一方、宇宙では久々の休暇という形でクルーゼ隊の面々がそれぞれ、目的の場所などへと向かっていた。
その途中でニコルは一枚のチケットを手に持ち、そろそろ現れるであろう相手を探した。
「あ、メラクさん!」
「あら、ニコルちゃん?どうしたの」
「あ、あの!これを」
「チケット?それもピアノコンサートのようだけど」
「そのコンサート、僕がソロで演奏するんです。メラクさんに是非、来て欲しくて」
「ふふ、分かったわ。ニコルちゃんの弾くピアノ楽しみにしてるわね」
「!はい!!」
チケットを受け取ったメラクは大切な物のように丁寧にしまうと軽い荷物を持って去ってしまった。
髪を靡かせて去っていくメラクの後ろ姿を見つめた後、ニコルは軽く拳を握っていた。
「それでも、やっぱり僕は貴女の事を・・・」
近くに居て自分を見てくれていても、それは「男」としてではなく「弟のような同僚」だろうと薄々ニコルは気付いていた。
そんなニコルの言葉と姿を知らずに、メラクはある場所へと向かっていた。それはエネルギー研究所で指向性高エネルギー発振システムを研究する機関であった。
「あ、居た居た!シホ~!」
「メラク!?帰って来ていたの!?」
「うん、地上降下作戦の前の休暇ってところかしら」
「もう、来るなら来るで連絡してって言ってるでしょ!?」
「今は軍関係者だから個人的な連絡はしにくいの!」
「それはそうだったわね。もう仕事を上がって良いと言われてるし・・・どう?久々に食事でも」
「シホからのお誘いなら喜んで!」
メラクと仲良さげに話しているこの女性、シホ・ハーネンフース。年齢はメラクの方が一歳年上なのだが、それは彼女が早生まれである為に彼女等は同年代と変わらないのだ。
2人が行きつけにしているカフェでお気に入りのメニューを注文し、それらが運ばれてくると食事をしながら会話を始める。
「え?シホもアカデミーに!?」
「ええ、貴方とは一周遅れだけどね」
「そうなの、けれどシホがアカデミーに居たなんて驚いたわよ」
「そろそろ、卒業で配属も決まりそうよ」
「卒業順位は?」
「3位よ」
「赤服での卒業じゃない、おめでとう!」
「ありがとう。でも・・・今の時代じゃ、ね」
「そう・・ね」
「けど、配属はまだまだ先になりそうなの」
「アカデミーから配属先の連絡がまだ無いってところ?」
「そうなるわね」
「でも、シホは優秀だからすぐに出世するわよ」
「研究と軍務の両立は大変になりそうだけど」
「もう、シホってば。けれど、シホの研究分野から試作機のテストパイロットとか任されそうよね」
「貴女達が奪取した機体である『G』の研究も進んでいるから、ありえるかも」
紅茶とパンケーキを頬張りながら二人はつかの間の休暇を楽しむ。シホはメラクの鞄から紙が一枚飛び出ているのに気付いた。
「メラク、それ何?」
「え?ああ、これね。これは15歳で私達の同僚になった子がくれたコンサートのチケットよ」
「コンサート?音楽でもやっているの?」
「ピアノが大好きな子でね、私に来て欲しいって言われちゃって」
「ねえ、ひょっとしたらその子・・・貴女の事が」
「もう解ってるわ。けどね・・・あの子を異性としては見れないの」
「それ、本人には言ったの?」
「言ってないけど、自覚し始めてるわね。きっと」
「そう、なるべく早く断る旨を言ってあげた方が良いけど15歳じゃ・・・辛いわよね」
最も年齢的に多感な時期で自ら軍に志願し、同時に自分に好意を向けている。そんな時に自分の想いが報われなかったともなれば、きっと戦争で八つ当たりと同時に大量虐殺をしてしまう可能性もある事をメラクは理解していた。
だからこそ、今は彼の好意に返事を返す事が出来ないのだ。そんなメラクを軽く見つめた後、シホは紅茶を飲むと話題を変えた。
「ねえ、メラク」
「何?」
「貴女、何か悩んでるみたいだけど。そのチケットをくれた子に関してじゃなく、別の事で」
「もしかして、顔に出てた?」
「ううん、悩んでると貴女は頬杖を付く癖があるから」
「そんな細かい所まで見抜かれてたんだ、流石ね」
「それで、何を悩んでるの?話したくないなら、それはそれで構わないけど」
「そうね、シホには聞いて欲しいわ。実は」
メラクはシホに悩みの種を話し始めた。それは想い人と再会したが敵対組織に居て、お互いに撃つと宣言し、離れてしまったと。
「そんな事が!?」
「ええ、私も解っているの。彼は自分の友達を守る為に戦っているって・・・けど、私としてはやっぱり辛いの」
「・・・そうね、私もメラクと同じ立場になったら悩むわ」
「いつか・・・」
「え?」
「『いつか』を信じて戦ってるのよ・・・また一緒に居られる時が来るって」
「・・・」
メラクの表情には儚さと恋心が同時に出ていた。それを見たシホはこれも戦争の被害の一つなのだと思えた。
2人はパンケーキを食べ終えており、紅茶を一口飲んだ。
「さて、そろそろ行かないと此処のお会計、私が出しておくね」
「え?良いの?」
「悩みを聞いてくれたお礼、という事にしておいて」
「じゃあ、それに甘えさせてもらうわ」
カフェから出るとウインドウショッピングなどを楽しみ、メラクとシホは別れた。その後は地上へ降りる故に他のメンバーと合流する為、ヴェサリウスへと戻る事になっている。
「はぁ、有名になるのも問題ね」
愚痴をこぼしつつ、メラクはサングラスと帽子を被ると車に乗って出発し始めた。
曲がりなりにもプラントでの人気が2位かつ、有名モデルだったともなれば素顔で出歩く事は難しい。
素顔で出歩けばサインを求められてしまうからだ。車を走らせているとクライン姉妹の歌声がまるでプロモーションビデオのように映像と共に流れていた。
「『静かな夜に』だったわね。私としてはラウスの『暁の車』の方が好きだけど」
ラクスの曲が終わると今度はラウスの曲が流れ始める。ラクスの透明感のある優しい歌声とは違い、優しさがありながらも凛々しい歌声で歌う『暁の車』は姉であるラクスとは違った魅力がある。
※推奨BGⅯ 機動戦士ガンダムSEEDより『暁の車 on vocal』
「こんなに凛々しい歌声なのにラクスに及んでないって言われてるんだから怖いわね」
歩道に居る人達はラクスとラウスの歌が流れるプロモーションビデオに釘付けになっていたり、歩きながら大型モニターを見ていたりしている。
「・・・シホにはあんな風に言ったけど、信じ切れてないのよね私自身」
メラクは車を駐車場へ駐車すると荷物を持ってヴェサリウスへ乗艦する為に港へと向かった。ヴェサリウスへ乗り込むとザフトのエリートである事を示す赤色の制服に着替え、通路へ出る。
「今度は地球へ行くことになるのね。実に2、3年振りになるかな」
この時のメラクに地球で自分が本当の殺し合いをする事になるとは、思っていなかった。
箸休め回なので此処までです。
次回は砂漠の虎との決着です
ひょっとしたら虎さんの大切な人が生き残るかもしれません。