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ハルさんの回想(14)

左遷先から久しぶりに里帰りした時の話。
※オリキャラが登場します。
  


ハルさんの回想(久々の里帰り)

 

一年に一回、俺は里帰りする。

定期的な報告のため、魔界へ帰還するのだ。

 

…とはいえ、報告するのは領地内での年間の出来事や敵兵への対処と結果くらいだ。

それから、収穫した食物や薬草を各方面に納める。

それが終われば、実家に立ち寄って掃除をしてから、数日後に領地へ戻る…というコースである。

 

 

「今年も…“面白くないくらい”順調のようだな」

 

 

久々に、再会した上司は相変わらずだった。

 

 

「今度は、どんな物をつくる気だ?」

 

 

何かと意味深げな質問を投げつけてきた。

まだ漠然とした回答しか返せなかったが、いずれは携帯用の回復アイテムを製造したい旨は

伝えておいた。いつもなら、「そうか」と簡潔に返すだけの上司が、この時だけ違った。

 

 

「領地の件も含め、近年のお前の功績は我らが一族に恩恵をもたらしている。

それを踏まえ、報奨を与えようと思うが…何か得たいものはあるか?」

 

 

いきなり、今までのご褒美としてほしい物はあるかと言われて目が点になった。

…これはタイミングがいいというべきか、唐突というべきか。

額縁通りに素直に受け取れば、喜ばしい事だろう。

 

だが、この上司の野心が凝縮された思考というフィルターを通さなければ、

本当の意味は見えてこない。

 

 

上司……魔神王は、一筋縄ではいかない人だ。

溢れる野心に加え、冷徹な行動力と実行力を持ち、魔神族を纏め上げるその手腕。

同胞の誰もが、頂点だと頷くほどの存在である(一部を除く)。

 

子どもの頃から、間近でこの人の事を見て育った所為か…

彼の発言はどれも裏があると咄嗟に考える癖がついてしまった。

 

 

「………(いきなり言われてもな)」

 

 

気持ちだけで十分です、と遠慮したら面子をつぶされたと思われる危険がある。

逆に、思いついた事を適当に言うのもよくない。

その内容次第では、こちら側の程度を測られ、今後の生活に支障をきたすリスクもあるからだ。

 

 

「すみません。保留にさせてください」

 

 

暫しの思考の末、俺は褒美の内容を先延ばしする事にした。

…上司はその事を咎めなかった。

 

その漆黒色の瞳の奥底に、灰暗い喜色を宿していたのだが…

俺は敢えて気付いていない振りをした。

 

 

 

 

 

 

「ヴァイスハルト」

 

報告を終えて、実家へ足を進めていたら…知人の中年男性とばったり遭遇した。

 

 

「久しぶり、息災にしてたか?」

「おかげさまで、ディグさんも変わらず元気だね」

 

「また、新しい『レシピ』ができたら教えてくれよ。

一年前にくれた【揚げパン】、今じゃ若いもんの間ですっかりブームになってるからなぁ」

 

 

話を交わす全身に鱗の生えた人型の中年男性…ディグさん。

昔は兵士として籍を置いていた人だが、戦の怪我が原因で退職せざる負えなくなった。

現在は非戦闘員…市民用に運ばれる肉の解体・加工の仕事に携わっている。

 

 

「城の用事は済んだか?」

「一応、あとは実家の掃除をするだけだよ」

 

「なら、二日は魔界にいられるな。

折角だし、うちによれよ。特上の竜肉が手に入ったんだ。

一杯飲もうぜ」

 

 

女房と子ども達もお前に会いたがってるしな…とディグさんは食事に誘ってくれる。

掃除以外に特にやる事はなかった。

 

「じゃあ、そうしようかな」

 

折角なので、ディグさんの言葉に甘える事にした。

それから、ディグさんの家で夕食をご馳走になった。

奥さんの料理は美味しかったし、彼の幼い娘達…双子の姉妹とも遊んだ。

 

ディグさんは、この一年の間に起きた同胞内のちょっとした出来事や珍事件などを語ってくれた。

…中には、それとなく重要な話題もあったので、心のノートに記述しておいた。

 

「気ぃつけて帰れよ~、次は一年後なー」

「ありがとう、ディグさんも酒は程々にね」

 

食事を済ませ、ディグさんはほろ酔い状態で俺を見送ってくれた。

小さく手を振ると、俺は実家へゆっくりと歩いていく。

 

 

(…一年の間に、風景もちょっとだけ変わったな)

 

 

久方ぶりに帰省してみると、魔神族の領地内にも変化が生じている様子がよく分かる。

以前はなかった露店がいくつか並んでいたり、新しい家が建てられていたり…

些細だけれど、それらが回数を経て積み重なっていき、大きな変化を生んでいく。

 

 

(…あ、【揚げパン】の売り場までできてる)

 

 

そこで売り子をしている馴染みのある猫人族に手を振ってみると、

こっちに気付いてくれてぺこりとお辞儀してくれた。

 

明日、買いに行こうか…。

そう思いながら、俺は歩を進めていく。

 

 

 

実家に着いたものの…俺は目を細めてその場で足を止めていた。

 

「…やれやれ」

 

妙な事に、無人のはずの家に気配がする。

空き巣の類ではなく、顔見知りによる不法侵入だ。

扉の鍵が機能していない…見事にその個所が壊されているから、扉は開いたままだ。

灯り替わりに掌から黒炎を出して、内部を照らす。

 

「ただいまー…」

「おかえり」

 

試しに小声で帰ってきた合図を出すと、聞き覚えのある少年の声が返ってきた。

 

「ゼル、訊きたい事があるんだが…」

 

黒髪の少年…ゼルドリスは、腕を組んでテーブルの椅子に座っていた。

 

 

「勘違いされたら困るから、説明しておく。

ほんの数日前、どこぞの誰かがお節介でこの家を清掃するために、

鍵を開けようとして壊してしまった。

そのため、現段階で任務のない俺と兄者が交代で見張りをするために

寝泊まりさせてもらっている」

 

 

ゼルドリス…ゼルは律儀に、まだ尋ねていない疑問に答えてくれた。

…お節介で、俺の家を掃除する人物。

なんとなく、犯人が誰なのかは特定できた。

 

 

「それよりもどこをほっつき歩いていた?

本来なら、数時間前に此処に帰ってこれるはずだ」

 

「知り合いの人に会ってね…ちょっと話し込んでいたんだ」

 

 

理由を告げると、ゼルは少し眉根を寄せて「そうか…」と素っ気なく返した。

 

「待っててくれてありがとう」

 

頭を軽く撫でて、俺はゼルに御礼を言った。

本当なら、忙しいのに時間の合間を縫ってこの家を守ってくれたのだ。

鍵の件はさておいて…その事が純粋に嬉しかった。

 

 

「…た、単に領の治安に目を配らなければならないと思ったから、したまでの行動だ。

仲間の…ヴァイスの家が荒らされるなんて…見過ごせるわけがないだろう」

 

 

ゼルは、視線を斜め下に逸らしながら語る理由に…口元が緩んでしまう。

ゼルが、どこか照れ臭そうに見えるのは気の所為じゃなさそうだ。

 

「ところで…俺のベッドを占領しているあいつはいつからあそこにいるんだ?」

「すまん…半日前から」

 

現在進行形で、ベッドを我が物顔で独占しているもう一人の銀髪の不法侵入者がいた。

ゼルは眉間に手を押し当てて、溜息を吐いた。

すーすーと気持ちよさげに寝息をたてるエスタロッサ。

 

「こりゃまた、怠慢そうな…でかいわんこだな」

 

眠るエルを見て、そんなイメージが浮かび、苦笑してしまった。

このまま寝かせておこう…

そう思い、俺はエルに毛布をかけた。

  

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