だが、そこで一人は親友ともう一人は初恋の相手と戦う事になってしまう。
蛇遣い座と竜座の星は互いに瞬きながら。
アスクレピオスとストライクは、お互いに連携が取れる位置に並びながらアークエンジェルの前方に待機する。
「(このアスクレピオスガンダムのデータをよく見せてもらったけど、中距離から接近戦仕様だ。遠距離とは相性が悪い・・・奪取されたGシリーズのデータの中にバスターガンダムってガンダムには気を付けないとな。換装が必要とはいえ、データを見る限りストライクは万能型だ。ランチャーを装備すれば俺が前衛、ソードなら中距離、エールなら遊撃を主にすれば行けるか?)」
「マサユキ、来るよ!」
「!!」
コクピット内部で敵が来た事を告げるアラートが鳴り響く。マサユキはヘルメットのバイザーを下げ、操縦桿を握り締めた。しかし、身体が震えている。今まで軍属の経験など全くの皆無。今まで平和な世界に生きる一介の学生だったのだ。ましてやヘリオポリスにおけるモビルスーツ戦が初めての実戦、敵を撃墜したといっても偶然が重なっただけに過ぎない。そして・・・。
「メラク・・・頼む。今回、いや・・・出来る事なら来ないでくれ!」
初恋の人であり、未だその恋を振り切れていない相手。その相手と戦場で出会ってしまった。その事がマサユキの思考を蝕んでいる。
「マサユキ?」
キラはマサユキの様子がおかしい事を薄々感じていた。何かを考えているようでボーッとしている事があったからだ。だが、すぐにはぐらかされてしまい詳しく聞くことは出来なかった。
「キラ、行くぜ!俺が前衛に出る。キラは遊撃をしながらアークエンジェルの護衛をしてくれ!」
「分かった!マサユキも出過ぎないで!」
「おうよ!」
マサユキはメラクの事を一時頭から離し、前衛でビームウイップにも変わる特殊サーベル「ヤマタノオロチ」を引き抜き、出力すると全方位から向かってくるモビルスーツを確認する。
「X102デュエル、X207ブリッツ、X303イージス、X103バスター、それに・・・X305ラスタバン!来ちまったのか!メラク!!」
マサユキの僅かな願いはもろくも崩れてしまい、目の前に表示されているデータが非情にも現実を訴えていた。
◇
デュエル、バスター、ブリッツ、ラスタバンは先行し、正面から向かっておりイージスだけは別方向から向かっていた。
「ヴェサリウスからもうアスランが出ている。遅れを取るなよ?」
「ふん、あんな奴に!」
「・・・・」
そんな中、ラスタバンがモビルアーマー形態に変形し一早く先行してしまう。その姿を目撃したイザークとニコルは声を上げた。
「メラクさん!?」
「メラク!!貴様!何をしている!!」
「もう一度確かめたい事があるの!悪いけど先に行かせてもらうわ!!」
モビルアーマー形態になったラスタバンの速度は宇宙空間とはいえ、通常のモビルスーツでは追いつけない。追いつけるとすれば同じように変形機構を持つイージスガンダムくらいのものだ。
「確かめたい事ねえ?アイツ、ヘリオポリスから帰還してからずーっと何か考えてたようだしな」
ディアッカの言葉にイザークは苛立ちを加速させ、ニコルは少しだけ胸がチクリと痛む感覚を味わった。
「ふん、関係ない!俺はモビルスーツをやる。ディアッカとニコルは戦艦をやれ」
「ええーー!」
「分かりました・・・」
「文句は無しだディアッカ、デカイ獲物だろう?」
「ちっ!」
三機はアークエンジェルから放たれる迎撃用ミサイルを破壊しつつ、接近していきデュエルのみが別行動をとった。
◇
「マサユキ!」
「メラクか!」
ラスタバンはモビルスーツ形態になりアスクレピオスとお互いに接近戦用のビームサーベルを出力し、斬り合いになるのかと思いきや、お互いに牽制のみをしており先へ進もうとするアスクレピオスに対し、その前にラスタバンが進路を塞ぐように現れる。
「刃を収めて!マサユキ!私達は敵じゃないでしょう!?」
「っ」
「どうして私達が戦わなきゃならないの!?」
「メラク、俺は・・!」
「私も貴方もコーディネーターよ?同じなのにどうして!?」
それと同時にストライクとイージスも同じ状態にあった。お互いに連携やアークエンジェルの援護に向かおうとしてもラスタバンとイージスに阻まれてしまう。
「なぜお前が地球軍にいる!?なぜ、ナチュラルの味方をするんだ!?」
「僕は地球軍じゃない!」
「!?」
「けど、あの船には仲間が・・・友達が乗っているんだ!!」
キラの叫びはアスランに僅かに届いた。キラは地球軍に無理やり戦わされている訳ではない、自身の友達を守る為に戦っている。だが、そんな理由で戦いを止められる訳がない。
「お前こそ、なんでザフトになんか!!」
「戦争なんか嫌だって、君だって言っていたじゃないか!!」
マサユキとキラの言葉はほとんど同じものだった。故に響き方もメラクとアスランに対しても同じものだ。
「状況もわからないナチュラル共がこんな物を作るから・・・」
「ヘリオポリスは中立だ!だから僕だって!なのに・・・!」
「中立!?こんなモビルスーツを作っておいて、何が中立なの!?」
ストライクのコクピットに凛とした女性の声が響く。発信源はX305ラスタバン、おそらくこの声の持ち主がマサユキが時折呟いていたメラクという人の声だろう。キラも名前から女性だと思っていたが、半信半疑で本当に女性だとは思わなかったようだ。
「メラク!やめろ!ストライクやアークエンジェルに手出しはさせねえ!いくらお前でもな!」
同じようにイージスのコクピットにも男性の声が響く。ディアッカのようなノリをしているようで口調がイザークのように荒っぽいが、どこかしっかりしている印象を受けた。この声の持ち主がアスクレピオスのパイロットなのか。
そんな争いをしていると別のモビルスーツがビームライフルを放ちながらストライクとアスクレピオスに向かってくる。
「何をモタモタやっている!アスラン、メラク!!」
「イザークか?」
「ああ、もう!予定が台無しじゃない!!」
デュエルの狙いはストライクのようで果敢に向かってくる。だが、それをアスクレピオスがさせまいとビームサーベル斬りかかるが、仮にもザフトのエリートである赤服を纏っているコーディネーターと一介の学生をしていたコーディネーターとでは操縦技術に差が出ている。
「くそ!」
「素人が!俺に当てようとするなど甘いんだよ!!」
デュエルからに蹴りを受けてしまい、アスクレピオスは体勢が崩れてしまう。ストライクも反撃に出る為にビームライフルを構えて発射し始めるがやはり回避され続けてしまっている。
「ぐあっ!?まずい、キラの奴!パニクって連射しまくってる!あのままじゃエネルギーが!って・・・なんで俺、そんな事がわかるんだ?」
一瞬とはいえ自分の冷静な判断に違和感を覚えながら、マサユキは急いでキラの元へ向かう。その間に奇襲を成功させたメビウス・ゼロからの通信とアークエンジェルからの帰還信号弾が発射された。
「帰還命令だと!?させるか!」
「くううう!」
「野郎ぉ!」
アスクレピオスも慣れないビームライフルの射撃で帰還を援護するが、出力が高くエネルギーの消費が激しい。
「イザーク!撤退命令よ!」
「うるさい!腰抜け共が!」
「くっ!」
メラクとアスラン以外はストライクとアスクレピオスへの攻撃を止めようとはしない。実弾を放つバスターの弾丸をアスクレピオスは我が身を盾に守り、反撃するがエネルギーが減っていく。ストライクもアスクレピオスも追い込まれる中、アスランとメラクは迷い続けている。
そんな中、ストライクを庇い続けていたアスクレピオス、ライフルを連射し続けていた二機のエネルギーが尽きてしまった。
「パワー切れ!?」
「しまった!?フェイズシフトが落ちる!」
色鮮やかだった機体色がメタリックグレーのディアクティブモードになってしまった。これを好機と見てデュエルはストライクを、ブリッツはアスクレピオスに狙いを定めた。
「もらったぁ!」
「クソおおお!」
瞬間、イージスとラスタバンが変形し、イージスがストライクを捕獲しラスタバンはアスクレピオスを捕獲した。
「アスラン!?メラク!?どういうつもりだ!」
「この機体、捕獲するわ!」
「何を言っているんですか!?命令は撃破ですよ!メラクさん!」
「捕獲出来るのならその方がいい!撤退する!」
「メラク!」
「アスラァァン!」
そのままストライクとアスクレピオスはイージスとラスタバンに運ばれてしまう。同時にアークエンジェルにフラガからのレーザー通信が入った。
「フラガ大尉より入電!ランチャーストライカーパックをカタパルトにて準備せよ?」
「間に合えよ、坊主達!!」
メビウス・ゼロは最大速度でストライクとアスクレピオスの救助に向かう。
◇
「くそ、メラク!どういうつもりだ!おまけにストライクまで!!」
「このまま貴方達をガモフへ連行するわ」
「ふざけんな!」
「僕達はザフトの船になんか行かない!」
「お前達はコーディネーターだ。僕達の仲間なんだ」
「違う!俺達はザフトなんかじゃ」
「いい加減にして!!」
「「っ!?」」
メラクの叫びに捕獲された二人は黙り込んでしまう。その声に僅かながらに震えがあったのには誰も気づいていない。
「お願いだからこのまま来て・・・でないと私は、貴方を討たなきゃならなくなるの・・・!」
「メラク・・・!」
「僕もメラクと同じだ・・・キラ」
「アスラン・・・」
だが、そこに敵襲を知らせるアラートがイージスとラスタバンのコクピットに鳴り響いた。
「無事か?坊主達!!」
「フラガ大尉!?」
メビウス・ゼロがリニアランチャーを放ち牽制しつつ、ガンバレルを展開するとイージス、ラスタバンへ向かって攻撃した。なんとか回避を続けるがガンバレルの予想を裏切る箇所からの攻撃に被弾し続け、ストライクとアスクレピオスを離してしまう。
「あううう!」
「くそっ」
「離脱しろ!アークエンジェルがランチャーを射出する!早く装備の換装を!アスクレピオスのバッテリーもある!」
「っ・・・分かりました」
キラは一瞬だけ迷ったがアークエンジェルへの帰還を決めると離脱していき、それに倣うようにマサユキもアークエンジェルへと向かう。
「キラ!行くな!」
「ダメ!マサユキ!行かないで、行っちゃダメ!!マサユキーーー!!」
アークエンジェルのカタパルトの射線に合わせると同時に。そこへ追撃に来たデュエルがストライクをロックする。
「ロックされた!?」
「貴方は此処で!」
ブリッツの右腕にある攻盾システム、トリケロスに装備されている3連装超高速運動体貫徹弾「ランサーダート」もアスクレピオスを狙っている。フェイズシフトダウンを起こしている今なら絶好の的だ。
「くうう!」
デュエルからグレネードランチャーが発射され、それと同時にストライクの換装が完了し、ブリッツから放たれたランサーダートもアスクレピオスに襲いかかる。
爆発を引き起こしアークエンジェルのクルーやザフトのパイロット達も爆発した方向を見ている。
「やったか?」
イザークの言葉と共にニコルが警告アラートを聞き逃さず叫んだが一歩遅かった。
「!まだです!」
そこにはランチャーストライカーに換装したストライクがアスクレピオスを守るように前衛に出ていた。ランサーダートは復活したストライクのフェイズシフト装甲によって阻まれ、反撃のアグニを放たれる。
「何!?」
「うあああああ!!」
「退け!イザーク、ディアッカ!これ以上の追撃は危険だ!」
「何!?」
「ニコルちゃんも早く撤退して!こっちのパワーが危険になるわ!」
「っ、はい!」
ザフトに奪取されたGシリーズが見えなくなるまでキラはアグニを放ち続けた。アスクレピオスはストライクに守られた為、アークエンジェルに帰還する事ができた。
◇
ザフトに帰還した5人のうち、イザークとディアッカはアスランとメラクの首元を掴み詰め寄っていた。
「貴様ら!どういうつもりだ!?あそこで余計な真似をしなければ!」
「とんだ失態だよね。アンタ達の命令無視のおかげでさ・・?」
「・・・っ」
「・・・・」
いつもは強気なメラクもこの時ばかりは何も言い返せない。義勇軍であるとはいえ軍属である以上、命令は絶対だ。その失態の引き金を引いてしまったのが他ならぬ自分とアスランなのだから。
「!何やっているんですか!?止めてください!こんな所で!」
そんな時、騒ぎを聞きつけてやってきたのがニコルであった。イザーク達の様子を見てすぐに仲裁に入った。
「5機でかかったんだぞ!?それで仕留められなかった!こんな屈辱があるか!」
「だからと言って、ここでアスランとメラクさんを責めても仕方ないでしょう!?」
「くっ!」
イザークはアスランとメラクから手を離すと出て行ってしまった。ディアッカもそれに倣って出て行くと扉を閉めた。
「アスラン・・・メラクさん。いつも以上にらしくないと僕も思います。でも・・・」
「今は放っておいてくれないか・・・ニコル」
「ごめんなさい、今は一人にさせて・・・ニコルちゃん」
「メラクさん・・・」
アスランとメラクは出ていき、それぞれ別の場所にとどまった。アスランは通路で壁を殴り、メラクは女性用にされている部屋の中で一筋の涙を流した。
「キラ・・・」
「マサユキ、どうして・・・どうして離れて行ってしまったの!?私はただ、貴方と一緒に居たかっただけなのに・・・うう」
出来る事ならば一緒に来て欲しかったという思いは二人に共通していた。一方は友人を、一方は初恋の人を。戦場で死なせたくないという思いから行動したが、徒労に終わってしまった。それが後悔として・・・。
◇
アスクレピオスとストライクから降りてきたマサユキとキラは着替えた後、フラガと出くわしていた。
「フラガ大尉?」
「ちょっと、伝え忘れていた事があってさ」
「はい?」
そう言うとフラガは二人の方に腕を回した。こうする時は内緒話だとマサユキは考えついた。
「ストライクとアスクレピオスの起動プログラムをロックしておくんだ。君達以外、誰も動かせないように」
「え?」
このフラガの発案が後に二人を助ける事になるとは二人は思わなかった。