Brand new page   作:ねことも

30 / 87
多重クロスオーバー形式連載 第14話。

ハルさんがハルルへ出張する話(3)
前半はハルさんとユーリ、後半は十戒のドロールさんとニアさんがメイン。
流血描写がありますのでご注意ください。
  


第14話【ハルさん、出張する(3)】

「虎牙破斬!」

 

降下して、爪で攻撃を仕掛けてきた鳥型の魔物に対し、ユーリは跳躍すると

流れるように剣撃を浴びせた。魔物の腹部から右斜めにかけて裂傷ができ、

血を吹き出すや急降下していく。

 

残るは二匹。

ユーリが態勢を立て直そうとするや、魔物が悲鳴を上げた。

彼の目に映るのは、標的を後方から一気に二匹斬り倒すハルの姿だ。

 

(こいつ…何時の間に…!?)

 

ユーリは微かに目を見開く。

同時に、倒しにかかったのに、ハルは自分よりも俊敏な動きで標的を狩ったのだ。

剣は少々嗜んでいると、エステルには告げていたようだが…

 

(…少々どころじゃねえだろ)

 

ユーリには、彼の太刀筋が見えなかった。

気付いた時に、鳥の魔物は瞬殺されていたのだ。

ユーリがそのまま地面へ着地するや、まだ宙に浮かんだ状態のハルが真下に

向かって手を翳した。

 

すると、空間が開いて地面へ激突しそうになった魔物の躯が吸収された。

ユーリは、地面に視線をめぐらすと…先程、己が狩って、落ちたはずの一匹も

その姿が確認できなかった。

 

…となると、それもハルの能力で空間の狭間へ隠されたのだろう。

トンッと軽やかな音を立てて、地面に降り立ったハル。

 

「なぁ、さっき倒した魔物をなんで空間に入れたんだ?」

 

やや眉を潜めて理由を尋ねるユーリに、ハルはあっさりした感じでこう答えた。

 

 

「地面を血で汚さないためですよ」

「ん?」

 

「この一帯は、ハルルの樹の根に直結している…

もしも獣類の血が地面に浸透すれば、樹に悪い影響を及ぼす危険があるからです」

 

 

ハルの言葉に、ユーリはあっ…と声を漏らして思い出した。

初めて、この町を訪れた時…ハルルの樹の結界が作動しないというアクシデントに見舞われていた。

その理由が、倒された魔物の血がハルルの樹に深刻なダメージを与えていたからだった。

 

(…なるほど、あのままだったらやばかったな)

 

血でまみれた魔物が地面に落ちていたら…と思うと、的確な処置だとユーリは感じた。

己自身として、うっかり忘れていた事自体が失点だったと言わざる負えない。

一歩間違えれば、樹に咲く花が枯れていただろう。

 

(…てか、魔物がやってきた時点でそこまで考えていたんだな、この人)

 

並の戦闘経験者は魔物が突如出現した場合、撃退する事に重きをおいてしまう。

周囲の状況に気を配りながら、対応をする事を頭では分かっていても、

実際に行動に反映するのは難しいものだ。

 

…目の前にいるこの人物は、相当経験を積んでいる。

侮れない男だと、ユーリはハルへの認識を改めた。

 

 

「ユーリ! ハルさーん!」

 

 

その時、エステルが戻ってきた。

ハルのリクエストした水…ガラスの杯とおかわり用にと水差しまで

準備した…を運びながら。

 

「はい、どうぞ」

 

エステルは、ガラスの杯に水差しで水を入れると、すぐにハルへ手渡した。

 

「ありがとう」

 

それを受け取ると、ハルは一口ずつゆっくりと味わっていく。

 

「ユーリもいかがです?」

「お、サンキューな」

 

ユーリも有難く水入りの杯を受け取り、一気に飲み干した。

 

「作業の方は?」

 

「さっき終了しました。定期的に様子を見ていく必要はありますが、

歪が開かないように処置は施しておきましたので、安心してください」

 

ハルの説明に、エステルはよかった…とホッと胸を撫で下ろした。

 

「ところで、俺は用事は済んだから喉を潤したら帰宅するけれど…

エステルさんはどうしますか?」

 

「あ、その件でちょうど、私も話したい事があるんです!」

 

ハルがさりげなく尋ねるや、エステルもまた同じ話題を口にした。

 

「なんですか?」

「実は…お店の事を紹介したい人がいるんです」

 

おや…とハルは意外そうな顔でユーリと視線を合わせる。

ユーリは、「知らねえよ」というメッセージを込めたような

困惑した表情を浮かべた。

 

「どなたですか?」

「その人は…」

 

「ちょっと、そこのあんた!」

 

エステルが言いかけた直後、別の誰かの大声が遮った。

ちょうど、一人の少女が樹へ続く坂を登ってきた。

彼女の姿を見るや、ユーリは半目をして、ああ~…と納得した様子で

こちらへ近づいてくるその子を見ている。

 

「紹介したい人はそちらのお嬢さんですか?」

「はい、私の親友です!」

「ちょ、エステル…まぁ、いいわ」

 

満面の笑みで紹介するエステルに、少女は赤ら顔で一瞬言い澱んでしまう。

だが、すぐに首を小さく左右に振ると、改めてハルへきつい目を向ける。

 

 

「あたしはリタ・モルディオ。

あんたに言いたい事と聞きたい事があるのよ」

 

 

あたかも、挑戦状を叩きつけるかの如く、少女…リタは自己紹介を簡潔に、

ハルに向かって強気な態度で言い放った。

ハルは苦笑しつつ、はじめまして…と挨拶を返して対応する事にした。

 

 

 

 

 

(あの者は…)

 

彼等のやり取りの一部始終を、茂みに覆われて目立たない隠れた場所で

見ている人物がいた。その人物…ドロールは、遠方すらも見通せる魔眼を

極限まで見開いていた。

 

 

(似ている、あまりにも…)

 

 

少女と話をしている濃い茶色の髪の青年…ハル。

彼の容姿が、ドロールのよく知る人物と似ていたのだ。

まるで…その人物の生き写しであるかのように。

 

…それだけではない。

飛行系の魔物が、黒髪の青年と共にハルへ襲い掛かった際に、彼が使用した技。

あれは、紛う事無く『魔力』だった。

 

 

(あの魔力は…間違いない―――【構築(フォームレイト)】)

 

 

しかも、あの空間を操る魔力もまた、かつての戦友のモノと同じであった。

これはどういう事か?

魔眼に映し出される青年は、戦友…ヴァイスハルトと関係があるのだろうか。

ドロールの頭に様々な謎と仮説が浮上する中、耳元に彼等の声が伝わってきた。

 

 

『それでは、リタさんもエステルさんと同じく宿泊をご希望なんですね?』

『その通りよ』

 

『あの…ハルさん、よろしいのですか?』

『大丈夫。二時間後にこちらへ戻られるまでに準備しておくのでご安心ください』

 

『あ、ありがとうございます! あ、そうです!

…あとで追加料金を支払わないといけませんね』

 

『ちょっと、エステル! そこまでしなくていいから。

自分の分は自分で払うわよ!』

 

(宿泊…? 「ハル」という者は宿屋を経営しているのだろうか?)

 

 

些細な事でもいいから情報がほしい。

耳に入ってくる彼等の会話を一言たりとも聞き漏らしてはならない。

そんな使命感に駆られ、ドロールは聞き耳を立てた。

 

 

『んじゃ、俺も入れてくれ』

『ユーリ?』

『さっき、店長にも言ったんだが…』

 

 

黒髪の青年…ユーリも会話に参加してきた。

話の内容から、どうやら彼も彼女らのお供をするようだ。

目を白黒させている桃色の髪の乙女…エステル嬢を、

ハルが落ち着かせようとしている。

 

ハルの笑い顔やちょっとした仕草まで、彼と同一視してしまう。

その時、ある仮説が頭をよぎった。

 

「もしや…『ヴァイスハルトの血族』か」

 

それは、異世界のエクレシアである【彼女】が残したヴァイスハルトの子孫の事。

ドロールは、その子孫の一人をある異世界で目にした事がある。

おそらく、ハルもその可能性がありそうだ。

 

「ドロール君」

 

聞き慣れた声に、ドロールはハッと後方を振り返る。

 

「…グロキシニア」

 

そこにいたのは、宿屋にいるはずのグロキシニアだった。

 

「何故、こちらに?」

「ドロール君の様子がヘンだなって思ったから、こっそりついてきたッス」

 

ドロール君って、ウソが上手くないッスからね~…とクスクス笑いながら、

グロキシニアは視線をハルルの樹の下にいる人物達へ向ける。

 

「長く生きてると、ビックリなモノに遭遇しちゃうものッスね

…ホントにそっくり」

 

「…そうですね、それこそ【『彼』の生まれ変わり】と言っても

過言ではない位に」

 

笑顔を浮かべるグロキシニアは、視線の先にいる彼に優しい眼差しを注いでいる。

 

ドロールは思った。

その瞳に映しているハルの姿に…かつての親友を重ねているのだろうと。

 

 

 

【ハルさん、出張する(3)】

 

 

 

『…店にいる従業員にも事を伝えておきます』

 

 

話に区切りがついたのか、ハルは手を翳して狭間へ繋がる入口を開いた。

そこには、異空間が広がっており…遥か遠くに見える光の入り口に繋がる

一本道があった。

 

 

『それでは、店でお待ちしています』

『はい、ゲルダさんやソフィ達にも伝言お願いします!』

 

 

笑って手を振るエステル嬢に見送られ、ハルは異空間の彼方へ消えていった。

 

 

『…さーて、フレンとカロルにも報告しねえとな』

『さっさと決めて、ちゃっちゃと行くわよ』

 

 

急かす少女…リタに対し、ユーリはへいへいと軽く返事する。

 

 

『ふふふ』

『何だ? エステル』

『嬉しいんです。ユーリとリタと【双月文庫】へ行ける事が…』

 

 

「ドロール君、ドロール君」

 

エステル嬢が口にした単語に、グロキシニアは何か閃いたのか

名を二回呼んだ。

 

「なんでしょう?」

 

長く付き合いのあるグロキシニアの事だ。

おそらく、己の好奇心を大いに満たせる暇つぶしを思いついたのだろう。

そう推測しながらも、ドロールは敢えて言葉を返した。

 

「すっごく面白い事、思いついたッス」

 

目を爛々と輝かせながら語るグロキシニア。

やれやれ…とドロールは内心思いながらも、その『面白い事』とやらの

内容を聞く事にした。

 

 

 

【つづく】

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。