Brand new page   作:ねことも

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多重クロスオーバー形式連載 第21話。

今回のゲストキャラは、引き続いて王国心に登場するⅩⅢ機関の№4であるあの人。
※前半は№4のあの人視点、後半は鬼灯+十戒のある人物視点となります。
  


第21話【偵察員と貸本屋(3)】

 

(初日で思いの外、収穫があった事は幸いだ)

 

 

ヴィクセンは、二階のフロアを大方調べ終えた。

【アンノウン・コーデックス】の発見により、貸本屋の店主…進藤 ハルの正体が異世界の理を

知る者である事を突き止めた。

 

ヴィクセンは、くくくっと忍び笑いをしてしまう。

こうも、うまく任務状況が進むとは思わなかった。

だが、アクシデントに見舞われたり、任務外の余計な事で時間をとられたりするよりは断然いい。

 

 

(…もう少し調べを進めるか、いや…)

 

 

ヴィクセンは、眼だけちらりと左右後ろへ向ける。

 

 

(…二名しかいないが、常連らしき客がいる。

此処で余計な動きをしたら怪しまれる危険がある)

 

 

深読みだと思われるかもしれないが、ヴィクセンは事を進めるのは慎重になるタイプだ。

この任務に時間制限があれば、やや踏み込んだ調査をしていたが、今回はその縛りがないゆえに

方法を選ぶ事にした。

 

一階、二階の取扱書籍は把握した。

ならば、最後に違う場所をもう一ヶ所調べておこう。

 

 

(…そういえば、此処は飲食店も設置されていたな)

 

 

二階の階段付近に置かれている古時計を見ると…時刻は四時五十二分。

やや早めだが、腹も空いてきたため夕食がてら何か摂取しておこう。

 

 

(一階の奥のようだな、ん?)

 

 

階段を下りて、ヴィクセンが食事処へ続く通路を歩いている途中、向かい方向から

茶色の小さな動物が走ってきた。

 

「ぶぃー!」

 

(あの動物は…ウサギ? いや違う。どこかで見かけた事があるような…)

 

茶色のウサギもどきは、立ち止まって凝視しているヴィクセンに目を向ける事無く、

そのまま通り過ぎていった。ヴィクセンを眉間に指をあてて思考にふける。

 

(ぬぅ~…あれでもない、これでもない…

そう、あれはウサギではなく、何かの個体であったはず!…あれは…)

 

「お客様、如何なさいましたか?」

 

前方から声をかけられ、ヴィクセンはハッとした。

声の主は、従業員の女性…ゲルダだった。

先程の華美なワンピースから、制服姿になっている。

 

「あっ…いえ、ちょっと考え事を…」

 

一瞬、慌てたヴィクセンはとりあえず無難な回答をして誤魔化した。

ゲルダはそうですか…と怪しむ様子もなく、穏やかに頷いた。

 

「そ、そうだ…飲食店があると耳にしまして」

「あぁ、お食事ですか。それならこちらへどうぞ」

 

微笑を浮かべたゲルダに、食事処へ案内してもらう流れとなった。

 

 

(…ん? この女性、魔力があるのか)

 

 

一歩前で歩いているゲルダから、ヴィクセンは魔力を感じ取った。

研究者という肩書だが、ヴィクセン自身も戦闘の心得がある。

主に、魔法を駆使した後方戦が得意だ。

 

この世界は、魔法よりも科学が発達しており、一部を除くと魔力を持たない

人々が大多数を占めている。

ヴィクセンも不定期だが、他のメンバーと共にこの世界の国々を回った事がある。

しかし、現在までに出会えた魔力の保有者は片手の指を数える程度である。

 

 

(世界の理を知る者の店だ…魔力が使える人材を部下にしていてもおかしくないな)

 

 

ヴィクセンは冷静に推測を重ねていく。

そうこうしている間に、西側にある大部屋…【食事処】へ着いた。

 

「いらっしゃいませ」

 

ゲルダが扉を開けるや、温かいスープを運んでいた濃い紫色の髪、褐色の肌に

眼鏡をかけた男性が挨拶をしてきた。

ゲルダと同じ従業員だろう…彼からも魔力を感じ取った。

 

【食事処】…喫茶店のようなイメージがあったが、雰囲気としてはレストランに近い。

アンティークの温かい雰囲気が漂っており、自然と気を緩めてしまいそうだ。

 

「ほぉ…」

 

設置されている大きな窓から一望できる屋敷の庭。

芝生や木々の鮮やかな黄緑色、その中に交ざるように白や薄い黄色で彩られた花々。

きちんと手入れされており、今の季節に合う花々が咲き誇る庭園は目の保養になる。

 

「よければ、こちらはいかがですか?」

 

ゲルダが気を利かせて、庭側の席へと案内してくれた。

どうも、と会釈してそこへ腰を下ろした。

 

「ご注文が決まりましたら、お呼びください」

 

ゲルダはそう告げると、奥の厨房へ一旦去って行った。

ヴィクセンは手渡されたメニュー表を開く。

 

 

(…品揃えが多い)

 

 

軽食の項目を見たが、一つの料理の種類も何通りか揃えている。

さらに、魚料理、肉料理、ご飯類、麺類、今の時間帯は取り扱っていないが、酒まである。

あまりのバリエーションの豊富さに、ヴィクセンの思考は深まる。

 

 

(専門店までとはいかずとも、この種類…コスト面は問題ないのか?

もしや材料の質を妥協して安く仕入れていたりするのか…)

 

 

メニューだけで、関連した疑問が頭にぽつぽつと浮上していってしまう。

 

 

(…さりげなく、あのゲルダという女性に産地を尋ねてみるのは……ハッ!)

 

 

メニュー表から視線を外したヴィクセンは絶句した。

少し離れた窓際の席に、ついさっき目が合ってしまったヴィクセンの脳内ブラックリストに

乗せたばかりの人物が座っていた。

 

黒髪、三白眼の男性…名は【鬼灯】

 

鬼灯は、庭の景色を眺めながらテーブルに置かれている料理…海鮮丼を味わっている。

その大きさが、一般的なサイズよりも大きく見えるのは気の所為では…ない。

その時、こちらに気付いたのか、鬼灯が目を細めて視線を向けた。

 

まずい…!

咄嗟に視線をメニュー表へ戻した。

左から右へと目を動かしていき、あちら側が興味をなくするまで待つ。

すると、タイミングがいいのかハルが別の客にメニューを運び終えたところだった。

 

「す、すみません…!」

「はい、ご注文ですか?」

 

すかさず、挙手したのはあまりにも長い時間メニュー表を眺めていたら

逆に怪しまれると思ったからだ。

 

胸の鼓動がドクドクと早くなっている。

ヴィクセンは、この緊張感に暫く苛まれる事となってしまう。

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました、特製海鮮丼です」

「ありがとうございます」

 

鬼灯が、貸本屋【双月文庫】に訪れたのは二週間ぶりだ。

それぞれ異なる異世界の人々が集う憩いの場である、この店に鬼灯が訪れるのは

仕事の延長と自らの趣味のため、である。

 

鬼灯は普段は仕事で多忙な日々を送る身である。

立場上、トップであるあのじじぃ…ではなく、上司を補佐しなくてはならないため、

他の常連と比べると訪れる回数は少ない方だ。

そのため、店に訪れた際は気に入ったり、仕事上で参考になりそうな文献を

一気に借りている。

 

此処に収蔵されている書物は、古い物であっても保存状態がかなり良い。

随分前に、幼馴染の一人に頼まれて専門的な書を探した事がある。

一般的に流通しているものではなく、発売された年も遥か昔。

その幼馴染の頭を五回往復で叩いた後で、この店の事を思い出した。

 

ダメ元で、その書があるかどうかハルに尋ねてみると…

 

 

『ありますよ』

 

 

即答だった。

しかも、三十分もかからない時間で目当ての書を探し出してくれたのだ。

無駄のない動きで、俊敏に仕事を行うハルを眺めながら、鬼灯は常々思う。

これほどの働きをする人材が、仕事場にいてくれたら大いに助かるのに…。

彼の働きを見れば、他の部下達にも刺激と影響を与えてくれる可能性は高い。

 

しかし、ハルは今の生業を気に入っている。

長い付き合いもあり、鬼灯の心情的にも強引にスカウトするのはいけないと判断した。

 

 

(…此処も随分と長く経営していますね)

 

 

海鮮丼の白飯と刺身を交互に箸で取り、口に入れながら鬼灯はその事に気付いた。

 

ハルがこの世界で開店してから約十年。

鬼灯の知る限りでは、新参者が二桁くらいの人数となり、来客数が増えた。

古参や一部の客とはそれなりに会話をしているが、この店の知名度は客を通じて

ゆっくりとじんわりと口コミで広まっているようだ。

 

ハル自身はどこまで把握しているのかは不明だが、少なくとも鬼灯の住んでいる世界で、

面識のある有名なアイドル二人組も噂で耳にしている位だ。

そうなると、今日初めて訪れた客もその類いだろうか。

 

 

おおよそ二時間前、借りた五冊の書物を入れた専用の布袋をもって入店した際に、

ハルが見慣れぬ男性に店の説明をしていた。

 

薄い金色の髪に、細い体型の男性。

きちんとスーツを着ており、見た目は四十代辺りだろう。

細かい事にこだわる神経質そうな人物だというのが、鬼灯の第一印象だ。

 

目が合っただけですぐに二階へ向かったため、その時点では特に何も思わなかった。

二階の中でも特殊な書が収められている【特別な部屋】で、一時間ほど仕事の延長戦とも

いえる作業を行った。その最中に腹の虫が鳴ったため、一階の食事処へ向かっている時だった。

 

 

(おや、さっきの…)

 

 

先程目が合った男性がそこにいた。

階段から斜め右にある本棚付近で、一つの書をガン見していたのだ。

その表情はいつになく強張っており、あたかも裏社会の巨大な悪の正体を知ってしまい、

狙われる事になったFBIのイメージが、ふわりと頭の中に出てきた。

 

 

(…? あの顔…)

 

 

さっきは一瞬だけしか見なかった男性の顔を、鬼灯は遠めから改めて確認した。

 

 

(…似てる)

 

 

数年前に、仕事場で目にしたある資料に記載されていたとある組織。

その組織の構成員は合計十四名で、その内の一人と男性の顔がそっくりだった

…というか本人だろう。

 

組織に関しては、以前は異世界を混乱させた集団だったが、現在はある女性のおかげで

すっかり方針転換をしたため、今の所は問題ない。

そうなると、あの男性は何のためにこの店に訪れたのだろう?

 

 

(…様子見しましょうか)

 

 

男性にそれとなく近づいて接触するのもいいが、下手に刺激したらマイナスな方向へ傾く危険もある。

鬼灯は冷静にそう分析した上で、放置する事にした。

 

 

(…おや、丁度いいタイミングで…)

 

 

食事を始めた時に、渦中の人物がゲルダに連れられて食事処へやってきた。

窓際の席を勧められてそこに腰かけると、渡されたメニュー表を真剣に見つめている。

メニューのバリエーションが多くて迷っているのか…。

 

観察していると、こちらの視線に気付いたようだ。

男性は何故か顔色がさぁーと蒼白になり、またメニュー表へ視線を戻す。

 

今度は、食い入るように見つめている。

丁度、別の客に料理を届けたハルが厨房へ足を進めていた途中で、男性はやや焦った声で

彼を呼んだ。食べる品目をようやく決めたようだ。

 

 

(メニューが聞こえてきますが、数が多いような…)

 

 

細めの体型なのに、よほど空腹なのか…はたまた大食漢なのだろうか?

推測を立てながら、鬼灯はメインの鮪の刺身を味わいつつメニュー表の頁を捲る。

…食後のデザートは何にしようか、と。

 

 

 

【偵察員と貸本屋(3)】

 

 

 

「…あそこか」

 

市街地から離れた屋敷…貸本屋【双月文庫】を目にした一人の男性がそう呟いた。

スポーツウェアを着た、その男性…身長は200cmを悠々と超えており、

仮に人混みの中にいても分かりやすく目立ってしまうだろう。

 

特徴と言えば、しっかりした睫毛と左目が不自由なのか…黒い眼帯をつけている。

纏う空気は武人のように厳かであり、見る人に寄ったら近寄り辛い雰囲気の人物に

見えてしまう。

 

「ッ!?…この紋は…」

 

鉄製の門の上にある装飾を視界に入れ、男性は大きく目を見開いた。

 

 

…《背中合わせの二つの三日月》の紋章。

 

 

それは男性…ドロールにとって、忘れられない人物を連想させる象徴であった。

同時に、ドロールはある魔力が屋敷の内部から漂っている事を感知した。

 

「間違いない。ヴァイスハルトの…」

 

先日、異世界の村で発見した青年の魔力。

古き友の血を受け継いでいるかもしれない血族が…この屋敷にいる。

 

いざ、その人物がいるとなると…どのように話しかけるべきか?

そんな事を思考していたら、胸の鼓動がやや早まっている事を自覚した。

別に刃を交える訳ではないのに、とドロールは微苦笑する。

 

 

「…百聞は一見に如かず」

 

 

立ち止まっているだけでは、何の意味もない。

ドロールは、店の門を開いた。

…この店にいる主と接触するために。

 

 

 

【つづく】




※ドロールさん、貸本屋【双月文庫】に初入店するの巻。
  
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