目を覚ますと、見覚えのある部屋がまぶたを通じて映し出された。
見覚えのあるベット。
見覚えのある部屋の装飾。
見覚えのある家具。
そうだ、ここは私の部屋なんだーーー
「やっぱり、あれは夢・・・だったんだね」
安堵し、軽くため息をついた後に私はベッドから身を起こした。
普段から行なっている朝の身支度を手早く済ませて下の階に待っているであろう家族たちのもとへと向かう私の体全身が妙な懐かしさを感じていた。
おかしいな。だってあれは夢だったんだもん。
ほんの少しだけ長い夢を見ていただけなのにこんなにも懐かしく感じるなんて。
私は少しおかしくなった。そして、早く家族に会いたくなる気持ちを抑えて家族の待つであろう食卓へと顔を出した。
「おはーーー」
『おはよう!!』
え?
私より先に私が家族に挨拶をしていた。家族も先に挨拶をした私だけを見ていて私のことは全然見てくれない。
なんで?
何で私を見てくれないの?
私はここにいるのにーーー
私の悲痛な願いも虚しく、目の前では私と私の家族の団欒している光景が映し出されていた。
『今日は一人で起きられたみたいだな』
『うん、いつまでもお兄ちゃん達に起こされてちゃダメだもんね』
『もうなのはも小学生だからな』
『うぅ、娘の成長って早いもんだなぁ』
楽しそうに会話をしている私と私の家族。
だが、私はそれをただ見せられているだけだった。
決してその中に入ることはできない。
「ねぇ、誰なの?なのはは私だよ!その子は誰なの?」
必死に叫んだとしてもその声が家族に届くことはなかった。
いつまでも楽しそうに団欒している家族の光景が今の私にはとても見てられなかった。
わたしは楽しそうに会話をしている家族の姿に背を向けて歩いていった。
ふと、自分の手を見てみた。
白い手。私よりも幾らか大きな女の人の手だった。
私は目の前に映った鏡に自分の姿を写した。
そこに居たのは私じゃなかった。
オレンジ色の髪に青い瞳をした別の誰かだった。
「なんで・・・何でなの?何で私じゃないの?!」
目の前に映る自分に向かい叫ぶ。私の目からは涙が流れていた。
見ず知らずの体だが、今はこれが私なんだ
「返して!返してよ!私を返してよ!」
そう言ってひたすら鏡を殴りつける。嫌だ、嫌だ嫌だ!
もう、家族に会えないなんて絶対に嫌だ。
なにより、私でいられないのが何よりも嫌だった。
だから、私は目の前に写ってるこの女が憎らしく思えた。
「私を・・・私を・・・私を返せえええええええええええええーーーーーー!!!」
泣き叫び、強く握りしめた拳を自身の姿が映し出されている鏡に叩きつけた。
目の前の鏡は音を立てて砕け散り、その先に待っていたのは、何も映し出されない真っ暗な世界だけだったーーー
***
「・・・夢?」
目を覚ますと、いつもどおり薄暗い押し入れの中で私は目を覚ました。
どうやら、いまだに私は私に戻れていないらしい。
「今は・・・この体が、私なんだよねーーー」
納得したようなできないようなそんなモヤモヤしたら気持ちのまま私は寝床から離れた。
あんな嫌な夢を見た後じゃ二度寝する気になれない。
それに、時計を見たら良い時間になっていた。
それと同時にお腹が空腹を知らせる音色を奏でている。
「朝ごはん・・・作らなきゃ」
一人でそうつぶやき、私は身支度を済ませた。
私がこの【神楽】と言う女性の体になってからもう何日か経っていた。
そのお陰か神楽の身支度もだいぶ慣れてきた。
余分な髪を束ねて中華風の装飾が施された髪留めを被せてこれで完成。
なんとなく以前の私に少し似てる気がした。
早朝と呼ぶには少し遅い時間帯。この時間で起きてる住人はいない。
ここの住人は皆生活リズムが狂いまくってるらしく、しっかりしてないと私まで変なリズムになってしまいそうだ。
そうならない為にも私は調理場に立った。
実家が喫茶店だったのもあって自慢じゃないが人並みに料理は出来るつもりだ。
冷蔵庫の中を覗いたがもう余り食材はない。後二日もしたら中は空になりそうだ。
「今日辺り買い物行かないとなぁ」
などと呟きながらも朝食の支度を手早く済ませた。
手ごろな葉物野菜があったので今日の朝食は野菜サラダに目玉焼きとカリカリのベーコンとトーストと言ったごくごく普通な感じの献立だ。
(お母さんだったら、ここにスクランブルエッグとか足すんだろうけど、卵がもうないんだよね。今日の買い物リストに加えておこう)
朝食の支度を済ませていると、私の寝ていた押し入れの中から定春が顔を出してきた。
朝食の匂いにつられて目を覚ましたみたいだ。
「おはよう、定春」
「ワンっ!」
元気よく吠える定春の頭を私は優しく撫でてあげる。すると定春がとても嬉しそうに目を細めていた。
最初に定春を見た時は余りにも巨大だったそれに驚いて悲鳴を上げてしまったが、慣れてくるとそんな定春も可愛く見えてしまうから不思議だ。
「すぐに朝ごはん用意するね」
定春用に用意した肉の屑と野菜クズを合わせたご飯を定春用の器に盛り付けて床に置くと、それをガツガツと食べ出した。
巨大なだけあって凄いよく食べるので定春用のご飯も買わないと行けなさそうだ。
「そろそろ起こさないと」
次に私が向かったのはこの家の家主が寝ている部屋だった。
ここの家主さんは放っておくと昼過ぎまで寝てたりするので私が毎日起こすことにしている。
「銀さん、朝ごはん用意出来たよ。早く起きて」
「う〜ん、朝飯ぃ?いらねぇ。二日酔いで飯なんてはいらねえよ」
「はぁ、また深酒したの?あれだけ飲み過ぎるなって言ったのに!」
呆れてため息がでてしまう。
この人が二日酔いするのは珍しいことじゃない。
下手すると毎日二日酔いしてたりする。
なので、今回は私も心を鬼にするつもりだ。
「何時迄も寝てないで起きなさい!朝ごはん片付かないでしょ!!」
そう言って布団をひっぺがして無理やり起こす。
そんな私を銀さんが「お、お母さん?!」なんて言ってたけど、私銀さんみたいな手のかかる子供なんて嫌だよ。
それに、まだ子供作れる年じゃないもん。
***
無理やり銀さんを起こして食卓につかせてようやく朝ごはんを食べることができた。
終始眠そうな顔をしていた銀さんも朝ごはんを食べてるうちに段々と目を覚まして行ってるみたいだ。
「おはようございまぁす!」
そうこうしているとここに通ってきているもう一人の従業員さんが出勤してきた。
「おはよう、新八勲。まだ朝ごはん食べてるんだけど良いかな?」
「別に大丈夫だよ神楽ちゃん。僕はその間に部屋の掃除とか簡単にしとくから」
「お願いね。ほら銀さん!早く朝ご飯食べちゃって!食器が片付かないよ!」
「っせぇなぁ!朝飯ぐらいゆっくり食わせろよ!」
「ゆっくり食べたいんだったらもっと早く起きてよね」
すでに空いた皿を片付けてテーブルを湿らせた布で拭き取り綺麗にしておく。
此処は食卓であり客間でもあるのでいつ来客が来ても良いように綺麗にしておく。
そうしないと仕事もらえないからね。
「それじゃ私これから下の手伝いに行って来るけど、いい加減仕事探してよね」
「わあったよ。お!今週のジャンプの表紙はワン○ースかぁ。ミリオン出しまくってる奴ぁ良いねぇ。俺もまたいつかジャ○プに返り咲きてぇなぁ」
返事しながら週刊誌を読み始める銀さんと掃除をしてくれてる新八君を残して、わたしは最近手伝い始めた店へと向かった。
そこはわたしが寝泊りしている万事屋銀ちゃんの丁度真下だった。
「おはようございまぁす!」
「おや、来たかい」
店に入ると家主の壮年の女性が一人たばこをくわえていた。
「相変わらず銀時の奴はダメだねぇ。あんまりダメだったらあたしに任せな。すぐにでも川原に捨ててきてやるからさ」
「にゃはは、その時はお願いしますね。お登勢さん」
厳しい事を言ってるが、私はお登勢さんが本当はそんな事する人じゃないって事を知っていた。
お登勢さんはとても優しい人だ。
私の体が入れ替わってしまいこの江戸の生活に馴染めずに途方に暮れていた時に手を差し伸べてくれたのだから。
だから仕事がない日はこうして店の手伝いをさせて貰っている。
私の家にはお婆ちゃんが居なかったから新鮮な気持ちだ。
怒ると怖いけどとても優しいお登勢さんを困らせない為にもたくさん仕事を見つけてこなさないとね。
「キャサリンさんは?」
「あいつはまだ寝てるよ。まぁ、あたしらは本来夜の蝶だからね。こんな時間に起きるこたぁ早々ないだろうね」
「そっか」
納得したところで手伝いを始める。
やる事は店で出すつまみの仕込みだったり店内の清掃だったりと喫茶店と少し似てるとこがあった。
まだこの身体も未成年なのでお酒関連の事はお登勢さんやキャサリンさんに任せるしかないけどそれ以外なら私でも出来る。
一通り仕事を終えた後は足りない食材を買いにスーパーへと向かった。
なんで江戸時代にスーパーが?
なんて思った時期もあったけど住んでしまうとあんまり気にならなくなってきた。
生活に便利だったらこの際多少の疑問は放置しても良いかな?なんて思いながら店内をカートを押しながら食材の選別をしているとーーー
「あら、神楽ちゃんじゃない」
「こんにちは」
卵売り場で私は新八君のお姉さんのお妙さんだった。
この人も食材の買い出しに来たみたいだ。
それにしてもーーー
「随分と卵を買うんですね?」
彼女の籠には卵だけが10パック近く入っていた。
確かに卵はあると何かと便利なのだがそんなにいらない。
ありすぎても困るからだ。
そんな疑問に彼女は笑いながら答えてくれた。
「私卵焼きが得意なのよ。今度神楽ちゃんにもお裾分けしてあげるわね」
「ありがとうございます」
わたしは、のちにこの言葉を後悔する事になる。
何故なら、彼女が作る卵焼きは卵焼きではなくかわいそうな卵と呼ばれる真っ黒な炭の塊なのだから。
この時はまだその存在を知らなくてはいと答えてしまった。
それがあんな結果になるなんてーーー
「本当ですか!?嬉しいなあ。僕お妙さんの手料理大好きなんですよ!」
一体どこから出てきたのか?
顔にばってん状の傷を持ち顎髭をたくわえた男性が目をキラキラさせてお妙さんとわたしの前に立っていた。
その瞬間、お妙さんの纏っている空気が変わった事に気付いた。
「誰がてめぇなんぞに手料理振る舞うんじゃボケェェェ!!」
「ぶほぉ!!」
渾身のドロップキックが男の人の顎先にクリーンヒット!
そのままお妙さんが倒れた男の人の上に馬乗りになってひたすら顔面を殴り続けている。
最初はガスッガスッ!て音を立ててたんだかだ、暫くしたらグチャッグチャッ!と不気味な音に変わっていた。
私は即座に必要な分の卵を籠に入れてその場から立ち去る事にした。
本当は止めたかったんだけど怖かったので辞めました。
ごめんなさい。見知らぬ誰かさんーーー
***
買い物を終えて家路に着く頃には既に空が茜色に染まっていた。
今日もまたこの場所での1日が終わろうとしている。
私は、西の空に沈んでいくお日様を眺めながら一人呟いていた。
「・・・私、いつになったら元に戻れるんだろう?」
この世界でしか知り合えない人達と知り合うことが出来た。知らない事がたくさん知る事ができた。
でも、ここは私の住んでいた世界じゃない。
私の知ってるものはこの世界には存在してない。
私は、この世界では一人ぼっちでしかなかった。
「早く・・・家に帰りたいなぁーーー」
そう呟き、私は今自分が寝泊りしている場所へと戻っていった。
***
私がこの身体に入れ替わってからもう2年も経ってしまったアル。
初めは小学1年生だった私も今や小学3年生になったアル。
もう立派な大人の女アル。でも未だに体はチンチクリンアルけど。
「今日もマミィのご飯は美味いネ!」
「あら、ありがとうねなのは」
別に世辞でもなんでもない。これは事実だ。
私が前に住んでいた場所ではこんなに美味い飯は出てこなかった。
流石喫茶店を経営してるだけあって中々の腕前アル。
「流石は母さんだ。お前たちも母さんには感謝するんだぞ」
「分かってるよ」
「感謝の念が全然たりてないアル。その場で三点倒立するくらいの誠意を見せろやバカ兄貴」
「なんか、最近なのはが俺に対して凄い辛辣なんだけど」
「気のせいじゃないの?兄貴がバカなのは今に始まった事じゃないんだし」
「美由紀、お前もかーーー」
そんな感じで和気藹々と過ごしつつ朝食を食べ終わると、今度は制服に着替えて学校に行く支度を済ませるアル。
正直今更なんで学校なんて行かなきゃなんねぇんだよボケがぁ!!と思ったアルけど友達と会えるから仕方なくいく事にしてるアル。
家の近くに送迎バスが到着し、それに乗り込むと既に知り合いが乗っていた。
「よぅ、今日も出迎えご苦労様アル!」
「別にあんたを出迎えにきた訳じゃないわよ!たまたま私たちの方が早かっただけよ」
「はいはい、ツンデレアルなぁ」
「よし、あんたが人の話を全く聞いてないのは理解出来たわ」
相変わらずアリサはツンデレアル。
其処がまた可愛いとこでもあるのだが、あんまり意地悪しすぎて泣かせてしまっても悪いのでこのへんにしておくアル。
「おはようなのはちゃん。今日も変わらず元気だね」
「当然アル!私は365日常に元気爆発アル!」
「流石なのはちゃんだね」
そう言って素直に感心しているすずかもまた可愛い奴アル。
私からしてみれば二人とも妹みたいなもんアルが、今は私も二人と同じ歳なので気の合う友人、マブダチアル。
その後は退屈な授業を受けてお昼を屋上で食べたアル。
「ねぇ、なのはは将来になにになりたいか考えてるの?」
唐突にアリサがそう聞いてきたアル。
そんなの決まってるネ。私の野望は一つしかないアル。
「無論、私はこの海鳴の覇者になる!それが私の将来の夢ネ!」
「なんでそんな武闘派な夢なのよ!そこは家を継ぐとかじょないの?」
「ヲイヲイ、家が喫茶店だからって継ぐ気はないアルよ。そんなのよりも私はもっと強い奴にあいたいアル!そして史上最強の女になるアル!」
「あんた何処のグラップラー?」
そんな感じでその日も何事もなく過ごしていたアル。
その日も学校が終わり、通いの塾に行く日だったアル。
「あ〜。マジだるいネ。なんで学校終わった後に塾なんて行かなきゃならないアルか?私見たいドラマあったのに」
「あんたねぇ、テストの成績殆ど赤点ギリギリだったでしょ?家族が心配してるんだから少しは真面目に取り組みなさいよ!」
「んな事言われてもよぉ〜、私は勉強よりも体動かしてる方が楽しいアルよ」
「確かにね。なのはちゃん体育の成績だけはトップだもんね・・・次は負けないから(ボソッ」
「???」
一瞬すずかから闘気のようなのが感じ取れた気がしたアルが気にしない事にしたアル。
【助けて・・・誰が】
「ん?」
幻聴みたいなのが聞こえてきた。
これはいよいよ重症のようだ。
きっと勉強しすぎて頭が変な毒電波を受信してしまったようだ。
やれやれ、少しは勉強も控えるべきアルなぁ。
【聞こえてるよね?お願い!助けてください!】
また聞こえてきた。しかも今度は割としっかりと聞こえたアル。
でも、そこまで話せるんなら問題なさそうアルな。私になんて頼らずに一人で生きていくべきネ。
【いや、まじで助けてください!もう色々とやばいんです!お願いしますなんでも言うこと聞きますから!】
ほほぅ、なんでも言うこと聞くと来たアルか。これはいい事聞いたアル。
でも、もうちょっとだけ足元見てやる事にしたアル。
あんまりすぐに助けてもそいつの為にならないアルからな。
【ヘルプ!ヘルプミー!プリーズヘルプミー!!】
流石にうざったくなったのでやれやれと半ばうんざりして声のした方へと向かったアル。
その先には一匹のネズミと赤いビー玉が転がっていたアル。
「んだこれ?蛇の餌が逃げ出したアルか?」
「あんたそれピンクマウスの事言ってんの?これどう見たって違うでしょ?」
「なら解体して動物の餌にする用アルか?」
「そっちの話題から離れろおバカ!」
何故かアリサは憤慨してたアル。短気は損気アルよアリサ。
そんな訳で仕方なくその小動物は近くの動物病院へと運び込み、私達は塾へと行ったアル。
マジ憂鬱だったアル。
ようやく出てきたフェレット君。次回はいよいよなのは本編始動・・・かな?