あの芋の蔓事件後、少年ハルさんは夢の中で不思議な少女と出会う話。
※作中で、少女が歌っている唄は、ジョジョに関連するものです。
俺と【彼女】の出会いは、あの芋の蔓事件から数ヶ月経った時期だった。
俺は見知らぬ場所にいた。
…明るい日差しを帯びたどこかの島。
吹き抜ける青空に、透き通った海…サラサラとした砂浜。
(ここは夢の中…だよな)
夢を見ているのは分かっていた。
魔界には、こんな風景はない。生前の日本人だった頃、有休をとって潮干狩りをしたり、
魚を釣ったりしていた事を思い出す。
砂浜を歩いていると、視界に『ある物体』が映った。
…巨大な砂時計だ。日本の島根県にある、世界最大の砂時計くらいの大きさだ
(生前、一度だけ見に行った事がある)。
「うわぁ…」
ようやく砂時計の所まで辿り着いて、じぃーとそれを見つめる。
「…でっかいなぁ」
間近で見ると、その高さに感嘆の声をあげた。
光る銀砂が混入した茶色の砂は、下の方にはほとんど溜まっておらず、上からパラパラと
少量ずつ落ちていく。
~♪♪♪ ~♪♪♪
それを集中してみていると、歌声が聞こえてきた。
「…だれかいる」
声が聞こえる方へと自然と足が進んでいった。
その子は…砂時計から多少離れた砂浜にいた。
紺色のミディアムヘアーの髪、水色のワンピースを着ていて、外見的に俺よりも
1、2歳くらい年下の女の子だった。
「ポテトLサイズが好き♪ ポテトLサイズが好き♪ ポテトLサイズが好きー♪」
…近づいてみて、彼女がどんな歌を唄っているのか、分かるようになった。
でも、なんともいえない変な歌詞だった。
(なんで、ポテト?…しかもLサイズ)
前世で、何度か足を運んだ某ハンバーガーチェーン店が頭をよぎる。
アツアツで、サクサクのフライドポテトができあがった時のリズミカルなBGMが、
背景に流れてきた気がした。
「でも、フライドチキンはない♪ フライドチキンはない♪ フライドチキンはない~♪」
(って、そこでフライドチキンかい!?)
ポテトの次はチキンだった。
前世の某チキン専門店と店の象徴である白いおじさんの像が、ふわりと浮かび上がる。
この歌詞は、あの少女が考えたものか?
…でも、不思議とどこかで聞いた事があるのは何故だろう。
「カリカリのそれだけでいいー♪ ポテトLサイズが好きー♪」
「おーい」
彼女の近くまで歩を進めると、思い切って声をかけてみた。
「唄ってるところ、ごめん。聞きたい事が…」
「…さて問題です」
話しかけている最中に、彼女は突如質問を投げかけてきた。
「何故、ポテトはあるのにフライドチキンはないのでしょう?」
「…んん?」
しかも、質問内容がさっきの歌詞になぞらえたものだった。
彼女は見知らぬ俺に対して、臆する事無くだからといって怒らずに、朗らかに笑っていた。
俺を試しているのだろうか?
「そうだな…」
こういう場合、人によっては深く考え込むタイプとあっさりと直感で答えるタイプと別れる。
「ポテトと言えば、ハンバーガーだから? そんなイメージが強い」
俺は後者であった。
記憶の刷り込み効果というのはあなどれない。
けれど、フライドポテトの相棒は、やっぱりハンバーガーでなくてはならない。
フライドチキンの相棒は、どちらかといえばビスケットのイメージだ。
「なるほどー」
彼女は両手を軽くパンッと叩いて、うんうん頷く。
「私も同じ。ポテトといえば、ハンバーガーかな」
彼女もまた、俺と同じ答えだった。
うぷぷと妙な声で彼女は笑う。
不思議と、俺までつられて笑ってしまった。
「はじめまして、おきゃくさま」
「うん、はじめまして」
改めて、俺と彼女は挨拶をした。
砂浜にそのまま楽な姿勢で二人で座り込んで、さらに話を進めていく。
「ここは、君の住んでるところ?」
「うん、生まれてからずっと」
彼女は生まれた頃から、この夢の領域にいた。
ずっと一人で暮らしていて、初めてこの領域に訪れた客が、俺だったのだ。
「さびしくないの?」
「時々そう思う。でも、ここはそれを忘れるくらいのあそぶ場所があるから」
彼女はそういうと、両手を合わせる形でパンッと叩いた。
すると、先程まで海辺だった場所が一瞬で風景が早変わりした。
「うわぁ…」
そこは、大英図書館のような場所だった。
部屋全体が円形な造りで、十段以上の本棚があり、そこに無数の書物が揃っていた。
「ここは、わたしのとっておき。名前は…【ほんばこ】!」
「ほんばこ…【本箱】って、まんまだなぁー」
「何かいい名前が思いついたヘンコウ…予定?」
「…じゃあ、とりあえず(仮)って事か」
「そーいうことです♪」
なにかと、彼女はノリが良かった。
すぐに打ち解けて、仲良くなるのに時間もかからなかった。