ベル・クラネルは間違っちゃいない 作:塩で美味しくいただかれそうなサンマ
このお話は個人的な異世界転生への所感である前世と今世の常識の違いが辛くない?問題を書き出したものです。
異世界転生をバカにしようなどといった考えはありません。
むしろ創作物としては好んで読んで楽しむ身です。
ただその異世界転生をする身にはなりたくないなと。
こういった異世界転生に対する所見を感想に書くのは全然大丈夫です!
ただ荒らすことだけは!それだけはないようにお願いしておきます!
他の人々と迷惑にならないよう、楽しめる良いかなと思います。
とある夏の日の昼下がりのこと。
目的地に向かって装備裏に汗をかきながら淡々と歩く。
不快感がどうのと言い出してもどうしようもないからだ。
街の通りの市場を歩く人々の喧騒が耳と脳内を過ぎては流れていく。
うざったい程の太陽の日差しは冷涼感と中世ロマンの風情漂う石畳もじりじりと足裏を焼き付けて折角の新品の靴も明日にはヨレヨレなんじゃないかと不安なくらい。
「おっちゃん、じゃが丸一つちょうだい。」
そんな時には美味しいもんでも食べて気分爽快ってな。
そんな気持ちで取り出した財布は寂しいのまでセットだ。
アツアツのジャガ丸を一口食べて猫舌に悩まされるのもまたご一興。
そんなジャガ丸の熱さに食い気と懐を優先してジャガ丸にするのでなく、冷たくあまいものを買えば良かったと後悔するのもそれもまた、ご一興だろう。
右腕で汗を拭い、左手のジャガ丸の熱さに悩まされながら歩き出す。
拭った汗の冷たさを味わいながらジャガ丸を齧る。
うん、美味い。
「ダンジョンまでは、まだ遠いな…」
目的地は未だ遥か先に静かに聳え立つ。
馬鹿みたいにでかくて町のどこからでも見えるそれまではまだ歩く必要がありそうだ。
ジャガ丸の油が手に落ちる。
太陽の雫という表現をしたくなるくらい煌めきを持って腕に落ちたそれはやっぱり熱い。
腕が塞がってるので舐めるとしょっぱかった。
「まったく、下級冒険者ってのは楽じゃない。」
ひとりごちてまた歩く。
ジャガ丸を食べ終えて所在無げな腕は放り、なんともなしに自分のことを考えながら。
異世界転生をした。
簡単に自分のことを説明をするならばその一文で事足りるような27年だった。
前世を考えるならば精神年齢は最早44歳になってしまう。
なにか交通事故があったって記憶はないが、まぁ、テンプレート的な?御都合主義的な?自分がそんな存在であると知った時の気持ちの高揚は今でも覚えている。
どこにでもいる高校生の自分が!
なーんてものは物語の中だけなんだと思ってたという驚愕もあれば、まぁ、チートとかへの期待も勿論あるよね。
まぁでもそんな甘優しいものじゃなかったよなというのが現実で。
異世界転生ってのはやっぱりどこまでいっても、チートがあっても、ハーレム作っても、御都合主義展開でも、何でもかんでも報われても、好き放題できても、予備知識無双できても、現代のあれやこれやに縛られなくても。
どこまでいっても《異》世界転生なんだ。
暑さに耐えきってたどり着いた目的地、ダンジョンの巨大な入り口が内部の冷気と暗闇をほのめかしながら目の前に鎮座する。
その両脇には、まるで自分の考えを見透かしたかのような光景が見える。
痩せ細り、冒険者たちに必死に恵みを求める数人の乞食の人々の姿。
特に子ども、老人が多い。
冒険者達は取り合わないでダンジョンへ入っていく。
視線さえ少しもくれてやらない。
そう、それが普通。
そもそも今何か恵んでやったところでこの方々が明日生きている可能性は極端に低い。
ギルドの管理の厳しいダンジョン前、そこを選ぶ時点で乞食の中でも最底辺の人々なのはみんな分かりきっていること。現に、目の前でギルド職員がその方々を無理やり、殴り蹴りして連れて行こうとしている。
現代での常識でもそうなのかは分からないが自分は少し薄情だなと思ってしまう。
でも仕方がないことなのかなとも思ってしまう。
みんながみんな生きることに、前世よりも必死な世界だから。
この世界は、根本的な世界のあり方とか、歴史とか、常識、其れらの何から何まで前世とは《異なる》場所だから。
だから俺も素通りする。
この後命のやりとりをして、俺も明日を生きなければならない。
そんな俺に彼らを気にする余裕はない。
ダンジョンの入り口に入り、直射日光が遮られる直前。
ギルド職員に弱々しく抵抗するある1人の老人の手先が見えた。
節くれだった、骨ばった、色の悪い、そんな極端まで不健康な、そんな辛そうな手が、祈るように動いている気がした。
俺は走って逃げた。
ダンジョンの中は怖い。
そんな感覚が自分の中から薄れていったのはいつのことか。
今世は親に恵まれず、育児放棄されやむなし冒険者になった自分はもう冒険者として19年ほどのベテランに入る。
未だにレベル1の下級冒険者として燻り、無名ではあるけど日銭を稼ぎ、生きていくのは困らない。
目の前のゴブリンを手持ちの剣で切り殺しながらふとそんなことを考える。
命のやりとりをしているはずなのに、前世よりもそれを感じたり見たりしているのに、どこか淡々としている。
そんな自分にどこか違和感を感じているのは、まぁ、自分が感傷的なだけなんだろう。
異世界転生だから、物語の裏側を見せられるのは当たり前のことであって、そこに色々な人生があるのも普通。
辛い人生なんて前世にも溢れていたことだ。
そんな思考が終わる頃には視界はモンスターの血と魔石やらに溢れていた。
注意散漫なのは危険だと自分のほっぺを叩いて今日の日銭を回収する。
それが終わると手を合わせ祈る。
命を貰って生きているのだと、それだけは捨ててはいけない気がしていた。
モンスター達との必死の格闘を経て、ヘトヘトになってダンジョンを出る頃には夜になっていた。
暑さもまだマシになり、人数も少なくなった入り口を暗闇に目を細めながら歩いていると足に何かが当たった。
昼下がりの老人の死体だった。
無視して歩いて帰る。
「まったく、ダンまちの世界も楽じゃあない。」
そんなつぶやきが夜の街に響いて溶けた。
夜の出店でメシを食う気もついでに失せた。
自分の必死の理論武装を貫くにはあの死体は充分で、心の中を淀む不快感とか陰鬱な気持ちが心を支配する。
やはり前世の自分は幸せだったのだと理解する。
現代日本の、甘く優しい世界で育ったと。
そして27年もこちらで生きててこれに慣れない自分の不甲斐なさも突き刺さる。
老人の死体を見て、供養としてやらず、冥福を祈ることさえしてやらなかったことへの今更ながらの後悔も身を縛り付けるようだ。
自分はこの世界を、楽しく生きれてると思っている。
前世と今世の常識の違いなんて割と受け入れて、分別もつけて、その上で上手くやっている自覚はある。
それでも改めてこうして突きつけられるとちょっと傷ついてしまう。
そんな自分はやっぱり感傷的で、弱くて、そんな自嘲が胸を空かせるように気持ち悪く通り過ぎて。
前世と、今世の違いが、ゆるりと身をむしばむ。
《ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか》
そんなタイトルのこの物語は、この世界は、甘くない。
「間違っちゃいねえよ…」
部屋のしじまにまた独り言を投げる。
なんだか今日はえらく心が弱ってる気がする。
でも、この世界ではそれくらいふてぶてしいほうが、夢を見ていた方が、強く生きれるんだなと。
小さな窓から風が入り、破れたカーテンを揺らして月明かりがほんの少し自分の腕を照らす。
肌寒さとともに腕をさすってひとりごちる。
「ベル・クラネル、お前、間違ってねえよ…」
それで寝た。
はい、サンマです。
楽しんでいただけると幸いですが独自設定モリモリだしちょっと分かりにくい表現も多い気がします…
主人公は前世と今世の違いも理解してて、ある程度の諦めと分別もつけられてる常識と冷静さを持った人なんだけどいざそれを見せられると心に傷を負っちゃうようなメンタルクソ弱い前世への未練タラタラな人、をイメージしてます。
プロローグはクソ重ですけどハッピーエンドにしたいし楽しい物語にしたいなと思ってます。
気長に待っていただけると幸いです。