奥さんと、お互いの前世の相違点などを話し合う話。
「問題です…『青猫の好物は?』」
「『どら焼き』です」
「正解。次の問題…『かすかべ出身のスーパー五歳児の父親の秘密兵器は?』」
「『自分の靴下』…正確にいうと『靴下の匂い』」
「その通りだ。なら…『19○○年の日本の首相の名前は?』」
「『◇◇首相』でした」
「……なるほど。ラザラスが生きていた生前の世界のその時代では、
その人物がトップだったのか」
只今、俺は嫁さんにクイズもとい質問を繰り返し実施している最中である。
何故、こんな事をしているかというと…
嫁さんと前世の話題で花を咲かせている際に、ある違和感を覚えた事がきっかけだった。
『その年に流行した言葉って【○○】でしたよね』
あれ?と思った。
嫁さんが口にしたその年の流行語は、俺の記憶している言葉と異なっていた。
普通だったら、一年経過すればそんな話題は記憶からすっぽり抜け出してしまうものだ。
俺は生前の職種もあって、そういった時事関係はきちんと再復習していたため、
割と自信がある。
ふわりと浮かんだ違和感と言うのは、自分が納得できる答えを出して、解決しないと
胸が落ち着かなくなってしまう。
神経質だと言われそうだが、逆に放置してとりかえしがつかなくなるよりはマシだ。
…という事で、検証する事にした。
『俺の持つ前世の記憶』と【嫁さんの持つ前世の記憶】にある‟ 故郷 ”にどれだけ
差異があるのか、を。
「ざっと質問してみたが…」
「…うん、驚きました」
結論から言うと、大まかな歴史の流れは共通だった。
だが、細部は違っていた。
例を挙げるなら、新聞の名前が聞いた事のないものばかりだったり、
歴代総理大臣の順番が違っていた。
また、世界情勢に関しても一部の国の体制が変わっていたり、
俺の知らない天災や人災の類が嫁さんの世界では発生していた
…と微妙な差異が確認できた。
「有名な創作物に関しては古今東西、同じという点は幸いと言うべきか…」
不思議な事に、児童文学をはじめ、漫画、小説、映画、テレビドラマ…といった
娯楽関係は一般的にメジャーなタイトルは結末も含めて同じだった。
それ以外の中間的なモノやマイナー作品はあったりなかったりと差異は
あったものの、ほぼ共通だった。
「面白いですね。同じ故郷だと思って検証してみると、
新しい発見があったり、別の驚きがあったり…」
嫁さんは、目を爛々と輝かせて感想を言う。
…俺も同意見だ。
俺の住んでいた日本とは異なる『並行世界の日本』にいた嫁さん。
嫁さん視点なら、俺の方が『前世は並行世界の日本出身者』という事になる。
輪廻転生と言う特殊な過程を経て、似ているようで非なる世界にいた者同士が
此処に集っているのだ。摩訶不思議な事だけれど、胸が心地よく刺激される。
「さてと…今日は、この辺でお暇しますね」
「いつもの人探し?」
「はい。今日は東方面を調査しようと思います」
嫁さんはこの時点で、探し人であるマーテルがこの世界にいる確率が高いと話していた。
根気強く東西南北を渡り歩いて、情報収集に勤しんでいた。
その傍ら、出張医や商人もどきな事をしながら生活しているようだ。
現に、彼女の売ってくれる材料(主に食品や植物)のおかげで、
こっちは助かっているのだから何も文句はない。
「それじゃあ、また」
「ん、気を付けて」
森の奥へ消えていく嫁さんの背を眺めながら、俺は口元を緩めていた。
(次は…何を話そう)
気付けば、次回の事を考えている。
彼女が来る事を楽しみにしている自分がいる。
同胞が訪れる時とは違い…胸の奥がじわりと熱くなってくる。
この気持ちが何なのか…俺は知っている。
(…困ったな)
初めて、彼女と出会ったあの時からだろう。
感情の種が発芽したのは…。
その小さな小さな芽は、ちょっとずつ大きくなろうとしている。
(この調子でいくと…やばいかも)
まずいなと感じる反面、俺はその状況を受け入れたいと思っている。
(…彼女はどう思うかな?)
この感情を、嫁さんに明かすのは時期尚早だ。
彼女は、きっと困惑するに違いない。
せめて、この世界で彼女が探し人を発見して…別の世界へ旅立つまでに、
この思いを打ち明けられるまでの仲になりたい。
「…そうなれたらいいな」
願望の言葉を呟いて、俺は空を仰いだ。
※奥さんの住んでいた世界の日本は、私達の住む日本と似ている歴史を辿っています。
対して、ハルさんの住んでいた日本は、第2次世界大戦以降に異なる道筋を辿り、
奥さんがいた日本よりもあらゆる制度改革が進んでいた裏設定があります。