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「おい、まだ買うのかよ?」
「当然だ!途中で抜け出した罰だからな!」
「それは、悪かったって」
「僕も許してるわけじゃないからね?」
カガリとキラの二人に詰められるマサユキだが内心「へいへい」といった様子で買い物をした袋などを手に持っている。
明らかにマサユキの方が量が多く、重さもある物ばかりだが二人からの罰なのだろう。
野外テラスのある食事処に着くと荷物を降ろし、マサユキはふぃ~と息を吐く。キラもキラで荷物をある程度、持っていたので流石に疲れた様子だ。
「このあたりのメシは、よく分からねえから注文はカガリに任せるわ」
「分かった任せておけ!」
「・・・・」
「しっかし、エリザリオの乳液だの化粧水だのこんな地上の砂漠に近い場所にあるかっての!」
「それには私も同意だ、全く」
「しかも、ほとんどプラント製品だぞ」
会話しつつ注文を済ませたカガリはマサユキの愚痴に賛同していたが、キラはあまり会話に入ろうとはしなかった。
マサユキとはサイやフレイとの一件があってから、気まずくなり会話が出来ていないのだ。
「オマタセネー」
「何、これ?」
「ドネルケバブさ。はぁ、疲れたし腹も減った!ほら、お前も食えよ!このチリソースをかけて」
「あ、いや!待った!!ちょっと待った!!ケバブにチリソースなんて何を言ってるんだ!このヨーグルトソースをかけるのが常識だろうが」
「ああ!?」
「いや、常識というよりも・・・もっとこう・・ん~、そう!ヨーグルトソースをかけないなんて、この料理に対する冒涜だよ!!」
サングラスをかけた陽気そうな男性にケバブ用のソースに関する注意を受けてしまったが、カガリは構わず自分の分のドネルケバブにチリソースをかけて食べ始める。
「なんなんだ、お前は!?見ず知らずの男に私の食べ方をとやかく言われる筋合いはない!」
「なぁっ!?ああ、なんという」
「んー!うま、いー!!」
この二人が論争を繰り広げている最中、マサユキは店員をこっそりと呼んで、ナイフとフォークが無いかと尋ねていた。切り分けて食べたいと言うと納得したように笑みを見せてナイフとフォーク渡してくれた。
「ほら、お前達も!ケバブにはチリソースが当たり前だ!!」
「だああ!待ちたまえ!!彼等まで邪道に落とす気か!!」
「何をするんだ!?引っ込んでいろ!」
「君こそ何をする!?」
キラの分のケバブに向かって二つのソースが掛かりそうになっていたのを見て、それを止めたのがマサユキだった。
「二人とも!落ち着いてくれ!!」
「「っ!?」」
「美味しい物に関して譲れないのは理解できる!けれど、強要しないで欲しいんだ!!」
そう言ってマサユキはキラに視線を向けて、声をかける。
「キラ、俺とお前のケバブを半分に切って良いか?」
「え?構わないけど・・・」
「ありがとうな」
マサユキは店員から渡されていたナイフとフォークを使って、キラと自分の分のケバブに対しトマトと野菜を端へ除けた後、しっかりと半分になるよう切り分けて、トマトと野菜を乗せなおした。
「チリソースとヨーグルトソースを貸してくれ」
「お前、何を!?」
「良いから!」
カガリは渋々と言った様子でチリソースの入った容器を渡してきた。それを受け取ると今度は陽気そうな男性に声をかける。
「貴方もヨーグルトソースを貸してください」
「え?ああ・・・」
マサユキはヨーグルトソースの入った容器も受け取ると、自分とキラの分を切り分けられた計4つのケバブにチリソースとヨーグルトソースをそれぞれ片方ずつにかけてテーブルに置いた。
「俺達は初めてドネルケバブを食べるから、どちらが美味しいのか食べ比べする!これで両者共に文句ないよな?」
「う・・・それは、無い」
「む・・・仕方ない、な」
「マサユキ・・・」
美味しい物の論争は食べ比べをするという形で一応、両者共に矛を収めた。
「キラ、とりあえず食べてみようぜ?俺はカガリが勧めてきたチリソースからだ」
「うん。じゃあ、僕はヨーグルトソースを」
2人は殆ど一緒にそれぞれが選んだケバブにかぶりついて食べ始めた。モグモグと口の中で食べ物をよく噛んでいる様子が解る。
「ん、辛みが好きならチリソースだな。肉との相性が最高だし俺はチリだな」
「僕はヨーグルトの方が美味しいな。辛いのがあまり得意じゃないから丁度いいよ」
今度はソースを逆にした物を口にして食べる。キラはチリソースの辛みに少しだけ顔を顰め、マサユキはヨーグルト特有の甘さに首を傾けた。
「チリソースも美味しいけど、やっぱり辛いね」
「ヨーグルトソースもいけるな。けど、ちょっと甘い」
陽気そうな男性はいつの間にか、席に座っておりキラやマサユキが持っていた荷物を見ている。
「結果はドローって事になるかな?しかし、凄い買い物だねえ?パーティーでもやるの?」
「うっさいな、余計なお世話だ!大体お前は何なんだ!?勝手に座り込んであーだ、こーだと!」
「まぁまぁ、別に目くじらを立て・・・っ!?ヤバい!!」
「はっ!」
「伏せろ!」
陽気そうな男性がテーブルを蹴り上げ、キラがカガリを庇いマサユキは急いでもう一つのテーブルを確保する。
蹴り上げられたテーブルは壁となり、何者かが発射したロケットランチャーが店に命中する。
「無事か!?君達!!」
「なんとか!」
「な、なんなんだ!?一体!」
食事処は瞬時に弾丸が飛び交う戦場となり、民間人は我先にと悲鳴を上げながら逃げ出していた。
「死ね!コーディネーター!!宇宙の化物め!!」
「青き清浄なる世界のために!!」
「ブルーコスモスか!?」
カガリの言葉にマサユキは一瞬だけ反応する。ブルーコスモス、それは反プラント、反コーディネイター思想主義者やその団体の総称であると本で読んだ覚えがあり、あのフレイも似たような思想を持っていた。その規模は数十万人規模とまで言われている。
「(地球の武装集団がなんでこんな所に!?)」
「構わん!すべて排除しろ!!」
陽気そうな男性の指示で次々に銃を持つテロリスト達は無力化されていった。マサユキが隠れているテーブルの方へ無力化されたテロリストが手放したらしい拳銃が転がってきた。
「!!」
マサユキはそれを拾うと建物の物陰から陽気そうな男性を狙っているテロリストを見つけ、銃のセーフティーが掛かっていない事を確認すると銃を構えて放ち、銃とそれを支えている手を打ち抜いた。
「ぐわあ!?」
「キラ!!」
「!」
マサユキに名を呼ばれて身体が反応したキラは銃を手放したテロリストへ強烈なキックを顔面へ蹴り込んでいた。
「ふっ(見事なコンビネーションだ・・・彼らがそうだったのかな?)」
息があるブルーコスモスのテロリスト達は全員、銃弾を撃ち込まれて命を奪われた。
「はぁ・・・はぁ・・」
「マサユキ?」
「!はぁ・・・」
マサユキは手にしていた銃を滑り落とすと自分の両手を見ていた。少しだけ身体が震えており、何かに恐怖している様子だ。
「(何だったんだ?今の・・・銃の構造や扱い方はムウさんから軽くレクチャーされてたけどあんなに咄嗟に、しかも冷静に人を撃てたぞ俺)」
「おい、大丈夫か?」
「あ、ああ・・・」
「それにしても・・・」
カガリは周りを見渡し、小さな戦場となってしまったのを思い返していた。なんとか持ち直したマサユキはカガリに声をかける。
「カガリ、不味い事になったな?」
「何がだ!?」
「自分の姿、見れてないのか?そこで見てみろよ」
「え?あ・・!」
鏡代わりになっている店のガラスで自分の姿を見たカガリはケバブソースまみれになっているのに気付き、肩を落とした。
「隊長!御無事で!?」
陽気そうな男性の部下らしき、ザフト軍の軍服を着た男性が近づいてきた。
「ああ、私は平気だ。彼等のお陰でな」
男性が帽子とサングラスを取った瞬間、その顔に見覚えがあったらしいカガリが口を開いた。
「ア、アンドリュー・バルトフェルド」
「え?」
「砂漠の・・・虎」
◇
ザフト軍の地上部隊、砂漠の虎と呼ばれるアンドリュー・バルトフェルドの宿舎へと案内されたキラ、カガリ、マサユキの三人は驚きを隠せていない。
「さ、どうぞ」
「いえ、僕達はホントにもう」
「いやいや、お茶を台無しにした上に助けてもらって、彼女なんか服グチャグチャじゃないの。それをそのまま返す訳にはいかないでしょ?ね?僕としては。ふっ」
「此処は甘えておいた方がよさそうだな」
「でも・・・」
「このままカガリを連れ帰ったら、俺達がどやされるぞ?」
マサユキは厚意に甘えた方が良いと言ってきたが、カガリは黙ったままだ。キラもキラでこの瞬間に初めてまともにマサユキと会話したが、仕方ないと内心で無理やり納得した。
「こっちだ」
三人はザフトの軍人に案内され、開いた扉を潜ると細身のスタイルと長い黒髪が際立ち、姫カットに近い前髪両端のひとふさを金色のメッシュで染め、色白の肌に映える鮮やかなルージュを差しているアジア系の美女が立っており、彼女もコーディネーターだろうと推察する。
「この子ですの?アンディ」
『ああ、彼女をどうにかしてやってくれ。チリソースとヨーグルトソースとお茶を被っちまったんだ』
「あらあら、ケバブね?」
名前を知らない美女はカガリへ顔を近づけ、頷くとカガリの肩を抱いて何処かへ案内する様子だ。
「さぁ、いらっしゃい」
「あ、カガリ」
「大丈夫よ、すぐ済むわ。アンディと一緒に待っていて」
「あの美人のお姉さんに任せようぜ?女性の事は女性が一番分かるからな」
『おーい、君達はこっちだ』
バルトフェルドに呼ばれたキラとマサユキは扉が開かれた部屋へと入る。そこへマサユキは嗅いだことのある香りに思わず口に出してしまった。
「この香り、コーヒーですかね?」
「おや?大人っぽい方の君は解るのか?僕はコーヒーには些か自信があってね!」
「・・・・」
用意された三つの白いカップにコーヒーが注がれていく。キラは敵の宿舎ともあって落ち着かない様子だ。
「まぁ、かけたまえよ。くつろいでくれ」
キラはソファーへ座る前に暖炉らしき場所の上に飾られている化石のレプリカへと近づく。
「・・・」
「こいつは・・・」
「エビデンス01、実物を見たことは?」
「いやぁ・・・」
「俺も写真や本で見た事があるだけです」
「なんでこれをクジラ石というのかねぇ?これ、クジラに見える?」
「いや、そう言われても」
バルトフェルドはキラとマサユキにコーヒーを渡すと、自分の分のコーヒーを淹れに戻り淹れ終わるとまた二人が居る場所へ戻ってくる。
「これ、どう見ても羽じゃない?普通、クジラに羽は無いだろう?」
「ええ・・まぁ・・・でもそれは、外宇宙から来た地球外生命の存在証拠って事ですから」
「僕が言いたいのは、何でこれがクジラなんだって事だよ」
「(この人、飄々としているようで本質を見抜いてる。怖い人だな)」
「じゃあ、何なら良いんですか?」
「ん~、何ならと言われても困るが・・・ところで、どう?コーヒーの方は」
薦められたコーヒーを一口飲むとキラは反応が薄く、マサユキは少し驚きを顔に出した。
「!美味しい・・・しかもこれ、ベースはブラジルですよね?フルーツや花を想像させる香りにコクのある味わいがあるからモカを半分、コロンビアを少量だけブレンドしたもの・・・違いますか?」
マサユキがコーヒー豆の名とブレンドを口にするとバルトフェルドは「ほう?」と言った表情と共に笑みを深くした。
「君はコーヒーが解るのかね!?良かったら豆も持っていくかい!これは僕のオリジナルブレンドだ!!」
「いや、その・・・産地とか原料とか気になっちゃうタイプなもので」
「ははは!そうかそうか、なら帰りに持っていくと良い!」
強引にコーヒー豆を押し付けられる結果になってしまい、マサユキは言わなきゃよかったかな?とキラの方へ視線を向けるとキラは苦笑していた。
こんな会話をしている最中、カガリはバスルームに案内されケバブによって汚れた髪や身体を洗い流し、湯船につかっており、美女はドレスを出してどれを着せようか思案していた。
「ま、楽しくも厄介な存在だよねえ。これも」
「厄介・・・ですか?」
「そりゃあそうでしょ?こんな物を見つけちゃったから、希望っていうか可能性が出てきちゃった訳だし?」
「?」
「人はまだもっと先まで行けるって、さ・・・この戦争の一番の根っこだ」
それを聞いてキラは首を傾げたが、マサユキは真剣な表情となってバルトフェルドを睨むような眼で見る。
「厄介な根っこですよね・・・先に行けるなら良いけど、その過程で置いて行かれる事もある」
「そうだねぇ、それを必要な犠牲だと言う人間もいるのが事実な訳だし」
「どうしてナチュラルに産んだのか?何故、コーディネーターとして産んだのか?それが本人の望む事では無かったとしたら?とか、色々と考えてしまう場面もありますよね」
「君は随分、人の心理に深く入り込んだ言い方をするんだねぇ?」
「すみません、興味のある事や面白いと思った事に対しては関連する本などを読んでしまうので」
「知識欲と好奇心旺盛ってところかな?」
「そんな所です」
少しだけ雰囲気が重くなりかけた所で、扉をノックする音が聞こえてきた。
「アンディ」
「おやおや?」
「あ・・・」
「へぇ・・・」
「ああ、ほら。もう・・・!」
美女の背中に隠れていたカガリが背中を押されて、男性陣の前に姿を見せる。慣れていないのか少しだけ恥ずかしそうな表情だ。
「女・・・の子?」
「てんめええ!」
「あ、いや・・・だったんだよねって言おうとしただけだよ!」
「同じだろうが!それじゃ!!」
「ぷっ、ははははは!!」
「だぁーっははははは!言葉を間違えてんぞキラ!はははっ!腹痛ええ!!」
「あははははっ!」
バルトフェルドは吹き出して笑い、マサユキはお腹を抱えて大笑いしており、扉の近くに居た美女も笑っている。
その後、改めて四人はソファーに座って対面する形になった。
「ドレスもよく似合うねえ?というか、そういう姿も実に板についている感じだ」
「勝手に言ってろ」
バルトフェルドの言葉に不機嫌な様子でコーヒーを口にするドレス姿のカガリ。そんなカガリを見てマサユキは少しだけ疑問が浮かんだ。
「(カガリってもしかしたら、どっかのお偉いさんの御息女だったりすんのか?じゃなきゃ、ドレス姿が板についているなんて言われないよな?仮にそうだとして、そんなお嬢様がなんで銃を持ってレジスタンスに?)」
「喋らなきゃ、完璧」
「(このバルトフェルドって人、やっぱり色々見抜いてる。俺達の事もバレてるだろうな)」
「そういうお前こそ、本当に砂漠の虎か?何で人にこんなドレスを着せたりする?これも毎度のお遊びの一つか?」
「ドレスを選んだのアイシャだし」
「へぇ・・・あの美人のお姉さんはアイシャって言うんですか。もしかしてバルトフェルドさんの好い人とか?」
「なかなか、目敏いねぇ君は。大正解だよ」
少しだけ、バルトフェルドとカガリとの会話を切ったマサユキだが、カガリの性格からして激昂しやすいのを考慮したからだ。
「それはそれとして、彼女が言った毎度のお遊びとは?」
「変装して街でヘラヘラ遊んでみたり、住民は逃がして街だけ焼いてみたり・・・ってことさ」
「(それ・・・言い換えれば街の何処に何があって、住人の規模がどのくらいあるかって、指揮官自身が偵察してるって事なんだよなぁ・・・ってまた冷静に分析が出来やがった。最近、判断が速くなってきてるんだよなぁ)」
カガリの言葉にマサユキは口に出さず、バルトフェルドが行っている事を分析していた。
「良い目だねえ、まっすぐで・・・実に良い目だ」
「っ!!ふざけるな!!」
カガリがテーブルを強く叩き立ち上がるが、その瞬間にマサユキは口を開く。
「カガリ、落ち着け!」
「君も死んだ方がマシな口かね?」
「そっちの彼ら、君達はどう思っている?どうなったらこの戦争は終わると思う?モビルスーツのパイロットしては?」
「っ!?」
「・・・!(あ~あ、やっぱりバレてたか。そもそもこんな人にバレない訳が無いか)」
「お前どうしてそれを!?」
キラは苦虫を潰したような表情になり、カガリの言葉で地球軍のモビルスーツパイロットである事が完全にバレてしまったが、マサユキは予想出来ていたかのようにコーヒーを口にする。
「はいはい。みんな、落ち着いて。せっかくの美味いコーヒーが不味くなっちゃうだろ」
「お前!何を吞気な事を!!」
「ザフトの地上軍、それも砂漠の虎と呼ばれる程に優秀な指揮官をやっている人が、俺達の事を解らないはずがないだろ?」
「!!」
「ほう?」
「それに、この人が本気で俺達の事を始末するつもりなら・・・今この場に部下を呼んで射殺するなり、コーヒーに毒を入れるなり、色々出来るでしょうに・・・。それをしなかったのは俺達と話をしてみたかった・・・そうでしょう?ま、俺の予想と勘ですけどね」
「ふっ、はははは!いやぁ、参ったね。僕の思惑を当てられちゃうなんてさ。初めての事だし、度胸もあるねえ。大人な少年」
そう言ってバルトフェルドは立ち上がり、キラは立ち上がってカガリの手を引いて守るようにカガリの前に立つが、マサユキはコーヒーを飲み干した後、キラの隣に立った。
「戦争には制限時間も得点もない。スポーツの試合のようなね?なら、どうやって勝ち負けを決める?何処で終わりにすれば良い?」
「何処・・・で?」
「敵である者を全て滅ぼして、かね?」
そう言うと同時にバルトフェルドは三人に向けて銃を向けた。それを見たキラとカガリは目を見開くがマサユキは表情が冷静で二人の前へと出た。
「確かに敵である者を全て滅ぼせば、戦争は終わるでしょうね」
「ん?」
「それと同時に今度は滅ぼした側で内戦がおこる。自分の方が強かったなどの理由を付けて」
「(この大人っぽい少年・・・人の心理に関して学んでいたのか?)」
「争いって言うのは厄介な熱病みたいなモノですよ。現に俺達も小さな争いの中に居る」
「冷静だね?この状況において」
そう言いながら、マサユキはキラの前へ行動を妨げるように腕を伸ばした。何もするなという意思表示を見たキラはマサユキを見ると彼もまた僅かに震えている。銃を向けられて、ポーカーフェイスを保っているのがやっとなのだろう。
「大人な彼の行動は正しいな。下手な抵抗で此処から無事に脱出できるとは思ってなさそうだからね。幾ら後ろに居る彼がバーサーカーだとしても」
「?バーサーカー?」
「狂戦士って意味。狂ったように戦う戦士の事だよ」
「此処に居るのはみんな君達と同じ、コーディネーターなんだからね」
「え!?」
「っ・・・」
「・・・・」
「お、お前ら・・・!」
「君達の戦闘は把握している。砂漠の設置圧、熱滞留のパラメーター。後ろに控えている彼の方がかなり優秀な同胞だとみたがね」
「あのパイロット達をナチュラルだと言われて素直に信じる程、私は吞気ではない。そして見慣れぬさっきの君達の立ち回りもだ」
「君達が何故、同胞と敵対する道を選んだのかは知らんが・・・あのモビルスーツのパイロットである以上、私と君達は敵同士だという事だな」
バルトフェルドの真剣な目つきに気圧されかかるが、マサユキはポーカーフェイスのままキラは汗が噴き出している。
「やっぱり、どちらかが滅びなくてはならんのかねえ?」
「それ以外にも戦う理由はあるでしょう?」
「なんだい、それは?」
「相手に勝ちたい・・・それが理由になりませんか?」
「ははは!面白い理由だね、それは!」
「ま、今日の君達は命の恩人だし此処は戦場ではない」
そう言ってバルトフェルドは手にしていた拳銃をデスクの中へと収めると呼び出しのスイッチを押した。
しばらくするとカガリを着替えさせた美女、アイシャがやってきた。
「帰り給え、話せて楽しかったよ。良かったかどうかは分からんがね」
「・・・」
「また、戦場でな?それと、大人な少年!」
「はい?おっと!?」
マサユキが振り返るとバルトフェルドから何かを投げ渡された。布製の袋のような物で中を見るとコーヒーの香りが僅かにしている。
「約束のブレンドだ。持っていきたまえ」
「ありがとうございます。それと、コーヒーご馳走様でした。美味しかったですよ」
「その言葉、戦時中じゃなければ嬉しいんだがね」
言葉を交わした後、カガリはドレスから洗濯を終えた私服に着替え、三人はブルーコスモスのテロがあった現場へと送ってもらいアークエンジェルへと帰った。
「良かったの?アンディ」
「良いのさ、戦場で出会う事になるんだしね」
「危険な気もするけど?」
「世知辛い世の中だねえ、ホント」
◇
「あ、そうだ!このデータチップの中身、見てみよ」
アークエンジェルへと帰ってきてからマリューやナタルに説教を受けた後、アスクレピオスのOS調整をしている途中でマサユキは、ジャンク屋のロウとAIが搭載されたコンピュータ「8(ハチ)」からのお礼にと貰ったデータチップを思い出し、その中身を見ることにした。
「これって・・・実体剣の製作データみたいだな?『斬る』事に特化してるみたいだけど。おまけにそれ専用のモーションデータまで!ん?な、なんだこれ!?」
マサユキが驚いたのは動画データの方で、そこには老齢だが鍛え抜かれた肉体を持ち、顔の右側に大きな傷痕のある、髭をたくわえた厳めしい顔つきの男性が制作データにある剣を人用に小さくした物で、鉄片を真っ二つにしているものだった。
「すげえ・・・刃物で鉄を切るなんて」
『この動画を見ている者に伝える!』
「ふえっ!?なんだ、動画の為にメッセージを残したのか」
『これは『日本刀』と呼ばれる今は無き技術で作られたものじゃ。だが、このメッセージを聞いている者が善人か悪人かは解らぬ、制作方法をもはや知るのは1人の小僧しかおらぬ故。これも小僧に言われ仕方なしに残したものじゃ』
「小僧って・・・もしかしてジャンク屋の?」
『もし、この『日本刀』を欲するのなら技術者の小僧の知り合いに話すが良かろう。それまでに己を鍛える鍛錬法をこのメッセージの最後に残す。心するが良い』
老人の動画はそこで終わってしまったが、その後に映った映像に『日本刀』で何度も何度も振り下ろし続ける姿が収められていた。
「これが鍛錬方法って事か?文字じゃなく姿って事は実践タイプの人だったのか?解らないが、ん?この鍛錬方法、鉄棒があれば出来そうだしトレーニングに取り入れようかな。モーションデータもアスクレピオスにインストールしておこう」
マサユキは長時間、鍛錬用の動画を見続け構え方や足の位置、振り下ろし方などをしっかりと頭に焼き付け、鍛錬日と決めた日から『日本刀』の鍛錬をするようになった。
更にこの時に取り入れたモーションデータが奪取された機体に対して、効果的な物になるという事をこの時の彼は知る由もなかった。
ショッピング中のトラブルがバルトフェルドさんとの出会い。
お礼に貰ったデータチップの中身は『日本刀』の制作方法『日本刀』をモビルスーツで扱う為の適応モーションデータ、おまけでその鍛錬用の短めな動画です。
モーションデータはインストールしましたが、もちろんそのままでは使えません。機体の駆動部をある程度、改修しないといけません。そんな改修できる場所あったかどうか(すっ呆け)
次回は少し箸休めでザフト側の休暇です。