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ハルさんの回想(17)

夢の世界で、ウタと読書をする話。
  


ハルさんの回想(【少年時代】ウタと読書タイム)

 

「ハルさん、ハルさん」

「なに? ウタ」

 

人間年齢11歳の頃。

この時、俺は週に3,4回のペースでウタの夢の領域を行き来するのが日課になっていた。

 

ある日、ほんばこ(仮)で読書をしていたら…

その部屋の専用のベッドで寝転がっていたウタが話しかけてきた。

 

「その本、お気に入り?」

「うーん、そうでもないけど…読んでおきたい本の一つかな」

 

読んでいた本は、異世界の言語を記した…教科書だった。

記憶が戻った後も、現在使っている言語は忘れなかったので、読み書きも

スラスラできている…日常的な問題は何もない。

 

ただ、生前の日本語を思い出した影響で、俺の学習意欲に火が付いた。

日記を書く時や料理のレシピをメモする場合に、日本語で記載する癖がついてしまった。

他人に見られても分からないメリットがあるし、何より生前の国の言語を思い出す

リハビリにもなるため、俺は積極的に使用した。

 

その結果…予想もしない展開になった。

 

「にほん語こーざ、うまくいってる?」

「ぼちぼちかなぁー…」

 

俺が使用している日本語が、いつの間にやら同胞の間で噂になっていた。

謎の暗号やら、変な言語を開発したやら言われてしまい、巷では「ヴァイス語」と

呼ばれてしまっている。

 

噂されているだけで、咎められたりしなかったので問題ないか…と楽観的に見ていた。

 

 

『この暗号、何て読むんだ?』

 

 

…メリオダスから質問がくるまでは。

メリオダスは、俺の書いたレシピを指先でつまんで日本語を教えろと言ってきた。

仮に断っても、統率者命令をされたら逆らう事はできない。

仕方ないので、時間が取れたら日本語講座を行うようになった。

 

 

『よくこんな難しいのを思いついたな』

 

 

…とはいえ、事は簡単にいかない。

日本語は、漢字・ひらがな・カタカナの3種類の文字を使う。

最初の俺…もとい日本人だった頃、定期的に日本を訪れる外国人の知人がいた。

その知人は「どうして3種類の文字を使う意味があるんだろ?」と疑問を口にした事があった。

 

彼女曰く「漢字はRPGで言うならラスボス」との事。

3種類を混ぜこんで文章を作りあげているその形式が、知人を含めた外国語圏内の人々が

『日本語は難しい』という理由の1つらしい。

 

メリオダスの言葉で、その事を思い出した俺はまずはひらがなから教える事にした。

興味ある事だったのも影響してか、メリオダスは1年以内でひらがな、カタカナを覚えてくれた。

 

それから、簡単な漢字を教えているけれど…

 

 

『暗号は、ひらがなかカタカナのどっちかで統一すべきだ』

 

 

どうやら、メリオダスも「漢字が強敵」だというくらい苦手なようだ。

時々、俺が教材用に作ったレシピノートを捲りながら漢字の箇所だけ抜かして

読んでいる姿に少し笑いそうになった。

 

 

『漢字の読み方を紙媒体に記録しておけば、問題ないのでは?』

 

 

同じく日本語講座に途中から参加しだしたゴウセルが、メリオダスにそうアドバイスしていた。

余談だが、メリオダスとは異なり、ゴウセルは漢字がお気に入りの文字になっている。

 

 

 

「…そういえば、ウタ」

「ん? なーに?」

「ウタって、日本語上手だよね…」

 

ウタは日本語の読み書きができる。

彼女の領域内にある看板やほんばこ(仮)にある書物も、一部を除いてすべて日本語で

文字が書かれている。

 

「ウタって、日本人?」

「ううん、違うよ」

 

もしや、ウタはどこかの異世界で生まれた日本人なのか…と推測してみたが、

答えは否だった。

 

「わたしの現実にある肉体は、別の種族だよ」

「そうなんだ…」

「ききたい?」

 

いつのまにか、ウタが傍にいた。

俺の顔を覗きこみながら訊いてきた。

 

「今はいいよ」

「どうして?」

「だって…ウタ、言いたくないだろ?」

 

尋ねてくるウタの顔は、どこか不安の色がちらついている。

多分、現実世界における自分の種族の事を話したくないのだろう。

 

誰だって、人に言えない事は一つか二つはあるものだ。

それを無理にでも聞きだす行為は、相手の心を傷つける事と同じ。

 

「言いたくなった時でいいよ」

「………………ありがとう」

 

ウタは微かに笑みを浮かべて小さく御礼を言った。

 

「あのね、ハルさん」

「ん?」

「わたしは、どんなことがあっても…ハルさんの親友でいるからね」

 

いつも通りの笑顔で、ウタはそう告げた。

彼女の言葉が嬉しくて、俺も笑って「ありがとう」と返した。

 

その時のウタがどんな気持ちで、その言葉を口にしていたのか…

その事が明らかになるのは…俺とウタが大きくなってからずっと後の話。

  

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