多重クロスオーバー形式連載 第24話。
今回は、ハルさんや従業員達の就業時間外の物語。
※ハルさんの回想の中に、複数の別ジャンルのキャラ(ジョジョ、ポケモン、名探偵コナン)が
登場します。
日曜日の午後10時。
遅めの夕食をとって、入浴を終えたハルはベッドで横になっていた。
「はぁ…だるい」
今日は、いつもより賑わっていた。
常連客の何名かが、親しい友人や部下を連れてきたり、不定期に店を訪れる人物が
やってきたりと…。
食事処も含めて、普段以上に忙しなく働いた。
達成感はあるものの、この一週間のたまった疲労が一気に波を押し寄せて身体に
降りかかってきた。
(…このところ、休まずに連続して働いていた反動が今になってやってきたかぁ)
枕に顔をうずめながら、ハルはふぅーと一カ月の間の出来事を振り返っていく。
まず、常連である杜王町トリオの一人、広瀬康一が親しい人を紹介してくれた。
その日、康一は珍しく仗助と億泰の二人ではなく、代わりに見慣れない女子と
一緒に店へやってきた。
『ハルさん…こちらは、山岸由花子さん。
このお店の事を紹介したくて連れてきました』
『はじめまして』
その女子高生…山岸由花子は、康一の同級生であり、お付き合いしている彼女であった。
エステルが仲間を紹介した事を皮切りに、常連にあった一種の閉塞的な空気に変化が
起きている。
康一もその空気を感じ取り、それをチャンスと見たのか親友二人のいない時を
見計らって、由花子を連れてきた。どうやら、前々から紹介したい気持ちが
あったらしく、由花子にもそれとなく店の事を話していたようだ。
『素敵なお店ね』
『そうでしょう?』
由花子は気が強そうな美人な女の子だが、礼儀正しく、店の規則も理解してくれた。
それから、彼女は週に二回、康一と二人で通うようになり、ゲルダや同性の常連客とも
話をして仲良くなっている。
ただ、仗助と億泰にはすぐにその事がバレてしまって、仗助が康一を冷やかした際に
気にかかる事が…
『ふふふ、仗助君……余計な事は言わないでね』
由花子は気圧を込めた笑顔で、仗助を窘めていた。
自慢のウェーブがかった彼女の長い黒髪が、仗助の首にまとわりついて、彼が高速で
首を縦にぶんぶん降る様子に、少々驚いてしまった。
彼女は怒らせたらまずいタイプだろう…と一階のその場にいた誰もが、共通に認識した
出来事だった。
次に、オーキド博士が店にやってきた。
久々の訪問があったのは二週間前。
事前に連絡があったので、ハルは二階の自室まで案内した。
『はじめまして、進藤さん。…この子がウィズですね』
その時、オーキド博士はジョーイさんという女性を同行させていた。
理由は、ウィズの健康診断のため。
ジョーイさんとは、ポケモンの治療を専門とする…この世界で言えば、医師にあたる
職業についている人だ。
あちらでは、ポケモンの怪我や病を治す為にたくさんのジョーイさんがいると、
オーキド博士との定期的な連絡で聞いていた。
実際に会ったのは、その日が初めてだった。
ウィズがこの店に来た諸事情も既に周知されていたため、滞りなく健康診断は
進められた。
『体調も良好ですし、きちんと栄養を取っているようですね』
結果は問題なかった。
博士の助言を聞いて、ウィズにはこちらで入手できる材料を使って栄養を考えた料理や
お菓子を摂取させていたし、毎朝散歩させていた。
その習慣がいい効果をもたらしたようで…ホッとした。
念の為に、ジョーイさんからポケモンの体調管理の細かな注意点を記載したデータを
パソコンにインストールしてもらった。
『ウィズの生まれ故郷についてじゃが…イーブイが生息しているいくつかの地域を
調査している』
『特定できそうですか?』
『密漁団が事件を起こした地域が三か所ある。
おそらく、その内のどれかだと儂は推測しておる』
博士曰く、三か所でポケモンを捕えようとした密漁団の一味は既に警察関係者に
逮捕されたとの事。捕えられたポケモン達は無事に解放されたようだが、その内の
一割はメンタルケアのために、各町のポケモンセンターで保護しているらしい。
『状況によったら、ハルさん…貴方にもこちらの世界へ来てもらう事になりそうじゃ。
その際は、よろしく頼むよ』
博士は有力な情報が入り次第、連絡すると約束してくれた。
今後、博士のいる世界に行く可能性も視野に入れてウィズ用のモンスターボールを含め、
複数のアイテムをもらった。
モンスターボールとは、ポケモンを捕獲して使役するためのアイテム。
一般的なポケモントレーナーは、そのアイテムにポケモンを入れて必要な時に応じて
召喚するらしい。
『ウィズ…この中に入ってくれるか?』
『なあにそれ?』
ウィズは、ハルの事を既に主だと認識しているため、モンスターボールに入れて
手持ちポケモンにしてみたらどうか…と提案された。
『ウィズを守るためのボールだよ』
そういう風に説明したら、ウィズはやや不思議そうに左右に小首を傾げつつも
大人しく入ってくれた。
これにより、ウィズは正式なハルの手持ちポケモンとなった。
いずれ、ウィズは故郷へ戻るか否かを決めるまでの間、ハルがトレーナーとして
彼を世話していく…つまり、ウィズは今まで通りの生活を続けるのだ。
(…昨日、メールに書かれていたレシピを作ってみようかな)
博士のメールには、ポケモン用のお菓子…ポフレの作り方が書かれた三種類の
レシピも添付されていた。ウィズは甘い物が好きだから、今度挑戦してみよう。
ハルは、瞼を開け閉めしてぼぉーと天井を眺めながら、さらに記憶を振り返る。
ウィズの健康診断があった日、ある人物が再び店に訪れていた。
先日、表玄関から予約の書籍を借りに来た阿笠氏という中年の男性と一緒にいた
小学生五人の中の一人…『江戸川コナン』という少年だ。
ハルはほとんどの時間を自室にいたため、本人とは接触しなかった。
代わりに、ゲルダがその子の対応をしてくれた。
『博士が忙しいから、僕が代わりにこの本を返しに来たんだ』
コナンは、多忙な阿笠氏の代わりにこの間、貸出した書籍を返却しに一人でやってきたらしい。
その日は平年より気温が高く、とても暑い日だったため、ゲルダが気を利かせて食事処で
オレンジジュースとアイスクリームをご馳走した。
コナンは「ありがとう」と礼を言うと、美味しそうにそれらを食べたそうだ。
ただ…セッタは、多少気になる点があったと言う。
『子どもだけど、子どもじゃないような…
まるで、大人が子どもを演技をしている感じがしたんだ』
コナンは食事処で寛いでいる間、部屋全体を観察しているようだった。
さらに、数人程度の常連客に話しかけていた。
セッタが聞いた限りでは、差しさわりのない程度の話題だった。
だが、コナンが帰宅した後で話しかけられた常連の一人が、ゲルダに親切心からか
忠告してくれた。
『あの少年…今後、店に来るようなら注意しといた方がいい』
その言葉に、ゲルダは戸惑いを隠せず、セッタはやはり…と自分の抱いた違和感が
確信に至ったと語っていた。実は、ハル自身もコナンの事が気になっていた。
(やたらと、うろついていたのは…好奇心だけじゃなさそうだな)
先日も、コナンは阿笠氏や他の子ども達とは別に屋敷内を探索していた。
こっそり三階に足を踏み入れた事や、質問を投げかけられたとゼレフからの証言もあり、
その行動に単なる子どもの探求心とは異なる意図がある気がした。
(…うーん。念のために警戒はしておこう)
コナンが、どんな目的でこちらに興味を示しているのかまだ分からない。
彼の周辺を調べてみようか…と思ったその時、不意にある人物の姿が脳裏をよぎった。
(次の週も来るかな…)
その人物…ドロールは、あの絵本を借りて以来、週に二回…木曜日と土曜日に
店を訪れるようになった。
午前中にやってくるや彼は一、二階のスペースを行き来して、気に入った本を
立ったまま、もしくは適当な場所に腰を下ろして読んでいる。
こちらに積極的に話しかけたりはしない。
時々、ハルが誰かと喋っている際に視線を感じる事はあるが…
それ以外は、ドロールは普通に読書しているだけだ。
昼と夕の二回、食事処へ赴いてカウンター席の隅で食事を取ると、速やかに帰っていく。
…今のところ、目立った行動は起こしていない。
(そもそも、ドロールは…昔の仲間に似ている男としか思っていないだろうな…)
ハルは寂しげな笑みを浮かべ、かつての仲間達の事を思いだす。
…もしも、あの封印が解けているなら、幼馴染や育ての親達もどこかで眠りから
覚めているはずだ。
(きっと…俺の事、恨んでるだろうな)
魔神族であった頃…昔の自分は、運命を左右する選択を二回迫られた。
一回目は、仲間の制止を振り切り、契約を交わしたエクレシアを…
仲間を守るために、同胞と故郷へ帰還する道を捨てた。
二回目は、ある世界の天界で審判が下った時であり…
その結果、昔の自分…ヴァイスハルトは『死んだ』。
かつての同胞への懐かしさと罪悪感から、胸の奥に小さな痛みが炭酸のように
ちくちくと生じる。
(それでも…選択した事を後悔してない。
そのおかげで…手に入れる事が出来たモノだってあるんだ)
ハルは徐に起き上がると、仕事用のデスクの上にある写真立てを手に取った。
「例え、世界中の誰もが敵に回ったとしても…俺は絶対に君を裏切らないよ。
〝嫁さん”」
遥か昔に交わした約束。
…契約を結ぶ際に、彼女との間で立てた誓約。
幸せそうな笑顔を浮かべる純白のウェディングドレス姿の女性に、
ハルは何度目か分からないその呪文を紡ぐ。
今はいない【妻】へ…変わらぬ愛を囁くように。
【ナイト・オフタイム(1)】
薄らと電気がついた廊下を、ゲルダは歩いていた。
水色のワンピース型のナイトドレスに、温暖な色のショールを羽織った彼女は、
今晩の見回りを行っている。
三階で泊まっている数少ない宿泊客に声掛けを終えたところで、ゲルダはふぅと
一息ついた。
(問題はなさそうだし…一休みしようかしら)
世の中、物騒な事件が起きる事はあれど、幸いこの屋敷に不届き者が侵入した事は
ゲルダが勤めだしてからはほとんどない。時空の狭間に異世界の住民が巻き込まれて
やってくるケースもあるが、このところその現象も起きていない。
…とはいえ、用心に越した事はないため、主であるハルは防犯用の魔法を仕掛けて
いるようだが。
「ゲルダさん」
一旦、自室に戻ろうかと思っていた時、後方から声をかけられた。
「セッタさん」
声を主は同僚のセッタだった。
「お疲れ様、今夜は気温が低いようだけど…大丈夫かい?」
白い生地の甚平を寝間着にしている彼から、体調を気遣われた。
季節の変わり目になると、ゲルダは風邪を引いてしまう事がある。
そのため、ハルやセッタ…一部の常連からは心配される事も少なくない。
「ありがとうございます。
…この間、赤屍先生に処置してもらったおかげで、問題ありません」
ハルの勧めで主治医に定期的に診てもらうようになってから、この時期がきても
体調を崩す事はめっきり減った。勿論、無理はしないように気を付けている。
「…見回りの方は?」
「今のところ、異常はありません」
「そうかい…なら、ブレイクタイムにしないか?
リクエストがあるなら何か作るよ」
「そうですね…コーヒーをお願いできますか?」
「了解。良い豆を仕入れたんだ。
ゲルダさんには、僕特製のスペシャルブレンドを淹れよう」
眼鏡をかけ直しながら、ドラマのような決め台詞を言うセッタに、ゲルダはクスッと
笑って「楽しみです」と返した。
【つづく】
次回は、従業員視点がメインになる予定。