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ハルさんの回想(15)

少年時代、フラウドリンと料理の試食会をする話。
  


ハルさんの回想(【少年時代】フラウドリンと料理試食会)

 

「左が複数の獣の肉をミンチにして作った団子、真ん中はすりつぶして裏ごしした芋と

細切りにして揚げた芋を二品、右は揚げて砂糖をまぶしたパンです」

 

 

人間年齢10歳頃から、俺は生前のレシピをどこまで再現できるのか…という目標のため、

日夜料理に勤しんでいた。

 

時は人間年齢12歳辺り、普段よりも少し温暖であったその日に、俺は試食会を行った。

城の一角にある部屋で、俺ともう一人の人物とで山盛りのメニューの味を審査していた。

 

「フラさん。どうかな?」

「…肉の柔らかい触感が慣れないが、味はいけるな」

 

本日の試食してくれる人物は、フラウドリン。

全身が濃い紫色の肌で、胸板に口がある巨大な異形型の魔神族である。

背中から腕にかけてゴツゴツとした剣状の突起があって、記憶が蘇る前の人間年齢が

一桁台の頃に触らせてもらった事があるが、皮膚も含めて固い手触りだった。

 

フラウドリン…もといフラさんは怖い外見だけれど、上司への忠誠心が高く、

部下や下級魔神への細やかな心配りができる人だ。

面倒見の良いという長所がある彼は、十戒の補佐役でもある『魔神将軍』という

高位の地位についている。

 

「もぐもぐ…ヴァイスハルト」

「もぐもぐ…何?」

 

それぞれのメニューを味見していると、フラさんが疑問を投げかけてきた。

 

 

「前々から不思議に思ってたんだが…

お前、何故こんな実験にこだわるようになったんだ?」

 

 

素朴な疑問だが、フラさんにとって、いや…ほとんどの魔神族にとって、俺のこの行動は

奇妙な実験に等しいものであった。何故なら、この当時の魔神族の食事は、血抜きしない

新鮮な生肉と何年か熟成したワインが主流だった。

スープはあれど、俺のイメージしているモノとはかけ離れていた。

果物は食べる事はあるが、デザートの概念はまだ確立されていない。

 

記憶が戻る前までは問題なかった。

その食生活が当たり前だと思っていたから。

でも、一番最初の記憶が入り乱れたこの時の俺にとっては、大きな問題となっていた。

食文化が発達した前世の記憶は、舌にまで影響を及ぼしてしまうのだと実感した。

 

手っ取り早い解決方法として…自分で料理を作るしかなかったのである。

 

 

「うーんと…食事のバリエーションを増やしたくなってね。

それと…」

 

 

同時に、魔神族の食生活にちょっとずつ変化をもたらしたい気持ちが芽生えたのもある。

いくつかの懸念はあるけれど、何事も挑戦する事が大切。

それに食の発展は、健康と心の豊かさをつくりあげる。

疲れたり、落ち込んだ時に何か美味しいモノを食べると元気になれるし、人と人とを

繋ぐためのコミュニケーションにもなる。

 

 

「…という感じで、魔神族全体の食生活を向上させて、みんなが美味しい料理を食べて

心を満たせる文化をつくりたいんだ」

 

 

俺は、前世の事は伏せて自分の熱い思いを語った。

 

 

「うーむ…飯を文化にする、か。

なんとなく、お前が同胞の事を思って行動している事は伝わってきた」

 

 

フラさんは、俺が目指している理想を共感まではいかなくても、多少の理解は示してくれた。

 

 

「確かに、お前の作ったこの飯は味わった事のない新鮮なモノだ。

味も悪くない…」

 

「本当!」

 

「だが、これらを広めるのは現状では難しいというのも事実だ。

食材の加工は勿論、焼くとか揚げる…と言ったかそんな細かな技術の会得、それを可能にする器具

…揃えなくてはならん条件が多すぎる」

 

 

フラさんは、すぐに問題点を指摘した。

その点は、俺もやっぱり…と納得せざる負えない。

従来の食生活からの変化を拒む人もいるだろうし、『料理をする』という行動を一般人の

日常に根付かせないといけない。食材の取り扱いから調理方法や調理器具の普及…まだまだ

やらなきゃいけない事は山積みだ。

 

俺個人がやれる事は微々たるものだ。

それでも、俺のこの行動で後世の誰かが料理を開発したり、種族間の壁すらも超えた

文化交流を築き上げるかもしれない。

 

そんな期待と希望を残すために、俺は土台作りをしていきたい。

 

「アドバイス、ありがとう」

「いや…俺なりに感じた事を言ったまでだ。それにしても…」

 

フラさんは、肉団子を大きい手でニ十個ほど取り、それらを口に入れて咀嚼する。

その姿は、映画館でポップコーンを食べている若年層を連想してしまった。

 

 

もぐもぐ…もぐもぐ…

 

 

肉団子と並行して、芋料理…マッシュポテトとフライドポテトを合わせる形で食べていく。

 

「芋が肉とこんなに相性がいいとは思わなかった…」

 

フラさんは、双方の相性の良さを見抜いた。

デンプンとタンパク質…一つ間違えると食べ過ぎてしまいそうになる二つの組み合わせ。

…肉と芋はその代表例である。

魔神族の舌も、その素晴らしいコンビネーションが分かるものだと判明した。

 

 

「フラさんは、今日作った芋料理の二つ…どっちが好き?」

 

「…そうだな。こっちの揚げた芋だな。

すりつぶしたのは滑らかだが…柔らかすぎてすぐに溶けてしまう。

肉にも言えるが…固めの触感がほしいな」

 

 

どうやら、フラさんは柔らかい料理より歯ごたえのあるモノが好みらしい。

意見が出たら、すぐにメモに記載していく。

 

「特別美味いわけでもないのに…何故か食べたくなってしまう」

 

フラさんはそう言いながら、肉団子とフライドポテトを交互に味わっていき、

時折樽に入ったワインをぐびぐび飲んで口直ししてまた繰り返す。

 

「おかわり、持ってこようか?」

「そうだな…頼む」

 

この調子だと、ワインの追加が必要だと判断した。

試食とはいえ、美味しそうに食べるフラさんの姿にほっこりした俺はワインの樽が

貯蔵されている部屋へ向かう事にした。

 

数十分後、戻ってきた時に人数がひそかに増えていたのだが…

それはまた次の機会に話そう。

  




※肉と芋の組み合わせは最高だ…(by フラウドリン)
  
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