Brand new page   作:ねことも

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ハルさんの回想(1)
5.5話の回想で、奥さんと出会ったすぐ後の話。
  


ハルさんの回想(嫁さんとの出会いのその後)

 

互いに自己紹介をした後、俺と嫁さんは暫く樹の下で雨宿りする事にした。

小雨程度になったのを見計らい、俺は森の中にある家に嫁さんを招いた。

彼女は多少の警戒はしていながらも、逆らう事無く俺の指示に従ってくれたのが幸いだ。

 

「どうぞ」

「…ありがとうございます」

 

五年前に栽培に成功した茶葉を使った紅茶(味はダージリンに近い)を差し出した。

おそるおそるそれを口に含んだ嫁さんは「おいしい…」とほんのり笑ってくれた。

 

うん、紅茶の効果はすばらしい。

香りにはリラックス効果があり、ストレス解消と疲労回復に適している。

この間、視察にきたメラスキュラが新作の茶を絶賛していたから間違いない。

ちなみに、彼女に同行してきた銀髪の幼馴染…エスタロッサはつくったリンゴのパイの半分

以上を平らげた。

 

あいつ…時間があればこの森にやってくるな、仕事してるのだろうか?

向かい側に座っていたメラスキュラがあいつに物言いたそうに視線をぶつけていたのが

気になった。

 

しかし、俺のもとを訪れる同族が増えている気がしてならない。

エル(エスタロッサの愛称)とその弟達はまだ分かる。

ガランのジイさんは、森の管理をしている俺を見兼ねて、アポなしで突撃してくる事もあるが

(やめてほしい)…。他の幹部クラスやそこそこ親しい同胞が折々やってくるのは何故だろう?

 

半年前なんか、『あの人』がやってきた。

魔神王―――現世の上司です。

 

正直に言うとビビった。

やましい事はしてない…多分。

せいぜい、自分が生前好んだ料理を再現するため、材料確保目的で森の中をいじって家庭農園を

増やした事と葡萄酒を密ぞ…いやつくっている事ぐらいか。

 

あの人、多少話をした程度で帰ってくれたが、緑葡萄の酒の試作品を持っていかれた。

これは未だに謎である。

…あの人、なんで新作の葡萄酒の隠し場所知ってたんだろう?

 

 

 

話を戻そう。

多少、緊張感が緩んできた嫁さんに問いかけた。

 

“何故、魔神族の領地に迷い込んだのか?”

 

嫁さんは少し逡巡すると、話してくれた。

彼女はこの地、いやこの世界とは違う【異世界】からやってきた。

…ある人物を探し出すために。

 

種族はハーフエルフ、性別は女性で「マーテル」という名前。

マーテルは次元を渡り歩く術を身に着けており、星の大海にある世界を廻っている。

各地で起きている戦争―――その争いの原因となっている『存在』

それを解決する手段を彼女は持っていた。

 

嫁さんは彼女を手助けするために、生まれ育った世界から一人で旅立った。

ちょうど、降り立った場所がこの森の中央付近で、散策していて…俺と遭遇したようだ。

 

「―――お願いがあります」

 

覚悟を決めたように、嫁さんは真剣な顔で頭を下げた。

 

「私にはやらなければいけない事があります」

「人探し?」

 

「はい…勝手に領地内に入り込んだ事は大変申し訳ありませんでした。

ただ、罪を償うのを待っていただけませんか?」

 

彼女は“罪を見逃す”のではなく、“償う時間の延期”を懇願してきた。

わが身可愛さから湧き出る言い逃れではなく、本心からその言葉を紡いでいる

…彼女の瞳をみて、それを感じ取った。

 

「猶予期間はどのくらいほしい?」

「マーテルといっしょに世界の争いを止めるまでです」

「保証は? 目的を達成して逃げられたら困る」

 

さすがに言葉約束だけでは心許ない。

万が一のために、逃走を防止するための契約書に等しいものがほしい。

 

「…分かりました」

 

嫁さんはそう言うと、俺のどちらかの手を出すように指示した。

 

何する気だ…?

怪しみながらも、俺は右手を彼女の前に差し出す。

彼女は、俺の手を自分の両手で包み込み、呪文を唱えだした。

 

  ―――パァアアア

 

「…!」

 

彼女の手から眩い光が溢れ出す。

飛び交う陽光の色に似た粒子。

光は手を伝って、己の体内へと入り込んでいく。

 

  ―――ドクンッ

 

激しい脈動とともに、内側が燃え上がるような灼熱感。

徐々に湧き上がる力の胎動に、反射的に胸を抑えてしまう。

 

「大丈夫」

 

彼女が柔らかな声で囁く。

すると、暴れかかっていた力が急速に沈静化してきた。

 

胸の奥に留まる暖かい光。

指先で擽るような、なんともこそばい感覚。

そして…俺は右の手の甲に浮かび上がる見た事のない円形を象った紋様にぎょっとした。

 

「それが…貴方との約束を守るための“保証”です」

 

にこっと笑ってそう断言した嫁さん。

始めは、打算的な背景から生じたこの『つながり』は…

のちに俺の運命を決める要因の一つとなる。

  

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