Brand new page   作:ねことも

34 / 87
多重クロスオーバー形式連載 第16話。

エステルが貸本屋【双月文庫】でお泊まりする話➄
この話で、お泊まり会の話は終了します。

ゲストキャラは、TOBのグリモワール。
最後の方で、ジョジョのある人物が登場したり、10話で登場した【表玄関】からの客人
…あの少年と博士の話題にも触れています。
  


第16話【エステル、異世界の貸本屋でお泊まりする(5)】

《三日目…とうとう最終日を迎える事となった。

 

昨晩は、リタは読書に夢中になってしまい、一睡もしなかったよう。

朝食の時に、欠伸をしながら教えてくれた彼女に、ユーリは呆れた顔で「ほどほどにしとけ」と

注意していた。

 

さて、今日はどんな本を読みましょうか…》

 

 

 

時計が後五分で、午後三時となる頃…

昼食を食べ終えたエステルは、一階の本棚で読書中だ。

 

リタは一足早く二階のコーナーへ行って、分厚い書物に目を通しているはずだ。

昨日から、リタは一階の本棚にある興味のある文献を片っ端から読んでいった。

自分が、今まで読んだ事のない異世界のあらゆる英知が眠っている

…一研究者として、そんな心を踊らせる書物を読まずにはいられないのだ。

 

(ふふ、教えてよかった)

 

エステルは口元が緩んでしまう。

改めて、このお店…【双月文庫】に連れてきたよかったと思った。

他の常連客も、彼女やユーリの事を友好的に接しているようで、紹介した本人として

とても嬉しい事だ。

 

(…あっという間でした)

 

初めての異世界での宿泊。

『三日間』という限られた時間は、短いようで長く感じられた。

 

それでも、エステルは童心に返った気分で過ごせた。

ちょっとした出来事や事件が起きたものの、限られた休日の中で素敵な思い出を作る事が出来た。

 

(でも…まだ『今日』は終わっていない)

 

だから、最後の日の残り僅かな時間をじっくり楽しもう。

 

 

―――カラン、カラーン

 

 

エステルは三冊目の書物を読み終え、本棚から新しいものを取ろうとしたその時

…扉のベルが鳴った。

 

誰か、常連が来たのだろう…とその方向へ視線を向けるや、エステルはえっ?と

微かに目を見張った。

 

入店してきた人物は、エステルのよく知る常連ではなかった。

背は遥かに小さい…というか、まるで、手に持っている『妖精図鑑』に出てきそうな

妖精だ。魔女を連想させるとんがり帽子を被り、眼鏡をかけて、背中にリュックを

背負っており、どこかけだるそうな雰囲気のマスコットみたいな…妖精。

 

「あらまぁ…いつのまにか、見かけない顔が増えたわね」

 

妖精はそう言いながら、立ち尽くしているエステルや長椅子に座っているソフィ、

それから向かい側の席にいるユーリ…と順々に視線を移していく。

 

「いらっしゃいませ、グリモさん」

「はぁーい、ハル。元気そうね」

 

カウンターにいたハルが朗らかに笑って、妖精…グリモワールを出迎える。

グリモワールも、大人の成熟した女性のような口調で返事をする。

 

「今日はどんな御用で?」

 

「そうねぇ…ここだとアレだから食事しながら、ね。

久しぶりに、貴方の『レモンパイ』が食べたいわ」

 

グリモワールはそう言うと、可愛らしい足音を立てながら、食事処へ歩いていく。

 

「了解しました。…ちょっと、厨房に行くから此処を頼む」

「かしこまりました」

 

ゲルダにカウンターでの業務を頼むと、ハルは足早に厨房へ向かった。

 

「…妖精さんだ」

 

二人がいなくなった後で、ソフィが目をパチクリさせてそう呟いた。

彼女もまた、グリモワールのような人?を見るのが初めてなのだろう。

 

「この店って…人とは違う種族も来るんだな」

「ええ、そうですね」

 

ユーリが何気に口にした言葉に、ゲルダが微笑して答える。

 

「此処は、人間族以外の方々もお越しになるんです」

「へぇ~」

 

「それと…ソフィさんとエステルさんは、何名かの方とお会いしてますよ」

「…ホント?」

「えっ、ええ…そうなんですか!?」

 

ゲルダの言葉に、ソフィはきょとんとして、エステルは思わず驚きの声をあげてしまう。

 

「なんつーか、エステル…言われるまで気付いてなかったんだな」

「え、えと…はい。その通りです」

 

すみません…と申しなさそうに小さく謝るエステルの素直な態度に、ユーリはやれやれ…と

肩を竦める。

 

「いいえ、お気になさらないでください」

 

ゲルダは、にこやかに笑ってそう返事した。

 

「むしろ、公にする事を控えたい方もいますから…」

 

少し眉を下げた彼女が続けて継いだ言葉は、悲しみの感情の色が含まれていた。

ユーリとエステルは、その意味を察した。

 

「ま、色んなヤツらが来るって事は、それだけこの店が居心地がいいって証拠だろ。

むしろ、特定の人種ばかり依怙贔屓する所だったら、俺は御免被りたいぜ」

 

「…ユーリさん」

 

ユーリが視線を斜め上に逸らして意外な言葉を返してきた事に、ゲルダは微かに目を見張る。

 

「そうです! 人だけじゃない、色んな種族が気兼ねなく集えて、交流できるなんて

凄く素敵な事だと思います! だから、常連の皆さんは何度も通いたくなる位に…

このお店が大好きなんですよ、きっと」

 

ユーリをフォローするように、エステルも力説する。

彼等の言葉から…他種族に対する考え方や店への気遣いが伝わってくる。

 

「あのね、ゲルダさん。

私、まだ話した事がないお客さんもいるけど、いつか仲良くなれたらいいな…って思う」

 

二人に続いて、ソフィも意見を口にする。

彼女の場合は、まだお喋りしていない人と交流してみたいという純粋な思いを素直に

言葉にしたのだろう。

 

「ありがとうございます。皆さん」

 

ゲルダは微笑して小さくお礼を言った。

 

(いつかお話しできるかしら…。『マスター』や…『私』の事を)

 

もっと歩み寄る事ができるといいのに…身の上話を語れるようになれる位に。

…そんな淡い期待を胸に抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

「どうぞ」

 

ハルは、焼きあがった出来立てのレモンパイを切り分けてお皿に乗せた一品を、

リクエストした客人の前にコトッと置いた。

その客人…グリモワールは食事処のカウンター席のひとつに腰を下ろしており、

持ってきたレモンパイに視線を向ける。

 

「ありがとう…いただくわ」

 

そう言って、専用のフォークで食べやすいサイズにして一口。

 

「ふぅ…腕は衰えてないようねぇ」

「そう言ってもらえると光栄です」

 

遠回しに「美味しい」と言われた事に、ハルは朗らかに笑う。

 

「そういえば…前回、此処に来たのはいつだったかしらねぇ…?」

「大体、一年と一カ月前くらいかな」

「ふーん。この世界ではもうそんなに経っているの……まぁ、いいけど」

 

多少の雑談をしていると、グリモワールはさりげなく別の席にいる数人の客へ

視線を移していく。

 

「新しい客が増えたようだけど、馴染みの客も変わらず来てるみたいねぇ」

 

食事処にいる客は、グリモワールを除くと二名。

どちらも彼女とは面識のある客だ。

 

「そのおかげで、店はそこそこ賑わってるから俺としては嬉しい限りだよ」

 

フフッと笑いながら、ハルは返答する。

経営者としては、閑古鳥が鳴くなんて事態は避けたいのだろう。

 

「そう…ならいいけど。飲み物もらえるかしら?」

「はい、ご注文は?」

「コーヒー、ミルクをたっぷりでお願い」

 

飲み物をリクエストが入り、ハルは厨房の奥へ一旦戻った。

 

「お主、相変わらずじゃな」

「あら…久々に会った知人に対する第一声はそれ?」

 

カウンターの右の隅側の席に座って、ほうじ茶を飲んでいた太公望。

彼が話しかけるや、グリモワールは軽く言葉を返す。

 

「あんたも同じでしょう?

…ふらっと放浪生活しながら、此処を宿代わりにしてるのは」

 

「ひゃひゃひゃ、否定はできんのぅ。で、今回は暇で来たのか?」

「はぁ……違うわよ。ちょっと、ハルに用事があってねぇ」

「ほぉー…珍しく『依頼』か」

 

「細かい事は、本人と話し合うから省略。

ま、今は、アンタとあっちにいるあの子しかいないから適当に聞いてても構わないわ」

 

グリモワールはちらりと、庭が見える場所に腰を下ろし、年代物の書物を読んでいる

黒い衣服をまとう青年…ゼレフを一瞥する。

 

ゼレフは、それに気づいたのか軽く会釈する。

店に通う常連客の中では、太公望とゼレフは、グリモワールと同じく古参に分類される。

それゆえに、他の客のように目を気にする事無く『本題』に入れる。

 

 

「お待たせしました」

 

 

ハルが、リクエストのコーヒーを持って戻ってきた。

今回だけでなく、彼はその都度『素敵なタイミング』で現れる。

それが無意識的なものなのか、見計らったものなのか…

どちらにしろ、損のない特技である。

 

「はぁ…コーヒーはこうでないとねぇ」

 

グリモワールは少量味わって、そう感想を口にすると…

背負っていたリュックをおろした。

 

グリモワールの体格に合わせた小さなリュックだが、その中は四次元ポケット並に

なんでも収納できる。

 

「これ、つい先日見つけたものなんだけど…」

 

グリモワールがカウンターに置いたのは…一冊の古びた書物。

 

「…へぇ、随分珍しい物を発見したようですね」

 

水をかけられて、眠気が一気に覚めたかのようにハルの表情は引き締まる。

グリモワールが取り出したそれは、ハルも旅をしていた頃に幾度となく、

似た物を目にした事がある。

 

一般的に流通していない…ある異世界では『賢者の標』、また別の世界では

『禁書』と呼ばれる特殊な書物。

 

「あたしのいる世界の…人間の市場で出回っていたのよ。

同じノルミン族の子に頼んで、差し押さえてもらったわ」

 

「いくらだった?」

 

「二束三文の値段で売られてた…まぁ、仕方ないわ…

その本に書かれている文字を読める人はあの世界ではいないでしょうから」

 

グリモワールが話す傍ら、ハルはぺらぺらと頁を捲りながらその文字をざっと見ていく。

 

「…うん。確かに、この文字は貴女の世界にはないものだ」

「読めそう?」

「見た事のある文字だから、時間をかければ…できますね」

 

解読できると断言するハルに、グリモワールは艶やかに笑う。

 

「そぅ…やっぱり、貴方のところへもってきて正解だったわ」

「いつまでに?」

「特に設けないわ……なるべく正確に訳してちょうだい」

 

焦らずに丁寧な作業をしてほしい、という条件付きの書物の解読の依頼。

制限期間が設けられていないため、じっくりと時間をかけられるなら、

請け負っても問題ない。

 

「了解。この依頼、謹んで承ります」

 

「よろしく。あ、そうそう…暫くこの店に寝泊まりしてもいいかしら?

別の古文書の解読に専念したいの…」

 

部屋は空いてる?と尋ねるグリモワール。

 

「宿泊だね…部屋のリクエストは?」

「集中したいから、奥の部屋がいいわ…ある?」

「いくつか…その中でとっておきの部屋を案内するよ」

 

トントン拍子で話が進む中、ふと太公望が思い出したように口を開いた。

 

「ハル、『あの術』を施しておいた方がいいのではないか?」

「あら、どうして?」

 

「二日前に、【表玄関】からの客が複数来たんじゃ。

グリモワール…お主は部屋にこもるから会う確率は低いじゃろうが…念には念をだ」

 

「ふーん…あたしが来ない内に『表』の客も増えたのねぇ。

まぁ、その辺の対処法はアンタならきちんとしてくれるから気にしないわ」

 

【表玄関】の客に関して、グリモワールはあまり興味はないようだ。

もうちょい警戒せんか、と太公望が呆れた感じで言うが、グリモワールははいはい…と

コーヒーをまったりと味わって軽く返事するのみ。

 

 

「望さんの言う通りだな…アドバイスありがとう、今日の内に上書きしておく。

…と、この本しまった方がいいか。ちょっと席を外すよ」

 

 

ハルは禁書を左手で持ち上げると一旦、自室へ行く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

時が過ぎるのは早く、時計が午後五時を知らせる音を響かせる。

 

「エステル、もう時間よ」

「はーい。…リタ、何か面白い本はありましたか?」

「…まあね。まだ読み足りないんだけど、また次の機会にするわ」

 

いくつか借りていくけどね…と言うと、カウンターにいるゲルダの前に、分厚い書物を

ドサッと数冊置いた。

 

「借りるわ。いつまでに返せばいい?」

「当店の書籍は基本、貸出期間は原則三週間となります。三冊ですね…」

 

説明しながら、ゲルダはカウンターに置かれた書物を、紐付きの丈夫な紺色の布袋に

入れていく。

 

「気を付けて頂きたいのは、期限を過ぎると自動的に書物がこちらに戻ります。

その際に延滞料金を頂く事になりますのでご注意くださいませ」

 

「分かったわ…ありがとう」

 

ゲルダから手渡された布袋を受け取ると、リタは満足そうに笑みを浮かべる。

 

「ユーリは借りないんです?」

「あぁ、もう読んじまったから」

「面白い物…ありました?」

「ま、それなりにな」

 

視線を斜め上に逸らして、曖昧に答えるユーリ。

 

「もしかして…途中で眠っちゃいました?」

「さーてな」

「…そんな、勿体ないですよ」

 

上手くはぐらかそうとする態度を見て、やはり自らの推測が当たったのだと確信した

エステルは、もぅ…と頬を膨らませる。

 

「よしなさい、エステル。

本に興味のないヤツに無理に勧めても、長続きしないわよ」

 

「そーいう事」

「開き直られると…複雑です」

「普段の依頼とは、一味違った体験ができていい気分転換にはなったぜ」

 

ユーリが笑ってそう答えた事に、微妙に納得がいかないものの…よしとする事にした。

 

「なら…次は、ユーリが夢中になれそうな本を探してみせます!」

「よかったわねぇー」

「て、おいおい…張り切るなよ」

 

賑やかな三人のやり取りを、ゲルダはフフッと穏やかな眼差しで見つめる。

 

「じゃあ、帰ろうぜ」

「そうね」

 

「ゲルダさん、二泊三日の宿泊、とても楽しかったです。

ハルさんにもよろしく伝えてください」

 

「こちらこそ、またのお越しをお待ちしております」

 

店から出て行くエステル達に、ゲルダは丁寧にお辞儀して見送った。

 

 

《こうして、私にとって…初めての異世界で過ごす休日は幕を下ろした。

明日から、忙しい日常が戻ってくる。

勿論、休憩時間に【双月文庫】に通う日課は変わらない。

 

当初の目的から方向転換してしまったけれど…また、この店で泊まりたい。

…あと、いつか一人での宿泊を再チャレンジしたい。

 

当分は、難しいかもしれないけれど…》

 

 

 

【エステル、異世界の貸本屋でお泊まりする(5)】

 

 

 

一時間前、異世界にあるM県S市杜王町にて…

 

「すみません」

 

不意に声をかけられ、ウェーブがかった黒い長い髪の女子

…山岸由花子は足を止めた。

 

一体誰だ、とその方へ振り返る。

声の主は、スポーツウェアを着た大柄の男性だった。

顔立ちはなかなか整っている。

しっかりした睫毛が特徴的で、左目が不自由なのか…黒い眼帯をつけている。

 

(…この辺では見かけない人ね)

 

杜王町はこの季節になると、県外からの出入りも活発になるから、旅行者の可能性もある。

スポーツウェアを身に着けている所を見ると、体育会系の組織に所属している人なのかもしれない。

 

「お尋ねしたい事があるのですが…お時間いただけますか?」

「あまり長くならないなら、いいですけど」

「失礼、この辺で人探しをしています。その人は…」

 

 

*** ***** ***

 

 

同時刻、【双月文庫】から離れた場所にある米花町2丁目、阿笠博士の自宅にて…

 

「…という訳だから、その本は俺が返しにいくよ」

「うーん、有難いが…複雑な話になってきたのぉ」

 

阿笠博士はソファーで、一昨日【双月文庫】で借りた書物の頁を捲りつつ、

向かい側に座るコナンの話に耳を傾けていた。

既に、絶版になった専門書であるため、期限までじっくり熟読するつもりだったが、

コナンからの要望により予定より早めに読まなければならなくなった。

 

「あそこの貸本屋のご主人とは話してみたが…悪いヒトではなかったぞ」

「確かにな。でも…」

「新一、あの店に何かおかしな所でもあったのか?」

 

阿笠博士は、コナンの…本来の名前を口にする。

 

「…ちょっと気になる事があって、な」

 

顎に手を添えながら、コナンは思案する。

その様子を見慣れている阿笠博士は「やれやれ…思考タイムじゃな」と思いつつも、

今の内に書物を読み進めようと再び開いている頁へ目を落とす。

 

 

*** ***** ***

 

 

 

《この時、私は想像していなかった。

【双月文庫】に『嵐』が近づいている事を…》

 

 

 

【つづく】

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。