一般公募は学歴を問わず戸口が広い。義務教育終了程度の学力を求める筆記試験と面接、そして運動能力の測定という名目でトリオンの保有量を見極める最も大切なものとにわかれている。13歳のボーダーがいる時点で面接と学力はトリオン保有量の前には無意味だとわかる。一応、民間機関という側面もあるため、犯罪歴が世間で広く知られている人間は採用することができない縛りはあるものの、トリオン保有量と犯罪歴の有無、それだけがボーダーに入隊する条件だった。
その条件に照らせば、国常真人(くにつねさなと)は不合格のラインだった。14歳という年齢故に義務教育終了程度の学力は届かず、面接でもやる気は感じられるものの平凡きわまりないもの。ありていにいえば面接マニュアルにある凡例を自分流にアレンジしたような、うわべだけの印象しか与えることができない。そしてトリオン保有量は平均以下の数値。
運動能力だけみるなら上位に食い込めるだけの資質があるが、これも多くの訓練生に見受けられる。特筆すべきものではない。面接書類だけみるなら間違いなく不合格だった。マル秘と書かれた参考資料がなければ、の話である。
国常がこの一般公募を受けるに至った経緯、そして医療施設で行われた身体検査の結果、書類上の様々な内部調査。簡潔にまとめられたそれは、人事部を戦慄させるには十分だった。あの解体された支部から提出されたスカウトされた候補生の記録はたしかに人事部は保管していた。今回の一般公募と全く同じものばかりが並んでいる。
訓練生の段階でトリオンについての取り扱いや具体的な運用法を説明することになっている。一般公募の段階では公にされないのは間違いない。だからスカウトしたのだ、と察せざるを得ない。国常がボーダーたり得る理由は、その測定方法ではまず発見することが不可能なサイドエフェクトにあった。
特殊体質、トリオン変換。彼は周囲に存在するトリオンを吸収、貯蓄、放出することができる特異な体質だった。おそらくスカウトされた時点ではその量は微々たるものだったに違いない。だがスカウトされて数ヶ月、彼は秘密裏に建造された研究室に定期的に訪れ、実験を繰り返していたと証言している。サイドエフェクトは幼少期から発現した場合、20歳になるまでひたすら成長し続ける。
それによりトリオンも変質し、体も思考も変容していくことが知られている。人格形成に多大な影響をもたらすサイドエフェクトだった。さいわい、彼は物心つく前から苛烈な実験をひたすら強行された経験から、ボーダーに対する忠誠をすり込まれている。ボーダーが保有するものに付随するトリオン、それはトリオン体となっている隊員たちも含まれる、に手を出すことは禁忌だと教え込まれており、ネイバーに対する発動だけ反射レベルで学んでいた。
もはや人間に対する扱いだったのかすら疑問が浮かんでくるものの、情調面が全くといっていいほど育っていない無機質な機械じみた14歳である。不合格になったことで世間にその存在が暴露されれば、秘密裏に処理したその支部のことが表沙汰になってしまう。それだけは絶対にさけなければならない。その時点で、国常真人の不合格はありえないものだった。
そして彼は正式な、というのはおかしいが、正式な訓練生としてボーダーに入隊することになった。与えられた得点は3000点。トリガーを与えられた瞬間から、彼は平々凡々な一般公募の記録が嘘であることを証明するように、水を得た魚のごとく活躍することになる。
地形踏破訓練、隠密行動訓練、探知追跡訓練、戦闘訓練、入隊指導の戦闘訓練により与えられていたポイントはあっというまに跳ね上がる。初期ポイントが高かったこともあるが、彼は成績が異様によかった。喜怒哀楽を表にすることなく、たんたんと訓練をこなす。私情を挟まず、命令を遂行しようとすることに異様に固執する側面があるが、真面目な性格だととらえられた。
14歳にもかかわらず、新入隊員にあるまじき精神の安定さに、同僚達はそれだけ成し遂げたいものがあるのだと考えた。聞いてみると、ネイバーの撃破、闘争に対する異様な執着、そういったものが無口で無表情な中でも滑舌がよくなる。
国常真人は戦闘狂である。ネイバーを憎悪している。城戸派である。もともと所属していた支部がネイバーの奇襲で全滅したというカバーストーリーが流布する本部で、同期達が勘違いするのも無理はなかった。
まして支部長は城戸派の中でも過激派と目される男であり、スカウトしたのが支部長直属のボーダーたちだったというのだから。そして、なによりも。彼がこの支部にスカウトされるきっかけになったと思われる、オペレーターをしていたという姉を失っている。
「国常、このまま行けばB級になるよな」
「ま、当然じゃねーか?だってあれだろ、ほんとは試験だって免除されるはずだったんだし」
「訓練生としては長いみてーだし、えらいやつと同期になっちまったな」
「記録が残ってないから一般公募ってボーダーも厳しいことするね」
C級隊員の間では、一般公募では目立たなかったのに訓練から目立ち始めた彼を見て、噂が絶えない。そしてその噂はいつしか正隊員の耳にも届くようになる。至る所に彼の名前は噂の的であり、己の隊にスカウトしようと考え始めている者も居た。
「噂をすれば、ってやつ?」
「あ、ほんとだ」
「よお、国常。今日は訓練か?」
ロビーにつくとすぐに彼は好奇の視線の的になった。物怖じする性質ではないと同期達はすでに熟知している。14歳にもかかわらず軍人のような性質の彼は、どこか達観しているところがあった。その目が輝くのは戦闘においてのみ。挨拶しながら彼らに近づいた国常は、ああ、とうなずく。
開いているところはないか問う彼に、彼らはどこか楽しそうな笑みをたたえて促した。そこはつい先ほど正隊員に扱かれた彼らがいやになって放り出したところだ。彼が向かったのを確認して、彼らは周囲に国常が来たことを知らせる。戦わない方がいい、ポイントが削られる、暗黙の了解となっていることもしらず、彼はブースに入った。
部屋番号、トリガー名、そしてポイントが表示される。申し込みをしなければポイントは入らない。彼は自分に課したノルマを開始する。無限トリオンの環境で彼が負けることはない。いつもはネイバー相手にしか発揮することがない全力を彼は出す。対人に直接サイドエフェクトを行使することは上層部から禁止されているが、トリオンで生成されたあらゆる武器に対してはその限りではない。
目の前に現れた相手に向かって、トリガーの射程範囲を目測し、適切な距離をとる。トリオン体になった今、彼は現実離れした身体能力を獲得している。彼のすることはいつだって変わらない。彼がトリオンを吸収できるのは今のところ直接接した標的だけなのだ。書類上の彼をみるならアタッカーは当然、トリオンの保有量からみても当然、サイドエフェクトを知った正隊員たちからしても、それは当然の選択肢だった。
展開したシールドのまま突撃し、そのトリオンを取り込み、強化していく。そして、一定の吸収を迎えた時点で最速のまま形状を変化させ、一気に刃が体を真っ二つにする。ベイルアウトの音声が響く。トリオンを吸収すればするほど彼は調子が良くなるのを感じる。もともとのトリオン保有量は少ないのだ、燃費のいいやり方をたたき込まされてきた彼は、そのサイドエフェクトを発動すると強固になるシールドから繰り出される斬撃を繰り出す突撃兵とかす。
はじめは10本勝負がよかったのだが、初見殺しとしか言い様がない戦い方に地獄を見た同期はいつしか誰も相手をしてくれなくなってしまった。彼のサイドエフェクトを付与された相手は、そのトリオン体が決壊する速度に恐怖を抱くのが常だ。ほっておいたら全て奪い取られてしまうような錯覚を起こすと。
浮遊感はブースに帰還する合図だ。
手の甲を見る。
ポイントの目標値はまだ先だ。
彼はさっそく次を選択する。対戦ステージ、同期戦、スタートの合図が響く。
眼鏡をかけた国常くらいの少年だ。冷や汗が伝っているのが分かる。レイガスト、国常と同じトリガーだ。めずらしい。訓練生でも正隊員でもレイガストはその汎用性より一点突破が好まれる風潮から不人気だというのに。どうやら少年は国常を知っているらしい。
呆然と立ち尽くしているのが分かる。それは異常事態に立ち尽くすようにもみえた。その時点で彼のただでさえさざ波すら立たない平常心は、冷酷に少年を射貫く。トリガーを展開した彼はシールドモードではなくスコーピオンのモードに切り替える。その装甲は彼の知るシールドモードよりはるかに薄かったのだ。地を蹴る音に気づいて、少年はあわてて展開するがもう遅い。
C級候補生の中で最も注目度の高い候補生は誰なのか。それを思い知らせるように観戦者は多く、ロビー内の熱気はすさまじかった。彼らのざわめきは大きくなるばかりで静かになる気配はない。ブースにいる彼らの集中力を欠く行為を三雲は咎めることができないでいる。なにせ、そのざわめきの要員と先ほど相対することになったのだから。
できるなら自分もその熱狂に加わってしまいたい衝動に駆られるが、先ほど首をはね飛ばされた事実が数少ない理性となって押しとどめている。おなじレイガスト使いとしても、トリオンの保有量、そして今までの人生経験でこうも戦い方が異なる事実。憧憬と恐怖が同居する不可思議な感覚を抱いている同期から勝負を挑まれた。三雲は一瞬の迷いの後、了承ボタンを押した。
その自然な佇まいに三雲は固唾を呑む。強者は相応の空気を纏うものだ。荒々しく、重く、そして洗練され、刀のように鋭いものを。自然と周囲に感じさせる。そして、意図して隠したところで闘争の気配が視線や動作からにじみ出ている。だが国常にはそれがない。闘争にあふれた意思を公言してやまないのに、特有の雰囲気がない。異常なほど自然体すぎるのだ。戦力差がとてもはかりにくい。
トリオンの流れを見ることができる彼の幼なじみがいれば、おそらくそのおそろ過ぎるほど凪いでいる事実に驚愕することだろう。これからトリオン体になるとはいえ、命のやりとりをするとは思えないほどの。これが化けの皮だとするなら、たいしたものだ。だから三雲は汗が止まらないのだ。
なぜか彼は、三雲の幼なじみと同じように、トリオンの保有者を特定することに長けている。それは彼女には及ばないけれども、サイドエフェクトにより多くのネイバーのトリオンを原形を保てなくなるまで吸引してきた実績からだろうか。あっさりと位置を特定されてしまった。
レイガストは黒い。細かな部位まで全てが同じように黒い。所属していた支部で支給されたものらしく、通常のものよりずいぶんと色が違う。幅の広い曲刀は浅い弧を描き、鈍い輝きは次々と対戦相手を執拗に切り刻む。トリオンを搾り取るように不気味な雰囲気を発しているように見えた。まがまがしい輝きを放っている。
よどんだ瘴気に呑まれそうな錯覚に陥る。しかし、彼がシールドモードから刀モードに切り替えたことで、そのレイガストの装甲の甘さを見抜かれたと気づいた三雲はあわてて展開を始める。幾人もがそのシールドを破ることができないまま、幾重にも展開される刃にシールドごと貫通されてアイアンメイデンのごとくベイルアウトを強いられてきたのだ。それはいやだった。
だが、三雲が突撃の対策を講じているのを察知したのか、彼はいつもと違う展開をはじめる。
彼はレイガストを地面にたたきつける。すさまじい勢いで展開されるシールド。
「な、なんっ・・・・・・!」
トリオンにより分厚い塊と化したそれが周囲の建物を破壊し、まっすぐ三雲に向かってくる。そしてそれが三雲の足下にまで及んだ時、真下から幅の広い刃が頭上高くにまで三雲を真っ二つに切断した。ベイルアウト、という言葉が響き渡る。レイガストはシールドの状態から自在に刀を展開することができる汎用性は高いが重量がネックのマイナーなトリガーだ。
しかし、彼のようにトリオンさえ許すなら、こんなむちゃくちゃな使い方もできるのだ。シールドを展開して、そのまま刀を出現させて攻撃する。レイガスト使いなら誰もが知る基礎中の基礎の戦い方だが、そもそも不人気で使い手を三雲は同期で彼しか知らない。トリオン保有量が少ない三雲には絶対にできないやり方だ。それでも今までのやつと違って、違うことをさせたという事実は、ほんの少しだけ優越感を三雲は覚えたのである。
ベイルアウトした三雲は息を吐く。やはり国常真人は同期の中でも異様な存在感がある。三雲が彼に挑むのはこれで5回目だが、やっと今までと違う展開を引き出すことができた。さっそくログを確認し、データを転送する。自室に帰って検証しなければならない。国常に一撃を食らわせることができるなら、それはきっとトリオン兵に対しての強烈な一撃となることが約束されているからだ。
三雲はそのトリオンを吸収するというサイドエフェクトのために、一撃でどれだけトリオン体を破壊し、原形を保てなくさせるかに心血を注いでいる。人間に対しては絶対にやってはいけないことだが、鍛錬が可能なここだけは違うのだ。訓練生は外に出ることができない。人型のトリオン兵がいると講習で習ったその日から、国常は恐ろしいほどの出現率となっている。
きっと来たるべき日のためにその手数をひたすら研磨しているのだ。国常の試合はたいてい5分もかからず終わってしまう。サイドエフェクトや技術を引き出すまでもなく終わってしまうことが多い。その挙動から観察するしか対策はしようがなかった。
まだまだ足りない。一瞬でも国常の想定を覆すような発想に至れない。その想像を超える程度ではいけない。彼が目指す戦い方と三雲が目指すものは決して重ならないけれども、超えたいのだ。彼の想像でも、期待でもなく、その実力を。彼を超えないと三雲は彼の持つ異様なまでのネイバーへの憎悪からくる、闘争心に対する憧憬から抜け出すことができない。
彼の鍛錬を見るたびに引きずり込まれそうになるのだ。いずれその人から外れた性質に呑まれてしまうような恐怖があった。いつも三雲は葛藤が渦巻く感情を理性で抑え込み、ひたすら考察を重ねる。今はまだ、本性をあらわにする前に試合が終わってしまうから、その普段と変わらない穏やかさのまま相手を屠り続けるからまだいい。
三雲は上に上がりたいのだ。そうすればいずれさらなる強者を求めて国常も上がってくる。その場に居合わせることも多くなる。国常は闘争への歓喜を隠しもしなくなってくるだろう。そのとき、正気で居られるか、正直三雲は自信がない。
はあ、とブースに戻った三雲は息を吐く。
「・・・・・・まだまだ足りないな」
交戦するたびに思い知らされるのだ。国常真人という人間の異様さと己の未熟さを。噂に寄ればスカウトされた支部がトリオン兵の軍団に襲撃され、遠征にいっていたA級をのぞくB級、C級の隊員が皆全滅し、一般のスタッフすら死に絶えた支部で、唯一生き残り、援護部隊が派遣されたとき訓練生の装甲で懸命に戦っていたというではないか。修羅が生まれるのも当然だ。
むしろネイバーを憎悪し、一体でも屠りたいと鍛錬に向かうのが防衛本能のたまものなら三雲は肯定する。それが精神を守るための術なら。ただ国常はそれ以外は普通なのだ。修羅に堕ちたなら、平生も修羅に満ちた思考回路ならまだわかる。そういうやつだと割り切れる。そうじゃないからむしろ闇が深まっているように感じてしまうのだ。
三雲が心配したところで国常はたいしたことないただの同期だと思っているだろうけれど。
「何を怯えてるんだ、しっかりしろ」
気合いを入れるため、頬を叩く。三雲は国常と違って人間だ。雑念が交じるのは当然。でも相手に対して不必要な思考を巡らせて、己の意思を鈍らせてしまうのは、違う。実力不足の何物でも無い。それは国常に対する侮辱だ。国常に勝ちたくて知れば知るほど、彼への憧憬に引きずられている自分を自覚する。警鐘を鳴らす自分がいる。
戦いを知ろうとしている時点でこれなのだ。B級、A級、と上がるにつれて交戦、共闘、機会も増えてくるだろう。魅せられるのはまだいい、引きずり込まれないように、確固たる強さがほしい。自分の憧憬が共感に変わったとき、きっと三雲はボーダーを目指すきっかけになった幼なじみたちを切り捨てることになる。本当にやっかいな同期だ。だからこそ、超えがいがある壁でもあるのだけれども。
「ぼくはいずれお前を超えて、必ず、」
無意識につくった拳が白む。その先を三雲は紡ぐことができなかった。ひとりごとを本人に聞かれたあげく、先を促されたからだ。国常がブースから出てまっすぐに三雲のブースに移動していく様子を好奇心からずっと追いかけていた隊員達のざわめきが聞こえてくる。ようやく我に返った三雲は言葉を発することができない。
「ど、どこから、っ!?」
彼は返す。まだまだ足りないのあたりからだと、淡々とした様子でいわれる。最初からじゃないか、と三雲は頭を抱えた。人知れず抱いていた闘志をよりによって本人に聞かれてしまった。しかも現状の評価からすれば、路傍の石と変わらないはずの三雲から。
野次馬から聞こえてくる評価が三雲が想定していた罵声ではなく、やっぱりこいつらライバルだったのか、という方向なのがものすごく気になるが、本人を前にして野次馬に向かうわけにもいかない。というか初めて話しかけられたので対処に困る三雲である。
国常は馴れ合いを好まない。訓練には鬼気として挑む、鍛錬もすさまじい量をこなす。ただ友好関係が全く見えてこない。それは人付き合いが良好とはいいがたい三雲が言ってもブーメランになってしまうが、国常はさらに輪をかけている。もともと前所属の支部が壊滅して本部に一般公募から入り直したという経歴の持ち主だ。
遠巻きにされている自覚はあるのかないのか、話しかけられたら案外会話は弾むし、こっちに話を振ってくることもある。無口で無表情気味ではあるが悪いやつではない。噂を気にする様子もなく、怒らない。それをいいことにあること無いこと流布していることは気の毒でもあったが、あまりに目に余るものは牽制ともとれる行動にでるから喜怒哀楽はあるらしい。機械ではない。それがわかるまでは国常がいるとき、妙な緊張感が走ったのは記憶に新しい。
ノルマをこなしたらさっさと出て行くはずの国常が、どうしてわざわざ三雲のブースにまで移動してきたのか。ほんとうに三雲はわからなかった。
「なんで、ぼくのところに?」
気になったからだ、と国常は返す。たくさんあるポイント稼ぎのひとつにすぎないだろうなとなんとなく思っていた三雲だったが、国常は対人ネイバーに向けた鍛錬中なのだ、対戦相手の挙動を思っていた以上に観察しているらしかった。ログを確認し、資料にすることもあるという。
まさか国常にいつも自分がやっていることをやられているとは思わなかった三雲である。同時に合点がいった。通りでいつも対策を立ててもすぐ看破されて、一撃で屠られるわけだと。三雲の時の方がほかのやつと対戦するより新しい手数を披露する機会が多いのはそのためかと。国常自身、研究されている、と自覚したのは先日の一戦らしい。
答えはもう教えてもらった。聞く手間が省けた。
初めて見た笑顔と共に向けられた言葉に、三雲は撃沈する。ちがうんだ、ちがうんだ、そうじゃない、違わないけどそうじゃない、じゃあなんだと言われたらこまるけど。わけのわからないことを言いながらぐるぐるする内面は、喜んでいいんだか、悲しんでいいんだか、恥ずかしすぎてわけがわからなくなっていく。あああああしか出てこない脳内である。高揚している感情はもう制御不能だった。三雲はこの際だから聞いてみようと投げやり気味な思考回路のまま、国常に疑問を投げた。
「じゃあ、いい機会だから教えてくれ。国常にとって、強さってなんだ?」
国常はなんのためらいもなく言ってのけた。老若男女も貴賤も強弱も関係なく、そこにあるのは勝利か敗北かのみであり、生死はそれに伴う付属品に過ぎない、と。国常らしいと思ってしまった時点で、だいぶ思考が麻痺していると三雲は思う。乾いた笑いが浮かんだ。やっぱりこいつはナチュラルにおかしい。
「そこまで極端な考え方で生きてるのは国常だけじゃないか?」
不思議そうに国常は首をかしげる。残酷じゃない戦いって何だ、お遊戯かなにかかと純粋な疑問が投げられる。国常は言う。闘いたいから闘っているのであって、そこに理由などない。ネイバーとの戦いに挑むことはボーダーにとって戦いである。あらゆる面で死だけが平等だ。
いろんな理由を抱えてそこに立つとしても、実力があるかないかがすべてである。抱えたもので強さは決まらない。強いかどうかがすべてだと。だから自分は負けなかったし、死ななかったし、ここに居るのだと。信じてやまない顔である。予想した通りの脳筋全開の考え方に三雲は頭痛を覚えた。
「頑固だよな、国常って。知ってたけど」
解せぬと言う顔をしている国常に三雲はつっこみを早々に放棄した。悲しいかな、その純粋なまでの飽くなき闘争心に憧憬を抱いているのもまた、事実なのだ。三雲だって中学生である。どっかの漫画の主人公みたいな思考回路のやつがリアルに目の前で服着て歩いているのだ。あこがれを抱くことだって、たまには、ある。
案外話が弾むと国常も気づいたらしい。レイガストの戦い方、自分に対する対応策の構築について、当初の目的と思われる疑問を投げてくる。まさか張本人にぶつけられるとは思わなかったものの、正直悪い気はしない。三雲はさきほどの対戦ログを開示する。実は国常がここに来るようになってからの対戦ログを漁っていたことがモロバレになってしまうが、その疑問に答えることで頭がいっぱいの三雲はそこまで考えが及ばない。
聞き耳を立てていた野次馬が、ライバル同士がお互いの弱点を指摘しながら研究し始めた、とあらぬ噂から派生した噂を垂れ流す。ブースからでたときには、もうすでにその噂が取り返しのつかないところにまで及んでいることに三雲が気づいたのは、数ヶ月後の話だ。