Brand new page   作:ねことも

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多重クロスオーバー形式連載 第26話。

ハルさんの1週間の休暇中の物語。
※物語の最後の場面で、アルバイト店員(ある漫画の主役2名)が初登場。
  



第26話【ハルさんの休日(1)】

 

時刻は午前5時10分。

陽の光が地平線から顔を出し始め、空の闇を薄くしつつある頃、

ハルは川辺を歩いていた。

 

『マスター! こっちこっち!』

「ウィズ、そんなに急ぐと転がるぞ~」

『だいじょ…きゃー!』

 

走っていたウィズが叢に足を引っかけたのか、ころころと転がってしまう。

全身に草や花弁がついて、目を回すウィズを抱きかかえながらハルは苦笑する。

 

「ほら、言っただろ」

『うぅ~…ごめんなさい』

 

「反省したならいいよ、次は気を付けるんだぞ」

『…うん!』

 

長期休暇の初日、ハルはウィズのリクエストに答える形で朝の散歩をしている。

通常は仕事の関係で30分程度で済ませるが、今日から休みなのでもうちょっと

朝の風景を眺めながら楽しめる。

 

「おや、おはよう」

「あ、おはようございます」

 

時折、早朝のジョギングをしている近所の住民とすれ違ったり、挨拶を交わす。

 

「ウィズちゃん、今日も元気だねぇ」

「ぶぃー!」

 

近所に住んでいる仲の良い中年女性は、ウィズの事をちょっと珍しいウサギだと思っている。

頭をわしゃわしゃと撫でられ、気持ちよさそうにウィズは目を細めている。

その様子を微笑ましそうに見ていた時…

 

「………ん?」

「なんだい?」

 

「いえ、昨日、調味料を切らした事を思い出しまして…

今日あたり買いに行こうかな」

 

「なら、街に行ったらどうだい?

米花町にそういった専門店が最近できたらしいよ」

 

中年女性…名前は瀬川さん…と世間話に花を咲かせている傍ら、ハルは気になっていた。

 

(…うん、いるな…)

 

さっきから、第三者の気配をちらちら感じる。

完全に気配は消せていない。

けれども、万人では分からない程度に存在感を隠している。

 

(……『問題はない』から放置しておこう)

 

ハルは瀬川さんと別れると、ウィズを連れて帰路についた。

釣られる形で、その様子をジッと凝視するひとつの影も動き出した。

 

 

*** ****** ***

 

 

「ただいまー」

「おかえりなさいませ、マスター」

 

家に戻ると、玄関付近でゲルダが出迎えてくれた。

グレーのスウェットと黒のパンツを身に着けた彼女は、箒で屋敷の周りの掃除をしていた。

 

「あー…もう汗が広がってるな」

 

着ていたジャージが、体内から出てきた水分で湿っている。

梅雨明けした事もあり、すっかり夏の季節になった。

特にこのところ雨が降らないカンカン照りが続いており、長時間外にいると

汗が次から次へと滴り落ちてくる。

 

一部の常連客も夏服になっており、食事処のメニューも限定デザートを

追加していく時期である。

 

「お風呂の準備はできていますよ」

 

「ありがとう。ウィズ、入ろう」

『はーい!』

 

さてさて、1時間30分ほど散歩した事で流れた汗と汚れを洗おう。

全身がところどころ泥で汚れているウィズを抱きかかえると、

ハルは一直線に風呂場へ向かった。

 

 

「マスターが身体を清めている間に…私も準備をしないと」

 

掃除も終わった。

後は、開店時間までに食事を済ませていつもの制服に着替えるだけ。

ふぅ…と額から流れる汗をタオルで拭いながら、ゲルダは太陽が上へと昇りつつある

空を眺める。

 

「食事前に、私も身体を洗わないとね…」

 

クスッと笑みを零すと、ゲルダは掃除道具を片付けていく。

玄関の扉を開こうとしたその時…

 

 

―――バチッ

 

 

突如、響いた何かが弾けたような音。

ゲルダは咄嗟に後ろを振り向いた。

 

(結界が反応した…?)

 

屋敷の周辺は、ハルが魔法で結界を張っている。

何者かが侵入しようとしてそれに引っ掛かったのか?

ゲルダは屋敷の門を開くと、そぉーと視線を左右に巡らしてみた。

 

見た限りでは、人の気配はしない。

そうなると、先程のあの音は何だったのだろう?

 

「にゃー」

「…あら?」

 

聞こえてきた鳴き声に塀の上を見ると、そこに猫がいた。

 

「ああ、貴方だったのね…」

 

どうやら、結界に反応したのはあの猫だったようだ。

癖っ毛のある橙色の珍しい毛並みの猫だ。

猫は、ゲルダに見られている事に気付くや眼を細くすると、シャッと軽やかな動きで

高い塀から地面へ跳び降りた。猫はにゃーと一鳴きすると、そのまま反対方向へ

去っていった。

 

「見かけないコね。飼い猫ではないみたいだけど…」

 

頬に手を添えて、ゲルダは猫の後ろ姿を見送る。

完全に姿を見えなくなると、ゲルダはふぅ…と一息つくと当初の予定を思い出し、

屋敷にあるもうひとつの風呂場へ急ぐ事にした。

 

 

 

 

 

時刻は午前8時10分。

朝の入浴後に、セッタが作った朝食を済ませると、ハルは支度をしていった。

 

今日は連休の初日。

まとまった休日を、家で過ごすだけではもったいないと感じたハルは外出する事にした。

 

 

「遠出するから、帰りが遅くなる。

もしかしたら外泊するかもしれない

…その時はメールで知らせるよ」

 

 

白とグレーのボーダー色のTシャツ、さらに七分袖カットジャケットをその上から

羽織り、下はネイビー色のパンツを着用する。

専用のショルダーバックを肩にかけ、外行の服装に着替えたハルは、ゲルダとセッタ、

そしてウィズに連休中の予定を話していく。

 

「1週間、代理を頼む」

「かしこまりました」

 

ハルの不在時は、ゲルダが店長代理を務める。

勤め始めてから、何度かそういう経験があったので緊張はしていない。

何かアクシデントや自ら対処が難しい事が発生した場合は、ハルのスマホへ連絡をする

手筈になっている。

 

「せつさん、いつも通り調理担当と…ゲルダさんのフォローをしてくれ」

「了解、クールに業務を遂行しよう」

 

セッタは眼鏡を指先でかけ直しながら、自信に満ちた笑みを浮かべる。

 

「ところで、アルバイトの2人は何時頃くる?」

「8時30分までに出勤する予定です」

「念の為に、昨日、彼等と馴染みのある店長に伝言を伝えておいた」

 

2人だけだと負担がかかるため、こういう時のためにアルバイトに来てもらう。

普段は別の仕事をしている人達であるため、非番の時にお願いする形を取っているのだ。

 

「まぁ、彼等なら問題ないと思う。

『給料』がかかっていれば、時間は必ず厳守してくれるからね」

 

「あぁー…確かに」

 

セッタの言葉に、全速力で駆けだしてくるアルバイト2人の姿が頭に浮かび上がり、

ハルは苦笑する。

 

『ねぇねぇ、マスター! ぼくは? ぼくは?』

 

「ウィズも、2人と同じでお客様をもてなすお手伝いをしてほしい。

きちんとお手伝いできたら、ご褒美にウィズの大好きな桃のタルトを作るよ」

 

『わーい!』

 

ぴょんぴょん跳ねるウィズに、ハルはふんわり笑ってウィズの頭をぽふぽふと撫でた。

 

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「いってらっしゃいませ」「気を付けて」

『マスター! ぼく、がんばるねー!』

 

 

眷族2人と手持ちポケモン1匹に見送られながら、ハルは出かけた。

 

 

 

【ハルさんの休日(1)】

 

 

 

屋敷の門を潜り、外へ出かけていくハルの姿を木の上からひとつの影が眺めていた。

その影は高い木の上から物怖じする事なく、飛び降りた。

トンッと地面に着地すると、その影…先程の橙色の毛並みの猫は、ハルの後ろ姿を

見つめながら移動を開始した。

まるで、ハル自身を見失わないように…一定の距離を保って彼の後を追いかけていく。

 

 

 ドドドドドドドドドッ!

 

 

彼等と入れ違いに、2人の人物が店の門の前までやってきた。

かなりの全力疾走をしてきたためか、目的地を目の前にして安心した事もあり、

ぜぃぜぃと息切れをしている。1人は地べたに座り込み、もう1人は壁に右手を

押し当てて呼吸を整えている。

 

「ぎ、ぎんじぃ…今、何時だ?」

 

壁に手をついた茶色を帯びた黒髪の青年は、もう1人の相棒である、金色の短髪の

青年に時刻を確認した。

 

「…は、はち時…に、にじゅうに…分」

 

短髪の青年は途切れ途切れに現在の時刻を答える。

 

時刻は8時22分。

…間に合った。

短髪の青年は気が抜けた顔ではぁ~と安堵の息を漏らす。

 

「よ、よかったぁー。ギリギリセーフだね、蛮ちゃーん!」

「だが待て、安心するにゃまだ早いぞ…銀次」

 

茶色を帯びた黒髪の青年…蛮が釘を刺した。

え、なんで?と疑問を浮かべる相棒…銀次に対して、蛮は掌で汗を拭いながら

こう続けた。

 

「時間内にバイト先に到着したからといって…ここでのんびりしてられねぇ。

タイムカードを押さなけりゃ、意味がねぇーだろ!」

 

「はっ!」

 

蛮に指摘され、銀次はデフォルメ化したぬいぐるみ状態になって店の規則の事を

思い出した。咄嗟に、時刻を確認すると…既に3分経過していた。

 

「やべっ! さっさと入るぞ!」

「りょーかい!」

 

2人の青年…もとい店のアルバイトでもある美堂蛮と天野銀次は、慌ただしく

店の中へ走っていく。

 

こうして、主不在の貸本屋【双月文庫】の営業初日は始まる事となった。

 

 

 

【つづく】




※貸本屋のアルバイト(ゲットバッカーズ)の二人、初登場の巻。
  
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