Brand new page   作:ねことも

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多重クロスオーバー形式連載 4話。

ゲストキャラは、戦国BASARAの上杉謙信と、2まで登場していたあの女の子。
作中で別ジャンル(FAIRY TAIL)のあるキャラもちらりと登場しています。


【注意事項】

◇謙信の台詞は、ひらがな限定ではなく普通に漢字交じりにしています。
◇物語中に、別作品の絵本の内容を記載しています。
  


第4話【軍神のお気に入り】

 

とある世界に位置する島国―――日ノ本

この国はかつて、未曽有の危機に瀕していた。

 

発端は、とある異世界の死霊使いの策略によって…

この国に居を置いていた導き神が殺められてしまった事。

導き神喪失の影響により、各地で日照りや水害、未知なる疾病が蔓延。

もともと、天下統一を目指してあらゆる諸侯が争いを続けていた群雄割拠の時代。

度重なる争いもあいまって、これらの要因が重なり合った事により、多くの民衆の心に影を落とした。導き神が崩御しても、次代の頂点に立つ神の選出に困難を極めた事で、この世界のバランスは崩壊の一途を続け、危うく消滅する寸前だった。

 

その危機を救ったのが…光翼の生えた天上界の者達。

彼等は『エクレシア』と呼ばれる特殊な神族だった。

元凶とされた死霊使いを撃退し、さらに新たなる導き神を選出させた事で、この世界は救われた。

 

その後、彼等は都から離れた山中に神社を設けた。

次の次の代で後継者になりうるだろう神木の芽を守護する目的のために…。

彼等の中の一人…生前はこの世界の出身者であった…若き女子のエクレシアがその神社の

責任者として住まいを構えているのは、多くの武将が認知している事。

余談であるが、彼の者と親しい友人や恋心を抱く一部の武将が時間があれば神社へ

足を運んでいる。

 

越後の軍神…上杉謙信もその中の一人だったりする。

 

 

*** ***** ***

 

 

「つるぎよ、おりますか?」

 

ここは越後、彼の軍神―――上杉謙信が統治する国。

 

「謙信様、お呼びでしょうか」

 

彼の自室の天井から颯爽と降りてきたのは、グラマラスな露出度の高い服装の女性。

名は「かすが」

主である謙信の敬愛し、仕えているくノ一である。

背後で忠誠の姿勢を取るかすがに、謙信は緩やかに口角を上げる。

 

「この文を加奈殿に届ける命を授けます。お願いしますよ」

 

加奈とは―――越後から非常に距離のある場所にある神社の責任者の名前。

エクレシアの中でも二番目に若い年齢だが、実力は高い女子である。

 

謙信は、例の事件の終結以降、加奈とは文通友達となった。

月に二度は文を記し、信頼できる部下に託して送っている。

 

「今年は松茸が豊作でした。文と共に手土産としておくりましょう」

「はい、加奈も喜ぶはずです!」

 

謙信の提案に、かすがも大いに賛同する。

かすがにとって、加奈は謙信と同じく特別な人物である。

加奈とは、彼女の生前の頃からの付き合いであり、実の妹のように可愛がっていた。

 

彼女がエクレシアに成って以降も、それは変わらず。

それこそ、甲斐の武田信玄に仕える真田幸村の部下、猿飛佐助と張り合う形で、加奈のいる

神社へ向かう回数は多い方だ。

 

謙信は、必ずこの役目をかすがに任せる。

そこには、謙信なりの可愛い部下に対する思いやりの念が込められている。

 

「あなたの加奈殿を慈しむ清き思い、とても美しき事です」

「ああっ…ああっ~! 謙信様…!!」

 

謙信はかすがの手を包み込むように握りしめ、美しい顔に柔和な笑みを浮かべ、凛とした

声音を耳元で囁く。かすがは感激のあまり、うっとりと謙信の美しさに酔いしれてしまう。

周囲に青と白の薔薇が咲き乱れ、暫しの間2人の世界が出来上がった。

 

 

そして、5分後―――

 

「では、行って参ります」

「加奈殿によろしくお伝えください」

 

出かける挨拶をして瞬時に姿を消したかすが。

腹心の部下が旅立ったのを確認すると、謙信の視線は机の真ん中に開かれている書物に向かう。

 

「…この書を返す日が近くなりました」

 

謙信が熟読していたこの書物は、ある店で借りた物だ。

その店では、謙信の城にある書庫とは比べ物にならない程の多種多様な書物が並べられている。

謙信の住む日ノ本にはない異国の文献やこの世界には存在しない貴重な書まで…

ありとあらゆるジャンルを取り扱っている不可思議な店。

 

「そういえば…店主が近々この書の新しき噺を入荷すると仰っていましたね」

 

ふわりと煙のように記憶が浮かび上がる。

謙信はクスッと笑みを零すと、パタンと書物の頁を閉じた。

徐に立ち上がると、優雅な足取りで自室を出ていった。

 

 

30分後…城の裏口から1人の青年が出てきた。

艶やかな黒い長髪を後ろに纏めており、さる国の姫君と見間違えそうなくらいの中性的で

麗しい顔立ち。

 

(おや、木々の葉が色づいておりますね…)

 

何を隠そう…その青年は、謙信その人だ。

普段の白を基調とした衣装から、配下の者が普段が愛用している服装

…派手すぎず地味すぎない着物と袴へ着替えた。

 

城に仕えている、それこそ身近にいる側近や配下でなければ、彼が一国の主だと思わない

だろう。…美しい顔立ちと高貴なオーラだけは隠せないため、身分の高い御仁とは庶民でも

勘付くだろうが。

 

謙信は慣れた足取りで、城の裏にある馬小屋へいく。

愛馬に乗って、一走りしに行く訳ではない。

 

「おや、と…いえ景虎殿。今日はいい天気ですな」

 

馬の世話をする中年の男性が話しかけてきた。

 

彼は、まだ謙信が城主となる前から付き合いがあり、戦や二人きりの時はフランクな口調で

話し合える仲だ。

 

「確かに…絶好の散歩日和です」

「今日は【あちら】へ行かれる予定ですか?」

「夕刻までには戻りますよ。他の者にもそう伝えなさい」

「御意。ごゆっくり…」

 

中年の男性は愛嬌のある笑みを浮かべ、謙信の命令を了承すると、奥へ進んでいく謙信を

見送った。

 

「さて、参りましょうか」

 

馬小屋の一番奥…入り口から死角となっている場所の木製の壁を前にして、謙信は予め

持参していた【あるモノ】を取り出す。

 

二つの三日月が背中合わせに組み合わさった装飾品がついた銀色の鍵。

この時代…いやこの世界の日ノ本では見られないだろうそれは、謙信をあの店へ誘うための道具。

 

謙信が鍵を壁に向けると、一筋の光が壁一面を純白の眩い光で彩る。

光が収まると、頑丈そうな檜色の扉が壁に元からあるように出現した。

 

「ふふっ、いつみても飽きませんね。この魔法は」

 

謙信は鈍色のドアノブを押して、きぃ…と開いた扉を通った。

緑黄色の異空間に伸びる白く長い一本道。

通いだした当初は、緊張を伴って慎重な足どりだったが、今では散歩に行く感覚でリラックスして歩を進めていける。

 

(彼是1年になりますか…懐かしき事)

 

当時の事を思い出すと、謙信は思わず苦笑してしまう。

歩きだして5分…到着地点の白い入口が目に見えてきた。

そこを潜り抜けると、謙信の城ほどではないが、大きな南蛮風の館が視界に映った。

鉄製の門の上には、謙信が所持する鍵と同じ《背中合わせの二つの三日月》のデザインの装飾が

施されている。

 

この店―――貸本屋【双月文庫】のシンボルでもある。

 

謙信が、鉄製の門をゆっくり押すと洋館への玄関口がすぐそこに見えるが…

謙信の視線は周囲に広がる庭園に目が向いてしまう。

この時期は、薔薇とツツジの花が緑色が主体の庭に彩りを添えている。

 

「精が出ますね」

 

その花々の手入れをしている従業員…ゲルダに話しかける。

 

「あら、景虎さん。おはようございます」

「おはようございます」

 

互いに笑いながら会釈する。

青い瞳に陽にあたると輝く黄金色の髪

雪原を連想させるきめ細やかな白い肌。

目を離したら消えてしまいそうな儚さを併せ持つ美貌は、あの魔王と称される織田信長公の妹君と

張り合えるのでは…と密かに思わずにはいられない。

 

「こちらで借りた書を返却しに参りました。本日はハル殿はおりますか?」

「はい。二階で他のお客様とお話しされているはずです」

「…さようですか。教えて頂きありがとう」

 

謙信は笑みを深くして礼を言うとそのまま進み、屋敷の扉を開けて入店した。

 

 

 

「あ…」

「おや…」

 

入って早々、一階の奥のスペースで椅子に座って書物を読んでいる人と目があった。

桃の花を連想させる髪色の女人。

まだ幼さを残した顔立ちの彼女の名前は「エステル」

つい3週間前に、この店へ通いだしたばかりの子だ。

 

「お、おはようございます」

「おはようございます。本日もいい読書日和ですね」

「は、はい…」

 

謙信が微笑みながら言うと、エステルはほんのり頬を赤く染めて返事する。

 

「エステルさんでしたね。お読みになっているのは冒険小説ですね。

面白いですか?」

 

「はい! 主人公が自分のルーツを探すために一人で旅をしていくうちに、たくさんの出会いと

別れを経験していく話なんです。その中でも…主人公が自らを暗殺しようとしていた異国の少女と

距離を縮めていって、想いを寄せていく場面が胸がキュンとしてしまいました…」

 

読んでいる小説の魅力を語り出したエステル。

熱心に解説するその彼女を他の席にいる男子高生3名はぽかーんと見つめ、菫色の長い髪を左右対称に結わえた少女は真面目に聞いている。

謙信はほぅ…と顎にて手を添えて、時折相槌を打ちながら、彼女の話に耳を傾ける。

 

「エステル、すごいね…そんなにその物語が好きなんだ」

 

暫くして、少女…ソフィが純粋な感想を言った事で、エステルはハッとした。

 

「グレイト…エステルさん」

「7分以上もあれだけ事細かに長編の小説を解説するなんて…」

「しかも、俺でも分かりやすかったし! 頭にすんなり入ってきたぜ!!」

 

すっかり顔馴染みとなった杜王町トリオ…仗助、康一、億泰も彼女の解説に感嘆・唖然・称賛の

言葉を口々に言う。エステルの顔が徐々に沸騰した湯のように蒸気がでるくらい真っ赤に染まる。

 

「す、すみません…! 私、話に夢中で足止めしてしまいまして…」

 

アタフタと謝る彼女に、謙信は口元を緩める。

 

「いえ、謝らずとも結構です。貴女のおかげでその小説の魅力が伝わりましたよ。

今度、ぜひお借りしたいです」

 

ありがとう、と微笑んで御礼を言う謙信。

彼の背景に青い薔薇が咲き乱れるのを、その場にいた人達はしかと目撃する。

 

「では…私は二階へいきますゆえ、また後ほど」

 

優雅な足取りで二階の階段を昇っていく謙信をぽぉーと見つめるエステル。

エステル…? とソフィが不思議そうに彼女の顔の前で手を左右に振る。

 

「わ、私…あ、青薔薇の君と…話をしちゃいました…!」

 

次の瞬間、エステルはまだ紅潮している頬を両手で押さえながら興奮するように言った。

 

「アオバラ…あの人の事?」

 

「そうです! 艶やかな黒曜石を思わせる髪と瞳、男女の枠組みを超えた神秘的な美しさ、

エレガントな身のこなし方…まるで、神の祝福を得た青い薔薇が人となったようで…

私は【青薔薇の君】とこっそり呼んでいるんです」

 

はぁーとうっとりした眼差しで、どうしてそんな諢名にしたのか、という事を語るエステル。

 

「うん、素敵なネーミングだね」

 

その意味を聞き、ソフィはエステルの考えた諢名を気に入ったようだ。

 

「確かに、長尾さんって風変わりっつーか…大物ってオーラがでてるよな」

「あれだ、あれ…えと、そう! 宝塚の花形スターみてぇだよな!」

 

便乗する形で、仗助と億泰も彼の麗人に抱いて居るイメージを言っていく。

 

「あの方は…『ナガオ』さんと言うんです?」

 

「ああ、はい。長尾景虎さん…

エステルさんの世界だと『カゲトラ・ナガオ』って呼び方かな

…という名前です」

 

エステルが【青薔薇の君】の名を訊き返すと、康一が律儀に答えた。

 

「カゲトラ…さん、ですね」

 

うわぁーと憧れの人の名前を知り、破顔するエステル。

彼女の喜びを表すように、周囲には白い慎ましやかな花が浮かび上がっている。

 

「よかったね、エステル」

 

幸せ気分の友達に、ソフィも嬉しそうに笑う。

長尾さん…人気あるよなー、随分前に迷い込んだどっかの異世界の女の人も顔ぽぉーって赤らめてたしな~と話に盛り上がる仗助と億泰。

 

その中で、康一はあれ…?と首を捻る。

 

(そういえば…『長尾景虎』って何かで聞いた事がある名前なんだよなぁ)

 

ふわりと疑問が頭に浮かび上がる。

その疑問の答えが導き出されるのは、大分後の話となる。

 

 

 

 

 

「どうだい? この新作は…」

 

「うん、すごくいいよ…

多分、これまで君が作ってきた封印術具の中でも一番、効果がでている」

 

二階の奥にある机で店長のハルは歓談していた。

その相手は、対面に座る黒髪の青年。

この貸本屋に定期的に顔を出す常連の1人だ。

謙信は時々顔を合わせる事もあるが、挨拶程度で直に話した事はない。

 

「君の事をアルバレスにいる“12”にも話した事があるんだ。

特に、インベルとアジィールが関心を持ってる」

 

「おいおい、買いかぶりすぎだろ」

 

まだ階段付近にいる謙信の距離から、彼等の会話が聞こえてくる。

内容は、青年のプライベートに触れているようだ。

 

(…時間をおきましょうか)

 

情報を迅速に掴み取るのは戦において必要不可欠なモノ。

だが、此処は戦場ではなく、多種多様な異国人が集う異世界の貸本屋。

謙信もこの店では武将ではなく、一客人として訪れている身だ。

それゆえに、他人の私事に関わる話を盗み聞きするのは礼儀に反する行為。

謙信は、空気を読み取ってハル達が話が終わるまで、別の部屋へ待つ事にした。

 

 

*** ***** ***

 

 

右側の通路を進んでいき、二階の児童文学書の部屋に目が止まる。

普段は見ないジャンルもたまには読んでみよう…そんな好奇心から扉を開けた。

 

「ほぅ…なんとも愛らしき造形でしょうか」

 

この部屋は子ども専用に作られたのか、他の部屋と比較して内装が可愛らしい。

青空と白い雲を連想させる壁紙。

ネコや犬、クマのぬいぐるみ、積み木などの遊び道具が充実している。

そして、子どもが安全に書物をとられるように、此処の本棚は背が低い。

本棚に収められている児童書の背表紙を興味深そうに見ていく。

 

「―――【だれもいない町】」

 

なんとも意味深げなタイトルの絵本だ。

表紙は、桃色のウサギの女の子が描かれている。

謙信は、その絵本を開いて読みだす。

 

 

《その町には誰もいなかったの。

お家もあるし窓から明かりも見える。

でも道には誰もいない。窓から中をのぞいてみた。

 

ヒトがいた。でもアレと一緒だった。

ほかの家もみた。やっぱりアレと一緒だった。

この町もほかの町とおなじだった。

 

アレと一緒は楽しいから、ヒトと一緒より楽しいからみんなはもう外には出てこない。

この町には誰もいない。アタシは旅に出る。

ほかの町に行ってみる。誰かがアタシを見つけてくれるといいと思う。

 

―――『アタシだけのヒト』が。

 

でも『アタシだけのヒト』がアタシだけを好きになってくれたら、

それがアタシだけのヒトとアタシのお別れの時だ。

 

それでもアタシは『アタシだけのヒト』に会いたい。

そう思いながらアタシは今日も誰もいない町を行く。》

 

 

一通り読み終えて頁を閉じた。

 

(ふむ…難しい、かつ奥深い内容ですね)

 

物語はシンプルで、ウサギの女の子が自分を好きになってくれる人を探す旅にでる…という

内容だ。しかし、その背景が複雑だと感じた。

 

…登場するヒトや『アレ』という存在。

…ウサギの女の子が『アレ』に抱く感情。

 

設定を敢えて詳しく書かずに、読み手側の想像力に任せている。

この話はウサギの女の子が旅に出るところで終わっている。

つまり、これは序章(プロローグ)にあたるもの…。

 

(つづきは…あるようですね)

 

幸い、この絵本はシリーズ化されていた。

最初の一冊を戻して、二冊目を読もうと手を伸ばしたその時―――

 

「景虎さん、おはよう」

「おや…先程の方とのお話はもう済まれたのですか?」

「一応な。待たせてしまってすまない」

 

ハルが入室してきた。

正座していた謙信は、持っていた風呂敷を広げると2冊の分厚い小説が姿を見せる。

 

「こちらの異国の歴史小説を返却しにまいりました」

「感想はいかがでしたか?」

 

「簡潔に言えば、良い点は物語の設定と主人公の肉体的・精神的な成長ぶりが共感できましたね」

 

「その逆は?」

 

「第2部以降になってから、登場人物が一気に退場してしまった事です。

一人一人愛着のあった人物もいたのに…さびしいものです」

 

素直な感想を口にする謙信に、ハルは「あー、分かる」と同調して頷く。

 

「この本の作者は癖がある…どんな登場人物でも、流れ次第でバッサリ退場させるんだ」

 

ハル曰く、この書物を執筆した者は小説好きな読者の間では〝ある意味”有名な人物らしい。

物語の展開次第では、準主役…主人公の仲間や親しい人物、恋人さえもためらわずに物語から

退かせる手法を取る。そのやり方には賛否両論は勿論あり、ハルはやや反対派との事だ。

 

「…噺とは作者の心次第で決まるもの。

されど、読み手の思いにそうとは限らない。

難しい線引きですね」

 

絶賛されるものもあれば、不評だと突きつけられる作品もある。

作り手と読み手、どちらかの匙加減次第で、物語の評価は大きく変動してしまう。

 

「ハル殿、この小説の続編と…その作者の他の作品も紹介してくださいますか?」

 

けれど、謙信はそれもまた物語に不可欠な要素なのだと考える。

続編も含めて、その噂の作者の別作品も見たい衝動に駆られた。

 

「もちろん。いくつかおすすめするよ」

 

突然の客からの要望にも、ハルは明るい表情で答えてくれる。

 

(不思議です…ハル殿をみていると『彼女』を思い出す)

 

時々、彼の纏う雰囲気がどことなく親しい【ある人物】を連想させる。

困っている人にさりげなく手を差し伸べたり…旅をする事や人と交流する事が好きなところ。

…どことなく知己と似ている貸本屋の店主。

 

(フフッ、だからでしょうかね)

 

1年、この店に通い続けていても全く飽きがこない。

その理由は、謙信の興味がある書物が数多にあるだけではない。

お勧めの作品について語る店主に向ける謙信の目は優しさが溢れている。

彼と話をしていると、陽だまりのような心地よさを覚えてしまう。

縁側で気持ちよさげに昼寝をする猫の気分とはこんな感じなのかもしれない。

 

(そして日向は…ハル殿)

 

謙信は気付いている。

この貸本屋に訪れる常連は、少なからずハルの人柄に惹かれている事を…。

 

…彼と親しくなった者

 

…彼の謎に包まれた過去を解き明かしたい者

 

…彼と全力で戦いたい者

 

…彼に救われた者

 

どんな事情であっても、ハルは貸本屋の規定を破らない、迷惑をかけない人物であれば、

受け入れる許容の主だ。

 

もしこの先、彼に害をなす人物が現れるとしたら…?

それこそ、彼を慕う常連が許さないだろう。

 

(かくいう、私も同じ気持ち)

 

一度味わった、心地よい温もりを奪われたくない

…お気に入りの場所なら尚更である。

 

ハルは果たしてそれを理解しているのだろうか?

…己がどれだけ多くの人に影響を与えているのか、を。

 

 

 

【軍神のお気に入り】

 

 

 

「おっ、もう正午か。お昼どうする?」

 

壁に設置された時計を見たハルが尋ねてきた。

 

「そうですね…いただきましょうか」

 

謙信は顎に手を添えて少し思案して、昼食をとる事にした。

部屋から出たその刹那、ゲルダが急ぎ足でやってきた。

 

「どうした? ゲルダさん」

「マスター…緊急です。扉(ゲート)が開きました!」

 

その報告を聞いたハルは真面目な顔つきへ切り替わり、分かった…と頷くとゲルダと共に

一階へ降りていく。

 

(…また、違う世界の民が迷い込みましたか)

 

3週間前にも、エステルが同じ理由でこの貸本屋へ訪れたのを思い出した謙信。

常連の1人である、太公望が以前教えてくれた事だが、この店に繋がる空間は、ランダムに

星の大海にある世界のどこかへ出没してしまう。

かつて、此処に訪れた1人の女魔導士が原因らしいが、ハルに迷惑をかけているにも関わらず、

謝罪どころか問題を放置しているとの事だ。

 

なんと、厚顔無恥な人物だろうか…。

だが、同時にその女性がいなければ、謙信は一生この店を知る事なく、ハルとも出逢わなかっただろう。その事で微妙な気持ちを覚えてしまうが、この問題は当人同士でしか解決できないため、

敢えて深く追及するのをやめた。

 

謙信は、また別の話題に関心を抱いた。

今回、彷徨いこんだのはどんな人なのだろう?

少し遅れて、一階の階段を降りていくと…

 

「ふわぁー…でっけぇ、屋敷だべぇ!!」

 

感嘆交じりに声をあげる少女がいた。

ゲルダに背中を優しく押されて、入店してきた少女はキョロキョロと貸本屋の店内を

見回している。

 

「ようこそ、貸本屋【双月文庫】へ」

 

屈んで少女と目を合わせているハル。

一階にいる常連の面々の視線も、その少女へ集中している。

階段の途中で足を止めていた謙信は「おや…」と目を細める。

 

左右に三つ編みにした銀髪。袖のない服装とミニスカート(その下にスパッツ)の上から

雪国伝統の防寒具を纏った10代前半の小柄な女の子。

すると、その少女の目が階段付近にいる謙信を捉えるや、あー!と驚いた顔になる。

 

「軍神のにいちゃん!」

「…いつき殿ではないですか」

 

互いに呼び合う二人に、その場にいた常連が「えっ」と固まったり、視線を彷徨わせたり、

仰天している。

 

なんと…迷い込んだ少女は、謙信の顔見知りであった。

 

 

 

【つづく】

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