居ましたネ♡……」

 伯爵は目の前の醜い少年の表情に、かつてキュベロンの城で殺した、狂った錬金術師の面影を見出した。

 

「これまで一体何のために僕が生かされているのか、全っ然分かんなかったんだけどさ。お前と出会ってようやく分かったよ。お前を破壊する為だ。僕は医者だから、世界を蝕むお前とアクマを取り除き、この病んだ世界を治すんだ。」

 グゾルは胸に手を添えて、舞台上の役者の様に語った。

 

「ぜひッ……ドンナに言葉を取り繕っても、ぜひッ、無駄デスヨ♡……お前のソレは、復讐以外にあり得まセン♡」

 

 グゾルは嗤いながら、高らかに語りあげる。

「復讐するは我にあり。我、これに報いん。されど、機械仕掛けの神(Deus ex Machina) なれば……!」

 

「悪魔が神を騙るナッ……!!♡」

 それを振り払うように傘を振り下ろした千年伯爵の足元が、唐突にひび割れて盛り上がる。地面を突き破って現れたのは、アンジェリーナの皮をぶら下げた卵型の化け物、アクマだった。

「……ぜひッ、このクソガキを撃ち殺してイノセンスを奪いなさイ!!♡」

 

 アンジェリーナのアクマの上から命令を下した伯爵の右目には、メスが突き刺さっていた。

 

「!?ッ♡」

 

「分解。」

 

 アクマの身体は一瞬にして解体され、アクマの骨格がグゾルの目の前に現れた。

 足元が崩れて伯爵が宙にひっくり返る中、グゾルの側に控えていたララが骨格だけになったアクマの頭を鷲掴みにする。

 しかし、伯爵は宙で身を翻し、アクマの骨格越しに尖った傘の先端をグゾルに向ける。危険を察知したララは手に握ったアクマの頭蓋を傘の先端に突き立て、頭蓋を砕きながら放たれた極光の狙いを反らした。

 

 地に足をついた千年伯爵は、息苦しさに身を竦めながら右腕に走った痛みに呻く。強張る腕を見てみれば、手首と肘のあたりに細い工具が幾つか深々と突き刺さっていた。

 最初に不意をついてメスで右目の視界を奪った後、伯爵の攻撃を躱して死角に潜り込み、傘を持った腕を使えない様にしたのだ。それらを行ったのは全て5歳かそこらの子供の身体を持ったグゾルだ。

 中身が子供ではないのは理解していたにせよ、千年伯爵はグゾルのことを舐めていた。その小さな身体でこれほどの事を成し遂げれれるのかと、関心すらしてしまうほどだった。

「……ぜひッ……正直、ここまで出来るとは思いませんでしタ……♡」

 

 右腕が使い物にならないのは問題だが、それ以上にこの原因不明の発作が、着実に千年伯爵の身体の自由を奪いつつあった。

 

「ほんとはとっくに動けなくなってる頃合いの筈なんだけどなあ。お前結構丈夫だね。でも、ゾナハ病がそのまま順調に進行すれば、君はいずれ死ぬ程の苦しみを味わいながら死ねなくなる。永遠の生き地獄さ。」

 グゾルは千年伯爵の視界と死角の間をうろちょろする。

 

「……貴様には聴きたいことが、ぜひッ、たぁくさんありますガ、ぜひッ……今日はここまでにしておきマス♡」

 まだ使える左手で傘を広げて、潮風を受けて空にふわりと舞い上がる。

 

 グゾルとララは千年伯爵を見送る。

「今度は僕の方からお見舞いに行ってやろう。お大事に~~~~!!」

 グゾルは伯爵に向かってブンブン手を振った。

 

 

 伯爵は糸の切れた風船の様に、あっという間に高度を上げて行き、そして幻の様に青空の中に消えていった。

 





2024/3/1 行間とセリフ修正

「復讐するは我にあり 我、これに報いん」は「悪を前にして人がすべきことは、自ら裁くことではなく、神による応報を待て」の意です。

アンジェリーナのアクマを解体したのは、グゾル=フェイスレスと見せかけて、実はララです。
 
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