Brand new page   作:ねことも

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多重クロスオーバー形式連載 番外編。

主人公が過去を振り返る話で、『ある種族』である事が判明します。


【注意事項】

◇【七つの大罪】要素がたんまり含まれています。
◇作中の魔神族に関する一部描写は、原作に加えてオリジナル要素をプラスしています。
  


第5.5話【スーブニール】

 

俺が『自分が異質』なのだとハッキリと自覚したのは、推定年齢8,9歳の頃だった。

 

「―――すてるの?」

「食べられるモノじゃねえからな」

 

幼馴染にあたる銀髪の少年がそう言って、蔓をぽいっと捨てた。

俺はそれを拾って、凝視していた。

 

これは食べられるモノなのに…。

…?

なんで、これが食料だと分かったんだろう?

 

これはサツマイモの蔓だ。

小学校の行事で一から育てて、秋になったら紫色の塊ができる。

割れば、カスタードの様な黄色で焼いたり蒸したり、揚げたり…

調理法次第では色んな料理がつくれる。

 

…??

小学校って何だ?

 

聞き慣れない単語が頭の中にフッと浮かびあがっていく。

 

「―――『   』?」

 

幼馴染の少年が振り返って、訝しげにこちらを見ている。

けれど、俺はそれに答えられるほどの余裕がなかった。

 

…見た事もない景色

 

…微笑みを浮かべる人間族の老夫妻

 

…同い年の数人の男子

 

…アルコールと薬品の匂い

 

…黒い制服を着た一人の少女

 

頭の中に膨大な量の情報が一気に逆流してきた。

 

「――――!」

「『   』! おい…」

 

胸にこみ上げてくる不快感。

嘔吐しかかった口を手で覆って防ぐも、俺はその場に蹲ってしまい、視界が遮られていく。

 

「んん? どうした、お前さんら?」

「『   』の様子がおかしい!」

 

顔馴染みのジイさんと慌てる幼馴染の声を最後に、俺は意識を遮断してしまった。

気を失う前に、脳裏に浮上したのは…白衣を着た、黒髪の人間族の男。

 

そう…あれは一番初めの『俺』

遥か彼方に忘却されたはずの、【前世】の俺の記憶。

 

これがきっかけで、俺は変わってしまった。

気付いた時には…後戻りできなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

午前11時25分。

普段は常連客で賑わう貸本屋【双月文庫】は、店長のハルと従業員のゲルダとセッタの三人しかいない。それもそのはず、本日は定休日だからだ。

 

「ゲルダさん、今月は休みが少なかったから来月は多めにとってくれ」

「でも…よろしいんですか?」

 

「構わない。今月は僕の都合で君にシフト増の負担を強いてしまったからね。

今の状態なら僕とマスターでも問題ないさ」

 

現在、三人は次月のシフトを作成している。

この店は基本、年末年始や特別な日以外は開いている。

開店当初は、ハル一人で営業していてもさして問題なかったが、異世界へ繋がる扉(ゲート)が

開かれて以降は客足が急速に増えてきた。

 

それに伴い、馴染みのあるゲルダやセッタを従業員として迎え入れ、三人でやりくりするようになった。店が軌道に乗って、客足も安定してきたのが五年前。

その時に、従業員二人の体調管理も考慮して週休二日制へ変更した。

この場にはいないが、非正規社員(アルバイト)二名もいるため、二人のどちらかが緊急時や

病欠の場合でも補完できる体制を整えている。

 

「マスターはどうなさるんですか?」

「俺? そうだな…」

 

ゲルダから言われ、ハルは長机の上に置かれているカレンダーと書いている途中の白い箇所が

いくつかあるシフト表を交互に見る。

 

「第2週目の…水曜と金曜に休もうかな」

「分かりました。その日は僭越ながら私が店長代理を務めさせていただきます」

「そういえば、来月入荷する新作の書籍についてだが…」

 

セッタとゲルダが話す様子を向かい側から聞きながら、ハルは窓から外を眺める。

空は鼠色の細かい縞模様で覆われている。

一雨きそうだ…そう思った数分後、予感は的中した。

 

(そういや……あの日も雨だったっけ)

 

 

*** ***** ***

 

 

「…もうちょい奥まで行くか」

 

前世の記憶は、まだ子どもだった俺の頭の許容量を大幅に超えてしまったため、俺は体調を崩した。それから、記憶の欠片は雨水が少しずつ落ちてバケツに水を張るように俺の中に浸透していった。幸いなのが、現世での俺の記憶が前世へシフトチェンジするのではなく、ミルクを混ぜたコーヒーのようにうまく融合していった点。

そのおかげで、現世におけるある程度の知識と常識は奪われずに済んだ。

 

あれ以降、俺はこの事を秘密にして生きる決意をした。

その理由は前世…にも関わっているのだが、また後の話で語ろうと思う。

 

前世の記憶を呼び戻した要因となったサツマイモの蔓事件をきっかけに、俺はその記憶をもとに

何かに挑戦してみようと思った。初めに行ったのが、サツマイモの育成だったのはお約束だろう。

とりあえず、今住んでいるこの世界でも芋は作れるのかを試したかった

…余談だが、芋が前世の好物の一つであったのも理由に含まれている。

 

芋を育てるのに都合のいい場所を探したり、肥大しやすい土壌にしたり…

あれこれと作業していった結果、なんとか育成に成功した。

前世で見たサツマイモとは色が違っていたが、味はほぼいっしょだった。

懐かしさの相乗効果もあってか、かなり美味しく感じたのはいい思い出である。

 

それから、前世で見かけた事のある、あるいは類似した他の食物を探して育ててみたり、

そこらに生えている薬草や果実を使って、薬品を生成したり…

『思い立ったが吉日』を体現していった。

 

時折、銀髪の幼馴染がちょっかいをかけてきたり、その兄が何か言いたそうに凝視してくる事が

あったが、こちらに害はなかったので特に気にしなかった。

厄介なのは、顔馴染みのジイさんのお節介と現世の種族の長が意味深げな問いかけをしてくる事ぐらいだ。

 

 

話を戻そう。

その日、俺は日課の薬草取りで森の中を探索していた。

日用的に使う頻度の高いものを適量摘んでいき、布袋に収めていく。

その作業をしていると、雲行きが怪しくなってきた。

 

(うーん…降りそうだ)

 

予想は五分後に的中した。

微弱な雨粒はすぐに激しい雨弾へ変化した。

フードを被り、雨凌ぎになりそうな樹のもとへ急いだ。

 

「…やれやれ」

 

雨が緩和するまで此処で待つしかない。

勢いがやまない雨を眺めながら、ぼぉーとしていたら…

 

「…はぁ…早く止まないかな」

 

聴こえてきた第三者のため息混じりの声。

その声を聞くまで全く気配を感じ取れなかった。

俺は視線を樹の後方へ向ける。

 

「…誰かいるのか?」

「あ、はい」

 

試しに声をかけたら、あっさり返事をしてくれた。

 

「雨すごいですねぇ。

バケツをひっくり返すどころか、湖の水を抜き取った勢いがあると思いませんか?」

 

「そうだな…ところで、お嬢さんはどうしてこんなところに?」

 

この森は通常、俺を含めた特定の種族しか入れない。

此処は【魔神族】の領地内。

隷属している小種族であろうとも、上位階級でなおかつ魔神族の許可を取らなくてはならない。

無断で足を踏み入れるのはかなりの重罪に値する。

 

他種族との小競り合いが頻発して、監視下が強化されているこの情勢下で、後ろにいる女性は

どうやって侵入できたのか…?

 

「散歩するならこの場所はお勧めできない。

魔神族の領地内に足を踏み入れて監視に見つかれば、よくて獄中。

でなければ即刻魂をもぎ取られてしまうぞ」

 

「おおぅ…過激な刑ですな」

 

脅しを含めた忠告に、その女性は少しビビっている感じだ。

魔神族は、対象者に触れる事で魂を抜き取る能力がある。それを捕食して糧にしたり、個々の魂の持つ情報を読み取ったり、中にはコレクションにしたりする者もいる。

悪趣味な力ゆえに、倦厭する少数派もいて、その中に俺もまざっている。

 

「教えてくれてありがとうございます。

…それで、わざわざ助言をしてくれたのは親切心からですか?」

 

女性は御礼を言った後、何故忠告をしたのか理由を尋ねてきた。

 

「…半分は」

「もう半分は?」

 

「わざわざ危険を冒してまでこの森へ忍び込んだお嬢さんの目的が聞きたい…

一種の好奇心と管理者としての“義務”から」

 

後半をわざと強調して言った。

そう、この森は実質上俺が管理している。

 

今世の上司…もとい魔神王から「森の守護役になれ」と直々に言われたのが十数年前。

俺の能力がこの任に適当だというのが表向きの理由だが、実際は【左遷】だ。

戦える技量はあるが、魔力は上位種の中でも大した事ないレベル。

だからといって、つまはじきにあう程の異端児ではなく、そこそこ仕事はできる

ちょっとした変わり者。

 

…それが他の同族の《俺》に対する評価だ。

 

 

「おおぅ…森の管理人さん、でしたか」

 

多少焦っているのか、彼女の声に動揺が滲み出ていた。

 

「上から、不法侵入者がいたら『問答無用で処理せよ』と言われててな。

大層な役目だが、その分好きにさせてもらってる」

 

さて、と話を区切ると俺は立ち上がる。

辺境とはいえ、危険区域へ足を踏み入れた人物を逃がす訳にはいかない。

どんな目的か…答え次第では侵入者をこの手にかける処断をしなくてはならない。

慎重に歩を進めていくと、その女性の背が見えた。

 

「逃げないのか?」

「…追いつかれる気がしました」

 

だから降参します、と両手をゆっくり上げた女性。

潔い判断だ…いくら逃げ足が速くても、俺は秒単位で先回りできる。

どうやら、この人物は先を読む思考があるようだ。

 

手を上げたままの女性と向き合う形で、俺は立った。

長身であるゆえに、白い外套を羽織った彼女は小柄に見える。

 

「顔を拝見させてもらう」

 

確認のためにそう告げると、彼女は小さく頷く。

すっ…と目深めに被っていたフードをたくし上げた。

 

露わになった彼女に、俺は見惚れてしまった。

フードを外した事で、弧を描いて靡くブラウン・ベージュの長い髪。

澄みきった青空を連想させるスカイブルーの瞳。

外見は19、20歳だろうか

…手で触れたら消えそうな儚さと清廉なオーラを内包する見目麗しい女性だ。

 

目の前に命を左右する番人がいるにも関わらず、彼女の顔は恐怖に彩られていなかった。

 

「…髪の毛伸びてますけど、目見えますか?」

「………」

 

この当時、俺は目元が隠れてるほど前髪が長く、手入れはしているが切らずに生やし続けて

いたため、かなり異様な髪型だった。

彼女は、自ずと手を伸ばして指先で俺の前髪を横にずらしていく。

 

「…綺麗な色ですね。なつかしい…」

 

俺の瞳を見て、彼女は柔らかく微笑んだ。

緊張に満ちた空気は弾けるように解かれた。

代わりに、胸に陽の光を帯びた暖かい心地よさを覚えた。

 

「…名前は?」

「私は―――」

 

これが、彼女…のちの【嫁さん】との最初の出会い。

俺が辿る途方もない長い《物語》の始まりだった。

 

 

 

【スーブニール】

 

 

 

「…スター…マスター?」

 

ゲルダの呼びかけに、ハルはハッと我に戻った。

 

「ん、ああ~…ごめん。考え事してた」

「疲れているのでは?」

 

セッタが眼鏡を指先でかけ直しながら「体の酷使はクールじゃない」と指摘する。

 

「セッタさんの言う通りですよ。お休みになってください」

「あとは、僕とゲルダさんでまとめておく。夕飯ができるまで十分な仮眠をとるように」

 

「…分かった。そうするよ」

 

休め休めと促す二人に、ハルは苦笑して部屋を退室した。

 

「我ながら、いい従業員に恵まれたな…」

 

二人の気遣いに内心感謝しながら、ハルは自室へ向かう。

その途中、窓から外の様子を眺める…相変わらず雨の勢いはとまりそうにない。

 

心なしかざわりと胸が騒ぐ。

この形容しがたい症状を、ハルは何度も経験している。

彼の症状の後に、大小関わらず日常をひっくり返す出来事が発生してしまうのだ

…30%の確率で。

 

「…気の所為だといいが」

 

胸を軽く擦りながら、ハルは眉を潜めて不安を打ち消すよう呟く。

しかし、彼の言葉に反発するように、貸本屋の従業員と固定客を震撼させるハプニングが

起きてしまう。

 

…それは、ずっと後の話。

 

 

 

【つづく】




※次回以降、ハルさんの回想が増えます。
  
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