多重クロスオーバー形式連載 第11.5話。
番外編で、十戒のモンスピート視点で語られるハルさんの過去話。
七つの大罪のファンブック【罪約聖書】も参考にしていますが、モンスピートが十戒になった時期や
メリオダスが入る前の十戒のメンバー構成などはこの作品内のオリジナル設定です。
あれは何年前だっただろう…とモンスピートは首を捻る。
とっくに3000年は経過しているから、380年分もプラスしておこう。
あの頃は、他種族同士の小競り合いはあったけど、比較的平和な時代だった。
モンスピートが、魔神王直属の部隊【十戒】に配属されてから○年目の新参者だった。
言うのもアレだが、あの頃の【十戒】は今とは違う意味で個性的な集団だった。
年長者の何名かは弾けてた…良くも悪くも。
…人の事は言えないが、ともかく賑やかだった事は覚えている。
脱線したから話を戻すと…
その日、モンスピートは任務がなかったため、体を鍛えていた。
一息つこうとしたら、同じ部隊のガランが3日ぶりに任務から帰還した。
「ガラン、失礼だが…肩に乗っけてるその子は誰だ?」
「…詳しい話は後だ。こやつは今日から此処で育てる事になった子じゃ」
「はぁ?」
「モンスピート、儂は魔神王様に報告せねばならん事がある
…すまんが、用が済むまでこの子を預かってくれい」
「え、ちょっ…!」
ガランは言いたい事を言うと、子どもの首根っこをひょいっとつまみ上げると、
モンスピートへ預けて出て行った。
(まったく…人使いあらすぎでしょう)
文句を言いたくなったが、本人がいないから仕方ない。
溜息を吐くモンスピートを、ガランが置いていった幼子が不思議そうにじぃーと
眺めている事に気付いた。
(大体18歳【人間年齢:約1歳】位かねぇ…あのジイさんの孫…な訳ないか)
魔神族は、外見が人型から異様な形状の者まで幅広くいる。
ガランは、非常に背の高い緑色の甲冑を纏ったような姿をしている。
この幼子は、おそらく人型の魔神族の番から生まれたのだろう。
ガランが引き取ったという事は、幼子の両親とは知り合いだったのかもしれない。
「やれやれ…本気で子育てするつもりかね、あのジイさんは」
「う~?」
「他の皆にもなんていうのやら…」
幼子の頬をふにふにと突きながら、モンスピートは軽く溜息を漏らした。
それから、魔神王の許可を得てその子どもを育てる事となった。
名前は『ヴァイスハルト』
外見が可愛らしかったため、モンスピートは最初は女子かと思っていた。
だが、世話をしていて自分と“同じ特徴”を目にした事から男子なのだと認識した次第だ。
「ほーれ、ヴァイス。たかいたかーい!」
「あーい!」
「ちょっ…高すぎ高すぎ!」
最初はどうなるかと思ったが、ガランは他の同族の助けを借りながら、ヴァイスを育てた。
傍から見てると、危なくて思わず手を貸す人が多かったというのが…正確だろう。
「この子の親は?」
「父親は戦で仲間を庇って亡くなった。…母親も同じじゃ」
両親は、ヴァイスを預かる数日前に鬼籍に入った。
ガランは双方とも面識があり、父親が母親と婚姻を交わした際に、ガランに頼み、
彼の【真実】の戒禁を用いて永遠の愛を誓わせたそうだ。
彼等は、当代の魔神王とも親しかった事もあり、魔神王は多少逡巡したものの、
ガランがヴァイスの養い親になる事を了承した。
「ヴァイスの両親は、我が子の成長を見届けぬまま逝ってしもうた。
…せめて、独り立ちできるまで、誰かが世話せねばならん」
「それで立候補したと?」
「引き取り手は他にもおったが…
魔神王様は、一時的に儂に任せると指名してくれたんじゃ。
だから、儂はこの子を立派な戦士に育ててやろうと思う!」
「『一時的』って点は気にしなくていいのかね…」
モンスピートのツッコみも、耳から素通り状態のガランには何の意味もなさない。
こうして、ガラン(及び他の同胞達)は、ヴァイスを愛情と厳しさをもって育てていった。
「ヴァイス、これ食べるかい?」
「…ありがと」
「ヴァイス、今日から戦いの基礎を教えてやる。準備せい!」
「うん!」
ヴァイスは大人しく口数は少ないものの、素直にすくすくと成長していった。
ガランだけでなく、他の十戒の面々にとっても、ヴァイスの成長を日に日に観察するのが
日課となっていた。かくいう、モンスピートもガランのフォローの為に子育てに関わった事から、
子煩悩に目覚めるきっかけとなった。
…だが、35年(人間年数換算:2年)後、そんな日常が変わる事態が起きた。
「ヴァイス…魔神王様から命令があった」
「めいれい?」
「7日後に、お主は魔神王様の知り合いの元で暮らす事になった」
その日、魔神王に召喚されて数時間後に戻ってきたガランは浮かない表情を露わにしていた。
モンスピートは、その連絡を聞くや「ああ、そうか」と納得した。
…『一時的』の期間が終わりを告げたのだと。
たった35年…魔神族にとったら瞬きをする程の短い月日だ。
されど、赤子の頃から世話してきた子を手放すには些か早すぎる期間であった。
古参達は名残惜しい様子で、ヴァイスを見送っていた。
「時々でいいから戻ってきなよ」
「うん、モンさん、ありがと」
迎えに来た使者に手を引かれて、ヴァイスは小さな手を振りながら行った。
古参達(特にガラン)が隠れて忍び泣きしている中、モンスピートも本音は寂しかった。
それが間接的な要因になってか、相棒となるデリエリを育てる事にも繋がったのはすぐ後の話である。
引き取られてからも、ヴァイスは週に一回の頻度でモンスピート達のもとを訪れた。
引き取った養母である魔神王の知り合いとは、すぐに仲良くなれたと言っていた。
また、同世代の友達もできて、ヴァイスの知る世界は少しずつ広がっている
…その事を、モンスピートはいい傾向だと素直に思った。
「わし、魔神おうしゃまに…ヴァイスを引き取りたいっていおうかのぉ~」
「はいはい、好きにしたらいいよ(多分、断られるだろうけどね)」
時折、酒を飲みすぎて酔っぱらったガランに絡まれる事が鬱陶しいなど、一部を除けば平穏な日々が続いた。
100年位経過した頃、部隊に若い世代が混じるようになった。
ヴァイスも、十戒の補佐をする形で出陣するようになり、戦場を駆け巡る姿を目にするになった。
敵との小競り合いがない時は、幼馴染の兄弟…メリオダス、エスタロッサといっしょに
遊んでいる光景をよく見かけた。
「ぼぉーとしてると身体が鈍るぞ」
「あ、メル」
「ヒマなら、俺の稽古の相手しろよ」
この時期のヴァイスは大人しい性格だった所為か、戦以外の時は1人でのんびり過ごす事が多かった。
そのため、幼馴染の2人の内、どちらかまたは両方がヴァイスの背を押して外へ遊びに行くのが
お決まりだった。
「ヴァイス、遊ぼう」
「いいよ」
特に、エスタロッサはヴァイスを積極的に連れ出していた。
彼が同年代の子の中で、メリオダス以外で心を許していたのはヴァイスだけだ。
モンスピートの目から見ても、その事実は分かり易く表に出ていた。
おそらくこの時から、エスタロッサは自分のお気に入りのカテゴリーに、ヴァイスを入れていたのだろう。
「ふんふーん~♪」
「けつからいって、おんぶ」
「わたしも~」
ヴァイスは他の世代からも慕われた。
モンスピートが任務でいない時に、幼いデリエリやメラスキュラ等、年下の子ども達の世話をしてくれた。
「…ヴァイスといると、おちつく」
メリオダスがポツリと呟いたその言葉に、内心同調した。
ヴァイスは、荒ぶる者の心を落ち着かせる才能があった。
いや…この場合は「力」といった方が適切かもしれない。
魔神族の中では、異彩を放っていたにも関わらず、それを目立たせる事なく周囲に
ごく自然に本人の特徴の一部だと思わせていたところがヴァイスの美点であり、
ある意味恐ろしいところであった。
モンスピートはつくづく思う。
あの当時、ヴァイスの力に目をつけて、悪用しようとする者が同族にいなかった事が
幸いだった…と。
もし、そんな輩が1人でもいたらもっと早い段階で部族の団結が失われてしまい、
敵対部族に付け入る隙を与えていたはずだ。
たかが、その程度の力で…と思うだろうが、ヴァイスの本当の力はそれだけではなかった。
その鱗片をモンスピートは目撃したのだ…【あの出来事】で。
きっかけは、魔神族の領土である森林での散策。
敵対部族の討伐が続いていたため、息抜きと食材探しを兼ねたピクニックのようなものだった。
適当な果実が落ちていないか、ヴァイスはエスタロッサと2人で探していた時に
…ハプニングが起きたのだ。
「…モンスピート」
「デリエリ、どうした?」
「あれ」
デリエリが指さす方向に目を向けると、慌てた様子でこちらへ駆けてくるガランが
両の目に映った。
「緊急事態じゃ!」
「何が…ッ!?」
ガランは、ぐったりと意識を失ったヴァイスを抱きかかえていた。
後から走ってきたエスタロッサが狼狽した様子で、事の次第を語った。
…ヴァイスは、見た事のない植物の蔓を手で掴んで数分経たない内に倒れてしまったとの事。
領土内とはいえ、原因不明の症状で意識を喪失した子どもを森のど真ん中で休ませる訳にはいかない。
ガランはエスタロッサを伴う形で、先に領地に戻る事にした。
「ヴァイス、だいじょうぶなの?」
メラスキュラが不安な面持ちで尋ねてきた。
まだ幼女であるのに、普段は大人びた物の見方をする彼女が、年齢相応の子どものように困惑している。
「けつからいって…かえる」
「ヴァイスの事が気になって、食糧を取る気になれない。
早く帰ってヴァイスのもとへ行きたいのか?」
「ん!」「…わたしもおなじ」
モンスピートの翻訳に、デリエリはコクリと頷き、メラスキュラは小声で同意する。
2人とも…それだけ、ヴァイスの事が心配なのだろう。
「…分かった。じゃあ急ごうかね」
デリエリとメラスキュラを両方の腕で抱きかかえると、モンスピートは漆黒の翼を
広げて領地へ向かった。
到着するや、そこには任務から帰還したばかりのメリオダスもいた。
寝室で、未だに目を覚まさないヴァイスを見る彼の顔は悲しさと悔しさが織り交ざった
感情を表に出していた。
いつものメリオダスからはありえない程、顔が感情で彩られていた事に驚きつつ、
モンスピートはガランに状況を訊いた。
「…で、どうなんだ?」
「うんともすんとも言わん…治療に当たってくれた者も、原因が掴めんとの事だ」
眉を顰めるガランは力のない声で答えた。
エスタロッサは悲痛な表情で、ヴァイスの手を両手で握りしめてその場から離れようとしない。
元は、彼が植物の蔓を放り投げてしまった事が発端だったためか、責任を感じているようだ。
「う…ん…」
部屋によどむ重苦しい空気を切り裂いたのは…ヴァイスの声だった。
「ヴァイス…!」
エスタロッサが名を呼ぶと、ヴァイスは閉じていた瞼を薄らと開いた。
再度、目を閉じて数秒してから、ゆっくりと瞼を完全に開いた。
モンスピートはホッとした。
よもやこの状態が長期に渡るのでは…とこの場にいる全員が覚悟していた中、
意識を取り戻してくれたのだから。
「おぉ…よかったわい! ヴァイス、どうじゃ? 具合の方は…」
ガランも安堵したのか、上半身を起こしたヴァイスに駆け寄る。
「……ッ…」
「ヴァイス…?」
この時、モンスピートは違和感を覚えた。
ヴァイスの顔色がすぐれない…?
最初は、病み上がりだからだと考えていたが、すぐに違うと察した。
「…あぁ……あぁ…ッ」
周囲に視線を巡らせたヴァイスは、全身をカタカタと震わせる。
何かに怯えている…?
モンスピートがその疑問を口に出そうとした時だった。
「あっ……うわぁアアア―――ッ!!」
部屋全体に、ヴァイスの叫び声が響き渡る
キィイインと金属音を鳴らしたような音が耳を震わせ、同時にヴァイスの体から
ジワジワと魔力が溢れ出していく。
(なんだ…この魔力は…!?)
ヴァイスの中にある見慣れた魔力と…それとは別に全く異なるものが混在していた。
しかも、その量が半端なく…とめどなく湧き出てくる。
『○○○×●…******M□◇◆■◇!!??!』
ヴァイスは頭を両手で抑えながら、意味不明な言語を発しだした。
それに伴い、彼を取り巻く魔力の量もどんどん増えていき、部屋へ拡散しようとしている。
「いかん!」
ガランがその異常に気付いたのか、素早くヴァイスを取り押さえた。
「やだぁあああ!! やめろォオオオ!!」
「ヴァイス…落ち着くんだ!」
モンスピートも、ガランを手伝う形で暴れるヴァイスを羽交い絞めにしながら、必死に宥める。
「ヴァイス、ヴァイス…! どうしたんだ…ヴァイス!?」
豹変した幼馴染に、エスタロッサは必死に呼びかける。
「けつからいって…サル…」
いきなり豹変したヴァイスに、デリエリが怯えた様子でそう表現した。
訳の分からない言語を叫んでいる姿が、サルがキーキーと喚いているように見えたのだろう。
「…ヴァイス……こわい…ッ」
ヴァイスが苦しんでいる姿に耐えられなくなったのか、メラスキュラはとうとう泣き出してしまった。
…場が混沌と化していき、どうすればいいか判断に迷ってしまう。
「どけっ」
不意に命令口調で言われて、拘束していたヴァイスを手放したその刹那…
―――トンッ
メリオダスが暴れるヴァイスに手刀を入れた。
それにより、ヴァイスが気絶した事で…事態は収束した。
「ふぅ、助かったよ」
安心の気持ちが勝ったためか、モンスピートが漏らした言葉に、
メリオダスが目を鋭くして睨み付けてきた。
不謹慎だぞ、と暗に非難されている気がして「…失礼」と小さく謝る。
「俺は魔神王様に報告をしにいく」
ヴァイスを頼むぞ、とエスタロッサに小声で言うと、メリオダスは足早に退室した。
報告とは、任務の事か…またはヴァイスの事か?
(どっちにしても…この事は魔神王様には告げた方がいいかもしれないね)
思案時の癖から髭を撫でながら、モンスピートは冷静にそう考えていた。
ヴァイスの身に何が起きたのか…?
ヴァイスとは異なるあの魔力は一体、何なのか?
(…頼むから、次起きた時は、いつものように笑ってくれ)
疑問が浮上するものの、モンスピートが何より願ったのは…
目覚めたヴァイスが元に戻っている事だった。
【モンさん、語る】
「みんな、ごめん」
願いが通じたのか、二度目に目覚めたヴァイスは申し訳なさそうに
モンスピート達に謝った。
…いつものヴァイスがそこにいた。
エスタロッサとメラスキュラは歓喜のあまり、ヴァイスをギュッと抱きしめ、
デリエリは「サルじゃない」と安心した様に彼の傍に近寄る。
あの現象は何だったのか…と本人に聞きたかったが、まだ病み上がりなので
もう少し時間をおいてからにしよう。
なにはともあれ、一件落着だ…と一人納得していた。
(あの時、ちょっとでも、ヴァイスに話しかければよかったかね…)
回想するモンスピートの胸に、じんわりと後悔の念が生まれる。
(そうすれば、あいつの『変化』を知る事ができたかもしれないのに…)
あの出来事が引き金で、ヴァイスは“変わってしまった”
その些細な変化が、時の経過とともに大きな効果を生み出してしまい…
後の世にも影響を及ぼす事になる。
【つづく】