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ハルさんの回想(9)

ハルさんと育ての親であるガランの話。
  


ハルさんの回想(【少年時代】俺とガランのじいさん)

 

「ヴァイスハルトォおおおお!」

 

 

でかい声が響き渡る。

まるで、大地を震撼させるようなそれは、俺の耳に十分伝わっていた。

 

「…あ、じいちゃんだ」

 

生前のレシピの再現中に、育ての親が近づいている事に気付いても、

俺はさして動揺しなかった。

大抵、じいさんが俺を探す理由は決まっており、ここ二年の間

そのやり取りの繰り返しが続いたため、慣れてしまったのが理由だ。

 

 

視線を火にかけている寸胴鍋に戻した。

今回の再現料理は『クリームシチュー』

材料が集められるようになったため、レシピの再現は案外スムーズに進んでいる。

 

俺は、現在進行形で寸胴の中にある真っ白なスープをかき混ぜている最中だ。

この鼻を刺激する独特の匂いがたまらない…これだ、これ…

俺が求めているシチューの匂いは。

 

試作品段階なので、これは俺が全部食べる事になるもの。

二、三日くらい、パンのお供となるだろう。

 

 

「ヴァイス! いるんじゃろ、はよ出てこんかぁアアア!!」

 

 

バシバシッと扉をノックする音が響く。

いや、ノックじゃなくて突き破りそうな勢いだ。

 

「はーい」

 

このままだと、家が破壊されそうなので火を止めると、俺は玄関の外へ出た。

 

「どうしたの? じいちゃん」

「このたわけがッ!」

 

ベシッと頭を拳骨で叩かれた。

あいたー…と右手で叩かれた部分を擦る。

じいさんなりに加減はしているようだが、元から武力が高いためか、地味に痛い。

 

じいさんに拳骨で叩かれる時とか、今世の身体が頑丈で本当によかったとつくづく思う。

これが、前世の普通の人間族の身体だったら、一発食らっただけで次の瞬間、

肉塊となってしまう…テレビでモザイクがかかるグロ描写まっしぐらだ。

 

「なにが?」

「お主、今日の会合にも顔を見せんかったじゃろ!」

「うん、ここにいたから」

 

「何故、来んかった?」

 

「…一部の人は必須でも、そうでない人は出席しなくてもいいんだろ。

今日任務ないし、ここでやりたい事あったから」

 

月に数回、上位種の間で定期的に会合が行われる。

十戒や幹部職位の対象者は、出席する義務がある。

しかし、それ以外の魔神族は基本は任意であり、欠席しても問題はなかったりする。

 

大抵の内容は、一族の理念やら敵対部族に対する戦い方やら

…簡単に言うと『教義』に近い。

 

集まるタイプも、成人を越した大人の世代が大半だ。

子どももまばらにいるにはいるが…会合中に爆睡したり、動き回ったりして、

それを保護者が阻止する光景も珍しくない。

 

要するに、堅苦しい空間が苦手な子どもは欠席する事が定番となっている。

 

「今までは、きっちり出席しとったのに…一年前からサボりだしおって」

「じいちゃん…そこら辺の事、きちんと覚えてるんだね」

 

生前の記憶が戻る前は、エル達に付き添う形で出席していたな

…あの当時は、やる事もなかったから。

 

でも、今はやりたい事もできたし、それを優先したい。

ストレートに言うと、また雷が落ちるので多少の部分はオブラートに包んで

理由を言うと…

 

「ひとつ訊いていいか?」

「うん」

 

「仮に、十日休みを与えられたとして…その期間をお主はどう使う?」

「三日間は修行をして、残りは自分のやりたい事をする」

 

「バカもんッ!」

 

バコーンッ!と頭を盛大に叩かれた。

 

 

「普通は、その逆じゃろーが!

いや、十日間すべて鍛錬に使うべきじゃろ!!」

 

 

ぷんすかと怒るじいさんの説教がまた始まった。

面倒くさいなと思う反面、俺はその説教を素直に聞く。

何故って…じいさんが、俺の事を思って言ってくれているからだ。

 

記憶はほとんどないが、今世の両親は俺が物心つく前に他界している。

今の義理母のもとで暮らす前まで、俺を育ててくれたのが、じいさんと他の十戒の人達だった。

 

 

『ヴァイス。将来はいい戦士になるんじゃぞ』

 

『お前さんを残して亡くなった父母の代わりに、儂がお前さんを一人前に育ててみせる』

 

 

いっしょにいた間、じいさんは俺をあやしながら専らその言葉を口にしていた。

直情的だし、酔いやすい癖に大酒飲みだし、調子に乗りやすいところもあるけど…

 

「まあ、説教はこの辺にしといてやる…

その代わり、今から特訓じゃ。すぐに支度せい」

 

「はーい」

 

俺は、そんなじいさんの事が嫌いじゃなかった。

多分、じいさんが思い描いている理想とは別方向の大人になると思うけど…

俺は【大切な人を守れる強さをもった男】になりたい。

 

それが…当時の俺の目標のひとつだった。

 

 

「ほれ、いくぞ」

「うん!」

 

 

それから、日が暮れるまでじいさんと特訓をする事になった。

余談だが、帰宅後に楽しみにしていたクリームシチュー(試作品)が

七割食べつくされる事件が発生していた。

 

その現場にいた複数の人物達…その中から犯人を探し出す事になるのだが…

その話は、次の機会に回そう。

  

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