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ハルさんの回想(13)

夢の領域で、ウタの苦手な存在がやってきた話。
  



ハルさんの回想(【少年時代】ウタの天敵)

あれは人間年齢十歳位の頃。

俺は、ウタの住む夢の領域で彼女と会っていた。

 

「手際いいね」

「おいしーもの食べたいから、ヒツゼン的にね」

 

ただいま、二人で料理の真っ最中。

今日の空間は、【真夏には一度は来て見たくなる川が近くにある森のキャンプ場】をイメージしたと

ウタが言っていた。

 

「ハンバーグのでーきーあーがーりー!」

「こっちのカレーも完成」

 

バーベキューもいいが、今日のメインはカレーライスとハンバーグ。

ハンバーグはウタが作って、俺はカレーと白飯を担当した。

 

「落とさない様に運びなよ」

「はーい」

 

出来上がったメニューは、カレーライス、チーズハンバーグ、ツナと玉葱のサラダ、

デザートは王道のカスタードプリン。

 

 

「「いただきまーす」」

 

 

ウッドテーブルに座って、二人で両手を合わせて食事の挨拶をして食べる事にした。

 

「おいしー!」

「うん、うまい」

 

やっぱり、キャンプ場の定番はカレーだ。

いつも自宅で作るカレーも美味いが、特定の場所で食べるカレーはまた格別だ。

俺の向かい側の席で、ウタはハンバーグを一口ずつ味わうたびに「んー!」と至福の表情を浮かべている。

 

「ウタってハンバーグ、好きなんだな」

「うん、大好き!」

 

ウタの好物はハンバーグだ。

二人で料理をする際に、必ず彼女はハンバーグを作りたがる。

 

「ハンバーグは、このうまみのジュースを閉じ込めるのが意外とむずかしいのです」

 

ウタは、ナイフで切ったハンバーグの断面を見せてきた。

ジュワ~と肉汁が溢れ出てきて、視界的にも食欲をそそられてしまう。

 

「ハンバーグの黄金ヒリツは7:3。

ゆでたお芋とニンジンのグラッセが個人的にベストなのです」

 

ウタは、ハンバーグ(とその付け合わせ)に対する自らの理想を、あたかも料理番組の解説者の如く語る。

ところどころ、自己主張が混ざっているのは御愛嬌である。

 

「カレーの味は、どう?」

「うん、うまみーです!」

「そっか、なら俺もハンバーグ食べようかな」

 

おかわり用にと、既に何枚か焼いていたものをカレーに乗せて、ハンバーグカレーにした。

うん、ウタの言う通り…ハンバーグはうまい。

カレーと一緒に食べると、また違った旨さになる。

 

「…ん?」

 

もぐもぐと咀嚼している最中、微かな気配を感じた。

この夢の領域に、俺以外にやってきた人がいるのだろうか…?

その時、ウタがよっ!と立ち上がった。

 

「ごめん、ハルさん。ちょっと席外すね」

「どうした?」

「やぼよー」

 

簡潔にそう言うと、ウタはスタタッと足早に森の奥へと向かった。

 

「…………野暮用か」

 

こういうケースは今日に限った事ではない。

一緒に行動をしている時に、ウタは時折『野暮用』と称して一時的にどこかへ行ってしまう。

それは…俺以外の誰かの気配がした時だ。

 

「ウタ…まだかな」

 

いつもなら、多少の時間をおいて戻ってくる。

でも、今日は遅い。

顔を横切るそよ風に、ひやりと冷たさを感じた。

じわりと、胸を侵食するような不安が急速に広まっていく。

 

「…デザートを先に食べたら怒られるよな」

 

 

 

 

 

俺は立ち上がって、ウタが姿を消した森へ足を進めた。

森の奥へとどんどん進んでいくにつれて、快晴だった空に黒雲が漂ってきた。

ざわざわと木々がシグナルを告げるように、葉を揺らしている。

 

(ッ!…この気配、すぐ近くにいる…!)

 

ようやく、ウタの気配を感知してその場所へ駆けていく。

そこで目にしたのは…空間に浮く黄緑色に彩られた渦だった。

 

「これって…」

 

怪しげな空間の歪に、呆然としていると…その中から、ウタが勢いよく飛び出してきた。

 

「きゃー!」

「うわっ…とと」

 

あたかも弾丸の如きスピードで飛んできた彼女を、俺は咄嗟に受け止めた。

六、七歩と後ずさりしながらも、尻餅をつかずになんとかキャッチに成功。

 

「ウタ、無事?」

「うん…ありがと、ハルさん」

 

俺の顔を見て、ウタはホッとした顔で御礼を言った。

その直後、空間の渦にビリッと漆黒色の電撃が走った。

安堵から一転、怯えを孕んだ警戒する表情となったウタが、俺に抱きかかえられたまま

渦に向かって左手を翳した。

すると、黒い電撃が取り巻く様に出現していた渦の大きさが徐々に縮小していく。

 

 

  〝―――逃すか”

 

 

彼女のその行動を嘲るかのように、渦の中から声が聞こえてきた。

低音の…どこかで耳にした事があるような裏声。

すると縮小する渦に抗いながら、漆黒色の霧状の巨大な手が渦を突き抜けてこちらへ

近づいてきた。

 

「…うぅ~…フルパワー!」

 

ウタが両目を瞑って、掌から衝撃波を出した。

威力は強く、あの巨大な手が渦の中へと押し返されてしまい、その隙に渦は消滅してしまった。

 

「ふへぇ~…つかれたぁ」

 

脅威を退けた事で安心したのか、ウタはへにゃりと脱力した。

 

 

「…さっきのは?」

 

「ときどきやってくる『黒い人』。

やな感じがするから、こっそり追いはらってたのです」

 

 

ウタは眠たそうな目で、俺と視線を合わせた。

頭を木槌で叩かれたような衝撃だった。

この領域に足を踏み入れるのが、一概にウタの認めた人物ばかりでない事に…。

 

(ずっと…あんな危険と隣り合わせだったのか)

 

普段はマイペースで朗らかに笑うウタが、必死な形相で防衛していた。

俺と出会う前から、たった独りで…ずっと領域を荒そうとする脅威と戦っていたのだ。

そんな面を微塵も見せなかったのは、俺に危害が加わらないようにするための

…ウタなりの配慮なのだろう。

 

「ごめんね…こんどはうまく追いはらうよ」

 

力を使いすぎたのか、うとうとと瞼を閉じようとしているウタは力なく微笑みながら、

そう宣言した。

 

「なら、俺も手伝う」

「えっ…?」

 

「女の子だけに負担かけさせるなんて…男として恥ずかしいよ。

それに…悩んでる【親友】を助けるのに理由なんていらないだろ」

 

ウタはどうだかわからないが…この時点で俺の中では、彼女は友達から【親友】にランクアップしていた。

だから、俺は親友の悩みをちょっとでもいいから取り除きたいと思ったのだ。

 

「うぷぷ……うれしーな」

 

にんまりと満面の笑みを浮かべると、ウタはすぐに眠り始めた。

俺は彼女を横抱きにすると踵を返し、そのままキャンプ場へと戻る事にした。

 

思えば、この出来事でウタとの距離が縮まった。

…同時に、ある【隠された謎】を解き明かすためのきっかけのひとつとなった。

  




※近い内に、回想で【白い人】も登場する予定です。
  
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