アルテミスにアークエンジェルが着艦するなり、外から銃を向けられているのにマサユキは窓を見て気付き、親指で指し示しながらキラに小声で話しかける。
「キラ、用心しろ。外から銃を向けられているぜ」
「え?」
「良いか、俺達がコーディネーターだって事は絶対にバレてる。それをおちょくる様に言われても聞き流せ、真面目に受け取るな」
「う、うん」
「って、まただ・・・なんでこんな風に状況判断できんだよ」
アスクレピオスに乗り込んでから、マサユキは冷静に状況を判断する能力が強くなっているのを感じた。後頭部をかきながら自分自身の違和感を振り払う。自分は唯のコーディネーターで学生だったはずなのにと思わずにはいられない。むしろ、戦場に身を置けば置くほど自分の中の何かが研ぎ澄まされ、自分が自分でなくなっていくようだ。
考え込んでいると銃を構えた地球軍の軍人が部屋に入ってきた。乱暴に扱われるが、途中でフラガと合流し、食堂に向かうように促される。下手に動けば銃を乱射されて射殺されるだろう。イラつくが何も手出しは出来ない事にマサユキは心の中で舌打ちした。
食堂に入るとマサユキはロックとキラに近くに来るよう声をかけた。
「おいおい、どうなってんだこりゃあ?まるで軍事映画みたいじゃねえかよ」
「その映画の通りかもな?恐らく、映画の進行通りのようになるなら狙いはアークエンジェルとモビルスーツ・・て事になるのか?」
「そんな・・・」
「手柄を自分の物にする・・・有りがちな事だしな」
ヘリオポリスが崩壊する以前から映画などを観続けていたロックは今の状況を簡単に推察していた。あくまでも映画で得た知識ではあるが、実際に目の当たりにするとは思ってもみなかったようだ。
「おい!そこ!何を話している!?」
「え?ああ、映画の話ですよ。俺、軍事映画が好きで、そのストーリーをこの二人と一緒に話していたんです」
「なんだ、紛らわしい真似をするな!」
ロックの起点でなんとかその場を誤魔化せたが、これがいつまでも続くとは限らない。
「サンキュ、ロク」
「良いって、お前じゃ殴り飛ばしてるもんな」
◇
その頃、ザフトのユーラシア級内部でアルテミスの傘をどのように突破するか話し合いが行われている。
「見向きもされていなかった・・・ね?」
「そうだ・・・我々としても大した拠点ではないからな。だが、厄介なところに逃げ込まれた」
「いいえ、艦長。どんなに強力でも機械であり装置に過ぎません。絶対に欠点はありますよ」
「へえ、言うじゃん。クルーゼ隊の紅一点様に何か策があるっていうの?」
「同感だ、女ごときの作戦なぞ・・!」
「ムカつくわね・・・!ディアッカ、イザーク。男だからって調子乗ってるとハッ倒すわよ!!」
「おおう・・」
「何!?」
「メラクさん、落ち着いて下さい・・・!二人も挑発しないで」
ニコルがその場を収めるとメラクは長い黒髪をふわりと靡かせながら、作戦モニターを指で指し示す。
「傘は常に開くには膨大なエネルギーが必要なはず、同時に何かを帰還させたり入港させる為に一部を展開する事が有り得るのよ」
「それで、何が言いたいのだ?メラク・アウスト」
「これを突破するには強襲しかないわ。でも、私やディアッカ、イザークの機体では絶対に無理、理由は単純よ。近づいた瞬間に察知されてしまうから、そしたら・・・あっという間に傘を開かれて終わり」
「じゃあ、どうすると言うんだ!」
「慌てないの。この作戦の要となるのはニコルちゃん、貴方よ」
「え、僕ですか?・・・あっ!」
「気付いたみたいね?そう、ニコルちゃんの機体・・・ブリッツには隠密作戦用の特殊兵装が組み込まれているとデータにあったわ。それを使えば攻略できる」
メラクの作戦にユーラシア級の艦長は舌を巻いた。プラントでは人気ナンバー2の彼女が軍属となって話題になったが、戦術眼にも優れている事に改めて感心する。
「今回の先行はニコルちゃんよ?頑張って」
「は、はい!!」
ポンと優しく肩を叩かれ、姉のような雰囲気を持ったウインクをメラクから受けたニコルは心臓がドキンと高鳴った。元々コーディネーターでは非常に珍しく艶のある黒髪を持ち、プラントでの有名雑誌に読者モデルとして名を馳せていた女性でアカデミーでも言い寄ってくる男性も少なからず居た。
そんなメラクに対してニコルは片想いをしていた。本人は恋と思っているが、実際は憧れそのものだ。年上だがそんな事を感じさせない気さくさと優しさ、そして周りを引っ張っていく気高さ。その全てがニコルの心に憧れを持たせていた。
だが、アカデミー時代にメラクに告白している現場を目撃してしまった時、メラクは告白を断る時にはいつも自分には好きな人が居るからと答えていた。
「じゃあ、僕は出撃の準備をしてきます」
「抜かるなよ・・!」
「お手並み拝見、かな」
イザークとディアッカからの叱咤激励に近い言葉を受けながら、ニコルは出撃の為に部屋を出ていった。
「・・・・」
一人になったニコルは以前の戦闘でのアスクレピオスのパイロットとメラクの会話を聞いてしまっていたのを思い返していた。あの時のメラクは大切な人と出会ったような会話をしていた。その時の会話を思い出すと自分の中に黒い感情が出てくる。自分でも理解出来る、これは嫉妬だ。地球軍に味方しメラクに想われているアスクレピオスのパイロット、その相手に対して嫉妬している。
「メラクさん・・・僕じゃ頼りないですか?」
そう独り呟くとニコルはロッカーへ向かい、パイロットスーツに着替えブリッツのコクピットへと向かい調整を行い始めた。
◇
その頃、アルテミス内部ではアルテミスの指揮官であるジェラード・ガルシアがキラに対して高圧的な態度を取っていた。だが、そこにマサユキが介入して、言い争いになっている。
「黙って聞いてりゃ・・・地球軍がコーディネーターに偏見を持つのは仕方ねえ事だ。だがな、民間協力者に手を出すのが軍人のやり方か?」
「小僧が生意気な口を叩くな!」
「はんっ、その小僧に言いくるめられている有頂天のジジイが目の前にいるけどな?」
「!貴様ァ!裏切り者のコーディネーターのクセして!」
ジェラードはマサユキに殴りかかり、その拳をマサユキは
「っ!ぐっ、だがこれで一発は一発だ」
「ガハッ!?」
マサユキは仕返しの一発をジェラードの腹に拳を撃ち込んだ。同時にジェラードはその場に蹲ってしまう。無論、相手は軍人とはいえナチュラルだ、加減して殴っている。戦闘以外の時間をフラガとの特訓やモビルスーツの整備やプログラムの書き換えの為に工学の勉強に割いているマサユキはまだまだ半人前ではあるが、少しずつ成長している。
「き、貴様ァ・・・民間人が軍人に手を出すなど・・・許さんぞ・・・!」
「やられたらやり返す・・・。それが俺の信念なので。それに軍人が民間協力者に手を出そうとするのは見過ごせませんからね。裏切り者のコーディネーター?大いに結構だよ」
「貴様!」
「あー、それとモビルスーツの起動用のプログラムロックは俺とそこにいる彼にしか解除出来ませんので」
「な・・・!?」
マサユキはキラを親指で指し示し、蹲っているジェラードにズイッと顔を近づけた。その目には笑っているようで激情を宿している。
「重要な事を相談したいので、彼とお話していいですよね?」
「か、勝手にそんな事・・・」
「い・い・で・す・よ・ね?」
冷静な威圧にジェラードも頷かざるを得なかった。強引に許可を取り付けたマサユキはキラの近くに寄り、肩を組んで離れた場所に向かう。
「うわ!?な、何!?」
「しっ、キラ・・・恐らくこの後、強引にロック解除を迫られるはずだ。ロックの解除に時間がかかる事とゆっくり解除するフリをするんだ」
「え?」
「時間稼ぎだよ。アイツ等が俺達を逃がす訳がないだろ?」
「アイツ等?もしかして・・・!」
「そ、ガンダム部隊だよ」
「・・・・」
マサユキからの言葉にキラは軽く俯いてしまう。だが、彼の言葉も避けようのないものだ。
「恐らくは混乱状態になるから、すぐに起動できる状態にしてロック解除のフリをしつつ調整しよう」
「分かったよ」
子声で相談し終えるとマサユキはキラから腕を離した。もう相談は終わったと言わんばかりに。その後、ガンダムのパイロットである事を晒したマサユキとキラはアルテミスの所属軍から銃を向けられ、ストライクとアスクレピオスの起動プログラムのロックを解除するよう言われ、ハンガーへと連れて行かれた。
◇
それと同時期、ヴェサリウスからアルテミスの傘が一部、展開解除されたタイミングを見計らってブリッツガンダムが出撃していた。出撃と同時にブリッツ最大の特徴であるステルス特殊兵装である「ミラージュコロイド」をアルテミスのレーダーに感知されるギリギリの位置で展開し始める。
「ミラージュコロイド生成良好、散布減損率35%・・・。使えるのは80分が限界か・・」
メラクからの提案で強襲のタイミングは傘の発生装置を壊した瞬間と言われている。
「・・・メラクさん、僕・・・やってみせます!」
だが、ニコルは出撃前の通信で警告もされていた。それは必ずストライクとアスクレピオスの二機が必ず出てくるという内容だ。
『良い?ニコルちゃん。破壊が成功しても向こうにいるストライクとアスクレピオスを深追いしちゃダメだからね?』
「・・・っ」
ストライクに関してはまだ、自制ができた。だが、アスクレピオスに関してだけは奥歯を噛み締めるほどに許せない。あのパイロットに対する嫉妬を抑えるほど、まだまだ成長できていないのだ。
ミラージュコロイドが作動している間に傘の内部へと潜入した。発生装置を一つ一つ破壊していくと同時にアルテミスにも牽制をかける。
アルテミスの内部では外で爆発が起こった事により内部は混乱し始めてしまう。傘という城壁に守られていた油断が緊急事態に対する冷静な判断を鈍らせているのだ。それと同時に起動ロックプログラムを解除をするフリをしていたマサユキはキラに対して合図を出した。
マサユキと同じコーディネーターのキラの聴力なら、その音を聞くぐらい簡単な事だ。その合図とはマサユキが銃を向けていた軍人を蹴り飛ばした音であった。それが合図と気づいたキラも自分に銃を向けていた軍人を蹴り飛ばし、ストライクのコクピットを閉じた。アスクレピオスは既に閉じており、先に向かっている。
「貴様!!」
「攻撃を受けてるってのに内輪揉めしている場合かよ!キラ、先に行ってる!」
「分かった!マサユキ、気をつけて!」
「おう、遊撃位こなしてみるさ!キラもパックを装備したすぐに頼む!」
マサユキが駆るアスクレピオスはPS装甲を展開させ、アークエンジェルを守る為に前線へと出た。だが、そこへ現れたのはこのパニックを引き起こした張本人、ブリッツガンダムの姿であった。
「居た!アイツ!今日こそ!!」
「!野郎!」
ブリッツガンダムが放ってきたグレイプニールを特殊ビームサーベルであるヤマタノオロチで薙ぎ払う。ストライクと違ってアスクレピオスは換装が不可能な為、エネルギーの節約で出力を落としていた為に破壊はできなかった。
「貴方の、貴方のような人を、どうしてメラクさんは!!」
「っ!?な、何だ!?攻撃が激しくなってきやがった!?積極果敢に俺を狙っている!」
「覚悟おおおお!」
「ちいいい!」
接近戦では分があるアスクレピオスだが、ブリッツの気迫の乗った攻撃に押され気味だ。2機はビームサーベルを交差させ、競り合う。そんな中でもマサユキはある可能性を考えていた。
「ブリッツが此処を攻め込んだという事は奴らが近くに居るって事か。って、まただ・・・なんでこうも状況判断が冷静に出来んだよ?」
自分の中で徐々に何かが表に迫って来る不安感。それを振り払っていると、ソードストライカーを装備したストライクガンダムが援護に入ってくる。
「マサユキ!」
「キラ!って、おいおい・・・接近戦用のソードストライカー装備かよ!?」
「エールは整備中で、ランチャーは要塞を壊しかねないから仕方ないよ!」
「理想はエールだったんだけど、無い物ねだりをしても仕方ないな。キラ、アークエンジェルの方は?」
「今、艦長達が戻ったところだよ。発進する頃だと思う、ミリアリアから通信が来たらそれが合図だ」
「了解した。恐らくGシリーズの連中が来るはずだ。ソイツらを牽制しつつ、アークエンジェルを目指すぜ!」
「うん!」
内部戦闘の中。デュエル、バスターはメビウス部隊を相手にしながらブリッツを探している。
「あの艦は?」
「分からない。ニコル、何処だ!?」
二機は友軍であるブリッツを探すためにメビウス部隊を壊滅させた後、奥へと侵入していく。
◇
アークエンジェルは反転し始め、艦長であるマリューを始めとしたフラガ、ナタルも無事に戻ってきた。戦闘域ではストライクがアスクレピオスを援護しているが、まるで眼中にないかのようにブリッツは執拗にアスクレピオスへ攻撃を仕掛け続ける。
「貴方を落とせば、メラクさんは!」
「しつこい奴だな!俺はブリッツに恨みを買った覚えはないぞ!」
「マサユキ!」
「邪魔するなああ!」
「うああ!ぐっ!」
ブリッツのビームライフルの一撃がストライクを怯ませたが、その押し込みの反動を利用しビームブーメラン「マイダスメッサー」を放ってアスクレピオスからブリッツを間合いから外した。
「何!?」
それと同時にアークエンジェルからの通信が入った。ミリアリアの声がストライクとアスクレピオスの2機に響く。
「キラ、マサユキ!聞こえる!?アークエンジェル発進します!」
「合図だ。行こう!」
「ああ!けど、奴さんは逃がしてくれなさそうだ!」
「逃げるのか!アスクレピオス!お前は僕が!」
「悪いが、恨まれる覚えもないし死ぬ訳にはいかないんでね!」
追撃してくるブリッツへ目掛けて、アスクレピオスは機体の大半が残っているメビウスの残骸のレールガン部分を掴み、それを投げつけた。ブリッツは回避しようとするが、逆にアスクレピオスが何を狙っているのかに気付いてしまう。
「大半の部分が残っているモビルアーマーの残骸を投げつけてきた!?こんな小細工は・・!いや、違う!?そうか、狙いは!」
「遅い!!」
アスクレピオスの狙いは相手を攻撃する事ではなかった。メビウスの残骸をビームライフルで撃ち抜き、推進剤を誘爆させた。残骸を爆発させて作り出した光による目晦まし、これこそが狙いだったのだ。
「ぐっ!しまった!」
「じゃあな!」
ストライクとアスクレピオスはアークエンジェルの甲板に着地し、帰還した事を付ける。
「ストライク及びアスクレピオス、着艦!」
「アークエンジェル発進、最大戦速!!」
アークエンジェルはアルテミスを脱出し、ブリッツと合流したデュエル、バスターはその後ろ姿を見送る形になっていた。
「くううう!」
ニコルは悔しさで唇を強く噛み締めた。アスクレピオス達を深追いするなというメラクの忠告を無視した挙句、相手を逃がしてしまうという失態。しかも追撃不可能な状態だからだ
◇
マサユキはアスクレピオスから降りるとその場に座り込んでしまった。キラもキラで仮眠室に向かい、眠ってしまう。
労いの言葉をかけられたが、そんな事を聞く余裕もなかった。マサユキもキラも疲弊しており、何も考えたくはなかったのだ。
「・・・・戦いになんの疑問も浮かばなくなってきてるな・・・俺」
そんな呟きはすぐに星の海の中へと消えていってしまった。
次回はクライン姉妹が出てきます。