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多重クロスオーバー形式連載 第20話。

今回のゲストキャラは、引き続いて王国心に登場するⅩⅢ機関の№4であるあの人。

※作中で、王国心に関わる内容が記載されています。
同時に、それと合わせる形で小説オリジナルの設定も含まれています。

※最後に、名前(名字)だけ名探偵コナンのキャラが出ています。
  


第20話【偵察員と貸本屋(2)】

 

ヴィクセンは、一階のフロアにある本棚に目を通していく。

 

 

(…随分と揃えているな)

 

 

ジャンル毎の区分、本のタイトルと大まかな二つの項目だけでざっと見通しても

数が豊富である事が分かる。

 

 

(むっ? この書物は絶版されてしまった二昔前の歴史小説ではないか

…しかも全巻揃っているだと!)

 

 

小説のコーナーに目を向けていた時、現在では一般の書店では取り扱っておらず、

図書館でもあんまり入荷されていない小説を発見した。

眼光炯々としたヴィクセンは、さらにそれ以外の棚も注意深く視線を巡らすと…

 

 

(これは、五十年前の初版本。ぬっ、あそこにあるタイトルの物は…

私が探しても見つからなかった著者のものではないか…!?)

 

 

…なんという事だ。

ヴィクセンはごくりと唾を飲み込む。

 

 

(一階のフロアだけで、“あれだけの”書物が揃っているなんて…ありえない)

 

 

ヴィクセンは、ノーバディとなる以前…人間であった頃から研究者だった。

組織の特色もあり、『心』を中心とした研究に従事している身だが、

単純にその分野だけに固執している訳ではない。

メインの分野のみならず、他の系統の知識を把握しておくのも大切な事だ。

 

一見、無関係に見える事でも横のつながりを広げておけば、何かしらの『閃き』と

『発見』に繋がる事もある。

己の後輩であり…現在でも時折、組織の手伝いをする【彼女】の受け売りであるが…。

 

ゆえに、ヴィクセンは自分の専門外の…全てとは言えないが…書籍にも目を通している。

そのため、流行の小説からマイナーな専門書のタイトルをかなり知っていると自負している。

…だからこそ、驚きを隠せずにいるのだ。

 

ヴィクセンの目利きが正しければ、一階のフロアにある書籍類の二割は値打ちのあるものだ。

普段、この貸本屋を利用している客は気付いているのか…。

いや、ダスクの調査だとこの貸本屋を利用する客は極少数との事。

おそらく、その価値を知る客は…現時点で自分しかいない。

 

 

(…どういう入手経路だろうか。それとなく、従業員辺りに訊いてみるか…)

 

「エヴェンさん」

 

 

後方から名を呼ばれ、ヴィクセンはビクッと肩を震わせてしまう。

 

「あっ、驚かせてしまってすみません」

「い、いや…こちらこそ」

「お求めの書籍が見つかりましたので、お持ちいたしました」

 

どうぞと差し出された分厚い書。

タイトルは『非物質世界の成り立ちと構造』

試しにパラパラと頁を捲って、内容を確認してみたが…間違いない。

…組織の図書室にある同じ物と中身は一致している。

 

「おぉ、ありがとうございます。コレです。探していたのは…」

「よかった、貸出の手続きをしましょうか?」

「そうですね…いや、その前にこの店にある他のジャンルの物も気になりますな」

 

さりげなく、中を見物してもいいかと尋ねると、ハルは「いいですよ」と

ほんのり笑みを浮かべ、二つ返事で了承した。

 

「案内しましょうか?」

「いや、大丈夫です。ゆっくりと見学したいので…」

 

一人で回りたいという要望を言うヴィクセン。

 

 

(ふぅ…さりげない感じに装うのは難しいものだ)

 

 

胸の鼓動が、不規則に小刻みに早くなる。

怪しまれるかと思いきや、店主は難なく許可してくれた。

ややお人好しなのでは…と逆に気をもんでしまいそうになるが、

余計な言葉を漏らす失態はしない。

客専用に作成したミニマップをもらい、それを参考にして二階へ昇る事にした。

 

 

(…怪しまれないように、速やかに行動する)

 

 

時間制限がないため、普段の任務よりも余裕をもって行える。

調査はまだ初日だ。

深く探りを入れると、返って怪しまれてしまう可能性があるため、

最初はできるだけ広範囲で浅めな情報を入手していく。

 

一階のフロアの書物の種類は大方把握したので、次は二階にどんなジャンルがあるのか調べよう。

そう思案しながら、ヴィクセンは二階に着いた。

真っ先に目に留まったのが…

 

「すぴーzzz」

 

階段の近くにある肘掛のある長椅子に、一人の青年が熟睡していた。

ヴィクセンは眉を顰める。

 

 

(利用客か…昼寝とは図々しい)

 

 

一般客が使用する場所で、堂々と我が物顔で長椅子を独占する事自体、非常識である。

 

 

(むぅ~、見ているとあいつを思い出してしまったではないか。

いや、あいつもあいつで未熟な面はあるが、まだ常識はある方だ…と信じたい)

 

 

いつも任務をサボりがちで、些か我が道をいく後輩の№9の姿が頭をよぎった。

寝息を立てている青年と後輩を比較して…後輩の方がマシかと思いたくなった。

 

 

(…ん? この男、見覚えがあるような)

 

 

凝視していたヴィクセンは、その青年の顔を目にした事がある気がしてきた。

 

一体、どこで…?

 

微かにおぼろげな記憶の映像がちらついているのだが、ハッキリせずにいる。

首を捻って、なんとか思い出そうとしていると…

 

「…んん~、ふはぁー…よう寝た」

 

当の青年が欠伸を漏らしつつ目覚めた。

 

「ん? お主だれじゃ?」

 

青年は上半身を起こして目を擦るや、こちらをガン見しているヴィクセンに気付き、

訝しげに目を細める。

 

「っと…す、すみません!」

 

ヴィクセンは後ずさりすると、踵を返して反対側の本棚へ向かった。

 

「なんじゃ…あやつは。ま、どうでもいいか」

 

見慣れぬ男性に、青年…太公望は首を傾げるが、さして関心を抱く事なく

盛大な欠伸を漏らすと立ち上がった。

 

「…食事処、いやその前にやっておかんとな」

 

目を覚ますや、まずは大自然の摂理を外に出すためにトイレへ向かう事にした。

眠気が残っているのか半目で、太公望は頭を掻きながら歩いていく。

反対側の本棚付近にいたヴィクセンは、背中を向けて目で彼の姿を追っていた。

 

 

(…よ、よし…突発的なアクシデントは回避できた)

 

 

あの青年に怪しまれたら、下手に行動ができなくなり、任務に支障をきたす危険があった。

我ながら、賢明な判断ができた事を自画自賛したい気分になる。

 

 

(…今の内に速やかに情報収集だ…)

 

 

サササササッと横に移動していく。

そのあまりにも不自然な動作が、明らかに怪しまれる要素が満載である事に彼は気付いていない。

 

 

 

 

 

二階のフロアの本棚の一角を調べるヴィクセンはフリーズしていた…もはや吃驚仰天の域だ。

 

 

(…し、信じられん。こ、この書物は…)

 

 

今、手にしている分厚い書を真ん中の頁を開いて、両手で掴んだまま固まっていた。

本を固定している指先が、カタカタと震えている。

 

それは、本棚の一番下の片隅にあった。

他の書籍が表だっている中、目立たない様に置かれていたそれに妙な存在感を覚えて、

試しに手に取ってみたのだが…

 

 

(ま、間違いない…【アンノウン・コーデックス】の一種だ)

 

 

 

―――【アンノウン・コーデックス】

 

ヴィクセンがその本の存在を知ったのは、人間の研究者だった頃だ。

彼の生まれ故郷にあたる世界で、昔からあるおとぎ話が人々の間で語り継がれてきた。

 

 

『昔、世界はひとつにつながっていて、あたたかな光が満ちていた。

人々はみな光を愛し、やがて、それを欲して争うようになった。

 

すると、人々の心に闇が生まれた。

闇は、多くの心と光をのみこんでたちまちのうちに広がっていき、世界は闇のなかに消えてしまった。

しかし、子どもたちの心のなかには、小さな光のかけらが残っていた。

その小さな光のかけらを集めて、子どもたちは世界を作り直した。

 

だが、そうしてできたいまの世界は、もはやひとつではなく、いくつにも小さくわかれていた。

本当の光はまだ、闇の奥で眠ったままだったから。

 

もしも、闇の奥に眠る光を信じていれば―――

闇の奥につづく扉が開き、そこに眠る光が目覚めたなら、

世界はふたたびひとつにもどれるかもしれない。

 

光を信じる心こそが、闇を照らす光になる』

 

 

多くの住民はあくまで空想上の物語だと思っていたが、ヴィクセンを含める一部の人間は違った。

そのおとぎ話は、実際に大昔に起きた実話をもとに伝承されてきた説話だと考えていたのだ。

自分の師が、心に関する研究を進める一環で、故郷だった世界で伝わっていたおとぎ話の

考察もしており、その際に城の書庫室のある資料を用いていた。

 

それが…【アンノウン・コーデックス】

 

師が所持していたのは、所々虫食いがある分解されていた頁を修復させたものだった。

師は研究の合間にその解読を試みていたが、思うように進んでいなかった。

それもそのはず、その書に記述されている言語は、師やヴィクセンも見た事のない

古代語だったのだから無理はない。

 

故郷が一度闇に覆われた事で、それは失われてしまったが…

ヴィクセンはその時の古代語のスペルを未だに忘れた事はない。

まさか、こういう形で…調査先の貸本屋でお目にかかれるとは思いもよらなかった。

 

 

(しかも、頁が劣化していない…)

 

 

すなわち、人が読んだ形跡があまりないという証拠だ。

ふと、仲間であるゼクシオンの調査報告を思い出した。

 

この国に住む住民の大半は、自国の言葉以外の外国語が得意でないらしい。

その背景を考慮すると、こういう外国語(古代語)の難しそうな書物を手に取る人物は、

そうそういないだろう。また、置かれていた場所も合わさって、今まで手にした人物は…

おそらく片手に数える程度ではないか、と推測した。

 

 

(いや…問題は、なんでこんな貴重な書物をただの貸本屋が所持しているという事実だ…)

 

 

一階のフロアで陳列されていた書の種類…あれは、珍しい物もあれど

この世界でも入手できるものを揃えていた。

それだけなら、貸本屋の店主がその筋に人脈を持っているのだというだけで済まされる。

 

しかし、【アンノウン・コーデックス】があると分かった今となっては…

見方が変わってくる。

 

 

(やはり、ゼクシオンの言う通り、あの『ハル』という若者は…)

 

 

パタンと本を閉じたヴィクセンの顔から、一筋の汗が流れ落ちる。

 

〝進藤 ハルは、【異世界の理】を知る者”

 

その推測が確証へ至った瞬間だった。

 

 

 

【偵察員と貸本屋(2)】

 

 

 

制服に着替えたゲルダが、一階のフロアへ丁度やってきたと同時に、

カウンター席に設置されていた電話が鳴り響いた。

 

「はい、こちら貸本屋【双月文庫】でございます」

 

電話が鳴るのは、大抵は古書や絶版された書籍関連の探索依頼がくる時だ。

応対していたゲルダも当初はそう考えていた。

 

「はい…? 当店への宿泊をご希望という事ですか?」

 

しかし…今回、電話をかけてきた人物は違っていた。

なんと、店に泊りがけでの見学を申し出てきたのだ。

宿泊システムは、これまで裏通りの客層しか利用してこなかった。

 

それゆえに、表玄関から訪れるだろう客から予約が舞い込んできたのは、

これが初めてのケースである。

 

「すみませんが、日程確認をしてまいりますので、お時間を頂けますでしょうか」

 

ゲルダは少々戸惑いつつも、声に出さないように努め、ハルにその件を相談する事にした。

 

「マスター、いかがいたしましょうか?」

「…うーん。お客様の人数は?」

「大人一名、高校生二名、小学生一名…合計四名様との事です」

 

構成を聞く限りでは、予約客は家族連れのようだ。

滅多にない事態に、ハルも刹那の間逡巡してしまう。

 

「……分かった。対策は考えておく。

日程の方は一、二ヶ月後なら空いている旨を伝えて…

相手側と交渉してくれるかな」

 

「かしこまりました」

 

ハルからの指示に従い、ゲルダは再び受話器を取ってその事を伝えると…

 

「はい、はい…それでは二ヶ月後の十五日に予約をさせていただきますね」

 

どうやら、相手側もこちらからの提案に納得してくれたようだ。

ゲルダは視線を傍にいるハルに向けると、「よかった」と彼も満足そうに頷いた。

 

 

「それでは、鈴木様。ご質問の件ですが…」

 

 

果たして、誰が想像できただろう?

この電話予約の二ヶ月後に、予期せぬ非常事態が起きてしまう事を…。

 

 

 

【つづく】

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