ハルさんの回想(12)
夢の領域に住むウタとの交流と、現実世界でのメリオダス達との話。
「こんにちは」
「いらっしゃーい、ハルさん」
俺は、あの日を境に定期的にウタの住んでいる夢の領域に訪れる事ができるようになった。
今日は、辺り一面お菓子だらけの風景だ。
砂糖菓子の花々、飴細工の草、チョコレートのキノコ。
地面や樹はココアでまぶしたスポンジケーキで出来ている。
あまーい匂いが漂っているが、そこまできつくはない。
試しに、砂糖菓子の花を口にしてみた。
甘い…でも、くどくなくて上品な味わいだ。
「ここからだと風景がよく見えるよ」
ウタは、大きな白大福の上に乗っかっていた。
地を蹴って大きく跳躍して、彼女の隣まできてみると…
「おぉ~…」
「ね? すごいでしょ」
ウタは笑って風景の感想を求めてきた。
「でっかい大樹だ」
「現実にあるのを、まねてみました」
「真似た…?」
「うん、『がめん』でね」
ウタは、物心ついた時からずっと夢の領域で生活している。
彼女曰く、現実世界に自分の本当の体はあるらしい。
でも、先天的な病か呪いか分からないが、現実世界ではずっと眠りについたまま。
ウタは、「がめん」…つまり、空間を一部いじってモニター的な物を創造して、
そこから現実世界の様子を見る事ができるようだ。
数回、それを見せてもらった。
掌を何もない宙をぽんっと叩いたら、あら不思議!
空間が水波紋のように広がって、テレビの大画面のようにカラー付きの鮮明な画像が
映し出されたのだ。
「そうなると…ウタの家族はあっちにいるんだよな」
「いる。…実は、この間きました」
ウタの現実世界にいる家族も、この夢の領域に来れたらしい。
でも、ウタは嬉しい…というよりも、微妙な表情だ。
「もしかして、意地悪な人だった?」
「…ううん。まだ一回しか会ってないから」
要するに、悪い人ではなさそうだけど、完全に信用できない。
だから、回数を重ねていき、味方か否かを判断するため、様子見するという事だ。
ウタは意外と警戒心が強い。
実際、俺以外にもこの領域に辿り着こうとした人は何名かいたようだ。
でも、その人達はウタに邂逅する前に、彼女の手により強制的に帰らされてしまった。
ウタ曰く『なんとなーく、会ったらいけないフンイキがした』…との事。
どんな人物だった…と好奇心が勝って訊くと、彼女は持っていたキャンパスと鉛筆で
さらさらーと簡単な絵を描いてくれた。
画力は年相応なレベルで、可愛らしい?感じに仕上げてくれた。
だが、その絵の人物に…どうも既視感を覚えた。
(どっかで見た事ある…)
どうも、俺の幼馴染の“あいつ”と格好が似ている。
まさかな…と肩を竦めたその時、頭の中にある疑問が浮かんだ。
「俺の時はあっさり通していたような…」
「ハルさんはいいの。『だいじょうぶ』だって分かったから」
ウタの判断基準は、直感がピーンと働くか否か。
『羊だろうと狼だろうと、好きになれたなら、好きになった方に心を許したくなる』
…というのが、彼女の持論らしい。
「ハルさん、ホットケーキ好き?」
「うん」
「じゃあ、今日のおやつはそれにしよう♪」
ウタは、巨大白大福から軽々と跳躍して降りると、「まっててねー」と言って駆け出していった。
小さく手を振って見送ると、俺はでかい白大福の上で大の字になって寝転がる。
空は青くて、雲は薄ら桃色がかっている…あれはワタアメに違いない。
この夢の領域はとても居心地がいい。
どうしてなのか分からないが…自分の中で、しっくりくるのだ。
例えるなら、某海外ドラマの主人公のスカ〇ーの相手役が、モ〇ダーのように。
某有名刑事ドラマで、インテリ刑事なウキョ〇さんの相方が、熱血刑事なカ〇ル君のように。
国民的アニメの青猫さんと眼鏡少年が親友であるように。
つまり、俺はウタと友達から、親友にランクアップしたいな…と思うくらい、
彼女といっしょにまったり此処で過ごすのが好きになりつつある。
「ふぁー…いい天気だ」
身体がだんだんふわふわしてくる。
マッサージで凝りをほぐして気持ちよくなった後のような感じだ。
盛大に欠伸をすると、重たくなってきた瞼を閉じた。
(ハルさーん)
…ウタの声が聞こえる。
ホットケーキが出来たのかな?
(…ス、ヴァイス…)
はて…声が変わりましたな?
「ヴァイス、ヴァイスハルト!」
大声で呼ばれ、閉じていた瞼を一気に開いた。
「………ん~」
視界に映った人物は…メリオダスだ。
「起きろ」
眉間に人差し指をぐりぐりと押し付けられた、地味に痛い。
やむなく上半身を起こした。
『おはよう、ヴァイス』
離れた場所で、家の中を興味深そうに探索していた眼鏡をかけた青年
…ゴウセルが話しかけてきた。
「…おはよう。二人はなんで…」
「いつまで寝てる…ゴウセル、今の時刻は?」
『あと半刻で正午になるぞ』
「…て、もうそんな時間なんだ」
任務がないから、前日から今日の明朝にかけて作業をしていた事を思い出す。
近々、友好関係にあったり、隷属している他種族を交えて祭事が開催される。
その際に、年上の知人(非戦闘員の職人さん)から頼まれて露店で販売する
装飾品の図案を考えて、共同制作する事となったのだ。
しっくりくる図案も出来上がって、一安心したから一気に眠気がきたんだった…。
「…それで、用件は…何?」
目を擦って尋ねると、メリオダスは眉に皺を寄せる。
「…最近、体調の方はどうだ?」
「ふぁ~…今は…眠気が残っている事以外は至って健康だよ」
いきなり、体調管理はきちんとしているのか問われたため、もうちょっと睡眠をとれば
問題ないと答えると…
『ならば、ここ数年の間の印象深い出来事は記憶に残っているか?』
今度は、ゴウセルが質問を投げかけてきた。
「えっと…二年前、じいさんが宴で城にある酒樽の三分のニを消費してしまって、
魔神王様から禁酒命令されたっけ…期間が三ヵ月ほど。
あと…五ヵ月前…敵対部族の鎮圧の時に、リリが敵の不意打ちで背中に怪我して…
モンさんがそれでブチ切れて…敵を跡形も残さず灰にしてしまった出来事があった」
『ふむ、要点を簡潔にまとめた上で分かり易く説明できている。問題はないな』
この数年で起きた、個人的に忘れられない事件をぼぉーとする思考の波の中から掬いだした。
ゴウセルは、顎に手を添えて頷きながら俺の回答に納得してくれた。
それから、二人の質問が何回か続き、完全に眠気が覚めてしまった。
全ての質問を答えた後、メリオダスは険しい眉を解いていた。
でも…その目に不安の色が漂っているのは何故だろう?
「…無茶はするな」
その一言だけを告げて、ゴウセルと共に出て行った。
あの当時、メリオダスがどんな心情であの言葉を残したのか。
その真意が判明したのは、メリオダスが出奔して大分長い時を経てから
…『ある戦場』で彼と再会した後の事だった。