歌姫を解放する。
プラントの二大歌姫であり、姉妹であるラクス・クラインとフォンス・クラインの二人の元へ行くマサユキとキラ。
2人が部屋へ入ると同時に、透き通るような歌声とそれに合わせた女性低音の歌声が聞こえてきた。
「へぇ、流石はプラントの歌姫姉妹って奴かな?」
「え?」
「コーディネーターだからとかじゃなくて、純粋に歌声の事を言ってるんだよ。それとな少し考えれば俺達はラッキーだぞ?キラ。アカペラとはいえ、プラントで大人気の歌姫達の生歌が聴けたんだから」
「え、あ・・・うん」
ニシシと歯を見せて笑うマサユキにキラは呆気にとられてしまう。彼もこんなにミーハーな一面があったのかと。いつもは鋭い目つきと悪い口調で指摘や意見を言う彼がまるで悪戯好きな子供みたいに笑みを見せていたから。
[推奨BGM 機動戦士ガンダムSEEDより『静かな夜に』歌有り]
「ラクス姉様、お客様ですよ」
「あら?あらあら、ありがとうございます」
二人の歌姫が歌を止めてマサユキ立ちに向き直った。桜色に近い髪色をしラクスと呼ばれた少女がラクス・クライン。その彼女を姉様と呼んだ少し紫味のあるピンク系の薄い赤色、いわゆる撫子色の髪色をしたのが妹であるフォンス・クラインだろう。
姉のラクスの方は、ゆるふわな雰囲気を纏っており妹であるフォンスは力強さというより、戦国時代の日本の女性武将や当時の当主達を支えていた側室のように奥底に秘めたものが有る雰囲気をしていた。
「何か、御用で?」
「あ、ああ・・・食事を持ってきたんだ。な?キラ」
「う、うん。ここに置いておきます」
二人は食事が乗ったトレイをテーブルに置く。そうするとラウスの目から警戒心がわずかに薄らいだ。
「ありがとうございます」
「フォンス、あまりおイタはいけませんよ?」
「ラクス姉様が警戒し無さ過ぎるからです!」
この二人は性格が本当に正反対なのだろう。優しさと厳しさ、その二つを分割して産まれたように見えるくらいだ。
「じゃあ、俺達は退散するわ。あまり長居すると妹さんに睨まれそうだし」
「僕も一緒に行くよ」
「おう、行こうぜ。じゃあ、また」
男性陣の二人が扉を出た瞬間、中からマサユキにとって聞き逃せない言葉が出てきた。
『地球軍の戦艦にいると知ったら、メラクが血相変えてきそうですね』
『そうですわね、心配症な所があの人にはありますから』
それを聞いたマサユキは一歩踏み出すのを止めてしまう。そして、そのまま自分の思考の中へと入ってしまった。
「(メラクだって!?いや・・・仮にもザフトの歌姫達だ。知っていてもおかしくはないよな)」
「マサユキ?」
「(友人関係なのか?一体メラクはプラントへ移住してからどんな立場に・・・)」
「マサユキ!!」
「はっ!?キラ?どした?」
「どうしたじゃないよ、何を考えていたんだい?」
「あ、ああ・・・ちょっとな」
バツが悪そうな顔をした後に、マサユキはキラを食事に誘い話す事にした。
「マサユキ、さっきボーッとしてたのって何があったの?」
「ああ・・・あの2人がメラクの名前を口に出してからつい、な」
「!・・・そっか」
メラクと聞いてキラも納得した表情になる。マサユキにとってメラクは大切な人であり、幼馴染で今は敵対関係になっている。
声だけしか聞いた事はないが、マサユキとメラクは互いに想い合っている事もなんとなく分かっていた。
「なんだか、ごめん・・・」
「気にするなよ、それよりキラ。あの歌姫二人を返す提案があるんだが乗るか?」
「え!?それは本当なのかい!?」
「デカイ声を出すなって!!」
「ご、ごめん!」
一瞬で全身に血が巡るぐらい興奮してしまったであろうキラをマサユキは落ち着かせた。キラからすれば人質を解放する案を苦手意識がある相手から出されるとは思いもしなかったからだ。
「だけどな、これは一か八かの賭けだ。下手すれば俺達は地球軍に殺される可能性がある」
「な、どうして!?」
「地球軍からすれば勝手に捕虜を一兵士が逃がす形になるからな、独断行動にもなりうるって本で読ませてもらったんだ」
「・・・・」
「けれど成功すれば、あの二人を故郷に返すことが出来る。俺の提案はザフトへ通信してイージスとラスタバンだけで来る事を条件にするんだよ」
「イージスとラスタバンだけ?イージスは分かるけど・・・どうしてラスタバンも」
「メラクの名前が出てたって事は、あの二人はメラクと友人関係である可能性が高い。それにこちら側は二人も捕虜を返すんだ。こっちもストライクとアスクレピオスを使わなきゃならない。条件は一緒だろう?」
「確かに、そうだね」
「決行は俺が合図するからその時にな?」
「うん!」
◇
その後、アークエンジェルは合流命令を受け、そのポイントへと向かうことになった。だが、その途中で一人のクルーが叫びを上げる。
「ん?これは!?」
「どうしたの!?」
「ジャマーです!エリア一帯が干渉をうけています!!」
その報告と同時にある一帯の宙域よりナスカ級から五機のモビルスーツが先遣隊として出撃していた。
「前方にて戦闘と思しき熱分布を検出!先遣隊と思われます!」
「戦闘って!?」
「護衛艦隊より入電!ランデブーは中止!アークエンジェルは直ちに反転離脱!との事です!!」
「艦長!!」
「敵の戦力は!?」
艦長であるマリューの声に索敵を行い、報告が飛び交う。
「イエロー2-5-7!マーク4-0-2にナスカ級!!熱紋照合!!ジン3!!それと・・・待ってください!!これは!?イージス、それにラスタバン!!X-303イージス!X-305ラスタバンです!!」
「では、あのナスカ級だと言うの!?」
「艦長!」
「でも、あの艦には」
ナタルとトールの声に少し考えたマリューはすぐに判断を下して、号令する。
「今から反転しても、逃げ切れるという保証もないわ!総員!第一戦闘配備!!アークエンジェルは先遣隊援護に向かいます!」
マリューの号令と共にアークエンジェル艦内に戦闘警報が鳴り響く。
「おいおい、何事もなくって訳にはならないのかよ!!」
「マサユキ!」
「わかってるよ!」
二人は急いでパイロットスーツのあるロッカーへと走り、着替えを素早く済ませてデッキへとむかう。
既にフラガがメビウス・ゼロへ乗り込んでおり、出撃する寸前だった。二人もマードックへ叱られながらも愛機へ乗り込む。
「遅いぞ!坊主達!」
「すみません!」
「すぐに出撃します!」
コックピットのに乗り込んだ二人は投げ出される事を防止する為のシートベルトを取り付けながら、ミリアリアからの索敵情報を通信越しに聞く。
『キラ、マサユキ!敵はナスカ級2、ジンが3機、それと・・・イージスとラスタバンが居るわ。気をつけてね』
「(メラクが居るのか、データを見た限りイージスとラスタバンは強襲にはもってこいだし特にイージスは指揮官機としての役目もあるしな)」
『キラ、マサユキ。先遣隊にはフレイのお父さんがいるんだ。頼む!』
サイも通信越しにキラとマサユキにフレイの父親を助けてくれるよう頼み込んでいる。それを見た二人は頷いた。
「分かった」
「けれど、確実に助けられる保証はないからな?そこだけは覚悟しといてくれ」
「マサユキ!?」
キラが驚いた様子で通信するが、マサユキは冷静に言葉を口にする。
「キラ、フレイのお父さんがいる場所は前線真っ只中だ。銃弾が飛び交う場所で確実に助けられる保証はないだろ?」
「それは・・・・」
「自分でも驚くほど冷静で冷酷な事を言ってる自覚はあるさ。本当に自分でも驚いてる」
マサユキの様子から本当に無意識で自覚はあっても、口にしている事が驚きなのだろう。キラ自身もマサユキに意見に納得できている部分はあった。自分はコーディネーターだからこそ何でも出来ると思っていた思考を現実に引き戻され、自分が出来る事しか出来ないと頭の隅で思った。
「キラ、出撃したら遊撃を頼む。俺は先行して道を切り開くからさ!」
「分かったよ!」
アークエンジェルにある左右二つの発進カタパルトへストライクとアスクレピオスが乗り、ストライクは換装装備を装着され、アスクレピオスはバッテリーの確認が行われる。
『カタパルト、接続!エールストライカースタンバイ!システムオールグリーン!!進路クリア!!ストライク、どうぞ!!』
ストライクはカタパルトによって出撃し、フェイズシフト装甲を展開し灰色のアクティブモードからトリコロールカラーの展開モードとなり、先遣隊の居る戦闘宙域へ向かう。
『カタパルト接続!バッテリーエネルギーフル!システムオールグリーン!進路クリア!!アスクレピオス、どうぞ!!』
アスクレピオスも灰色のアクティブモードから起動状態の深碧色へと変わり、ストライクへ並ぶように向かう。
◇
アークエンジェルが救援に来たことをフレイの父であるアルスター事務次官は歓喜したが、隣に居る艦長は苦虫を噛んだ表情をした。
「アークエンジェルが・・・・バカな・・・」
命令は反転せずに地球へ降下することだ。これでは命令無視も同然だ。別の場所では四機のガンダム達がライフルの撃ち合いとサーベルでの鎬合いをしている。
メビウス・ゼロを駆るフラガはジンを1機、撃墜できたが、別のジンの追撃をくらい戦闘不能になってしまう。
「これじゃ、立つ手無いでしょ!俺は!!」
ストライクとイージスが戦っている間、その傍とも言うべき場所ではアスクレピオスとラスタバンが競り合っている。
「ちいい!!」
「このおお!!」
元は民間人のマサユキとザフトの赤服を纏うエリートの軍人であるメラクとでは、僅かに優位性が違ってくる。マサユキは自分の勘に従って回避しているが、これは運が良いだけに過ぎない。
主力が引き止め状態である中で、アークエンジェルではフレイがブリッジに上がり、ラクスを人質にして自分の父親が乗った戦艦を攻撃するなとザフトへ伝えるよう訴えかけていた。
だが、そんな願いも虚しくザフトのナスカ級の砲撃によって直撃を受けた戦艦は轟沈し、フレイは半狂乱になって叫んだ。
「いやあああああああああああ!!」
その様子を見ていた艦長であるマリューは放けてしまっており、彼女の優しさがそうさせてしまったのだ。その様子に軍人として判断を下した副艦長であるナタルは全方位周波数通信を使い、とある事を放送した。
「!バジルール少尉!?」
『ザフト軍に告ぐ!こちらは地球連合軍所属艦アークエンジェル!!』
「足付きからの全周波数放送です!」
『当艦は現在!プラント最高評議会議長シーゲル・クラインの令嬢、ラクス・クラインとフォンス・クラインの二名を保護している!!』
「なに!?」
「何ですって!?」
「っ!?」
「やっぱり、やりやがったな」
アスランとメラクは動揺し、キラはまさかといった感情になりマサユキは予想通りの出来事が起こった事で比較的に冷静だった。
「ラクス様にフォンス様!?」
『偶発的に救命ポッドを発見し人道的立場から保護したものではあるが、以降!当艦へ攻撃を加えられた場合、それは旗艦のラクス・クライン嬢とフォンス・クライン嬢に対する責任放棄と判断し、当方は自由意思でこの件を処理するつもりである事をお伝えする!!』
「っ!卑怯な!!」
「いいえ、卑怯でも何でもないわよ。アスラン」
「何!?メラク、お前!!」
「私だって相手を肯定するつもりはないわ!けれど、攻撃されない事を戦術面で見れば人質なんて当たり前なのよ!?」
「ぐううう・・・!」
ザフト軍であるイージスとラスタバンが行動を止めている中、マサユキの駆るアスクレピオスがストライクの近くへと詰め寄った。
「キラ、ボーッとしてんなよ」
「マサユキ・・・」
「な?予想通りだっただろ?これに関しては悪くは言えねえ。ザフトにとっても地球軍にとっても一時的な停戦状態だからな」
「だけど、人質だなんて!」
「気持ちは解る。俺だって本音を言えばものすごく『ふざけるな!』って叫びたいさ。けれど、こうしなきゃアークエンジェルに居るミリアリア達が死んでたぜ?」
「あ・・・・っ!」
マサユキからの友人達が死んでいたかもしれないという言葉にキラは唇を噛み締めた。マサユキ自身も本当はアークエンジェルに対して怒りの声を上げたいのだろう。付き合いがまだまだ短くても理不尽さには怒りを見せる事ぐらいはキラも彼の性格を少しだけ理解している。
「なんともまぁ・・・」
「格好の悪い事だな?援護に来て不利になったらこれか」
「隊長!」
ザフト軍の隊長であるラウ・ル・クルーゼの言葉に艦長であるアデスが話しかけ、それに対する回答がラウの口から出される。
「ああ、分かっている。全軍、攻撃中止だ」
◇
アークエンジェル内部では人質を使うなどといった表情のマリューとやむを得ない自体だったという表情のナタルが視線を交わし、ナタルが先に口を開く。
「ストライク及びアスクレピオス、そしてアークエンジェルを此処で沈める訳には、いきません!」
「解ってるわ、ナタル・・・!」
「誰か、ラクス嬢とフォンス嬢を部屋へ!!」
ラクスとラウスが地球軍の兵に部屋へ案内されている頃、ストライクとアスクレピオス、イージスとラスタバンがお互いに見合っていた。
「救助した民間人を人質に取る・・・そんな卑怯者と共に戦うのがお前の正義か!?キラ!!」
「アスラン・・・」
キラが何も言い返せずに黙っているとアスクレピオスからの通信がイージスへと入る。
『勘違いしないで欲しいな、イージスのパイロット!』
「お前は!?」
『俺達は地球軍の正義に加担してはいない。ただ、どうしても守らなきゃならない人間がいるんだよ。俺達は俺達の中にある正義で動いてる。民間人を人質になんて俺達の意思ではない』
「ふざけるな!!地球軍に属している時点でお前達も同様じゃないか!」
『ザフトの立場からすればそうなるよな?だが、お前達が逆の立場ならどうだ?』
「っ!?」
『先程と同じ事が言えるか?俺達だってお前と同じ言葉をぶつけたと思うぞ?イージスのパイロット』
「ぐ・・・ううう」
『アスラン、舌戦じゃあの人には勝てないわよ』
「メラク?」
『あの人は大局的な意見を口にしてくるの、端的な言葉を並べた所で届かないわ。自分達の中にある正義って言葉も恐らく事実。足つきのクルーが人質の判断をしたんでしょうね。私がもし、足付きのクルーなら実践しているもの』
メラクの意見に高ぶっていた感情が冷静になっていくのをアスランは感じた。そうだ、彼女はアルテミス攻略の折、冷静に見極める洞察力を持っていた。
「だが、彼女は助け出す!必ずな!!」
『ストライクのパイロット』
「え?」
『気を付けなさいね?貴方を利用しようとしてる人間がいるかも知れないから』
「・・・・」
『それと、マサユキ!』
「なんだ?」
『フォンスは必ず助けるわ・・・必ずね!!』
先に離脱したイージスを追うようにラスタバンも旗艦へと戻っていった。それを見送ったマサユキは深く息を吐いた。
「はぁぁ・・・とにかく戻るか?キラ」
「うん・・・」
ストライクとアスクレピオスは並ぶようにスラスターを吹かしつつ、アークエンジェルへ向かった。その途中でマサユキが話しかける。
「人質の件、周りに当たるなよ?」
「え・・・」
「俺達が意見したって何の意味もないって事だよ」
「うん・・・」
「それと、フレイって子にもな」
「?」
「俺達は彼女から恨まれるだろうよ。なんせ、お父さんを助けられなかったからな」
「あ・・・」
「覚悟はしとこうぜ」
その後、マサユキとキラはフレイが暴れていると聞いて部屋に向かうと半狂乱になっている彼女を見た。どうして父を助けてくれなかったのかと、どうして守ってくれなかったのかと。
「アンタ達!自分がコーディネーターだからって本気で戦ってないんでしょ!?」
「確かに、守れなかったのは俺達が弱かったからだな」
「そうよ!アンタ達のせいで!」
「だが、完全に守れってのは無理な話だ。それこそ、バリアでも張っていない限りな」
「だったら、アンタ達が身を犠牲にすればよかったじゃない!!」
「フレイ!」
フレイの言葉にサイが咎めるが遅かった、マサユキが僅かにキレてしまったのだ。だが、普段は大声を出しているはずが珍しく静かに怒っていた。
「おいコラ・・・テメェ今なんて言った?もういっぺん言ってみろ」
「ひっ!?」
「親父さんを助けて欲しかった気持ちは解るがな・・・その為に俺とキラに犠牲になれってのは筋が通らねえだろうが・・・!」
その手はギリギリと強く拳が握られている。殴りたい気持ちを必死に押さえ込んでいるのだろう、そんな彼にサイがマサユキへと謝罪の言葉を代弁する。
「すまない、マサユキ!フレイも気が動転してて、許してやってくれないか?」
「・・・分かったよ、サイに免じて引いてやる。フレイ、また同じ事を口にしてみろ・・・今度は容赦なくその美人な顔を潰すからな?キラ、俺達は行こうぜ・・・サイ達に任せよう」
「う、うん・・・」
キラを連れて行ったのはコーディネーターである自分達が居ると、またフレイが不安定になるだろうという考えなのだろう。その意図に気づいたのが友人付き合いが長めのミリアリアだった。そんな中、一人の人物が口を開いた。
「おい、フレイとか言ったな?」
「誰よアンタ!」
「俺はロック・フォーアート。ロクでもロックでも好きに呼んで構わない。お前、マサユキをあまりキレさせるなよ?」
「いきなりなによ!どういう意味よ!?」
「言葉通りの意味だよ、あの時のアイツは握り拳を握って自分を抑えてたんだ。もしもこの場にアイツと二人きりだったら、その美人な顔を殴られてるぞ?」
「そんな最低な事をするの!?」
「アイツは自己中心的な意見や、自己犠牲を強要されたりする事が大嫌いなんだよ。それが喩え女性であってもな?そういった事をすれば男だろうが女だろうが容赦なく殴る。お前はアイツの逆鱗に触れかけてたんだよ」
「っ・・・コーディネーターを擁護するの!?」
「アイツの友達として言ってんだよ、遺伝子は関係ない」
ロックの言葉にフレイは睨み返す事しかできなかった。ロックの言葉は一人の人間としてマサユキを友人の視点から見た注意だったからだ。
親友とお互いに呼び合っているからこそ、相手の性格をよく知っているとも言える。それ故の注意喚起、ロックはマサユキが冷静さを保つ訓練をしていても短気かつ激昂しやすい性格だと、この場にいる誰よりも理解している。
まだ、戦争に参加する以前にマサユキに対し揶揄い半分で大切にしていた物を壊した輩が居た。その時に激昂した彼は揶揄ってきた輩を入院させるほどの怪我を負わせてしまった。それも素手によるものでだ。
その時は自分が羽交い絞めにして、マサユキを必死になって止めると同時に何度も呼び掛けた事もあって、冷静さを取り戻させる事が出来た。
「(あの時は揶揄ってマサユキの物を壊した奴らも悪かったが、激昂したマサユキはマジでヤバかったからな)」
ロックは少し思い返して、全身に震えが走った。人間の怒りは一定のラインを超えてしまうと恐ろしい事になる。それを目の前で目撃し、結末を知っているからこそロックはフレイに警告したのだ。
◇
その後、宇宙において関係ないが時間帯は深夜、皆が寝静まっている時刻。そんな時間にマサユキはキラが眠っているであろう部屋へと赴いていた。そこで仮眠をとっているキラを揺らした。
「キラ、おいキラ。起きろって」
「ん?んん・・・マサ・・・ユキ?」
「例の作戦、やるぞ」
「例の・・・作戦?」
「歌姫姉妹の二人をプラントへ帰す作戦だよ」
「!本当・・!むぐっ!?」
「シッ!デカい声出すんじゃねえよ、馬鹿野郎・・・・!」
マサユキは咄嗟にキラの口を手で塞いだ。キラは驚いて寝ぼけ眼を見開いたが、マサユキの作戦がバレてしまう原因になりそうな事に気づき、頷いて非礼を詫びた。
キラは急いで着替えと目覚ましの洗顔を済ませると、クライン姉妹の部屋へと向かった。クライン姉妹は眠っていたが、通路から入ってきた電灯の明かりによって目を覚ました。
「あら?キラ様に」
「マサユキ・・・さんですね?何か御用ですか?」
「急で悪いが、俺達に付いてきてくれ」
「お願いします」
ラクスもフォンスも何かあったのか?問いたげな表情だが、キラとマサユキの二人に付いていく。辺りを警戒しつつ、モビルスーツの格納庫へ向かっていたが、サイとミリアリアに見つかってしまった。
「キラ?マサユキ?」
「あ・・・!」
「げっ・・!」
マサユキがマズイといった表情をする。それは二人に見つかったと同時に報告されてしまうのではないかという不安からだった。
「そんな露骨に嫌な顔しなくても良いでしょ?」
「嫌な顔じゃないっての、見つかった事がヤバいって思っただけだっての」
「同じ事でしょ、彼女達をどうするの?まさか!?」
「しゃーねぇ・・・ネタバレするか。お察しの通り、プラントへ帰すんだよ」
マサユキは仕方ないと言った様子で後頭部をボリボリと掻き始めた。キラは二人に対し、言葉を紡ぐ。
「黙って行かせてくれ、サイ達を巻き込みたくない!僕は嫌なんだ、こんなの!!」
「はぁ・・・ま、女の子を人質に取るなんて本来、悪役のやる事だしな!」
「お?」
「手伝うよ」
サイはどうやら、マサユキとキラの行動を咎めることはせずに手伝うと言ってくれた。尤もらしい言葉を言っていたが、内心二人と同じ気持ちだったのだろう。
向かう途中、ラクスとラウスに宇宙服へと着替えさせ、出てくるとサイが驚きの表情をしつつ口を開いた。
「いや、いきなり何ヵ月って・・・痛っ!」
「バーロー!んな訳あるか!!服だよ服、彼女達の」
ツッコミ代わりのチョップを軽く頭上に落とされ、サイは苦笑したがミリアリアは呆れていた。ミリアリアとサイがモビルスーツ格納庫の周辺を確認し、頷くとストライク及びアスクレピオスのコックピットへと向かう。
「こういう時に宇宙空間の無重力状態ってのは、ありがたいな」
「どうしてです?」
「重力があると下を歩かなきゃならないし、コックピットへすぐ向かえないからだ」
「そうですか」
フォンスとの簡単な会話をしているが、マサユキは緊張を表に出さずコックピットを迷わず開き案内する。
「複座じゃないから狭いけど、堪忍してくれよ?」
「これ位は大丈夫です」
向かい側ではラクスがサイとミリアリアに礼を言いつつ、再会の言葉を言っていた。サイは何とも言えない返事をするとキラとマサユキに声をかける。
「キラ、マサユキ」
「ん?」
「なんだよ?」
「お前達は帰ってくるよな?」
「・・・ああ、向こうの大切な物を返しに行くだけだからな。そうだろ?キラ」
「うん」
「さて、のんびりしてる暇はないぜ?誰か来ちまった!」
マサユキがそう言った瞬間、格納庫へ入ってきたのはメカニックの主任であるマードックであった。
「おい、お前ら!何してる!?」
「約束だぞ!きっとだからな!!」
ストライクとアスクレピオスを起動させ、キラとマサユキは無断出撃した。その先にはナスカ級ことヴェサリウスが低速に近い状態で動いている。
モビルスーツの出撃を確認したザフト側は第一種戦闘配備となり、それぞれ愛機となっているモビルスーツへと乗り込んでいく。
「キラ、ザフトへは俺が通信する」
「マサユキ?」
「過激な言葉は俺に任せておきな」
マサユキはキラへ通信した後、ナスカ級へと通信し言葉を発した。
『こちら、地球連合軍アークエンジェル所属のモビルスーツ、ストライクとアスクレピオス!ラクス・クラインとフォンス・クラインの姉妹を投降、引き渡す!ただし!!ナスカ級は艦を停止し、イージスとラスタバンのパイロット二名で来ることが条件だ!この条件が破られた場合、彼女達の命を目の前で奪う!!』
その通信を聴いたメラクが隊長であるクルーゼと艦長であるアデスへ通信する。
『隊長!行かせて下さい!』
「敵の真意がまだ分からん!それにラクス様とラウス様が乗っているかどうかも」
『隊長!』
その返答にアスランも通信へと割込み、許可を促すような表情をしている。
「分かった、許可する」
『ありがとうございます!行くわよ、アスラン!』
『ああ!』
通信を切るとアデスがクルーゼへ意見を言い始める。
「隊長、よろしいのですか?」
「チャンスである事は確かさ。ふっ、向こうのパイロットもまだ幼いようだな」
「はぁ・・・」
「艦を止め、私のシグーを用意しろ!アデス」
そう言葉を言い終えるとブリッジから出ていくクルーゼ。アークエンジェル側でもナタルがマリューに対して攻撃命令を出すよう進言している。
「艦長!アレが勝手に言っているだけです!!攻撃を!!!」
軍人としては最も正しい判断をしているのだろう、これは相手を倒せるチャンスなのだから。だが、それを咎めたのがムウであった。
「んな事をしたら、今度はストライクとアスクレピオスはこっちを撃ってくるぜ?多分な」
ストライクとアスクレピオスのレーダーに、イージスとラスタバンが接近している事を知らせるアラートが鳴り出す。
ストライクはビームライフルを、アスクレピオスは腰にマウントされているビームサーベルをすぐに展開できるよう構える。
イージスとラスタバンは制動をかけ、その場で制止する。この時ばかりは戦闘の意思は無い様子だ。
「アスラン・・・ザラか?」
「そうだ」
「メラク・・・アウストで間違いないな?」
「ええ」
お互いにコクピットを開くとそれぞれが見知った顔が見える。かたや幼年期の友人、かたや幼年期の幼馴染で想い合っている者同士の邂逅だ。
「話して」
「え?」
「この距離じゃお互いに顔は見えない、挨拶でもいいから話せば本人だって判るだろ?」
「ああ、そういう事ですか」
クライン姉妹はそれぞれ、見知った相手へと声をかける。
「こんにちは、アスラン。お久しぶりですわ」
『テヤンデー!!』
「メラク、私は無事ですよ」
「確認した」
「こちらも確認できたわ」
「なら、二人を連れていきな」
アスランとメラクはコクピットから出て、その場で佇んだ。ラクスはイージスへ、フォンスはラスタバンへと向かっていく。
「色々とありがとう、キラ。アスランも」
「お世話になりました、マサユキ。迎えに来てくれてありがとうメラク」
クライン姉妹の言葉にアスランとメラクは何も言わない。ただ、二人が無事であったことには安堵している。
「キラ、お前も一緒に来い!」
「マサユキ、貴方も!」
「「っ!?」」
二人からの言葉にキラとマサユキは一瞬だけ、驚く。
「お前が地球軍にいる理由が何処にある!?」
「マサユキ、貴方だってそうよ。一緒に来ればきっと!」
一緒に来て欲しいという意思表示を示すかのように、メラクは軽く手のひらを見せている。
「僕達だって、君達となんか戦いたくなんてない」
「けどな、あの艦は見捨てられねえ仲間がいる!だから、俺達は一緒には行けねえ!!」
「ならば仕方ない・・・・!」
「次に会う時は、私達が貴方達を撃つ!!」
「っ・・・僕もだ」
「ああ、覚悟はしてる。今度会う時は敵だ!」
一時はザフト側から攻撃されそうになったが、クライン姉妹の言葉により、お互いに戦闘にはならずに済んだ。
「キラ」
「何?マサユキ」
「いつか・・・を信じて戦うしかない。今はな」
「え?」
「いつか、また笑って話せる時がくる。を信じるしかないって事」
「・・・そうだ、ね」
二人が帰還し、軍法会議にかけられている最中、フレイは目覚めると同時に呟いた。
「このままには・・・しないわ」
少しだけ、時間を飛ばします。