調理中にやってきた幼馴染達の胃袋を掴む話。
人間年齢8,9歳の頃から始めた【芋普及活動】が、功を為した。
この活動を始めて早20年(人間年数:1年少々)、同胞の間で「食べ物」だと
認知されてきた。
…肉と酒をこよなく愛する種族ゆえに、普及率はまだまだ微々たるものだけど。
その20年の間に、俺は生前に似た他の食材や香辛料も探した。
その結果、ある程度のモノを揃える事ができた。
本日は、晴天なり。
任務を終えた俺は家に帰ると一通りの準備をして、真っ先に【いつもの場所】に行く。
【いつもの場所】とは、領地内にある小さな家。
義理母が時々利用する所で、簡素だけど造りがしっかりしている。
寝床や厨房なども設置されており、俺は10歳位の頃から定期的にそこで寝泊りするようになった。
何故なら…生前の料理を再現するために、集めた材料を使って試行錯誤を繰り返していたからだ。
魔力で空間を開いて、その中から材料を取り出していく。
この間、狩った竜のブロック肉と玉葱、鶏っぽい鳥の卵、塩、コショウなど…。
「よぉーし…」
並べた材料を目の前に、俺は両手を軽く叩いて気合を入れた。
包丁で、竜肉を三センチの一口サイズに切っていく。
サイコロになったそれを塩とコショウで味付け。
ちなみに、調理道具一式は義理母が知り合いの人に依頼して制作してくれた。
魔界の植物からとれた油をしいたフライパンに、竜肉を投入して焼き色がつくまで炒める。
仕上げに、ワインを香りづけにいれて…
「そして…お皿に乗せて、完成」
一品目が【竜肉のサイコロステーキ】
付け合わせに、炒めた玉葱も添えた。
一個だけ試食してみる…
「…もぐもぐ、うーん…なかなか」
味はかなりいけていた。
この竜肉のステーキは、納得できる味に仕上げるまでに数カ月ぐらいかかった。
竜の種類によるが、今回の狩りで仕留めたタイプはシンプルに焼いて食べる調理法が
適している。
こんもりと盛ったサイコロステーキと玉葱の皿をテーブルに置いて、次の一品を作る事にした。
ボールに割った卵を入れて、自分で一から制作した箸で溶く。
(今日は何を作ろう…)
この卵で以前、塩でぱらりと味付けした目玉焼きを作ったのだが、シンプルなのに
美味しかった…目玉焼き、あなどるべからず。
だから、その味を存分に堪能するためにオムレツをチャレンジする事にした。
もしも、砂糖や他の果実などの食材を手に入れたら、いずれはクッキーやパンケーキの
お菓子も作りたい。
(…あぁ、ワクワクする)
まだ見ぬ食材を思い浮かべながら、顔がにやけていると、気配を感じ取った。
「ところで、エル…あ、リリとメラも。何か用?」
いつのまにか、家に入り込んできた幼馴染達。
テーブルの上に置かれているサイコロステーキをじぃーと凝視しているデリエリ。
隣には、欠伸をして退屈そうに浮かんでいるメラスキュラ。
二人と向かい合うようにテーブルの椅子に腰を下ろしたエスタロッサがいた。
「ヴァイスが訓練場にこないから、きっと此処でおかしな実験してるはずだって、
モンスピートが言ってたから来た」
「あぁ…でも、非番だし別にいいだろ?」
「よくないわ」
宙に浮いているメラスキュラが眉を潜めて、腰に手を当てながらそう言い返した。
「ヴァイスがこないから、メリオダスがごきげんナナメだったのよ。
ガランもぷんすか怒ってて、今探してるわよ…あなたのこと」
「えぇー…」
非番の時は、訓練を休むと事前に申告しているのに…。
ガランのじいさんは、よほど俺の事を鍛えたいのだろうか。
メリオダスも、あの記憶を取り戻した事件以降、時間があれば俺に構うようになったかも…
気の所為と思っていたけど、どうやらそうでもないらしい。
「………それを、知らせにきたの?」
「一応」
「いくかいかないかは、あなた次第よ」
俺が再び聞き返してみると、エスタロッサとメラスキュラの答えは意外なものだった。
どうやら、メリオダスに命令されて来た訳ではなさそうだ。
「リリ、お腹空いてる?」
じゅるりと涎を垂らして、ステーキから目を離さないデリエリ。
尋ねると、デリエリは「ん」と素直に首を縦に振った。
「そっか、じゃあ食べていいよ。他の人の感想も聞きたかったし…」
俺の了承の言葉を合図に、デリエリはサイコロステーキを一個摘まんで口の中へ入れた。
もぐもぐと咀嚼して味わっていくうちに、デリエリの表情は大いに変化していく。
普段、感情の機微があまりない彼女が一瞬だけ目を大きく見開き、目を閉じて
その味を少しでも長く堪能するように何回も口を動かす。
ごくっと呑み込み終えるや、数秒間の沈黙をしてすぐに次の一個を食べる。
「お味はいかが?」
「んぐんぐ…うまっ!」
メラスキュラが小首を傾げて確認の問いかけをすると、デリエリはほんのりと笑って
ステーキを味わいながら即答した。
すると、エスタロッサもサイコロステーキを一つまみしてぽいっと口内へ放り込む。
「ホントだ…うまい」
噛みしめるたびに出てくる肉の旨味に、エスタロッサの顔が綻んだ。
肉が大好物の二人にとって、この料理はアタリのようだ。
ひょいひょいっとサイコロステーキを味わう二人に、メラスキュラは腕を組んで
呆れた目を向ける。
「…もぅ、食べ物につられちゃって」
「メラも食えよ、うまいぞ」
「けっこうよ。二人でたべてちょうだい」
エスタロッサのお勧めをやんわり断るメラスキュラ。
俺は、彼等のやり取りを見ていて苦笑しつつも、二品目を完成させた。
「…それなあに?」
「これ? 卵の料理だよ」
出来上がったばかりの【鶏っぽい鳥の卵を使用したプレーンオムレツ】に、メラスキュラの目が止まった。簡単に説明すると、彼女は「そう…」と返事する。
気になるのか、黄色の未知なる物体へ視線をちらちら向けている。
「ん、ちょうどいいかな」
箸で一口サイズに割けて、それを試食してみた。
ふわふわ、とろとろの半熟加減は成功した…生前、普通の卵で作った時の物よりも
濃厚な味わいだ。
「でも、大きめに作ったから食べきれるかな…?」
誰かに食べてもらいたいなぁーと呟いて、メラスキュラと目を合わす。
ハッとして、別方向へ視線を逸らすメラスキュラ。
「…も、もう仕方ないわね。てつだうわ」
捨てるのはもったいないもの、別にキョーミなんてないんだから…とあれこれと理由を
つけて素直じゃない所がなんとも可愛らしい。
「イヤなら食べるぞ?」
「い、いいわ! 食べすぎるといけないでしょう!」
肉に夢中になっていたデリエリが代わりに食べようかと打診するや、メラスキュラが慌てて止めた。普段は、大人びた物の考え方をするメラスキュラが珍しく焦る姿に、エスタロッサは笑いをこらえている。
「はい、ご賞味ください」
まだ温かいプレーンオムレツのお皿を別のテーブルに乗せて、幼いメラスキュラに
木製の匙を手渡して勧める。
それから…彼女は一口食べて、「おーいーしーv」ととろける笑顔を浮かべた。
見事に、プレーンオムレツの虜になってしまったのだ。
この出来事をきっかけに、ちょくちょく幼馴染の三人だけでなく、メリオダスや他の同胞も
此処に訪れるようになるなんて…
この時の俺は、全然考えもしなかった。
※食事革命への第一歩の巻。