Brand new page   作:ねことも

32 / 87
多重クロスオーバー形式連載 第15話。

舞台が再び【双月文庫】へ戻ります。
改めてエステルが貸本屋【双月文庫】でお泊まりする話④

ゲストキャラは、エステルの仲間の黒髪の青年と研究者の少女。
  


第15話【エステル、異世界の貸本屋でお泊まりする(4)】

《二日目の正午を一時間ほど過ぎた頃…私は、また【双月文庫】へ戻ってきた。

でも、一日目とちょっと違う。

何故なら、私だけでなく、大切な親友と【彼】がいたから》

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

カランカラーンと扉の呼び鈴が鳴り響く。

ハルは、入店してきた常連を含む三名を微笑して迎え入れた。

 

「ハルさん、先程はありがとうございました。

改めて、二日目もよろしくお願いします」

 

エステルも笑って、宿泊の続きを楽しむ事を伝える。

そんな彼女の後方で、リタは興味深そうに視線をあちらこちらへ向けている。

もう一人の青年…ユーリは二度目の来店なのか、最初と比べて落ちついている。

だが、早朝よりも客の数が増えているためか、別の常連からの視線が少々気になるようだ。

 

「エステル、おかえり」

「ソフィ、ただいま戻りました」

 

同じく宿泊していたソフィが座っていた椅子から立ち上がって、とととっと小走りで

エステルの元へ近寄る。「解決したの?」「はい!」と和やかな会話をそこそこに、

エステルは二人の事を紹介する。

 

「ソフィ、こちらはユーリとリタ。

ユーリとは昨日会ったと思いますけど、挨拶がまだでしたよね…

二人とも私の大切な仲間なんですよ」

 

「はじめまして、ソフィです」

 

笑顔で挨拶をするソフィ。

 

「おぅ、よろしくな」

「えと、よ…よろしく」

 

きさくに返事をするユーリに対して、リタは少々ぎこちない感じで挨拶を返した。

 

「まずは、宿泊する部屋へ荷物を置きに行きましょう」

「そうね…」

「分かった」

 

じゃあ、案内しますねとエステルはルンルン気分で二人を連れて階段を上がっていく。

三階へ行く彼女らが見えなくなるや、一階にいた常連の何名かが話し始める。

 

 

 

「さっきの二人がエステルさんの…」

「今朝までいた野郎が、あの黒髪のヤツだぜ!」

「へぇ~…エステルさん、知り合いの人をもう紹介したんだ…」

 

杜王町トリオは、初めて見るエステルの仲間二人の事を早速話題にしている。

彼等だけでなく、他の常連客も関心を寄せているようだ。

 

「…良いのか?」

 

多くの客がエステル達に注目している中、太公望は微妙な顔でその方を一瞥すると、

ハルへ視線とともにその言葉を向ける。

 

「うん、エステルさんが信頼している人達だからね。

俺も直に会って確認したから保証するよ」

 

太公望が言わんとしている事に対し、ハルは笑ってそう返事した。

 

「そうか、なら心配いらんな」

 

太公望は、納得したのか欠伸をしながら二階へ向かう。

 

 

『新規の客は問題なし、と』

『幸運(ラッキー)だな、あの二人』

 

 

ハルと太公望の会話に聞き耳を立てていたのか、顧客の何名かが小さく囁き合う。

 

―――《ハルが太鼓判を押した》

 

即ち、それは【双月文庫】の正式な客だと認められた事を意味する。

 

【裏通り】が出来る原因となった例の件以降、古株に当たる常連は控えていた。

家族、友人、仲間、知り合い…といった関係のある人物へ紹介する事を…。

自分達と繋がりのある人物に、あの女(ヴィアンカ)みたいな礼儀知らずな者はいない。

そう、決して、断じて。

 

少なくとも普段からアホな行動をしでかす者は、最初から紹介リストから外している。

それでも、ハルへの配慮と場の空気を読んだ上で今まで遠慮していたのだ。

 

しかし、エステルが勇気をもって(あながち間違っていない)仲間を店へ連れてきた。

彼女の行動により、古参から比較的中堅にあたる顧客の間にあるそういった閉塞的な

流れに変化が生じようとしているなんて…

 

当の張本人…エステルは想像すらしていなかった。

 

 

*** ***** ***

 

 

部屋に荷物を置くと、エステルは二人に話しかけた。

 

「早速、一階から二階のフロアを案内しますね」

「ん、頼む」

「お願いするわ」

 

エステルの提案に、ユーリとリタは二つ返事で了承した。

半年間、この店に通い続けていたエステルなら此処の事は十分理解した上で、解説してくれるはず。彼女の性格上、その辺の説明を雑にしないのはよく理解しているからだ。

 

「どんな本を読みたいですか?」

「そうね…とりあえず、片っ端から読んでいこうかしら」

 

この店にある書物全般を読むたい。

おそらく、此処には自分の見た事のない書物が豊富にある。

知らない知識が詰め込められている物に目を通さないのなんて…

ガルドを下水道に流すような行為に等しい。

 

時間がある限り、徹底的に色んなジャンルを読破するつもりだ。

 

 

「では、リタは一階をお勧めします。専門書がたくさんありますよ」

「ありがとね…あんたはどうするの?」

 

リタから話題を振られ、ユーリはうーんと後頭部を掻きながら思案する。

 

「そうだな…適当にいいのがねえか探すか」

 

読書意欲満々なリタに対して、ユーリは気乗りしない様子だ。

あくまで、ギルドの任務としてエステルの護衛が最優先という事もあってか…

そこまで書物に興味がないのだろう。

 

「二階のコーナーを見学してはどうでしょう?

面白いジャンルが揃っていますよ」

 

「ふーん、じゃ…そうするか」

 

エステルがさりげなく口にした提案に、ユーリは乗る事にした。

 

 

 

(…できるだけ、他の客の顔も覚えておいた方がいいしな)

 

ユーリはつい先刻の事を思い出す。

エステルが自室でリタと準備をしている間、フレンとカロル…男三人で今後の事を

話し合っていた。

 

話し合いの末に決まった事は…

エステルが貸本屋に通う際、基本は【凛々の明星】のメンバーが彼女を護衛する事。

もしも、別任務でメンバーの調整が取れない場合は、フレンが信頼できる騎士を

代わりに同行させる事。

 

任務の際に発生した費用は、帝国側が全て負担してくれる事となった。

かなりの好条件を提示してくれたのは、皇帝であるヨーデルの計らいだとフレンは言う。

 

事前に、こういう事態になった場合を想定していたようだ

…あなどれない男だ。

 

(ユーリ、君にはもう一つ頼みたい事があるんだ)

 

話の最中、フレンが本来の任務に絡める形で内容を一つ追加してきた。

それは―――【店に訪れる客層の調査】

特に、エステルと親しい対象者はどんな人物がいるのかその目で確かめてほしい…と。

 

要するに、彼女に害をなしそうな危険人物がいたら対処しろと言いたいのだ。

この店の主が、そんな輩を客として迎え入れるようなタイプではないとは思うが、

念には念をという事だろう。

 

(…ていうか、最近アイツのペースに乗せられてるよな)

 

今度、注文追加してきたら報酬を引き上げてやろう。

開いた窓から、下の風景を眺めながらユーリは注文の多い幼馴染みへのささやかな

仕返しを考えていた。真下の庭では、従業員のゲルダが植物の手入れをしている

真っ最中だ。

 

「あら、ユーリ…」

 

毎日、世話をしているなんてハルといい、下にいる従業員といい殊勝な事だ…と

思っていると、エステルが不思議そうに声をかけてきた。

 

「ん、なんだ?」

「肩に何かついてますよ」

 

エステルはそう言うと、ユーリの肩についている『それ』を指先で指摘した。

 

「お、なんだこれ?」

「植物の種…みたいですね」

 

エステルに言われるまで気付かなかった。

一体、いつの間に付着したのだろう?

 

 

「あんた、数時間前までハルルの樹の所にいたでしょう。

多分、あの辺に生息している植物の種がついたのよ。

今の時期、あそこら辺にある植物のいくつかは種を飛ばしたり、外来生物が銜えて

移動させたりするから、たまたま肩に付着したんじゃないの?」

 

 

リタの言葉に、ユーリはなるほどと合点がいった。

 

「よく見ればいくつかついてますよ」

「マジかよ…」

 

エステルがさらに指摘すると、ユーリはやれやれと肩についている植物の種を

手で払っていく。

 

「ちょっと、のんびりしてたら時間すぎちゃうわよ」

 

リタが眉を潜めて早くしろと急かす。

 

「へいへい、じゃ…行くか」

 

種を払い終えたのを確認すると、ユーリはそう言葉を返した。

 

 

 

 

 

部屋を出て、三人は階段を降りていく。

その間、エステルの中にある小さな疑問が芽生えていた。

 

(うーん…さっきの種、見た事ありません。

ハルルの樹の付近にああいう形状の種を生み出す植物はなかったような…?)

 

あの時、目にした小さな丸い粒状の種は、エステルが記憶している植物にどれも

該当しなかった。

 

単に、エステルが知らない品種があるのか?

または、外から訪れた人がもたらした可能性もありうる。

 

仮に、新しい品種なら大発見だ。

それなら…ユーリが手で払い落とす前に、一つ摘まんで保管しておけばよかった。

エステルは少々後悔した。

 

「んじゃ、何かあったら呼んでくれ」

「あっ……分かりました」

 

ユーリの言葉に、エステルはハッと我に戻り、咄嗟に返事をした。

それからユーリと別れて、リタと一緒に一階へ降りていく。

 

「二人とも、こっちこっち」

 

階段にいる彼女らの姿を視界にとらえたソフィが、手招きしてくる。

彼女の向かい側の席には、景虎が微笑を浮かべて座っている。

 

「景虎さん、こんにちは」

「こんにちは、エステルさん」

 

微笑む彼の麗しの君は、本日もやはり美しい。

背景に眩い光とともに、青い薔薇が咲き誇っている。

エステルは思わずはぁ…と感嘆の息を漏らす。

 

「そちらのお嬢さんが、貴女のご友人ですか?」

「はい、そうです」

 

「さようですか…お初にお目にかかります。私の名は長尾景虎。

お嬢さん、お名前を教えていただいてもよろしいですか?」

 

「…リタ・モルディオよ」

「リタさんですね、よろしくお願いいたします」

 

フフフと優雅に笑い、自己紹介する景虎。

もし、この場に彼の側近であるくノ一をはじめ一般の乙女の方々がいれば、

頬を紅潮させ、あまりの美しさに黄色い声援をあげたり、悶えていた事だろう。

ただ、挨拶をされた相手…リタはやや口元をひくつかせながら、「よ、よろしく…」と

微妙な顔で言葉を返した。

 

眼前の麗人は、リタにとって見た事のない部類ゆえに、どう対応すればいいか判断に

迷っている…というのが彼女の本心である。

 

「景虎さん、まるで青薔薇に宿る精霊だと思いません?」

「えっ…あ、うん。そうね…」

 

うっとりした様子でエステルは、リタの耳に小声でそう囁いた。

青薔薇の精霊って…目の前の人物は人外なのか。

豊かだけど、妙な所で斜め上なエステルの想像力に、リタはなんともいえない顔になる。

 

「ねぇ、エステル、リタ、お話しよう」

「そうですね、リタさんの事も含めてあなた方の住む国の話を聞かせてください」

「はい、もちろん」

 

やや戸惑い気味のリタも参加させる形で、和やかな女子(約一名は別枠)トークが始まった。

 

 

 

「新しく来た子…もう馴染んできたみたいだね」

 

本棚に近い丸い木製の机で、親友二人と談話していた康一が、少し離れた場所で

会話している女子達の様子をみてその感想を口にした。

当初は緊張していたリタも、二十分を過ぎた頃には常連二人に慣れてきたのか、

どうにか会話に入っていけているようだ。

 

「そーだな」

「なんつーか、新しい客が来ると刺激になるっつーか、賑やかになるよなぁ」

 

仗助と億泰も、よかったよかったと親戚の年長者が子どもの成長を喜ぶような

温かい眼差しを向ける。

 

「でも、エステルさん…思い切った事したよなぁ」

「俺らも此処に通って、それなりになるけど、他のヤツらに教えてねえしな」

 

暗黙のルールから、杜王町トリオもまたこの店の事を他の知り合いにはまだ内緒にしている。

しかし、自分達よりもこの店の顧客としてまだ日が浅いエステルが思い切った行動をしたのだ。

そうなると…人選を誤らなければ大丈夫なんじゃあないかと頭の中で淡い期待が芽生えてきた。

 

 

「…僕、このお店の事、教えたい人がいるんだ」

 

 

康一がぽつりと呟く。

親友の発言に、仗助と億泰はギョッとする。

 

「おいおいおいおいおい、康一。そいつってだれだぁ~?」

「俺達の知ってる奴かァ?」

「う、うん。二人もよく知ってる人だよ」

 

「一応な…一応聞いとくけどな…まさか、あの野郎じゃねえよな?」

 

仗助がいつになく険しい顔で問いかける。

「そうだ、そのやろ…へ? 野郎なのか?」と隣にいる億泰がきょとんとした顔で聞き返す。

親友のその態度で、康一はああ…とすぐに想像できたようだ。

 

 

「ちがうちがう、僕が紹介したいのは別の人だよ」

 

 

康一は手を軽く左右に振りながら、苦笑してそう答えた。

 

「ならいいけどよぉ…絶対にあいつだけには、此処の事教えるなよ」

「んん? もしかして…仗助、その野郎って…」

 

仗助の言い方から、ようやく億泰もその人物が誰なのか頭から煙のようにその顔が

浮かび上がった。十中八九…仗助とは犬猿の仲である漫画家の『あの人』の事だろう。

 

「うん、大丈夫。その点は気を付けるから」

「でもよぉ、俺達が紹介しなくても…あの人、自力で店に来そうな気がするんだけどなぁ」

 

「お~い~、億泰! フラグ立てるような事言うなよぉおお!」

 

億泰の言葉に、仗助が顰め面で余計な事言うんじゃねえよと抗議する。

あ、わりぃわりぃと軽く謝る億泰。

 

「まぁまぁ、そういえば、この間見に行った映画が面白くってさぁ…」

 

康一は、まぁまぁとそんな仗助を宥めながら、話を切り替えようと別の話題を二人に

話し始めた。そんな賑わう一階の様子を、ユーリは二階の長椅子に腰かけて眺めている。

 

(…今のところ、問題はなし、か)

 

エステルは、常連と楽しくお喋りしているし、リタも頭が痛くなりそうな分厚い専門書を夢中で読んでいる。周りにいる他の顧客も、リタに興味の視線を向けてはいるが、不躾なモノではなく常識範囲内に留まっている。

 

(この調子で、明日まで何もなけりゃいいが…)

 

そう思いながら、ユーリは適当に本棚から抜き取った雑誌をパラパラ捲った。

 

 

 

【エステル、異世界の貸本屋でお泊まりする(4)】

 

 

 

「…ふぅ、完了ね」

 

額から流れ出る汗を手で拭いながら、ゲルダは庭の清掃を終えた。

落ちていた枯れ葉や切り取った萎んだ花を大きめの透明なビニール袋に入れて、ゴミを収納する倉庫へしまう。

 

庭での作業を終えたので、シャワーを浴びに行こうとしたその時、ゲルダは屋敷の中へ

戻ろうとしたその足を止めた。

 

「?…こんな所に芽が…」

 

花壇から離れた場所に、見た事のない植物の芽が生えていた。

雑草の類かと一瞬思ったが…午前中、セッタが草むしりをしていた事を思い出し、小首を傾げる。

 

「抜き忘れたのかしら…」

 

几帳面なセッタにしては、うっかりなミスだ。

あの人でもそんな事があるんだな…とゲルダはクスッと笑ってその芽を抜き取ろうとした。

 

「ゲルダさーん。そろそろ休みなよー」

 

すると、主であるハルが休憩の時間を告げてきた。

 

「はーい、かしこまりました」

 

ゲルダは、掴んでいたその芽から一旦指先を離した。

 

 

(また、時間がある時にしましょう)

 

 

そう思い、ゲルダは足早に裏口へと向かった。

そのため、彼女は見逃してしまった。

 

彼女がいなくなるのを見計らったかのように…

その雑草と思われた芽が、少しずつ大きくなっていく奇妙な現象を…。

 

 

 

【つづく】

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。