「自分を信じて『夢』を追い続けていれば、夢はいつか必ず叶う!」(D.gray-man×からくりサーカス)   作:チュンチュンお米パラダイス

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なんと3年ぶりの投稿です。遅筆が過ぎる。
兎に角大変お待たせしました。まだ読んでくれる人いるかな……?

2024/3/18 銀兄さんの名前を金と間違えてる箇所修正


7,蒼色の翼

 

 

 

 3年後 モンゴル

 

 地平線に緩やかな丘陵が連なる平原。その中を人を乗せた馬が砂塵を捲き上げて勢いよく駆けていた。彼を追いかけるのは卵型の異形。馬上の男は馬の腹を踵で蹴って更に加速し、砂地に着弾した弾を避けた。馬が慄くのを彼は必死で制御して、鐙から腰を浮かせて走り続ける。

 見渡す限り隠れる場所など何処にもない平原を逃げ続けたところで、逃げ切れる筈がなかった。村を離れてから、既にかなり走り続けている。加速したはずのスピードが早くも落ちて始めて、馬の口の端から少しづつ泡が吹き出していた。化け物の砲弾から逃れ続けるのは、そろそろ限界だった。

 スピードが落ちたところで、馬の進路の先に砲弾が落ちる。馬は浮足立って暴れ、そこに立て続けに砲弾が撃ち込まれた。ボロ布を纏った男は、耐えきれずに手綱を離して馬から転げ落ちた。暴れる馬の体に砲弾が掠り、その場所からあっという間に星型の黒いあざが侵食して、全身が炭のように真っ黒になった。地面で脚をバタつかせていた馬は、恐ろしい毒であっという間に死んでしまった。

 卵型の化け物の身体に生えた幾つもの銃口が、全て男一人に向けられた。ここで旅が終わるのか……男は化け物を睨みあげながらそう覚悟した。

 

 

 だが、突如に化け物の身体が鮮烈な炎で覆い尽くされた。長い旅で草臥れたつば広帽の下の皮膚が、焼けるような猛烈な熱波を感じ取った。

 熱波が収まって目を開けた時、目の前に立っていたのは白い衣を纏った吟遊詩人の様な姿の男だった。白い帽子の下にある右眼には、瞳が2つ並んでいた。その奇妙な目が、こちらを見つめる。

「大丈夫か?」

 その声は思いの外やさしく、思い遣りがこもっていた。卵型の化け物は、地面に墜落して炎を上げて燃えていた。

「あ、あぁ。君が助けてくれたのか?ありがとう。」

 老いた男は差し出された手を取り、ゆっくり立ち上がる。綺麗で滑らかであるが、温度の無い手であった。美しく整ってはいるが、人間離れした容貌。

「……君は、自動人形なのかい?」

 言われた方はキョトンとした表情になった。老人は照れ臭くなって頭をかく。

「いや、申し訳ない。命を助けてもらった恩人にいきなりこんなことを聞くなんて……だが、どうしても気になったんだ。」

 思い出したのは、変わり果てた弟の創り出した自動人形たちのことだった。

「ええ、私は自動人形です。貴方の言うように、私の正体が気になるというのも無理はない。ですが、これまで私と出会った人間は、私のこの貌を見て驚いたり、怖がったりすることの方が多かった。こうして別け隔てなく感謝されるのも珍しいのに、一目で自動人形だと見抜けた者はあなただけです。」

 人に劣らぬ知性と心を持った自動人形が目の前に実在しているとは、驚かずにはいられなかった。白い自動人形は、まるで舞台上の役者の様に洗練された所作で頭を下げて礼をした。

「私はアルレッキーノ。貴方様の御名を伺っても宜しいでしょうか?」

 老いた男は礼を返して言った。

「私はしろがね……昔の名を、白銀(バイイン) という。」

 その名を聞いてアルレッキーノは目を見開いて驚いた。

「もしやと思っていましたが……私達はここ数年間、貴方様を探していたのです!本当に今まで良くぞご無事でおられました……!これで造物主様もお喜びになられるでしょう!」

 アルレッキーノの突然の歓喜に銀は困惑する。銀の医師としての腕の噂を聞いたものが、その来訪に喜ぶことは多い。だが、彼の言う造物主とは、いや、まさか……

 アルレッキーノの白い布で覆われた肩から、小さいものが飛び出してきた。

「ご主人様達に伝えといたッスよ!みんな喜んでて、すぐに飛んで行くって言ってるッス!!」

 ほんの手のひらサイズの青色の身体と翼、獅子の様な手足と黄色い嘴。西洋の神話に登場するグリフォンの様な、獅子と鷲を掛け合わせた様な姿だった。それにしては随分と小さくて可愛らしいが。その場でぐるぐると飛び回って、小さい体で目一杯に興奮の感情を表現していた。

「白銀様、始めまして!僕はグリュポンって言うッス!よろしくッス!!」

 グリュポンは銀に小さな鉤爪を無邪気に差し出してきたので、銀は人差し指をそっと差し出して握手した。

「よろしく、グリュポン。……それにしてもどういうことなんだい?私を探していたと言うのは。」

「ええっと……『その凶悪なゴーレムを造った魔術師は、人類を滅ぼそうとしている。その魔術師を倒すのに是非とも協力して欲しい。』ってご主人は言ってるッス!」

 魔術師の造り出したゴーレム――あの化け物を、まだ見知らぬ誰かはそう表した。男はその化け物が人の皮を破って出現する所を見た。あのようなものは、男がかつて学んでいた錬金術の領域からも逸脱した魔術による代物だと云うのは、確かにそうだろう。だが、見知らぬ誰かは男に対してその魔術師を倒すのに協力して欲しいと言った。それは、医者としての腕を見込んでの頼みでないことは明らかだ。医者になる以前の男の過去を知っている者は限られている。まさか――

 

 

「兄さん!久しぶり!」

 

 とびきり明るい子供の声が、男の頭上から降ってきた。声のした方向を見上げると、そこには羽根を広げた巨大なグリュポンと、その背中からこちらを笑顔で見下ろす、見知らぬ少年の姿があった。かつての患者の一人だったろうか?と男は首をひねる。

 地面に降り立ったグリュポンの背中から少年と、もう一人彼より年上の少女がひょいと飛び降りて、少年の隣に並び立つ。

 喜びを全身に漲らせた少年とは対象的に、少女の方は澄ました顔で少年の隣で控えている。頭に包帯を巻いて、フードを被った少年は無邪気な笑顔を男に向ける。

「ふふふ、分からないって顔をしているね。まあ、この見た目じゃ当然だよね。僕は金(ジン)だよ。信じられないかもしれないし、僕自身もどうしてこうなったのかまるで分からないけれど、そうなんだ。」

 そうだ。こんな見事な自動人形を創り出せるのは、我が弟において他ならない。しかし、弟の金は既に50代の筈だ。彼の孫とでもいうなら兎も角、この10歳にも満たない少年が弟だというのは本来ならあり得ない。包帯の合間から覗く少年の容貌も、子供だった頃の弟とはまるで似つかない。だが、こちらを見上げる少年の輝く目に、遠い昔の嘗ての弟の面影が確かに重なったのだ。

「まさか……本当に、金……金なのか……?」

「そうだよ、銀兄さん。本当に、本当に久しぶりだ……!」

 少年の眼に大粒の涙が溜まって潤む。鼻水まで出てきて、少年の金は涙声になる。

「ずっと謝りたかったんだ……僕が悪かったんだ、兄さん。フランシーヌのこと、先に好きになったのは僕の方だったかもしれないけれど、フランシーヌが先に好きになった人は兄さんだったんだ。それなのに、僕は……」

 金は鼻を啜って、目から大粒の涙をポロポロ流し始めた。まだ半信半疑だったが、外見はともあれ中身は弟の金なのだと銀は確信した。

「もう十分だ……私の方も悪かった。お前の気持ちも知らず、抜け駆けをしてしまったのだ。私は恨まれても仕方がない。とはいえ、彼女の心を無視したお前の仕打ちに、耐え難い怒りを感じたのも確かだ。だが、お前が悪かったことをそこまで理解しているのならば、それで十分だ。」

 フランシーヌの愛は、金に対しても確かに注がれていた。だから、先にフランシーヌを愛したのが弟だったことを知ったときにはそれ以上、弟を責める気は既になかった。

 フランシーヌの死によって全てが喪われ、ずっと昔に終わってしまったことだと思っていたが……だが、金にとってはそうではなかったのではないのか?別れる以前、狂わんばかりの妄執に取り憑かれていた金は、本来なら心の病がますます悪化してもおかしくない様な状態だった。兄はまたもや弟の気持ちも考えずに放ったらかしにしてしまったのではないのかと、銀は今更にして気がついた。しかし、弟に何があったかは全く分からないが、精神的にはかなり良い方向に改善し、成長したようで何よりだ。

 こうして今、金が過去を悔い改め謝罪したことで、フランシーヌを巡った兄弟の長年に渡る確執がようやく本当の意味で終わったのだと感じた。

 

 金は袖でぐいと涙を拭い取る。

「……僕が兄さんを探してたのは、謝りたかったのもあるけど……あの化け物、アクマを世界中に広げようとしている凶悪な魔術師にクローグ村を潰された。住民の殆どがあの化け物にすり替わってたんだ。」

「あんな化け物が、他にもいるのか?」

 あれは人類にとっての天敵だ。現代の人類の持つ技術では、あの凶悪な化け物に対抗し得ない。あの化け物を一撃で倒した自動人形は、それこそ例外だろう。あんな化け物が世界中にいるとしたら、人類は抵抗もままならず絶滅の危機に晒されることになるだろう。

「そうさ。……ここからは長話になるから、一緒に移動しながら話そう。伯爵に嗅ぎつけられないうちにね。」

 弟が指笛を鳴らす。

 すると途端に、砂の地面が振動し始める。どんどん揺れは大きくなり、地鳴りが近づいてくる。

 

「金……?!」

 

 弟達はというと、揺れにも音にも平然として待っているかのようだ。

 

「まあまあ、直ぐに来るからさ!」

 弟はニヤニヤ笑って手をヒラヒラさせる。

 

「何が?!」

 

 大きくなってきた地鳴りに銀は声を張り上げる。明らかにただ事ではない。一体何だというのだろうか?

 

 

 ついに地面が盛大に砂煙を吹き上げて、とんでもない大きさの何かが地面の下から現れる。

 地面を突き上げる螺旋を描いた巨大なドリル、続いて人の大きさ程もある巨大なピエロの顔、鋼鉄の車輪、馬車鉄道のような車体が幾つも連なっている。それは村々を放浪していた銀はまだ知らない、この時代ではまだ試作段階であるはずの世紀の大発明、蒸気機関車……の自動人形、足長クラウン号だった。

 

「ぽっぽう!!お待たせ~~~~!」

 

 銀は顎が落ちそうになっていた。ナンダコレハ。

 シルクハットを被った巨大な白塗りの顔が間延びした声で喋った。客車の窓のフェンスが砂を落として一斉に開く。重厚な鉄の車体とファンシーな極彩色の装飾の組み合わせが、いっそのこと不気味だ。怖い。もしかしたら、未知の呼吸困難の患者が突然巨大な化け物になった時よりも驚いてるかも知れない。今日一日だけで想像だにしない色々なことが起こり過ぎて、目眩で倒れてしまいそうだ。

 弟の金はよほど銀の様子がおかしかったのか、腹を抱えて大爆笑している。気を取り直した銀は、口の中に砂が入らないうちに顎を戻して、咳払いをする。

「金、そんなに笑うこと無いだろう……」

 こんなものを見せられたら、誰だって驚くしかない。

「ぷぷ~~~~っ!だって!兄さんの驚いた顔が面白くって!さあ、乗って乗って!」

 大きなグリュポンは最後尾の貨車の開いた天井からすっぽりと収まって格納されて、アルレッキーノ、少女が先に客室に乗り込む。差し出された金の小さな手を取って、銀も足長クラウン号に乗り込んだ。

 

 

 





やっとこの物語書いてて最も書きたかった話の一つを投稿出来ました。
次の話も半分以上はかけてるので、次の投稿は何年も間が開かないはず……
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