多重クロスオーバー形式連載 番外編。
主人公の過去話で、嫁さんと出会う前…左遷先を宣告された時の諸事情の話。
【注意事項】
◇副タイトルは「モンさんとトークの巻」
モンスピートとの会話が大半の話となります。
◇作中の魔神族に関する一部描写は、オリジナル要素をプラスしています。
その日、俺はひとつの選択をした。
魔神王を中心に、近しい人物や側近、近衛部隊の視線にさらされる中、俺はその『舞台』にいた。
俺以外に、二名の人型の魔神族が中央で跪いている。
俺達が上層部に呼ばれた理由は…それぞれ固有の魔力を生かした新しい仕事場へ配属される事になったから。
…表向きはそうなっている。
(とうとうきたかぁ…)
いずれこういう事態になると予感していた。
俺は固有の魔力はあるものの、微妙なレベルだった。
上・中・下の三段階評価でいえば、中の中。
A・B・C・D・Eの五段階評価でいえば、ギリギリCのあたり。
能力を巧みに操れば、戦場では奇襲戦などで役に立つが…
魔力量を視野に入れると、長時間扱えないのが短所。
その分、物理的な戦闘術を上げていたため、足手纏いにはならなかった。
だが、近衛部隊やその他の有力な戦士のグループと比べると…いや比べるのは失礼か。
要するに、不可ではない『普通』の部類である。
魔神族は実力主義奨励な部族だ。
無能ならズバッと切り捨てられるが、俺の様なタイプは判断が難しい。
だから、魔神王は不定期に命令を下す。
今の現場で成果をあげられていない者や上位種でも大した魔力を持たない人物を、
手っ取り早く窓際へ追い出すための『左遷宣告』を…。
あまり面識はないが、他の二名は顔色がすぐれなかったり、緊張から顔が強張っていた。
…呼び出された意味を彼等もまた知っている。
この場で突き付けられる上司の判断次第で、未来も決まってしまうのだから。
そして、魔神王は予想を裏切る事なく俺達に命令を下した。
但し…三つの選択肢の中から自ら処遇を選び取れ、という形だった。
一つ目は、外界に赴いて他種族達に混ざり、その動向を調査して定期的に報告する。
草の根と同じ役回りをしろという内容だが、結構重要性の高い任務だ。
二つ目は、近衛部隊【十戒】の補佐役になる。
『補佐』という役職名は素敵な響きに聞こえるが、要するに彼等の身の回りの世話をしろという意味だ。
これは、どの【十戒】のサポート役になるかで仕事量も変動する。
三つ目は…外界にある数少ない領地を管理する事。
随分前の戦で獲得した森林地帯だが、そこは地の特質からか作物を育てるのは難しく、
本来なら地上から溢れ出ているはずの魔力が、雀の涙程に等しい微量な区域。
同族はおろか、他種族も好き好んで足を踏み入れようとしない場所
…おそらくこの中で最も選びたくない派遣先だ。
その内容が出た瞬間、隣の二人組が露骨に顔を歪めたところがその証拠である。
選択肢が明らかになるや、俺を含めた三人は暫しの思考タイムに入った。
この時点で、俺はほぼ答えを決めていたのだが、あまりにもあっさり言うのもアレなので
他の二人が答えを出すタイミングを見計らう。
「…一つ目の任を承ります」
一人は仕方がないと悲壮感を表に出しつつ、外界調査の選択をとった。
「二つ目の任を是非お願いします!」
二人目はその目にやる気と野望をぎらつかせて、十戒の補佐役を選んだ。
残るは、俺のみ。
回答を出した二人を含めて、周囲の視線が集まる中、俺は―――
「―――三つ目の任を謹んで承ります」
領地管理をする意思を伝えた。
ざわっと周囲に波が起きる。
(…そんなに驚くかな?)
最も行きたくない左遷先を選んだとはいえ、やけに周りが騒がしい。
先に回答した二名は、正気かこいつ!と言いたそうな顔つきだ。
(それと……)
さっきから妙に射貫くような強い視線を感じていたが、十戒の何名かが物言いたそうにしている。
ポーカーフェイスは崩さず、目は上司に固定したまま具体的なやり取りを続けた。
「失礼しました」
話もまとまり、上司からこの件に関して「終わり」が告げられると、
俺は素早くその場から姿を消した。
「おい…」
「ちょっとま…」
出ていく間際、エル(エスタロッサ)とゼルドリスがこっちへ寄ろうとしていたが、
急いでいるためスルーした。
次の派遣先での生活を考えると、数日の間に引っ越しをしなくてはならない。
(まずは、派遣先を下調べして…それから日用品と道具類を移動させていくっと)
頭で予定を組みながら、ちゃっちゃと支度を開始。
あの左遷宣告の後で、上層部の別の会議が開かれている。
…騒ぎ出しそうな知人が来る前にある程度片づけておこう。
「随分とさっぱりしたじゃないの」
三日後、大体の荷物を移動させて自宅で一休みしている時に、十戒の一人…モンスピートが訪れた。
幸いにも、この二日間は誰も突撃してこなかった。
モンスピートもといモンさん曰く、あの後で十戒のほとんどに各自任務命令が下されたためとの事。
(そっか…だからか)
エルとゼルドリス辺りがその日の内にやってくるか、と予想してたが、
なるほど任務で来れなかったのか。
思わぬ事で順調に引っ越し作業が進んだ事は嬉しいが。
「聞きたい事あるんだが、いいかね?」
モンさんは微妙な顔で尋ねてきた。
彼もまた、三日前の俺の選択を納得していない様子だ。
立ち話もなんだから椅子に座らせて、簡単な芋菓子(サツマイモの茶巾絞り)と緑茶でもてなす。
どうも、とモンさんは芋菓子を一口齧って味わうと緑茶をずぅと飲んで喉を潤してから、再び口を開く。
「お前、何考えてるの?」
「何を、とは?」
「三日前の事だよ。まさか前の奴らが先に選んだから、やむなく三番目をとったのか?」
もし、そうなら撤回できるよう進言しようか?
モンさんはどうやら、俺が選択肢が消去法だと思い込んで、残った三番目の任務を渋々請け負ったと
思っていたらしい。
「という事は…重複しても問題なかったんだ」
「そうだよ。ていうか…それ想定にいれてなかったようだな。
ま、他の二名にも言える事だけどね…ハァ~…折角“増やした”のに」
一瞬、耳を疑った。
増やした?
つまり、最初は選択肢は三つではなかった事になる。
「その口調だと…途中から選択肢を増やしたと?」
「『二番目』をね、特別枠だ。
今回の査定から、我らが魔神王は他の者の意見も取り入れるようになってね」
モンさんが説明してくれた。
過去、査定された者達は今回のものとは比べ物にならない程厳しい環境へ追いやられていた。
しかし、昨今では鍛えれば才能を開花させられる者も少数ながら査定対象者の中にいる事を発見した。
その人材を見極めるために、魔神王は側近や近衛部隊【十戒】を交えながら、処遇のバリエーションを増やした。
「でも二番目は目立ちすぎだろ…内容的に」
「そうかねぇ…アレで結構やる気起こさせられると思うんだが」
実際、一名選んでたし…とモンスピートは髭を触りながら言う。
彼の言う事は一理ある。
【十戒】は、魔神王直属の戦闘部隊というポジションから、多くの魔神族の間でその地位につく事は
一つのステータスであり、憧憬の対象である。
その補佐につくとなれば、日陰の身から一転、出世頭の仲間入りとなったも同然。
でも―――
「このままでいいよ」
「おやまぁ…理由は?」
俺が三つ目を選んだ理由は簡単。
…仕事をする合間に『趣味』も並行して行いたかったから。
『趣味』とは、専ら前世の知識を用いた研究である。
一つ目の選択もそれなりに魅力があったが、どちらかといえば派遣先にいる方が
あれこれしやすいと思ったから。
それに、外界に出る場合は同族を一名同伴させなければならなくなる。
フィールドワークはできれば単独でやりたい。
二つ目は前世の記憶も起因してか、無益な殺生に忌避感があるゆえに、対立種族との戦いに
呼び出される回数が多くなるから除外した。
それに補佐役は聞こえはいいが、誰の配下になるかによって、待遇はガラリと変わる。
いわば『ロシアンルーレット』だ。
十戒の面子はその圧倒的な強さに比例する形で個性的だ。
話せば面白いタイプもいれば、年中戦いを好む体育会系もいたり、合理主義的な性格で、
役立つ者は拾い上げ、無能はすっぱり切り捨てる者もいる。
モンさんのように一定の距離感を保つタイプなら苦はない。
だが、中には余計な詮索をしてくる人物もいる…メラスキュラやゴウセルのように。
彼等の事を嫌いという訳ではないが、深く追及されるのはあまり好きじゃない。
“前世”の教訓からか、己の情報を明かすのは出来る限り避けたい。
だから、一つ目と二つ目の選択は他の二名に丁重に譲る事にした。
それに、派遣先の実態も気になる。
魔力をあまり放出しないという点は、何か特殊な原因があるのではないか…?
その点を解明できたら、その森林地帯の価値も多少は変化するだろうし、上手くやればデメリットを
メリットにチェンジできる可能性もある。
時間制限はない上に、自分の好きな事をやりながら仕事ができる。
―――俺にとったら、贅沢な任務である。
一部の事(特に前世の事)を伏せつつその理由を話すと、モンさんはふむ…と顎に手を押し当てて頷く。
「お前、ホントに物好きだね。出世欲とかまるでないし…」
「代わりに知識欲と探求心はかなりあるけどな」
「しょうがない。帰還している他の者には、私が詳細を伝えておく。
無理強いさせると色々面倒だからね」
モンさんの良い所は、こちらの言い分も聞いた上で判断をしてくれる事だ。
ずずっとお茶を飲みほして、ふぅ~と一息つくと、彼はおかわりを要求してきた。
はいはい、と茶を注いでいると、モンさんは話を再開する。
「しかし惜しいものだ。
お前が派遣先に行ったら、お前のつくる料理をなかなか食べられなくなる」
「モンさんの中の俺の立ち位置は、小料理屋なのか」
「こりょうり…?」
「分かりやすくいうと、一般大衆向けに料理を提供する人の事」
「ふーん。だが、一部訂正言わせてもらうけど、お前が派遣先に行くのを
納得していないのは“私だけ”じゃないぞ」
その言葉に、俺は「ん?」と眉を少し寄せる。
モンさんは茶を啜りながら、さらに続ける。
「そもそも、あの二番目の選択肢をつくったのは“お前を十戒に引き入れるため”だった
…と言ったらどうする?」
「……………………マジで?」
あまりにも信じ難い事実に、思わず聞き返してしまった。
「周りがお前の事をどう評価してるのか、知ってるのか?」
「同期からは『変わり者』とは言われてる」
「概ねそれであってるけど、多少付け足すところもあるぞ。
どうやら、お前は自分の事過小評価しすぎてる節があるみたいだし…」
「魔力は大した事ないだろ?」
「その分、他のスキルで補ってるだろ。特に、剣術のレベルは私達と同格だ。
それに…いや、これ以上は長くなるから省略しよう」
モンさんの意外な指摘に、俺は頭を捻る。
無意識の内に、俺は何かをやらかしたのだろうか…。
「もし、お前が二つ目を選んでたら、誰の補佐役になるかで争奪戦が起きてたはずだ」
「そんな大袈裟な」
「いや本気で言ってるからね。
結果的に、今回はお前が予定外の答えを出したから保留になっただけだ。
…その証拠に、他の連中はまだ諦めてない」
そう言われても、想像つきにくい。
十戒の面々とはたびたび顔を合わせたりするが、彼等の前で目立つ行動はしていなかった…ように思う。
あれ~?と疑問符を浮かべて後頭部を掻く俺に、モンさんはさらに言う。
「お前って妙なところで鈍感だな。
…ま、どう考えるかはお前に任せるよ。
あ、そうそう…ひとつ言ってくけどね」
「ん?」
「さっきも言ったけど、城にいる奴らには詳細を説明するけど、
まだ任務から帰還してないのが三名いてね…」
モンさんが語っている最中、俺の名前を叫ぶ大声が聴こえてきた。
この気配は―――
「そいつら…ていうか一人もう来ちゃってるけど…
多分、任務終わったら此処に突撃してくるはずだから、お前が直接話してくれ」
それ早く言ってくれ!
額から冷や汗が滲み出る俺をよそに、モンさんがそう告げた直後に、
盛大な爆発音を立てて家が半壊した。
「ごらぁあああああああ、『 』!
お前さん、何考えとるんじゃぁああああ!!」
「やれやれ、もうちょっと穏やかに入ってこれないのかね」
やってきたのはガランのじいさんでした。
芋菓子の皿とカップを持って、安全圏内に素早く移動して文句を零すモンさん。
「聞いとるのか! だいたいお前さんは…」
「はいはいはい、とりあえず落ち着いて…」
よりにもよって、なかなか納得してもらえないだろう厄介な人物だった。
残る二人も…なんとなく嫌な予感がする。
かくして、説明会の第二ラウンドが始まった。
【スーブニール(2)】
「…スター、マスター」
視界がぼやけてきて、目に映る人物が怒る甲冑の老人から、見目麗しい美女へ大変化した。
「…ん、あれ? ゲルダさん?」
「お休みのところすみません。お昼の準備ができたのでお知らせに参りました」
…どうやら、転寝してたらしい。
すぐに行く旨を伝えて、ゲルダに先に食事処へ向かうように言うと、
ハルは頭を掻きながら暫くその場で余韻に浸っていた。
(このところ、昔の夢が多いな…)
できたら、今度は騒がしくない夢であってほしい。
そんな呑気な事を考えつつ、ハルは椅子から立ち上がり、欠伸をしながら食事処へ歩を進めた。
【つづく】